悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
レイカに仕事を与えてから一ヵ月が経った。
格闘技のキャンペーンガールの仕事も、化粧品会社のモデルの仕事も、報告では順調に上手くいったそうだ。
もちろん、俺ができる範囲でのサポートは陰ながらした。
蛇口の罪滅ぼし、というかまあ、頑張っていた人は報われてほしいという気持ちからだ。
彼女はそれから、新しい別のモデルの仕事なんかもしている。
それもモデルの誰かではなく、彼女を指名しての仕事だ。
すっかり仕事が忙しくなったというのに、前よりも明るくなったとモデル部門の責任者が言っていた。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
そんな彼女の成功を喜びながら、俺はあの日から通い始めたスポーツジムで汗を流していた。
正直、転生前の蛇口の体は重すぎてきつかった。
120キロぐらいあった体重も、今では90近くまで落とした。
それでもまだお腹周りはぶよぶよだ。もっと運動して引き締めると丁度いいかな。
「社長兼プロデューサーって、いい仕事だな」
仕事の大半がお偉いさんとの付き合いだ。
ゴルフだったり、飲み会だったり、夜のお店に行ったり。
そんな生活を送っていたら太るわなって感じなんだけど、こうしてスポーツジムに通う暇があるのは有難い。
「さて、そろそろ会社に戻るか」
シャワーで汗を流して会社に戻ろう。
そう思ってスマホを確認すると、不在着信がかかっていた。
「レイカか?」
不在着信の相手はレイカだった。
あの日から直接は話していないので、めちゃくちゃ久しぶりに感じた。なんの電話だろうか。とりあえず折り返してみるか。
「もしもし」
『あっ、すみません社長、茅野レイカです』
「ああ、どうした?」
別人かと思ってしまうほど電話から聞こえてくる彼女の声は明るかった。
『えっと、以前お仕事をいただいたこと、ちゃんとしたお礼がまだできていないなと思いまして』
「そういうことか。別にレイカが気にすることじゃない。たまたまレイカにピッタリな仕事があっただけだ」
『社長……』
枕営業、というワードは出したくなかったので無難な回答をする。
『あの、社長……今夜、ご予定ありますか?』
「え、今夜?」
♦
「まさか向こうから食事に誘ってくれるとはな」
今夜ご予定ありますか、と聞かれてつい邪なことが頭をよぎったけど、彼女からの誘いは食事へのお誘いだった。
予約してあった夜景の見える高級レストランに到着すると、既に彼女はお店で待っていた。
「レイカ、待たせてすまない」
煌びやかで、胸の谷間が見える白のドレスを着た彼女は、俺を見て立ち上がる。
「いえ、私も今──」
だがすぐに目を丸くさせた。
彼女の正面に座る。
「どうかしたか?」
「あの、社長……痩せました?」
「おっ、わかるか。一か月前ぐらいからスポーツジムに通っているんだ」
見ただけで気づいてくれるとは、頑張った甲斐があった。
「そうなんですか。でも社長、前に運動は嫌いって言ってませんでしたか?」
「え、ああ、なんというか心変わりというか。それより頼もうか」
危ない危ない、転生前の蛇口は運動とか嫌いな奴だったんだな。まあ、だからあんな体型なんだろうけど。
それから。
俺は慣れない高級レストランで、なるべくボロが出ないようにレイカとの会話を楽しんだ。
「仕事、順調そうだな」
「はい、社長のお陰でたくさんのお仕事を頂いてます」
「別に俺は最初の二件を紹介をしただけだ。良い結果になったのは、間違いなくレイカの頑張りの賜物だ」
「そう言ってもらえて、嬉しいです」
耳に髪をかけるレイカ。
初対面ではあんなに敵対心を抱いていたのに、今は柔らかい笑顔を見せてくれる。
大人っぽい綺麗な表情だけど、こんな可愛い笑顔もするのか。
はあ、羨ましいな。
こんないい女と蛇口は枕営業だけどセックスしていたのか。
「社長?」
「ああ、すまない」
バッドエンドを回避できたのは良かったけど、勿体ないことをしたなと今更ながら後悔してしまった。
そんな後悔を流すように、俺は高級ワインをあおる。
「社長、大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。お酒は強い方だからな」
「あれ、そうでしたっけ……?」
「ああ、だから問題ない」
俺は勘違いしていた。
酒が強いのは転生前の俺であって、蛇口ではなかった。
だからいつもみたいなペースで呑んでいたら、そのことに気付く前に酔い潰れてしまった。
…………
……
呑み過ぎて頭がくらくらする。
一人で歩くことすらできなくなるまで酔ったのなんていつ以来だ?
「す、すまない、レイカ」
「いえ、気にしないでください」
レイカに連れられてレストランを出ると、すぐさまタクシーを呼んだ。
俺をタクシーに乗せようとするレイカを止め、彼女にタクシーへ乗るよう促す。
「それじゃあ、今日は楽しかった、ありがとう。帰り道に気を付けてくれ」
タクシー運転手にお金を払い、レイカを帰そうとした。
だけど彼女は俺の手を掴み、一緒にタクシーに乗り込んだ。
「……今日の社長、なんだか別人みたいですね」
「え?」
レイカが運転手に行き先を伝える。
もしかして自宅まで送ってくれるのだろうか。
申し訳ないことをしたなと感じながら、少しだけ目を閉じた。
「社長、着きましたよ」
タクシーが止まり、外に出て、レイカに連れられて建物の中へ。
重たい目蓋がまだ開かない。彼女は何かを操作してからエレベーターに乗った。
そして部屋に到着した。
あれ、俺まだカギとか取り出してないけど?
そう思って目を開けると、つい最近見たピンク色の景色の部屋が目に映った。
「ここは……」
「……社長。上着、脱がしますね」
言われるがままに、上着を脱がされた。
ここは俺が転生して最初にいた──あのラブホテルだった。