悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「なにを、馬鹿なこと言ってるんだ……!?」
「あはっ、おじさん動揺してるー♡」
枕営業だとか愛人契約だとかは知っていて口にしても驚かない。
だが、蛇口本人を前にして「別人でしょ」って、そんなこと言われるとは思わなかった。
事実ではなく適当なことだったら笑って誤魔化せた。
だが事実だからこそ、はっきりとした動揺を見せてしまった。
「おじさんの名前は蛇口蜂馬だけど、中の人格? っていうのかな、それは別人でしょ?」
「なにを馬鹿な……」
「じゃあ、私が誰かわかる?」
そう聞かれて即答できなかった。
「ほらやっぱりー! すぐに答えられない、それが何よりの証拠でしょ?」
「……いや、記憶が飛んでだな」
「記憶? それ記憶喪失ってことー? いつからいつまでの記憶無いのー?」
「それは……生まれてから、つい数週間ぐらい前まで?」
「それもう、ほとんど別人じゃん! で、そんなほとんど記憶の無い人が、会社にはちゃんと来て、誰にも記憶喪失だって言わないで仕事してたのー?」
「……」
俺の言い分に無理があるのは自分でもわかっている、だがそうとしか言えない。
「とりあえず答え合わせ。私の……ううん、紗奈の名前は東和紗奈。聞き覚えは?」
「東和、紗奈……」
何処かでこの名前を聞いたことがある。
いやフルネームじゃない、紗奈という名前だ。
「そうか、桜子の友達の紗奈か!」
京香の娘、小中桜子と会った日に「紗奈ちゃんの家に泊まる」と言っていた。
転生してから人の名前なんて数人しか聞かない。聞き覚えがあると言えば、そこで聞いた名前だけだ。
「ピンポンピンポーン! 正解だよ、おじさん。だけど紗奈とおじさんの接点はさ、ただ桜子の友達ってだけじゃないんだよねー」
「なに?」
紗奈はスマホを操作すると、画面を俺に見せる。
それはメッセージ履歴だ。
内容は蛇口から彼女への──枕営業への誘いだった。
「実は少し前にね、紗奈にもこんなメッセージが届いたんだよねー。おじさんとエッチなことしたら、お仕事くれるってメッセージ」
「それは……」
おいおい、転生前の蛇口、メッセージでのやり取りはしてなかったんじゃなかったのか?
いやもしかして、メッセージでやり取りして自分の送信履歴だけ消したのか?
そんなことしても向こう側には受信履歴として残ってるんだから無意味だろ。足がつくに決まってる。
「おーい、おじさん?」
「ああ、すまない」
考えるのは止めよう。
「で、これ送ったの、おじさんだけどおじさんじゃないんでしょー?」
転生前のだな。
そして紗奈は、彼女の知っていることを話してくれた。
自分宛てに枕営業を強要するメッセージが送られたこと。
桜子が京香のスマホを見てしまったこと。そして母親が、金銭を理由に蛇口から愛人契約を結べと迫られていること。
そのことを桜子は友達である紗奈に相談して、紗奈は蛇口が枕営業と愛人契約を迫る悪徳プロデューサーであり社長だとわかった。
「で、桜子から相談されてたんだけどー。昨日ね、桜子が家に泊まったときに言ってたんだ、「ママはもう大丈夫」って。「なんで」って聞いたら「ママはあの人を好きになったみたい」って言うの。紗奈もおじさんとは話したことあったから、いやいやさすがにないでしょーって思ったわけ」
「……なんとなく想像付くが、理由を聞いていいか?」
「だって前のおじさん、トドみたいに太ってたし、笑い方もキモくてさー。しかも女を性処理の道具にしか見てないし、金持ちだからっていっつも上から目線。あと、気に入った女にしか仕事を振らない糞野郎だもん」
「……」
「だから桜子のママが惚れるわけないでしょ、って。だから気になって、紗奈はおじさんに会いに来たというわけ。そしたらさー、見た目も中身も別人になっててビックリしたよ」
クスクス笑う紗奈。
「つまり、興味本位で会いに来たわけか?」
「そういうこと。まあ、実際には会いに来たというより、近所のコンビニにたまたまお昼ご飯を買いに行ったら、おじさんがいたってだけだけど。見た目別人になってたから、桜子に写真撮って確認してみたら「本人だよ」って返事来たから声掛けたのさ」
「なるほどな。ちなみに記憶が無いんだが、紗奈もガレイドカンパニー所属でいいんだよな?」
「あっ、記憶喪失って体で話進めるんだー」
「……」
「はいはい、わかりましたよー。えっと紗奈はね、アイドル部門所属だよ」
「アイドル……?」
と、つい疑問を持ってしまった。
見た目や雰囲気、それに喋った感じなんかがアイドルっぽく見えなかった。
そんな俺の考えを見透かしてか、紗奈はため息混じりに笑う。
「歌って踊って、みんなに夢と希望を与える煌びやかなアイドル……に、なりたかったんだけどさ。気付いたら、アイドルグループにも所属しない、仕事も、最近はグラビアの仕事しかしてないんだよねー」
「そ、そうか……」
「おじさんも、やっぱ紗奈のことアイドルには見えないよね」
俺は少し考える。
「そうだな、アイドルっぽくは見えない」
「ですよねー」
「でもそれは、紗奈単体であれば王道のアイドルっぽくないだけであって、グループ所属で、他の子とは違う路線とかならイケるんじゃないか?」
「違う、路線……?」
「アイドルグループにだっていろんな子がいるだろ? 誰が見ても可愛い子とか、カッコイイ感じの綺麗な子とか。それに中身で言えば、真面目な子とか、お笑い向きな子だったり。考えればいくらでも出てくるが、紗奈みたいに明るくてエッチな路線のアイドルとかだったらアリだと思うけどな」
「ふーん」
俺なりの考えを伝えると、紗奈は少しだけ嬉しそうに、にっこりとした笑顔を浮かべた。
「やっぱりおじさん、別人だ!」
「いや、記憶喪失な」
「もう、どっちでもいいよそれ! だって所属していたアイドルグループを解散させて、アイドルの仕事じゃなくてグラビアの仕事ばっかさせたおじさんがそれを言うんだもん」