悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
時は遡ること数日前。
紗奈と初めて会った日のことだ。
俺は彼女からとあるお願いをされた。
「──実はね、おじさんに一緒に来てほしいんだ」
紗奈から説明された。
その大手事務所に所属するマネージャーから、上の人と枕営業をすることを強要されていたが紗奈はずっと断り続けていたらしい。
それで「であれば」と、別のお誘いを受けたのだとか。
そのお誘いというのが”お偉いさんが集まるパーティー”への参加だという。
「芸能事務所のお偉いさんとか、番組プロデューサーさんとか、そういった人たちが大勢来るパーティーなんだってさ」
「……パーティーか」
「参加者もさ、紗奈以外にもいっぱいいてさー。アイドル志望の子だけじゃなく芸能関係の子がいっぱい来るんだって。で……実はさ、そのパーティーに誘われた他の子に聞いてみたんだよね。『枕営業を誘われた?』って。そしたら、何人かが『誘われた』って言ってて」
「その枕営業云々が無ければ、普通の芸能関係のパーティーとも思えるが」
蛇口に転生してわかったが、こういう芸能関係のパーティーはよく開催されてる。
参加者は紗奈がさっき言っていたみたいに会社のお偉いさんだったり番組のプロデューサーだったり、女の子も芸能関係者だけ。
接待という体だが、女の子たちは自分の名前を売るチャンスでもある。
だから別に、枕営業を誘ってきたマネージャーじゃなければ、何も問題はないんだろうが。
「怪しさ全開だよねー」
「要するに。それに参加したい、だけど、怪しいから一緒に来てほしい……ということか?」
「そうそう、おじさんならお偉いさん側として参加できるかなって」
「まあ、可能かもしれないが」
蛇口の悪い評判はそこそこ業界にも流れてそうだし、少しアクションを起こせば仲間だと思って誘われる可能性はありそうだ。
「だが、今まで枕営業を断っていたのに、そのパーティーは参加したいんだな」
「別にこのパーティー自体には興味ないんだけどさ。……さっきさ、言ったじゃん。紗奈の他にも誘われた人がいるって」
「ああ」
「……それ、桜子のことなんだよね」
「桜子? 桜子って、京香の娘だよな?」
「うん、って……京香ママのこと京香って名前で呼んでるんだ」
「今はそれどうでもいいだろ。それより、桜子も枕営業を強要されていたのか?」
「そういうこと。桜子はさ、両親のこととかお金のこととかがあって、早く声優としてお仕事が欲しかったんだよね。それをどこかから知ったお偉いさんから何度か声をかけられたみたい」
「それで、桜子は受けたのか?」
「ううん。桜子って男性経験無いから、枕営業は嫌だって……。で、ずっと断ってたらしいんだけど、芸能関係のパーティーに参加するならって」
「行くって言ったのか」
「桜子は頭いい子だから、なんか怪しいなって思ってるらしいんだけど……他にも女の子いっぱいいるらしいし、パーティーに出席するぐらいなら大丈夫だろうって」
「……京香はこのこと知っているのか?」
「さすがに知らないでしょー。あの子が京香ママに相談するとは思えないし」
紗奈は「そこでね」と俺をジッと見つめる。
「桜子って頭いいけど、家庭環境とかで追い詰められたらいつかは心が揺らいじゃうんじゃないかなって。それで心配だから、紗奈がパーティーに付いて行くの。だけど紗奈だけだと不安だから、おじさんにも……ね?」
「なるほどな」
少し考える。
だが結論はすぐに出た。
「桜子を説得して、不参加ってことにはできないのか?」
「無理だと思う。参加するってもう言っちゃったし、何より仕事に繋がるチャンスだって桜子は思ってるから」
「なるほどな。わかった、なんとか参加できるようにしよう」
「ほんと!? さっすがおじさん!」
「桜子のことが心配だからな。それに母親の京香は大切な女だからな。きっとこのことを知ったら心配するはずだ」
「おじさん、かっこいいー!」
「それにしても友達想いなんだな」
「え?」
「友達の為に危ないとわかりながらもパーティーに参加するなんて」
「あー、うん、まあね……」
紗奈は少し恥ずかしそうにする。
「紗奈ってほら、見た目も性格もこんな感じだから、あんま友達いなくて……。だけど桜子だけは、こんな紗奈でもずっと仲良くしてくれるから」
「ふーん」
「ちょ、なにその「ふーん」って!」
「いや、意外とかわいい一面もあるんだなって」
「ムカつく! その人を見透かしたような反応!」
まったくもう、と呆れた様子を見せる紗奈。
大きく息を吐くと、上目遣いでにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、無事に紗奈と桜子のこと守ってくれたら……お礼、してあげよっか?」
「お礼? 何をしてくれるんだ?」
「ふふん、どうせわかってるくせに。まあ、どんなお礼をしてほしいかは考えといて」
笑顔で話を締めた紗奈。
連絡先を交換して、彼女はカラオケのデンモクを操作する。
終始、彼女は一人で歌っていた。
本当に歌が上手いな、そう思った。
♦
──そして今に戻る。
「エアトライブ・ジャパン社長の黒鉄さん。どうもお久しぶりです!」
今回のパーティーを主催した人物であり、紗奈と桜子を枕営業に誘ったマネージャーの黒幕。
エアトライブという世界展開された大手芸能事務所の日本支部の代表だ。
まさか主催者自ら表に立つなんて。もしかして本当に普通のパーティーなのではないだろうか。
「今回はお招きいただきありがとうございます!」
「いえいえ。それにしても、なんだか雰囲気が変わりましたかな?」
「ええ、スポーツジムに通うようになりまして」
「そうですかそうですか。いいですね。私はもう、身体を動かすことは……」
「──黒鉄さん!」
軽く会話していると、黒鉄さんへと次々と声がかかる。
胸ポケットに付けたネームプレートを見ても、どこかで聞いたことのある事務所のお偉いさんばかり。
それに事務所とかだけじゃなく、一般企業のお偉いさんまでいる。
俺は人が多くなってきたので、黒鉄さんに挨拶をしてこの場を離れることに。
「……おじさんおじさん」
ふと、手招きする紗奈に呼ばれた。
黒一色のミニスカートのドレスを着た彼女は、前に見たときよりも大人っぽい感じがした。
そして隣にいる桜子が、軽く会釈する。
「お久しぶりです、蛇口社長。ママ……母が、お世話になりました」
「ああ、久しぶり。あれからあの男が接触してきたりしてないか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。それしても二人ともお揃いか?」
「そうだよ、昨日一緒に買ってきたの。どうどう似合う、おじさん?」
「ちょっと紗奈ちゃん。社長におじさんは……」
「ええ、いいじゃんいいじゃん。ねっ、おじさん?」
「まあ、呼び方はどうでもいい。それと、二人とも似合ってるぞ」
黒一色の紗奈とは正反対に、桜子は白一色のミニスカートのドレス。
二人のことを褒めると、紗奈は「やったねー」と八重歯を出して笑い、桜子は少し恥ずかしそうに視線を下げて「ありがとうございます。社長もその恰好お似合いです」と、お礼だけでなく俺のことも褒めてくれた。
母親に似ていい女だ、と邪なことを考えそうになったところで、パーティーが始まった。