悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「言いたくなかったら言わなくていいんですが、もしかして、性的な仕事ですか……?」
直球だが気になったので聞いた。
すると、小中さんは小さく頷いた。
「……はい。年齢も年齢で、ほとんどは電話連絡で断られてしまったのですが、その……一件だけ、私でも働けそうなお店があって」
なんてお店ですかって聞きたかった。だけどこれ以上はさすがに聞けなかった。
俺は二人分のコーヒーをテーブルに置き、正面のソファーに座る。
「えっと、今回ここへお呼びしたのは前にお話しした件です」
「は、はい……」
そう切り出した瞬間、彼女の表情が暗くなったように感じた。
話す前から断られるとわかっての反応だろう。
「やっぱり愛人契約はできません」
「そう、ですか……。わかりました」
「ただ、小中さんには別の契約をしていただきたいんです」
「別の契約、ですか?」
驚いている彼女に数枚の書類を順番に見せていく。
「まず、小中さんの借金は今日付けでこちらで全額返済しました」
「へんさ、え……どういう、ことですか!?」
小中さんがしていた借金の支払い証明書を見せると、書類を持つ彼女の手が震えていた。
本来は当人がいるべきなのだろうが、それはガレイドカンパニーの社長としての力でなんとかした。
勝手なことをして申し訳ないが、きっと事前に彼女に伝えていたら断られると思った。
「で、では、これからは、蛇口様にお支払いしたらいいということですか……?」
「ええ、そうなりますね。ただ、それでは金融会社から自分に借金するだけで、根本的には何の解決にもならないと思うので。小中さんが良ければ、これを」
「これは……家政婦の、仕事?」
俺が考えたのは、家政婦として小中さんを雇うということだ。
この部屋は俺一人には広すぎて、掃除なんかも行き届かない場所が多々ある。
それに食事も、最近は蛇口マネーに頼って外食ばかりで、家で手料理を食べることもない。
そして何より。
「実は、ペットを飼いたいと思ってて」
「ペット、ですか……」
「はい、ネコなんですけど。だけど見ての通り一人暮らしで、出張で何日も家を空けることもあるんです。そんなとき、家政婦として働いてくれる小中さんに面倒を見てもらいたいんです」
転生前は実家でも、一人暮らししてるときも、家でネコを飼っていた。
転生してからなんか寂しいなーと何度も思った。それはたぶん、ネコがいないからだと思う。
だけど彼女に言ったようにネコを飼っても、このままではちゃんと面倒ができない。
そこを小中さんにお願いしたいと思っている。
「給料はちゃんとお支払いします。毎日じゃなくても、小中さんが空いている時間帯だけでも構いません。どうでしょうか、やってもらえませんか?」
そう伝えると、考える間もなく彼女は頷いてくれた。
「は、はい! 私に、やらせてください!」
もっと他にいいやり方があったかもしれない。
もしかしたらそこまでの助けにはならないかもしれない。
それでも、自分としてはこの選択で合っていると思った。
──それから、俺は給料や仕事内容なんかの話をした。
基本的に弁当屋での仕事が終わった15時過ぎに家に来て、掃除をしたり料理を作ったり、そしてネコを飼ったらネコのお世話をしてくれることに。
遠くに出掛けないといけない日は、彼女の家でネコを預かってもらう約束もした。
幸いなことに、彼女自身も娘の桜子も、ネコ好きだそうだ。
「説明はこんなところですね。何か質問ありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「良かった。それと、これからは何か困ったことがあったら真っ先に相談してください。自分にできることなら力になりますから」
「蛇口様、ありがとうございます! 娘だけでなく、母親の私にまで気を使ってくださって、本当にありがとうございます!」
「いえいえ。……っと、その蛇口様って呼び方、他のになりませんかね?」
「え、失礼だったでしょうか?」
「いや、失礼ではないんですが……自分の名前、そこまで好きじゃなくて」
なんて言おう。
俺は蛇口じゃないから、蛇口って呼ばれたくないんだよな。
だけど俺の名前だしな。
「他の呼び方、他の……でしたら、家政婦なので、その……旦那様、というのはいかがでしょうか?」
「ほお」
変な声が出た。
旦那様か、なんかいいな。
「それで!」
「では、これからは旦那様とお呼びしますね!」
少しだけど、彼女は笑うようになってくれた。
ずっと悩んでいたことから解放され、気が楽になったのだろう。
「それじゃあ、さっき言っていた夜の仕事の面接は行かなくて大丈夫ですね」
「そうですね。あっ、すみません、お店に断りの連絡してもよろしいでしょうか?」
「え、ああ、はい」
そう言って小中さんはスマホを取り出し電話をかける。
わざわざ断りの連絡をするのか、律儀だな。
そして電話が繋がると、
「すみません、本日面接の予定をしてました小中京香といいます。『人妻喫茶』のお店の番号でお間違いないでしょうか」
おそらく彼女は無意識で電話したんだろう。
だが店名を言った瞬間、俺と目が合って、顔を真っ赤にさせていた。
「えっと、あの、は、はい! すみません、面接のキャンセルをお願いしたくて。……はい、はい……え、キャンセルできない?」
「……」
「接客指導を楽しみにしていた……って、えっと、そう言われても、困ります。あ、あの、行けませんので! すみません、失礼します!」
慌てた様子で電話を切った小中さん。
そして目が合うと、顔を真っ赤にさせた彼女は恥ずかしそうに笑った。
「すみません……急に、大声を出してしまって」