悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
大々的な司会がいるわけでもなく、参加者を紹介するわけでもなく、簡単な乾杯の挨拶がされてパーティーが始まった。
ボーイから手渡されたワインを吞んでいると、早速だがお偉いさん方のもとへ女性たちが挨拶に向かっていた。
「社長、私もその……」
「ああ、俺に構わなくていい」
「すみません、失礼します」
桜子もどこかへ向かった。
きっと挨拶周りをしに行ったのだろう。
「なんだか拍子抜けだねー。ほんとに芸能関係のパーティーだったのかな?」
紗奈はボーイに渡されたジュースの注がれたグラスに口を付け「ん、美味しい」と満足そうだ。
確かに普通のパーティーにしか見えない。
何より気になるのは参加者だ。
俺というか蛇口みたいな裏がありそうな者も数名いるが、クリーンなイメージの会社社長も出席している。
人は見た目じゃないけど、それでも黒い噂の一切無い方が出席していると、ここが怪しいパーティー会場だとは思えない。
「かもな。だが用心に越したことはないだろう」
「とか言って、ワインおかわりしてるけど」
「気のせいだろ。それより紗奈はいいのか? 顔を売るチャンスだろ」
「んー、それもそうなんだけどねー」
現に紗奈以外の十代から二十代であろう女性たちは挨拶周りをしている。
「苦手なんだよね、ああいう挨拶周り」
「俺も好きじゃないが、ああやって挨拶周りするのが出世の近道だって聞いたことあるぞ」
「まあ、桜子みたいにするのがいいんだと思うけど……。おじさん、もしかして紗奈、邪魔だったりする?」
そう問いかけられ、俺は首を左右に振る。
「邪魔なわけないだろ」
「ほんと? 他の女の子と話したいんじゃないの? 枕営業迫ったらやらしてくれそうな子いるよ、たぶん」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「え、変態おじさん。枕営業を迫ったり、愛人契約を結べって言ったり」
「それは」
「記憶喪失の前だから俺じゃない、って言いたいんでしょ? でも、京香ママとエッチなこといっぱいしてるんでしょ?」
「……否定はしない」
「桜子が言ってたよ。京香ママ、おじさんの家から帰ってきた日はいつも色っぽくなってるって。それってつまり、エッチなこといっぱいしてるってことでしょ?」
「否定はしない」
グラスに口を付けながら、楽しそうに笑う紗奈。
「気になったんだけどさ、おじさん……前に会った時より肌黒くなってない?」
「おっ、気付いたか。実は日焼けサロンに通っているんだ。まだ行き始めだからそんなに焼けてないが、これからもっと通う回数を増やしていい色合いにするつもりだ」
「そ、そうなんだ……おじさん、記憶喪失だって言うわりには人生楽しんでるよね。鍛えてるって前に言ってたけど、どこ目指してんの?」
「近々ボディビルの大会があるから、まずはそれの参加だな」
「へえー、なんか面白そう。見に行っていい?」
「ああ、来るか? 京香も応援に来てくれるそうだ」
「やったー。ふふっ、楽しみだなー。っと、ジュース無くなっちゃった」
グラスが空になった紗奈は、近くを歩いていたボーイの持っていたグラスを手に取る。
「これ貰いますねー」
「あっ、それは……」
お酒やドリンクを提供するボーイが、なぜか慌てた様子で紗奈を止めようとした。
そんなボーイを無視してジュースをごくごくと飲む紗奈だったが、ふと首を傾げる。
「もしかしてこれ、お酒ですか……?」
「い、いえ、ジュースですので、未成年の方でも問題ありませんよ」
「そうなんだ……。おじさん、飲んでみて」
紗奈からグラスを受け取り一口。
オレンジジュース、にしては少し苦みがある。
色合いはオレンジジュースだが、味わいはグレープフルーツに近い。
そろそろワインを止めて別のを呑もうと思っていたからちょうどいい。
「お酒ではないな。すまない、同じのをもう一杯もらえるか?」
ボーイに伝えると、彼は急に落ち着きを見せ「かしこまりました」と離れていった。
「おじさん、これ好きなの?」
「好きというか、お酒ばかりだとすぐ酔うからな。紗奈は苦手か?」
「んー、なんかオレンジジュースにしてはちょっと苦いかなって」
「グレープフルーツなんじゃないのか?」
「そうかも」
そこでさっきのボーイが戻ってきた。
するとなぜか、俺のだけでなく紗奈の分のグラスも渡された。
「紗奈にもだって」
「いらないなら俺が貰うぞ?」
「ううん、嫌いってわけじゃないから貰う。おじさん、乾杯!」
「ああ、乾杯」
それからも俺は紗奈と会話を続けた。
たまに女性が挨拶に来てくれるが、少し話してどっか行ってしまう。
「なんかさ、人減ってない?」
「たしかに」
気付くとパーティーの参加者が減っていた。
それは男性だけでなく女性もだ。
主催者である黒鉄さんも気付くといなくなっていた。
「ど、どうしよ、もう帰る?」
「どうするか。……って、なんか紗奈、顔赤くないか?」
「え、あっ、ほんとだ……ってか、おじさんも顔赤いよ」
「なに?」
「ねえ、おじさん。さっきからここ暑くない?」
「そう言われてみると、そうかもな」
確かに、なんだか暑い。
いや、会場がというよりも俺自身がだ。
お酒の量をセーブする為に途中からジュースを飲んでいたから、呑み過ぎというわけではないと思うんだが。
「紗奈、大丈夫か?」
「え、ああ、うん」
顔が赤いだけでなく若干だが汗もかいていた。
もしかして熱か?
そう思って俺は紗奈の肩に手を触れると、
「あ……っ♡」
感じたような声を漏らした。
「す、すまない。大丈夫か?」
「あ、うん……ちょっと、変な声出ちゃった。あはは、なんだろ……さっきから、身体が熱くて……変な感じなんだよね」
「……」
そう言って、紗奈は俺の腕の裾を掴む。
まるで自力で立っていることができなくなったかのようだ。
それに言葉にしてはいないが、紗奈は尿意を我慢するように太腿を擦り合わせていた。
急にどうして。
いや、もしかして……。
「もしかして、さっきのドリンク──」
「──紗奈ちゃん、大丈夫?」
挨拶周りをしていた桜子が戻ってくると、紗奈を心配そうに見つめる。
だがその表情や雰囲気、息遣いは紗奈と同じ感じだった。