悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「いえ、気にしないでください」
「すみません……」
変な静けさが生まれた。
人妻喫茶って、そういう風俗店だよな。
なるほど、キャストは人妻という設定だから彼女の年齢でもいけたということか。
それにしても人妻喫茶か。
離婚したとはいえ、そうだよな。
高校生の娘がいるお母さんなんだよな、見た目は若くても。
「あ、あの」
「すみません、変なこと考えてボーっとしちゃって」
「変な、あっ……」
小中さんの視線が下がる。
俺も視線を下げると、下半身に大きなテントを張ってるのに気付いた。
「こ、これは……」
「あの」
「すみません、今日のところはこの辺で。下まで送りますね」
「あ、はい……」
勃起していたことを隠すように立ち上がる。
ズボンを押し出して主張するペニスが擦れて痛かったけど、我慢して歩く。
エレベーターを待つ間も、エレベーターに乗ったときも、外に出てからも、お互いに会話が長続きできなかった。
「えっと、小中さん。これ合鍵です」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、これからよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。失礼します」
タクシーで帰っていく彼女を見送り、大きくため息をつく。
「愛人契約しなかったの、マジでもったいなかったな」
今さら後悔してしまった。
それほどまでに、彼女は魅力的な女性だった。
♦
あれから一週間が過ぎた。
京香さんは家政婦としては完璧すぎる人材だった。
掃除も料理も完璧で、ネコのお世話もしっかりしてくれる。
そう、ネコを飼ったんだ。
キジトラのオス、名前はトラタローにした。
それからというもの、家での生活も楽しく感じるようになった。
「──失敗した、今日は京香さんが来る日だった」
いつものようにスポーツジムで汗を流していると、京香さんから『今からお家に行きますね』というメッセージが、二時間前に届いていたことに気付いた。
今日お願いした仕事はそんなに長い時間のものじゃなかったから、そろそろ帰っちゃうだろうか。
俺は『今から帰ります』と返事をして自宅へ帰ることにした。
彼女との関係はいい感じだ。
呼び方も、小中さんではなく下の名前である京香さんと呼ぶようになった。
……そうそう、鍛えた甲斐があってまた体が引き締まってきた。
ぽっこりとしていたお腹はちゃんと割れ、胸板も厚くなり、腕の筋肉も太くなっていい感じだ。
ただ、まだまだ不満はある。
せっかく180と高身長なのだから、もっと鍛えたい。
なんならボディビル大会に出れるぐらいに。それぐらい、蛇口のこの体には高いポテンシャルを感じる。
そんなことを考えていると自宅に到着した。
「ただいま」
まだまだ慣れない「ただいま」をして家の中へ。
玄関に靴があったからまだ帰っていないと思うけど、京香さんの姿が見えない。
いつもなら玄関まで駆け足で出迎えに来てくれるんだが。
何かあったのかと心配になり、俺は部屋中を探す。
「京香さん……?」
お風呂場の方から物音がした。
だけどシャワーを流す音はしない。洗濯機が動く音。たぶん洗濯をしているのだろう。
お風呂に入っているとかじゃないからいいかと思って扉を開けた。
「京香さ──」
「──えっ、あっ……」
そこにいたのは、ピンク色の下着姿の京香さんだった。
お風呂場でしゃがみながら、何かをバスタオルで拭いていた。
「も、ももも、申し訳ありませんっ!」
「いや、俺の方こそいきなり開けてすみません」
慌てて扉を閉めようとした。
その扉の隙間をトラタローが飛び出して、濡れた体で廊下を優雅に歩いて行く。
「キッチンで料理していたら、トラタローちゃんが牛乳をこぼしてしまって。それで体を洗っていたら、暴れたので私も服を脱いで……」
「わ、わかりました。とにかく、部屋に戻ってますね」
水が嫌いなトラタローが暴れて、京香さんが服を脱いで洗ってあげたというとこだろう。
洗濯していたのはたぶん、拭くときに使っていた布巾なんかを洗っていたのだろう。
ノックしなかった自分のミスだ。
彼女の下着姿が、今も鮮明に脳内に焼き付いてる。
それからしばらくして京香さんがリビングに戻ってきた。
「すみません、お恥ずかしい姿をお見せして」
「いや……」
めちゃくちゃいいもの見せてもらいました、なんて言えない。
また勃起してるので、俺は隠すように後ろを向く。
「……えっと、掃除はもう終わってて、料理は温めるだけで食べられます」
「あー、はい、いつもありがとうございます」
帰り支度をする京香さん。
俺は玄関まで彼女を送る。
「それでは、また明日」
「はい、また明日。気を付けて」
「それじゃあ、失礼します」
バタン。
玄関が閉まると、一人部屋に戻る。
せっかく急いで帰ってきたのに、あんまり話せなかったな。
「まあ、いいもの見せてもらったけど。お前のおかげだな」
今日の功労者であるトラの頭を撫でる。
♦
家を出てすぐ、私は足早にバス停へ向かった。
「下着姿を見られただけなのに、こんなに恥ずかしく思うなんて」
今でも顔が熱い、それぐらい恥ずかしい。
桜子を産んで。
あの人が出て行って。
仕事ばかりの生活で、いつの間にか女だという自覚は無くなった。
だから男性に下着姿を見られただけで恥ずかしがるなんて思わなかった。
「それに私、旦那様が興奮してくれて喜んでる……」
子供を産み、もう36才。
女としての魅力なんてずっと前に枯れてしまったと思っていた。
だけどあの方は、私の下着姿を見て興奮してくれた。
家政婦として雇っていただいたときみたいに、股間を大きくさせて、私を女として見てくれた。
それが嬉しかった。
その証拠におマンコから愛液が溢れ出てる。
男を求め、今も自分が女だということを自覚させられている。
「愛人契約、か……」
もしもそれをすぐに受けていれば、私は今頃、旦那様の愛人として抱かれていたのだろうか。
当時は嫌悪感しか抱かなかった。
容姿も性格も最悪。こんな人に弄ばれるのは死んでもお断りだって。
だけど養成学校のお金も、あの人が残した借金も、どうにもならなくなって……もう、自分を捨てようと覚悟して愛人契約を受ける為にメッセージを送った。
だけど二回目に会ったとき、あの方は別人のように優しかった。
それに、あの身体……。
服の上からでも鍛えてるのがわかる。
それぐらい逞しい肉体で、どんどん体付きが良くなっていくのがわかった。
もう結婚はしたくはない。
だけど自分が仕事と子育てをするだけのロボットだと思いたくない。
叶うなら、また若い頃みたいに心も体も求められ、そして私自身も──。
「──探したぞ、京香」
「え……ど、どうして」
名前を呼ばれて振り返った。
そして目の前にいたのは、借金だけを私に擦り付けて逃げた元旦那だった。