悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
──茅野レイカ、24才。
ガレイドカンパニー、モデル部門所属。
端正な顔立ちに、完璧なプロポーション。
幼少期の頃からダンスを習っていたということもあり実力もある。
幼い頃からモデルを夢見て、高校在学中にバイトをしながらうちとは別の事務所に入り数多くのオーディションを受けてきた。
だが残念なことに、彼女はとことん運が悪かった。
オーディションを受けても不合格の連続。やっと受かったと思ったら、彼女以外の要因で不評や打ち切りばかり。
次第に業界からは「彼女が問題なのではないか」という根も葉もないレッテルを貼られ、彼女のメンタルも徐々にやられ、モデルという夢を諦めようか悩んでいた。
そんなとき、声をかけたのがガレイドカンパニー社長でありプロデューサーの蛇口蜂馬だった。
言葉巧みに彼女に詰め寄り──弱りきった彼女に、モデルの仕事をエサに枕営業を強要した。
「……ほんと、この蛇口蜂馬って男クソだな」
社長室にて。
蛇口蜂馬の顔で、蛇口蜂馬の悪口を言う。
なにせこの話には続きがあるのだ。
「それで、彼女と身体の関係を持ったが……」
彼女の仕事履歴を確認する。
最初に枕営業を行った日から約四カ月。
彼女がちゃんとした仕事をした履歴はない。
仕事履歴にあったのは、着ぐるみに入って踊ったり、ドラマのエキストラだったりと、素人の俺が見てもモデルとは呼べないような仕事ばかりだった。
おそらく蛇口は、ちゃんとした仕事を彼女に与えなかったのだろう。
それどころか、ちょっとした仕事を与えて、少し間隔を空けて、また別の微妙な仕事を与えている。
この間隔に何があったのかは、容易に想像できた。
「つまり、枕営業をしたときは約束通り仕事を与えるけど、それは微妙な仕事ばかりで、もっといい仕事が欲しかったらまたセックスさせろ……と迫ったのだろう」
マジで絵に描いたような悪徳プロデューサーじゃん、漫画とかアニメにしかこんな奴出てこないって。
こんなことしてたら恨まれてリークされても当然だ。むしろ「よくやった!」とそのリークした女性に拍手したいぐらいだ。
今の俺が、こいつじゃなければ……。
というより、よく彼女も四カ月も我慢してこいつに従っていたよ。
「まあ、それぐらいモデルという仕事で大成したかったんだろうな」
その想いを蛇に狙われてしまったのだが。
「とにかく、彼女と会って話をしないとな」
俺は机に置かれた電話機を操作して秘書に連絡した。
『お待たせしました社長、平原です』
「あー、茅野さ……レイカを社長室に呼んでくれ」
『茅野ですね。かしこまりました、すぐにモデル部門の者に伝えます』
電話を切る。
それから少しして、社長室に彼女がやってきた。
「……失礼します」
プロポーション維持の為のダンスレッスン中だったのだろう。
ラブホテルで会ったときとは違い、シャツにジャージとかなりラフな格好だ。
そして部屋に入った彼女は一度だけこちらを睨んでから、俯いたまま目の前に立つ。
「えっと……」
社長相手だというのにはっきりとした敵意を向けられた。
なんて話しかけたらいいかわからない。
「仕事の件、ですか……?」
すると、彼女の方から口を開いた。
「また、モデルとは無関係の仕事ですか?」
「え?」
「わかっていたのに……どうせ、あなたはちゃんとした仕事なんてくれないって」
彼女は俺に喋っていない。
まるで自分の行いを悔やんで、自分自身に喋りかけているいるようだった。
病んでいる、という言葉が正しいかもしれない。
「いつもいつも、私の弱みに付け込んで口触りのいいこと言って……私の身体を、弄んで」
敵意を向けられながら、今度は涙を流して泣いてしまった。
そんな不安定な精神状態の彼女に、これまでの彼女と蛇口のやり取りについての話しなんて聞けない。
俺はこれまでの蛇口蜂馬ではなく、事務所の社長であり彼女のプロデューサーという役を演じて、事前に用意してあった書類を彼女に渡す。
「レイカ、新しい仕事の書類だ。確認してくれ」
「新しい、仕事……?」
虚ろなまま、彼女はゆっくりとこちらへ歩いてくる。
そして二件の仕事の書類を彼女に渡すと、彼女の表情が変わる。
「これ……」
「格闘技のキャンペーンガールと、化粧品会社のモデルの仕事だ。どうだ、やってみるか?」
「こ、こんな大きな仕事を、私に……な、なんで、ですか!? いつもは、こんな仕事与えてくれないのに」
「それについては、今まですまなかった」
俺がやったことじゃないけど、さすがに謝ろう。
「今まではどうかしていた。レイカの才能も、努力も……ちゃんと見れていなかった。申し訳ない」
勢いよく頭を下げる。
面食らった彼女は何も言わない。
「だから改めて、この仕事にはお前が適任だと思ったんだ。……どうだ、やってみるか?」
そう伝えると、レイカはパアッと明るい表情になった。
「は、はい! ありがとうございます……ありがとうございます、社長!」
ここまで感謝されるとは思ってもいなかった。
そもそもこの仕事については、他の子に任せようと思っていた仕事だったらしい。
らしい、というのは、転生前の蛇口が他のモデル部門にいる”お気に入り”の女性に任せようと思って取っておいた仕事だったらしいからだ。
その仕事を見て、モデル部門のお偉いさんに「どちらが経験や実力で適任だ?」と確認したら、ほとんどがレイカの名前を挙げたので彼女に託した。
まあ、転生前の蛇口としては、そのお気に入りの女性を狙っていたのだろうな。
なので私利私欲を抜きにして、適切な者に仕事を振っただけだ。
きっと今までもこういうことが多々あって、レイカだけでなく、不遇な扱いを受けていた子が大勢いたのだろう。
「この仕事が成功すれば、きっとこれから指名の仕事が増えていくはずだ。頑張れよ、レイカ」
「は、はい!」
大事そうに書類を抱きかかえて部屋を出て行くレイカ。
これで彼女と枕営業をすることはもうないだろう。
ラブホテルで見た、彼女の裸が忘れられない。もったいないなとも思う。
だが、これで彼女は報われた。そして俺が逮捕される可能性もなくなったはずだ。