「あかね!」
「ゴブッゴフッ…ゴフッ…!」
あかねに向けて容赦なく注がれる水。逆さ吊りのあかねにとっては苦しい筈だ。俺から解放するということは……
俺の元に垂れているロープを手に取る。
「イッ!?」
ロープを握った瞬間に手のひらに裂けるような痛みが走った。ロープの表面に糸鋸が巻き付けてあった。これがこの痛みの正体か…!
「くそっ!」
俺は痛みに耐えながらロープを引いた。引くだけでも糸鋸が更に手のひらにくい込み、血が溢れ出てくる。それでも俺はロープを引き続けた。そうすることであかね側を向いていた水の放出口がこちらを向くようになる。
「ウゥッ…!あぁぁ!」
俺のいる水槽に水が流されてくる。その勢いに押され、ロープから手を離してしまうが、手を離すとあかね側を向く仕掛けになっているようで離すことが出来ない。
あっという間に溜まっていく水に押されないように耐える。次第に下半身が水に浸かると、ロープを引くための踏ん張る力が無くなり、腕の力だけとなってしまう。
つらい…
打ち付けられる水が冷たいのもあるが、その中で手を裂く痛みとロープを引き続けることで体力が格段に減っていく。
「……?」
次第に身体が上がっていく感じがするのと同時に水が流れなくなる。顔を上げれば、隣の水槽であかねが逆さ吊りになりながらも、自分側のロープを引いていた。
「何してんだあかね!」
「アクアくんは…絶対に死なせない!」
あかねがロープを引くことで再度あかね側に水が流れ込む。
「あかね!ロープを離せ!」
あっという間にあかねが溜まった水の中に沈んでいく。俺は慌ててロープを引くが、あかねが引っ張っているために放出口がこちらを向かない。
そうしていると、先程までは気づかなかったが時計の長針のようなものが水槽の外に見えた。
「?…これは……」
よく見ればこの水槽は巨大な秤のような装置に乗せられており、今は俺の水槽の前を通ってあかねの方へ倒れていく。
『幸も不幸も分け合うことも無く…』
『君という存在に苦しめられている彼女に、君が出来ることははなにか…』
そういう事か…!
「あかね!俺とお前の水の量を均等にするんだ!あかね!!」
「…………」
水に浸かったあかねに俺の声は届いていないようで、いつの間にかあかね側の水槽はいっぱいになっていたが、あかねはそれでもロープを離そうとはしなかった。
「くそっ!」
俺はロープを思いっきり引っ張る。痛みも何も知ったことか!今度こそあかねを助けなきゃいけないんだ!あかねが救えるならこの手が使えなくなったって構わない!
もう、誰ひとり……
「死なせるかぁぁぁぁぁっ!!!」
俺は力の限りロープを引っ張る。放出口がこちらを向き、大量に水が流れてくるがこの手は離さない。次第に俺の全身も水に浸かり、呼吸が出来なくなる。
はやく…はやく…
隣では水槽の中で力が抜けたように漂うあかねが…
頼むから……これ以上は……
秤の針が真上を向いて暫く、その根元にある赤いライトが緑に変わった。
ガチャン!
ザバァァ!
大きな音とともに水槽の側面が開き、俺はそこから水とともに流れ出る。鉄網状の床を転がると、俺は噎せながらも起き上がりあかねの元へ向かおうとした。あかねの水槽も側面が開いており、そのにあかねの姿が無い。俺と同じように外に出ているはずだ。
だが、俺とあかねの間には透明のパーテーションで部屋分けされていた。
なんだよこれ!
「あかね!あかね!!」
俺はパーテーションに手を叩きつけながらあかねを呼ぶ。向こう側ではあかねが力無く倒れていた。こちらからではその表情を確認することが出来ない。裂けた手のひらから血が溢れることも気にせずに何度も手を叩きつけながら叫んだ。
そんな…まさか……
「あかね……あかね!!起きろあかね!!頼むから起きてくれ!!頼むからぁぁ!!」
俺は……なんでこうも……
誰も救えない…誰も助けられない……
勝手に巻き込んで、不幸にして……
いっそもう…