※この作品はR-18です。

推しのSAW   作:∞色

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星野アクア

 

 

 

「……スゥ……フゥ……よし」

 

 

 

俺はタブレットを手に取った。

 

 

 

ガチャン!

 

ズゥーーン

 

 

 

地響きのような唸りが聞こえると、迷路のトラップが起動し始め、タイマーに“05:00”と起動し始めた。制限時間は5分という事か…!

タブレットの迷路上にドクロマークが浮かぶと、窓の向こうの迷路では幾つものトラップが作動していく。通路に向けて槍やスタンガンが伸び、ちょうど通ったら攻撃される仕掛けや、通路と通路の間をノコギリが振り下ろされるトラップ、更には火炎放射器が通るものを焼き殺さんと火を拭く…。これらが不規則に稼働し、行く手を阻もうとしている。

2人同時には動かせない。なら、まずは道が複雑で長い…

 

 

 

「有馬、まずはお前からだ」

 

「わ、わたし?」

 

「そうだ!今から扉を開けるから、前に狭い通路がある。その中を進んでいけ!」

 

「わ、わかったわ…」

 

 

 

俺は有馬が閉じ込められている鳥籠の出口をタップする。それに連動するように有馬の鳥籠の扉が開き、有馬はそこから這い出るように四つん這いで通路を進んだ。

 

 

 

「うぅ…膝が痛い…」

 

 

 

太い鉄網になっている通路は、頑丈で外れて落ちる心配は無さそうだが、その上を四つん這いで進むには痛みが伴う出来となっていた。

 

 

 

「止まれ有馬!」

 

「ひっ!なに!?」

 

 

 

先に進もうとした有馬を慌てて止めた。その少し先で横からナイフが飛び出している通路があった。勢いよく飛び出すそれは、刺さったら最悪そこで終わりだ…。

俺はナイフが引っ込むのを待ち、いい所で有馬に合図を送った。

 

 

 

「いいぞ、進め」

 

「なんだったのよ…」

 

 

 

有馬を驚かせたようだが、何があったかなんて言わない方が良いに決まっている。下手に怖がらせて進まなくなる方が困るからな…

 

 

 

「そこで止まってくれ」

 

「ここ?ここでいいのね?」

 

「あぁ、そこなら暫く安心だ」

 

 

 

先程からトラップの動きを見ていたが、扉付近にはトラップは無いようだ。そこで待機させ、もう片方を動かせるようになっているのだろう。

 

 

 

「次はMEMだ。MEMの道は真っ直ぐ一本道だが、気をつけろよ」

 

「わ、わかったよ…」

 

 

 

俺はタブレットでMEMの出口を開かせると、MEMはゆっくりと迷路を進み始めた。タイミングよくトラップが作動していない間に通過していき安心かと思えるが…

 

 

 

「ウゥ……怖いよ…痛いよ…」

 

 

 

恐怖のあまり進みが遅いのだ。まだ半分しか進んでいない有馬に対し、MEMは真っ直ぐの道でまだ4分の1程度。時間は既に2分経過している。このままでは間に合わない…

 

 

 

「MEM、もう少し早く進んでくれ」

 

「そ、そんなこと言われたって…!」

 

「大丈夫だ!俺を…信じてくれ…!」

 

 

 

信じられないかもしれないけど…

俺は2人を裏切った。それはホントのことだ。2人からしたら突き放した挙句に自殺しようとした男なんて…

 

 

 

「わかったよ!」

 

 

 

!?

 

 

 

「私はアクたんのこと信じてるから…」

 

 

 

MEM…

 

 

 

「ちゃんとここから出してくれるんでしょ?なら早くここから出ましょうよ…文句は無事にここから出てからね!」

 

 

 

有馬…

2人とも、こんな俺の事を信じてくれるのか…

 

 

 

「いたっ!」

 

 

 

気がつけばMEMは進む速度をあげていて、勢いよく扉にぶつかった。

 

 

 

「何!?どうしたの!?」

 

「ごめん、行き止まりだったみたい…」

 

「ちょっとアクア!」

 

「す、すまない!」

 

 

 

なんとも普段通りの空気が流れかけたが、今は2人の命がかかっている。気を引き締めなければ…

 

 

 

「よし、MEMは暫く待機していてくれ。有馬、次はお前だ。行くぞ」

 

「わかったわ…にしても、なんでこんな……」

 

 

 

有馬も瞼を縫われているという状況ではあるが、俺の誘導に従って通路を進んでいく。順調に見えたその先に…

 

 

 

「有馬、その先にトラップがある。気をつけろ」

 

「ど、どんなトラップよ…?」

 

 

 

有馬から後1mくらいだろうか、通路の左右の壁と天井に針が生えていた。これは動いている様子は無いが、長く鋭い針となっていて掠めるだけでも怪我してしまいそうだ。その様子をそのまま伝え、ゆっくりと有馬を進ませる。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

だが無傷とはいかず、有馬の肩や頬、腿等を針が引っ掻いていった。

 

 

 

「大丈夫か有馬!?」

 

「だ、大丈夫…イタタ…」

 

 

 

怪我した場所から血がしたたり落ちる。ちくしょう…

 

 

 

「私は大丈夫だから、次の指示を…」

 

「…わかった」

 

 

 

トラップを見ている限り、2人に仕掛けられているトラップはそれぞれに特徴がある。

有馬の場合は細かく傷つけていくトラップが多い印象だ。先程の3方から伸びる針や、上から垂れてくる硫酸。曲がりくねった道と、小さく蓄積されていく傷。まるで有馬のこれまでの人生のようだ。

子役として片手で数えられるくらいの年齢から名を馳せていた有馬は、歳を重ねるごとに人々から忘れ去られ、思うような演技が出来ないこと、しようとすることで周りから厄介者のように扱われ、彼女は傷ついていた筈だ。有馬は俺と再会できたことで救われたと言ってくれた。

 

MEMは真っ直ぐではあるがトラップが多く、一撃で命の危険に陥るものが多い。横から突き刺さる槍、振り回されるノコギリ、火炎放射器…。母子家庭な中での母親が倒れ、夢を諦めた学生時代。弟たちを養うために働き、高校の卒業も叶わなかった。YouTuberとして成功していたが、人気がある分何がきっかけで落とされてしまうかなんて分からない。そんな中で俺がアイドルに誘った。ルビーの為に…

 

 

 

「有馬は暫く休憩しててくれ。なるべく動くなよ」

 

「わ、わかったわ…ハァ…」

 

「MEM、このまま進むぞ。いいか?」

 

「わかったよアクたん」

 

 

 

MEMに合図を送り、タブレットをタップして扉を開ける。手探りで開いたことを確認したMEMは、慎重に進み始めた。

 

 

 

「大丈夫…大丈夫…絶対、大丈夫……」

 

 

 

MEMは小さく言葉を繰り返しながら進んでいく。今の所MEMの行先を阻害するようなトラップは無い。どれも先程作動したばかりだ。今ならまだ進めることが出来る。

それが油断だった…

 

 

 

ガコンッ!

 

 

 

「っ!?」

 

「な、なに!?」

 

「えっえっえっ、どうしたの!?」

 

「おいマジかよ!」

 

 

 

残り1分となった時、後方から大きな音がした。見てみれば、先程まで2人が閉じ込められていた鳥籠が無くなっている。天井に目を向ければ、有馬達がいる迷路を吊るしているワイヤーを天井を移動している物体が切っていっていた。

なんであんなものがあるんだよ…!

 

 

 

「MEM!急げ!」

 

「えっ!そんな急に言われても!」

 

「わ、私は…」

 

「有馬は待っててくれ!……クソッ!なんでだよ!」

 

 

 

早くしないとMEMも有馬も落ちてしまう…!

先を急ぐMEMだが、ワイヤーカッターが通路を落として行くたびに残った通路が揺れてしまう。その度に四つん這いで動いているMEMは腕が縺れて上手く進めず、倒れ込んでしまった。タブレットに目を向ければMEMのいる場所にトラップが…

 

 

 

「MEM!」

 

「えっ!?」

 

 

 

チェーンソーが振り下ろされるトラップが作動し、それが倒れ込んでいたMEMの左足に直撃した。

 

 

 

ギィィィィィィィィッ!!!

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「MEM!!!」

 

「いやぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

MEMの左足首から血飛沫が上がり、間もなくそこから先が切り落とされた。縛ってもない状態でのあれじゃ出血が……!

 

 

 

「あぁ…あぁぁ……!」

 

「MEM!MEM!大丈夫なの!?」

 

「MEM!大丈夫か!?」

 

 

 

大丈夫なわけない。なのにそう声をかけるしかない…。早く処置をしないと……

 

は?

 

 

 

「…嘘、だろ……」

 

 

 

左足を切り落とされながらもゆっくりと這って進んでいくMEMに向けて、火炎放射器が狙いを定めていた。

 

 

 

「MEMーー!!」

 

「ぁぁぁ…」

 

 

 

ゴォォォォォォ!!!

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

「やめろォォォォォ!!!」

 

 

 

炎が容赦なくMEMに襲いかかり、無惨にも炙られていくMEM。漸く火が収まると、皮膚が焼け爛れたMEMが息も絶え絶えに身体を震わせていた。

 

 

 

「MEM!MEM!」

 

「もうイヤァァァ!!」

 

 

 

瀕死のMEMに、泣き出した有馬。早く何とかしないと……

 

 

 

「あ、……アク、たん……」

 

 

 

MEMが咳き込みながらもか細い声で俺を呼ぶ。

 

 

 

「MEM…」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

 

えっ?な、なにを……

 

 

 

「アアアアアイ、ドルに……誘って、くれて……ありがとう…ね……。夢…叶え、させて…くれて……嬉しかった…」

 

「何言ってんだMEM…まだ…」

 

「私は…もう、いいから…かなちゃんを…助けてあげて」

 

 

 

ブチンッ!

 

ガコンッ!

 

 

 

MEMの居た通路のワイヤーが切られ、MEMは傾いた通路を転がり宙に放り出された。そのまま下に敷き詰められた針山に落ちて……

 

 

 

グシャッ

 

 

 

原型が留めないほどに串刺しにされてしまった……

 

 

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」

 

 

 

クソッ!クソクソクソッ!!なんでだよ!!

何をやってるんだ俺は!!まだ誰1人救えてないのに!!!

 

 

 

「アクア!アクア!どうなったの!?MEMは!?」

 

 

 

っ!そうだ、有馬が…!

残り時間はまだ30秒。有馬ならまだ救える!

 

 

 

「有馬進め!進むんだ!」

 

「ねえMEMは!?」

 

「いいから進めぇ!!」

 

「っ!?」

 

 

 

もうなりふり構っては居られない。何としても有馬だけは助けなきゃ!

幸い、トラップはちょうど先程作動したばかり。このまま真っ直ぐ進ませれば…

 

 

 

「そのまま進め有馬!」

 

「ハァッハァッハァッ!」

 

 

 

すぐそこまで迫っているワイヤーカッターが有馬のいる通路を切ろうとする。

俺はタブレットで有馬の目の前の扉を開かせる。有馬がここを抜けたら…

 

 

 

「目の前がゴールだ!有馬!!」

 

「っ!!」

 

 

 

有馬が通路から這い出ると、直後に後方の通路が落ちていった。

 

間に合った…

 

 

 

「アクア…助かったの……?」

 

「あぁ…間に合った……」

 

「……はぁぁぁぁぁ…」

 

 

 

有馬は大きく息を吐き出すと、その場に蹲った。そして肩がビクビクと揺れる。

 

 

 

「メムゥ……!」

 

 

 

ごめん、有馬…俺のせいで…

 

有馬のいる足場の少し先で、蛍光灯に照らされた扉がある。

 

 

 

「有馬。目の前に扉がある。そこが出口だ…」

 

「グスッ…うん……」

 

 

 

有馬はゆっくりと立ち上がる。俺は細かく向きを伝えると、有馬が扉へと向き直る。

 

 

 

「ねぇ、アクア」

 

「なんだ?」

 

「私ね、ここからでたらアクアに話したいことが(ブチンッ)っ…」

 

「えっ?」

 

 

 

有馬が話している最中で、その身体が後ろに大きく揺れた。そのまま足場をなくした有馬は重力に逆らえず、下へ下へと落ちていく。

有馬の立っていた足場もワイヤーに吊られており、それを先程のワイヤーカッターが切っていた。

 

 

 

「…有馬?」

 

 

 

身体中針によって串刺しにされている有馬。頭は無事だったが、その口からは大量に赤い液体が溢れ出していた。

 

 

 

ブチンッ!

 

 

 

更にワイヤーを切られた足場がゆっくりと落下していく。その先には有馬が…

 

 

 

ズゥゥゥゥン!!!

 

 

 

その有馬の頭を押し潰すように、足場が大きな音を立てて針山の上に転がっていた。

 

 

 

 

 

 

有馬…MEM……

 

 

 

有馬はゴールに着いたはず…なんで……

 

 

 

 

 

 

なんで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんでだよ!!!!!

 

 

 

 

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