悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
──俺は彼女のことを知らない。
たまたま訪れたコンビニで買い物していたら、急に声をかけられた。
そんな女子高生が、はっきりと俺を見て”愛人契約”というワードを使った。
「何を、言っているんだ?」
表情に動揺も焦りも出さないよう必死に堪え、問いかける。
「あれ、誤魔化すんだー。だったら、枕営業は順調ですかー、の方がいい?」
彼女は俺じゃなくて転生前の蛇口を知っている、もしくは蛇口と関わった女性の知り合いだということはわかった。
レイカとの枕営業もあった。京香との愛人契約もあった。
であれば、他にも蛇口が声をかけた女性がいてもおかしくない。
京香の一件があってからスマホのメッセージは全て確認した。だが枕営業を迫った履歴は残っていなかった。
おそらく転生前の蛇口も、メッセージでやり取りしたら証拠に残るということは理解していたのだろう。
だが電話でのやり取りや、直接会って迫ったことも、俺には確認できない。
だからその女性が既に誰かに相談していたり、何か記録に残るようなことをしている可能性もある。
どちらにしろ、俺の秘密を握る目の前の彼女は、蛇口が枕営業を迫った女性の友達か、もしくはその本人ということは確定だろう。
だが、愛人契約についてはどうして知ってる?
まさか京香以外にも愛人契約を持ち掛けた女性がいるということか?
「おーい、おじさん! なにボーっとしてるの?」
「いや、別に……」
「ははぁん、もしかしてこんなこと考えてるー? なんでこの子は秘密を知ってるんだ、って。どうどう、当たり? ねえねえ当たりー?」
楽し気に笑いながら、俺の右から、左からと顔を覗かせる彼女。
暗い金色の長髪に、毛先はピンク色と派手な髪色。
整った綺麗な顔付きだが、笑ったときに見せる八重歯とアヒル口で、子供っぽさも併せ持っている。
化粧はしているものの濃すぎるというわけではない。
背丈は150ほどとそこまで大きくはないものの、胸元を開けたYシャツの隙間から見える谷間は、大人びた色気と男を誘惑する大きさがあった。
白のYシャツに太股より上までしかない短いチェックのスカート。腰に巻いたピンク色のカーディガン。
荷物と呼べるモノは、手に持ったスマホと財布しかない。
正直なところ、偏見混じりだが派手な見た目から想像するに、遊び慣れたタイプの子という印象だ。
「もしもーし! また考えごとですかー!?」
「はあ……」
寝てない頭で考えた結果、今すぐに彼女が秘密をバラす気はないのだと結論付けた。そしてこれ以上の誤魔化しは無意味だと。
「……で、俺に何か用か?」
「ふふーん、とぼけるのは止めたってことかー、じゃあおじさん、ちょっと遊ぼうよ」
「遊ぶ? 今からか?」
「そそっ。ねっ、いいでしょ? 学校サボっちゃって暇なの」
「……わかった」
彼女から情報を聞く為にもここは言うことを聞くしかない。
俺が了承すると、嬉しそうに飛び跳ねた彼女。
持っていたカゴにジュースやらお菓子やらを勝手に入れると「ごちそうさまでーす」と八重歯を見せて笑う。
奢れ、ということだろう。
俺はため息をつき買い物を済ませると、京香に『少し用事ができたから出掛ける』とメッセージを送った。
そして彼女に連れられて街の方へ。
平日の昼間ということもあってサラリーマンやОLの姿が目立つ。
「なんかこうやって歩いてると援交してるみたいだねー。ねっ、おじさん♡」
いつの間にか俺の腕を組んで離れない彼女。
薄々だが俺もそう思っていた。というより、さっきから周りの視線が痛い。
「ラフな私服姿のおじさんと、高校の制服を着た女子高生が……平日の昼間に街中で腕を組んで歩く。そして向こうには、ホテル街がー。ぷぷぷっ、警察に見つからないことを祈ってね、おじさん♡」
「……これは、何処に向かってるんだ?」
「さて、何処でしょうー。ドキドキ! まっ、楽しみにしててねー♡」
そして連れて来られたのはラブホテル──ではなく、カラオケ屋だった。
「いらっ……しゃい、ませぇ」
「大人一名の高校生一名で、あっ、フリータイムでお願いしまーす!」
「か、かしこまりました。えっと、学生証はありますか……?」
「はいはーい。えっと……あっ、あった。はいこれ」
「では、お部屋へどうぞ……」
はっきりと俺たちのことを怪しく思っている店員さんは、俺には一回も目を合わせてくれなかった。
通報されないだけ、マシか。
そして部屋に到着した。
狭く窮屈な個室。L字に置かれたソファーなんて、人が二人で座るほどの長さしかない。
「うわ、なにこの狭い部屋ー!」
文句言いながらソファーに座る彼女。
俺も座ると、彼女はすぐさまさっき買ってきたジュースを取り、お酒を俺に渡す。
「はい、おじさん」
「いや、酒は」
「まあまあ、せっかく買ったのに温くなっちゃうから。ほら乾杯しよっ!」
「ああ」
「かんぱーい!」
酒を呑んだら眠気が。
いや、もう色々ありすぎて眠気を通り越して元気になってきたけど。
「ぷはぁ! 美味しいー! おじさん、買ってくれてありがとね!」
「それはいい。で、ここに俺を呼んだ理由はなんだ?」
「ん、カラオケに来た理由なんて歌うに決まってるじゃん! あ……もしかして、エッチなこと期待した? ん-、狭いからなーここ。腰疲れちゃうよ、お互い。それにここのカラオケ屋ねー、店員さんがよく巡回して見張ってるから、エッチしたらすぐバレちゃうらしいよ?」
「そんなことはどうでもよくてだな。はあ……俺が誰か知っているんだろ?」
「うん、ガレイドカンパニー社長兼プロデューサーの蛇口蜂馬さんでしょ?」
「さっき愛人契約だとか枕営業だとか言っていたが、どうせ俺が裏でしてきたことも知ってるんだろ? 何が目的だ?」
「目的かー、目的ねー、うーん、あははっ……その前にさ、気になることあるんだけどいい?」
「なんだ?」
「おじさんさ──」
──蛇口蜂馬じゃない、別人でしょ?