は見ている。
彼はもう止まれない。そのことは本人がわかっているはず。もしここで諦めてしまえば、これまでのこと全てが無意味となってしまう。わたしとしても、彼としてもだ。
彼には最後のゲームまで行ってもらわないと困る。それを経て、初めて彼は再生出来るんだから…
わたしはここで待っている。この扉が開く時、彼の新しいゲームが始まる…
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星野アクア
気がつけば、俺が持っていたタブレットは部屋の端っこでボロボロになって転がっていた。まだ収まったわけじゃない。この胸の奥の怒りや哀しみが…
必ずここから出て、犯人を捕まえてやる…!
扉が開く。この先にもまだ誰かが居るのかもしれない。このままで終わるはずがない…
これまでの犯人が仕掛けてきているゲームの特徴として、“生に対する執着”だ。
俺が狙われたのは、最初のテープでもあったが自殺未遂が原因だろう。俺が自殺未遂をしたことがきっかけで始まったこのゲーム。どういう経緯で犯人が知り、俺のことを調べあげ、こんな所でこんなに大それた施設を作り上げたのか…
犯人は俺に近い人…?
若しくは俺のストーカー……だとしたら単独犯なわけは無い。後ろにもっと大きな存在がいる可能性がある。
まさか…
俺が追っていたことを気づいた?
俺がアクションを起こす前にわざと失踪したふりをして俺をはめた?
次々と考えが浮かび、憶測ではあるがとある答えに至りそうになった時だった…
「誰かぁ!誰か助けて!」
「っ!?」
扉の向こうから助けを求める声がする。この声は…
「あかね!」
俺が次の部屋に飛び込むと、その先には両足を足枷と鎖で繋がれているあかねがいた。あかねの鎖は壁に伸びており、外せそうにはない。天井からはテープレコーダーが吊り下げられている。あかねまで巻き込みやがって…やっぱりルビーもどこかに…
今はとにかくあかねの無事を確認しないと…
「あかね!」
「アクアくん!」
「無事かあかね!?」
「うん、わたしは無事だよ…」
俺はあかねの頬に触れる。どうやらつい先程まで床に寝かされていたのだろう、頬に床代わりである鉄網の跡が着いていた。
「アクアくんはどうしてここに?」
「分からない…家に帰ったまでは覚えてるけど、気がついたらここにいた…」
「私も一緒…。家に帰ったあとに気がついたら……アクアくんは大丈夫?」
「俺は……」
その問いに、俺は答えられなかった。俺が救えなかった人達の後で大丈夫などとは言えなかった…
「アクアくん…?」
「………」
「ねぇ、かなちゃんたちは?」
「っ!?」
俺の様子を見て、あかねは何があったのか察したのだろう。その目に涙が浮かんだ。
「やっぱり、何かあったんだね?」
「…ごめん」
「……でも、アクアくんは何とかしようとしたんだよね?」
あかねは俺の手に触れる。俺の右手には、薄らと稲妻の様な跡が浮かんでいた。
「電紋、だよね?感電したの?」
「……あぁ…でも、救えなかった…」
「そう…なんだ……」
あかねが俺の両頬を包むようにして触れる。
「ねぇアクアくん…」
「なんだ?」
「必ずここから出よう?生きて…」
「…あぁ」
俺たちは頷き合うと、あかねはテープレコーダーに目をやる。
「あれに何かヒントがあるの?」
「恐らく、あれを再生したら何かが始まるはずだ。今までがそうだった。あかね、必ず助け出すから…」
「アクアくん…うん」
俺はあかねから離れ、テープレコーダーに手を伸ばす。まずは吊るされたテープレコーダーにテンションが掛からないように再生ボタンを押した。
『やあアクア。人を導くというのは難しいだろう?人を救うということも実は難しいことだ。君に出会い、救われた人も何人もいるだろう。そこにいる人は君が忖度なく救った人の1人だ。後の関係には色々と理由があっただろうが、あの時の気持ちには偽りはなかっただろう?』
コイツはホントに何処まで調べてるんだ…!
『彼女は君に救われた恩がある。その恩を返すために君が望む事はなんでもしようとした。君を理解し、君の望む存在になろうとね。けど、君はその想いを踏みにじった。いつでも手放せる存在だと、利用するだけ利用し、自らの命と共に手放した。幸も不幸も分け与えることも無く。残される苦しみを君も忘れてしまったようだね。君という存在に苦しめられている彼女に、君が出来ることはなにか、今度こそ行動するんだ。君という存在から解放してやれ』
テープの声はまだ続いた。
『そしてあかね。君もこのゲームの参加者だ。君もかつては自らの命を軽んじたね?彼に救われ、彼の傍に尽くすことで許されるとでも?自ら命を終わらせることはこの世の全ての生命に対する冒涜だよ。他人の命を握ることも。これは一生背負っていく十字架だ。背負う覚悟は出来ているか?君の選択次第で救える命が目の前にある…』
テープが止まる。あかねもだと…?
ガコンッ!
「おわっ!?」
「キャッ!」
いきなり足場が無くなり、俺は落下する。2m程落ちた先は四角いゲージ…いや、これは水槽か。
隣を見れば、同じような水槽にあかねが逆さ吊りになっていた。足枷と壁を繋ぐ鎖が短いせいであかねは落ちることは無かったが、その分ひっくり返ったままなのだ。
「あかね!大丈夫か!?」
「アクアくん!」
その時、地響きのような音が響き渡り、上の階の天井から筒が降りてくる。俺の方に細い鉄製の糸が垂れてくる。あかねの方にはごく普通そうに見えるロープ。
これは…?
直後、頭上の筒から大量の水が流れ始めた。
「きゃあっ!ゴブッゴフッ…」
あかねの方へと…
「あかね!」
俺から解放しろってそういう事か…!