は見ている。星野アクア…星野愛久愛海の再生の旅を…
彼は今しがた1つ目のゲームを終えた。けど、彼は育て親2人を助けることが出来なかった。原因は躊躇いだ。どちらかを選べばどちらかを見捨てることになるであろうという先入観から生まれた罪悪感。その結果、2人とも見殺しにしてしまうことになった。彼は責任転嫁などをする様子もなく、今は管制卓を前に項垂れている。普段の彼なら何事にも落ち着いて判断し、行動できる冷静さがあったが、やはり状況が把握出来ていないこの場では冷静さを取り戻せなかったみたい。きっと今の彼の脳裏に妹の姿が写っただろう。誰よりも大切で、誰よりも護りたい妹の姿が…
その感情は、この後の彼のゲームにどう影響が出るか…
力となるか、はたまた気を散らす原因となるか、その時の彼の状況次第となるだろう。
彼の妹を思う気持ちは本物だ。それは普段の彼の様子から見てよく分かる。血を分けた兄妹。愛する母から生まれ、母の元で一緒に過ごし、母を失いながらもお互い支え合って生きてきた2人だ。彼は妹を護るためならなんだってする。絶対に…
その気持ちは大事だけど、それにばかり気を取られてしまっていては本末転倒。彼の再生には繋がらなくなってしまう。彼はそこを理解出来ているのか…はたまた、何ふり構わずに妹を助けようと他を見捨てるか…
後者は無さそうか…目の前にでも釣らない限りは…
彼はゆっくりと顔を上げると、遠隔操作で開けた扉へ向けて進み出した。
その先に妹は居るが、まだまだ先の話…。彼がそこまでたどり着けるかどうかにはなるけど、その前に彼にはやって貰わなくちゃいけないことが沢山あるから…
彼が扉を抜けると、そこにあるのは広い空間。彼が立つ足場と、その下に広がる吊り下げられた迷路。その迷路の更に下に敷きつめられた針山…
次のゲームも彼次第。最後まで導けるか突き落とすか。彼の判断力と統制力が試されるゲームになる…
さあ、ゲーム
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星のアクア
この先にルビーがいるかもしれない…
扉をぬけた先に待っていたのは、またも管制卓と一面に広がる窓。そこから見える景色はまたしても地獄のそれ…
天井からワイヤーで吊るされた人ひとりが通れそうな鉄網で出来た四角い筒で、それが迷路のように伸びた道が2箇所。これを辿った先には共通の足場に繋がっており、その先に出口と思わしき扉がある。その反対側には…
「誰か!誰か助けてぇ!!」
「何も見えないよ!なんなのこれぇ!!」
「有馬!MEM!」
今度は有馬とMEMかよ!いつの間に…!
「アクア?アクア居るの!?」
「アクたん!どこ!?助けてぇ!!」
「クソッ!2人まで巻き込んで!」
俺は拳で窓を殴りつけたがビクともしない。
2人は出口とは反対側に吊るされている大きい鳥籠に囚われていた。2人ともよく見れば瞼が縫われてあり、目が開けられないため何も見えない状態だ。
こんな事までするのかよ、こんな非人道的なことを仕掛けやがった奴は!
「2人とも落ち着け!絶対に助けてやるから!」
「ヤダよぅ怖いよぉ…」
「ここから出してぇ!なんで目が開かないの!?」
パニックになっている2人はこちらの声が聞こえていないかのように取り乱していた。
『やあ、アクア。次のゲームだ』
スピーカーから放送が入る。コイツ…何がゲームだ!
「ひっ!なに?」
「誰?誰なの?」
2人も突然聞こえてきた声に驚く。
『親とは子の指針となる存在だ。子はいつだって親の背中を見て育つのだから。なら、今度は横を見てみよう。人を導くということは、他人であるその人の人生を決めかねない重大な責任がある。その窓に映っているのは君が“君の世界”に招いた存在だ。君の夢、君の妹の夢であるアイドルになるために必要で、その道に導いた2人。2人は君を信頼し、君の示した道に歩み始めた。なのに君はその責任を放り出したね?その2人は道半ばで君に放置され、真っ暗な中を手探りで進むことになった。悪意と羨望のサイクルが蠢く芸能界という迷路の中をね。今度こそ君自身が導いてあげるんだ。光指すその先まで。だが、一度に導けるのは1人だけだ』
コイツ!何かと理由をつけて俺の周りの人を巻き込みやがって!
「狙うなら俺ひとりでいいだろ!?なんで皆を巻き込むんだ!!」
叫んだところで反応はない。あえて無視しているのか、それとも録音…?
ガチャン!
またも起動音がなると、窓の向こうが明るくなる。そうなることで迷路の詳細が見えてきた。
有馬のコースはゴールまで真っ直ぐの一本道。所々にトラップが仕掛けられているが、数も少ない為に比較的簡単に通れそうだ。
問題はMEMのコース。こちらは蛇行した作りになっており、トラップの数も多い。
2人のコースがたどり着いたその先にはゴールである足場が設置されていて、その先に出口であろう扉がある。今にも切れそうな蛍光灯がピカピカと点滅しているが、おそらくは…。
「やだやだやだやだやだやだ」
「お願いします…お願いします…助けてください……!」
有馬は頭を横に振りながら、夢であることを願うかのように震え、MEMは頭を抑えながら縮こまっている。早く何とかしないと…
ふと、さっきの放送を思い出す。
『今度は横を見てみよう。』
さっきからあの声は言葉の節々にゲームに関するヒントが紛れている。言っていた通り窓の横を見れば、そこにはタブレットが掛けてあった。画面には2人が閉じ込められている迷路のマップが映し出されていた。
赤と黄色の点が2人であろう。迷路の合間合間には扉のアイコンがある。なるほど…
「これを使って2人をゴールまで案内しろってことか…!」
2人は瞼を縫われて目が開けられない。だから俺が指示して進ませるしかないのか!
2人が助かるかどうか、俺に掛かってる…。もう、さっきみたいなのはゴメンだ!
「有馬、MEM」
「…アクア?」
「アクたん?」
「2人とも、落ち着いて聞いてくれ。今から2人に指示を出す。俺の言う通りに動いてくれ。絶対に2人を助け出すから!」
俺の声が届いたのか、震えていた2人はコクンと頷いた。
よし、まずはタブレットだ。さっきの鍵の時と同じく、手に取った瞬間に始まる可能性が高い。最悪手で触れた瞬間だ…。
慎重にタブレットの周りを見る。そして壁側。特に仕掛けは見られない。
ならとタブレットの縁をそっと触れてみる。よし、大丈夫そうだ。
そっと壁から浮かせてみる。どうやら壁にフックが着いており、これを外したらゲームが始まってしまうだろう。
粗方状況は理解した。
「よし、2人とも、良いな?」
俺は2人に声をかける。
「う、うん…」
「だ、だだだ、大丈夫だよアクたん!」
2人は恐怖でいっぱいなのを押し殺して頷いてくれた。俺は、今度こそ2人を助けなくちゃいけない。この馬鹿げたゲームから…!