悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「記事が載る予定の雑誌の発売日は三週間後か」
編集部からの連絡には、ご丁寧にこの記事が載る週刊誌の発売日まで教えてくれた。
要するに、この日までにどうかにかしろということだろう。
とはいえ、そのどうにかというのも、たった一つしかの解決策しかない。
「向こうはいくら払えばこの記事を忘れてくれるって言ってたの?」
「いくら払えだなんて、向こうも馬鹿じゃないから脅迫の証拠は残さない。まあ、遠回しに解決するには金を積むしかないって感じだが。その場合の相場は、500万ぐらいが妥当らしい」
有難いことに、こういう修羅場を体験したことのある先輩がたがいるので、相場というものを教えてくれた。
この出版社であればこのぐらい、だとか、この出版社は最初は少なく提示して突っぱねられてから金額を上げれば交渉成立するだとか。
「ふぅん、意外と安いね。ん? 安いでいいんだよね、社長相手なら」
「そうだな」
一般的な考えだったら500万は高額だが、芸能事務所の社長という身分である今となったら安いものだ。
だが、それで全て解決できたら、この世から芸能関係の悪いニュースは出ない。
「この交渉に一度でも応じてしまったら、その後は向こうの言いなりになる」
「今回の件をもみ消しても、後で今回のネタを使って脅してくるってこと? 何それ、ルール違反じゃん!」
「こういうゴシップ記事を扱う出版社にまともな連中はいないってことだ」
もしも金を払ってこの場は収められたとしても、そのネタを二度と喋らせないことはできない。
なんなら金だけ貰って数か月後に記事にされることもある。
契約書を交わしたところで、こいつらはその契約書すらも真実のネタにしてくる。
約束と違うじゃないかと怒ったところで、その時には既に多くの報道陣と民衆の目に晒されているので、約束を違えた出版社にどうこうできる場合じゃない。
特に、俺に接触してきたこの出版社の場合は、他のゴシップを扱う出版社とは違う。
「この”李修社《りしゅうしゃ》”っていう出版社が出している”ワインズ”って雑誌は、悪を罰するのにモットーにしているとこだからな。金を積んだとこで全てを忘れてくれるとは思えない」
「なんでそう思うの?」
紗奈の問いかけに、少しだけ返事をする間が空いた。
「……勘だ」
「何それ」
「だが、この勘は絶対に当たる」
「ふぅん。まあ、この雑誌って他のこの手のゴシップ記事よりも過激なのを扱ってる印象あるけど。じゃあ、金を払ってもみ消すも悪手?」
「ああ」
「詰んだってこと?」
俺のことを心配するようにも、この状況を楽しんでいるようにもとれる紗奈の表情に笑い返す。
「いいや、そういうわけじゃない。むしろこの出版社で良かったぐらいだ」
「どういうこと?」
俺は紗奈の疑問に答えることはせず、イスから立ちあがった。
「少し外出する。お前は練習に戻れ」
「えー、何それ。何処に行くの?」
「ちょっとな」
「はぁい、わかりましたよ~」
少し不満そうにするが、駄々をこねることはしない。
紗奈は俺の前に立ち、首に腕を回す。
「おじさん、捕まったりしたら駄目だからね♡」
「ん、ああ、もちろんだ」
「紗奈、おじさんとのこの関係、意外と好きだから」
軽くキスをされる。
「そもそも、他の女と枕なんてしなくても紗奈いるじゃん。もしかして、飽きちゃった?」
「そういうわけじゃない。ただ、向こうから寄ってきたから食べただけだ」
「悪い人♡ まあいいや。じゃあ、今回のこと無事に解決したら紗奈もおじさんに寄っていくから、たっぷり紗奈のこと食べてね♡」
「ああ」
短く返事をして、そのまま紗奈は部屋を出て行く。
俺は社長室を出ると、秘書の眞由美と共に会社を出た。
「社長、少し前に例の出版社からメールが来ました」
「何の要件だ?」
「返答の催促です。このまま記事を載せていいのかと、遠回しに脅しをかけてきています」
「せっかちだな。最初に接触してまだ数日だというのに。検討中とでも返しておいてくれ」
「かしこまりました」
眞由美の運転で車を走らせる。
都会の中心から何駅か離れた場所。
静かな住宅街にある、何処にでもあるマンションに到着した。
「その、505の駐車場に停めてくれ」
「え、そこ、居住者専用の駐車場ですよね? いいのですか、勝手に停めて」
「構わない。ここの家主とは話はついている」
「は、はあ、かしこまりました」
505号室の居住者の駐車場に車を停める。
俺と眞由美は車を降りると、マンションの中へ。
「社長、その……」
目的地は伝えたが、目的は一切話していない。
眞由美は不安そうに俺の後を付いてくる。
「……知り合いの家だ」
キーケースを取り出す。
鍵を差し込み、回す。
──ガチャ。
鍵が開き、扉を開ける。
玄関の明かりを点け、俺と眞由美は家の中へ。
1LDKのマンション。
清潔感があり、筋トレグッズが置かれ、格闘技のポスターが貼られている。
「ここは、大学生のお部屋……でしょうか?」
「そう見えるか?」
「え、あっ、すみません。もしかして、社長の別荘とか隠れ家として使用しているお部屋でしたか?」
「いや、ここは……」
俺はその後の言葉を飲み込んだ。
なにせ正直に話しても、きっと眞由美は理解できないだろうから。
「ここは、俺の一番親しい奴が住んでいた家だ」
一番、親しい相手。
正確には──俺が蛇口蜂馬になる前の