悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「社長、その……な、なぜ、ここに彼女が?」
洋一郎が気にしたのは奥さんである眞由美ではなく、所属アイドルである紗奈がここにいることだった。
「まあ、気にするな。それで今回の件だが……俺に隠してることないか?」
「えっ、隠してること、ですか……? いえ、その……」
「ないのか?」
「それは……」
もしもこの場に紗奈がいなければ、ここまで動揺せず隠していただろう。ただ社長室に入ってきたときの反応から察するに、紗奈が俺に全て話したと感じ取ったはずだ。
暑くもないのに額から汗を垂らし、視線を右往左往させる洋一郎。
妻の眞由美はいつも通りの無表情で、真っ直ぐ前を見ていた。
「……ここで正直に話せ。全部、紗奈から聞いた」
「──ッ!」
洋一郎はその言葉だけで察したらしく、俺の知っていること3割に知らないこと7割を話してくれた。
──”レイニー・キャッツ”のメンバーをとあるクラブに誘い出してくれたら仕事をやる。
洋一郎はそう、前に仕事でお世話になった会社のお偉いさんに言われたそうだ。
何処のクラブかも、そこで何をするのかも、その時に説明はなかった。そして洋一郎はそれだけで察したらしい「これは良くない遊びだ」と。
普通ならすぐ断るのだが、そのお偉いさんは多くの会社や業界人と親交が深く、彼と仲良くしていればこの先もレイニー・キャッツは多く仕事を貰えると考えた。
それにこの話を持ち掛けられた時、洋一郎は眞由美と結婚する前だった。
もしも断ればお偉いさんから嫌われて悪い評判が広まり仕事を失い、もしも応えれば気に入られて仕事がどんどん貰えるかもしれない。
「それで、その誘いに乗ってクラブにメンバーを行かせたと」
「申し訳ありませんでしたッ!」
今日、何度も見た土下座がまた目の前で披露された。
俺はため息をつく。
「まあ、結婚を前に仕事を失うのは嫌だし、今より上の役職になりたいと思うのは当然だ。結果としてお前はこの件以降に役職が上がった」
「……はい」
「で、そのクラブでは何が行われていたんだ? まあ、写真を見ただけでいかがわしいことが行われていたような感じがするが」
「それは……」
洋一郎は横目で妻の眞由美を見る。
それだけで、何をしていたのかはすぐわかった。
眞由美は夫の不始末を目の前で聞きながらも、いつも通りただ無表情のままだった。
「こ、こちらは、その……アイドルを提供して、他事務所からは俳優や芸人なんかを呼んで……クラブで呑んだり、騒いだり……その」
「で、その最初に話を持ち掛けてきた男にはどんなメリットがあるんだ。事務所同士のタレントをセッティングして終わりではないだろ?」
話を聞くかぎりだと、その最初に持ち掛けたお偉いさんというのは別に事務所のマネージャーとかではないんだろう。
だったら話を聞くかぎりでは、得するのは仕事を貰える事務所のマネージャーや、いい男やいい女を紹介してもらったタレントだけだ。
「どうせ、そのお偉いさんというのもタレントを喰ってたんだろ?」
「……はい」
「それしかないもんな。で、お前は?」
「自分ですか!? 自分は、その、何もしてません!」
「本当か?」
「は、はい……っ!」
嘘だな。
妻の前だから威勢よく否定しているが、もし秘密にしてやるとか言ったらすぐ吐く。
まあ、こいつが見返りにタレントといい思いしていたとかどうでもいい。
この新婚夫婦がどうなろうと、別に俺にとってはどうでもいいことだ。
だが、これは……。
「今回の件についてはわかった。で、お前のせいでうちの会社には莫大な損害が出たが、お前が退職して済む話じゃないのは理解しているな?」
「……そ、そこを、そこを──」
「──なんともならないんだよ!」
「ひっ!」
声を張り上げてテーブルを叩くと、洋一郎が怯え、紗奈が面白そうに笑みを浮かべ、眞由美は相変わらず無表情。
俺は土下座を続ける洋一郎の前に座り見下ろす。
「今回ので出た損害、代わりに支払えるのか?」
「そ、それは……」
「無理だよな。しかもお前、俺にバレたらヤバイと思って自分から退職して逃げようとしたよな?」
狼狽しながら返事に困る洋一郎。
もしも逆の立場だったら嫌だろうな。まあ、どうしてこうなったのか少しは理解できるが自業自得だから同情はしないが。
「まあいい、とりあえず今回の件は不問にしてやる」
「えっ……?」
間抜けな顔で見上げる洋一郎の肩を叩き、俺はイスに座る。
「俺にいい考えがある。とりあえず追って連絡するから、お前は上の指示を仰いで変わらず仕事に励め。いいな?」
「は、はい! ありがとうございます!」
寛大すぎる対応に、洋一郎は立ち上がり頭を下げると、眞由美も頭を下げて小さな声で「ありがとうございます」と言った。
洋一郎と眞由美は共に社長室を出ようとしたが、
「ああ、お前は残れ」
眞由美を引き留めると、彼女は「はい」と答えて部屋の隅に立ったまま。
洋一郎と紗奈を部屋から出す。
静かになった社長室で、俺は眞由美をソファーに座らせた。
「今回の件での損害はどれぐらいだ?」
「……レイニー・キャッツが出演しているCMとこれから撮影する予定だったCMが全部で3本。ドラマ・バラエティー番組の出演予定が5本。今回の一件、こちらが悪いという形になりますと、写真に映っていた俳優や芸人の所属する他事務所への賠償金も発生するかもしれません。そうなれば、軽く損害は数億はいくかと思います」
「なるほどな」
立ち上がり、ソファーに座る眞由美の後ろに立つ。
彼女の肩に両手を置くと、ビクンと全身が震えたが、拒もうとしたり大声を出したりはしなかった。
「週刊誌に写真を渡したの、お前の夫らしいな?」
確定事項じゃなく可能性の範囲だが、まあこれぐらい吹っ掛けてもいいだろ。
「もしも紗奈が気付いて俺に話してくれなければ、あいつはクラブでアイドルといい思いして、週刊誌に写真を売って大金を手にして、この会社を辞めて……ああ、もしかしたら他事務所で働かせてもらえるよう段取りが進んでいたのかもな?」
両肩に乗せた手を、細い腕、そして大きな胸に滑らせたが眞由美は嫌がる素振りを見せず、ただ黙って受け入れた。
「さて、どう処分するか……あいつ」