悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「俺が……?」
「正確にはおじさんの元?みたいなおじさん。んー、ややこしい! 要するに記憶喪失前のおじさんってこと」
「そ、そうか。なんか、すまないな。記憶になかったとはいえ」
アイドルを辞めさせた張本人が、アイドルとしての別の可能性を口にする。
人によっては腹立たしく思うだろう。だけど紗奈は「ううん」と首を左右に振った。
「別にいいよ。もう紗奈の中では、前のあのトドと今のおじさんは別人だと思ってるから」
「そう言ってもらえると助かる」
「だ・け・ど……」
小悪魔のように笑みを浮かべた紗奈。
「利用は、させてもらおっかなー♡」
「……」
「あっ、露骨に嫌な顔しないでー! 大丈夫大丈夫、おじさんにだって悪くない提案だよ、たぶん」
どうやら考えていたことが顔に出ていたらしい。
「もしかして、秘密にする代わりにアイドルの仕事をくれとかか?」
「んー、それもいいんだけど、ちょっと困ったことがあってさー。実は今、おじさん以外にも枕営業させられそうになってて」
「なに? それはうちの事務所の奴からか?」
「ううん、他事務所。グラビアのお仕事で一緒になったグラビアアイドルのマネージャーさん」
「マネージャー? マネージャーにそんな権力あるのか……?」
蛇口だって、社長だとかプロデューサーとかの肩書を持っているからこそ、仕事を餌に枕営業を強要できる。
それがただのマネージャーに、そんな権限があるとは思えない。
「話しかけてきたのはマネージャーさんだったけど、実際に相手するのはたぶん、その人よりも上の立場の人だと思う」
「要するに、そのマネージャーはただの仲介役ってわけか」
「そういうこと。だからさ、その上の人の名前とか知らないんだよね。聞いても教えてくれなかったし」
話を聞くかぎり賢いやり方だとは思う。
実際、蛇口がこれまでしてきた枕営業も愛人契約も紗奈にバレてる。
それは足が付く方法を取っているからだ。
だが紗奈の言った奴は、もしバレたとしてもマネージャーが捕まるだけで、おそらくはその上の奴は捕まらないだろう。
蛇口もこれぐらい頭を使ってほしかったものだ。
「それで、枕営業の見返りはなんて言ってるんだ?」
「その事務所に移籍させてくれるんだって。しかもグラビアじゃなくてアイドルとしてデビューさせてくれるって約束付き」
「グラビアじゃなくアイドルとしてか、だいぶ気前がいいな。まあ、本当にデビューさせてもらえるか微妙だが」
「いやーそれがさ、たぶん本当っぽくて。その事務所がここなんだけど……」
「これは……」
渡されたであろう名刺を確認すると、そこまで業界に詳しくない俺でもわかるほど超大手の芸能事務所だった。
「うちよりもかなり大手だな」
「そうなんだよねー。まさかそんな大手から枕営業しろって言われるとはなーって。で、ちょっと調べただけでここの事務所からアイドルとしてデビューしてる子めっちゃいるから、信憑性もあるんだよね」
「紗奈も興味あるのか?」
「まあ、あるかな。別にセックス嫌いじゃないし。もちろん、キモイおっさんとかだったら嫌だけどさ。でも何回か抱かれるの我慢すれば大手事務所でアイドルデビューさせてくれるなら、ありかなって」
「なるほどな」
「まあ、ずっと断ってるんだよね。興味ないって」
「そうなのか。じゃあ何に困ってるんだ?」
紗奈は困ったことがあったと言っていた。
枕営業自体を断っているのなら、この件については終わりじゃないのだろうか。
「実はね……」
紗奈は大きくため息をつく。
♦
──東和紗奈、17歳。アイドル部門所属。
中学生の頃、制服のまま夜遅くに路上ライブをしていた紗奈。
そんな彼女が警察に補導されそうになっていたところを、当初は歌手として育てる為にうちの事務所にスカウトして、二つ返事で歌手部門に所属することに。
だが彼女はアイドル志望ということで、すぐにアイドル部門へ転属。
歌唱力はもちろんのこと、踊りの評価も他の子より秀でていると、アイドル部門の幹部たちからの評価は高い。
だが、アイドルになるには心構えの部分に難があった。
注意しても髪色は派手なまま、素行不良も目立ち、デビューしたとしてもおそらく問題を起こすだろうとされていた。
何より、最初に組んだアイドルグループではメンバーたちと性格も考え方も合わなくて喧嘩ばかり。
紗奈一人がグループから追放される形となって脱退した後、他のグループでも厄介事を引き起こしてまた脱退。
歌手であればソロでいけたので良かったが、アイドルとなるとグループを組んで売り出すケースが多い。
どのアイドルグループにも所属できない紗奈は、次第に仕事が減っていき、苦肉の策で依頼したグラビアアイドルの仕事をさせたのだが──それが大当たり。
まだまだ顔付きには幼さのある紗奈だったが、そんな幼さに反して身体付きは大人びていて、派手な見た目も合わさって人気は高かった。
ちなみに、モデルのレイカにいくはずだったグラビアの仕事が流れた先は紗奈だった。
まあ、そうさせたのは俺、というか蛇口だ。紗奈は蛇口のお気に入りだったというわけだ。
「そして、いつの間にかアイドルの仕事は振られなくなった紗奈に、どこかからアイドル志望だということを聞きつけた他事務所の奴が、事務所移籍とデビューをちらつかせ枕営業を迫ったと」
紗奈と会ってから数日が経った。
俺は目を通していた紗奈に関しての資料を思い出しながら、日焼けサロンのカプセルで横になっていた。
目的は数週間後に控えたボディビルの大会に出場する為に、肌を黒く焼く為だ。
黒くさせる理由は単純で、黒い肌の方が筋肉の質感がより鮮明に見え易いから。
オイルやカラーなんかでも一時的に肌を黒くさせるものもあるが、国内の大会の多くはそういった類の使用は禁止されている。
だからこうして、俺が通っているスポーツジムに併設された日焼けサロンを利用している。
そうそう、スポーツジムを変えたんだ。
ジムに通うようになって何度か顔を合わせていくうちに意気投合した富永さんって男性が「蛇口さん、もしボディビル大会に出ようと思っているなら、こっちのジムの方がいいよ。筋肉が喜ぶからね」と紹介してもらったんだ。
「と、そろそろ時間だな」
カプセルを開けシャワールームへ。
そしてスーツを着てスポーツジムを出ると、タクシーに乗って目的地へ向かった。
それから数分。
到着したのは高級ホテルだった。
「招待状を拝見してもよろしいでしょうか」
「ああ」
ロビーにいたボーイに招待状を渡す。
確認が終わると、
「ありがとうございます。蛇口様、こちらをどうぞ」
ボーイから名札を手渡された。
『ガレイドカンパニー社長 蛇口蜂馬』
胸ポケットにそれを着けると、エレベーターを呼び出す。
「ごゆっくり、お楽しみください」
エレベーターに乗って移動すると、目的の階層に到着した。
煌びやかな装飾がされた会場、豪華な食事──そして、華やかなドレスを着た美女に美少女たち。
彼女たちはエレベーターから下りる俺を見ていた。
まるで品定めするような、そんな視線。だがすぐに彼女たちは俺に向かってお辞儀をする。
「おや、これはこれは……ガレイドカンパニー社長の蛇口さん、ですかな?」
声を掛けられ振り向く。
すると50代後半であろう男性は、しわだらけの顔で笑みを浮かべた。