悪徳プロデューサーへの転生 ~バッドエンドを回避するため枕営業させていた彼女たちに優しくしていたら、いつの間にか好意を寄せられてました ※ただし枕営業は辞めません 作:柊咲
「小中さん、一回落ち着いてください!」
今にも立ち上がりそうな勢いだった小中さん。
いくら個室のカフェだといっても、さすがに大声を出したら誰かに聞かれるかもしれない。
はあはあと呼吸を荒くさせた小中さんは、我に帰ると勢いよく頭を下げた。
「す、すみません、大きな声を出してしまって」
「いえ、気にしないでください。それより座って、落ち着いて話を聞かせてください」
席に座った小中さんは、ゆっくりと小中家の金銭事情を話してくれた。
「前に蛇口様とお会いさせていただいたときお話しましたが、うちの家計は、深刻で」
「それは娘さん……桜子さんの養成学校の費用でですか?」
「それも、あります。ですが実は、それだけではないんです」
ポツリポツリと吐き出すような小中さんの言葉は、聞いているだけなのに、何か針に刺されるような痛みを感じた。
「三年前に離婚した主人の借金が、実はあるんです」
「借金? 元旦那さんが残した借金なら、旦那さんのではないんですか?」
「……借金をしたときはまだ結婚していたので。書類の名義は、私になっていたんです」
「そのことについて、元旦那さんは知っているのですか?」
首を左右に振る小中さん。
「いえ、知りません。そもそもあの人が今何処にいるのかも、わからないんです」
「もしかして、借金を残して消えたということですか……?」
「……お恥ずかしい話なのですが。最初から私に支払わせる為に、私名義で借金したんだと思います」
法律について詳しくないが、借金したのが旦那だとしても名義が妻にあれば支払い義務は妻にあるだろう。
しかもその旦那は雲隠れしていない。
「養成学校の支払いと元旦那さんの残した借金を、奥さん一人で……。このこと、娘さんは知っているのですか?」
「いえ、知りません。知ったらきっと、養成学校を辞めるって言い出すと思うので。娘の夢の邪魔を、親の不甲斐なさで潰したくないのです」
「……」
「今までは、これまで貯めてきた貯金でなんとかなっていました。ですがそれも、そろそろ尽きそうで……このまま今してる仕事を続けていても、いつかは限界が来てしまう状況なんです」
なので。
小中さんは頭を下げる。
「蛇口様が以前、私が愛人になる契約をしたら金銭的援助をしてくれると仰っていたので、それをお受けしたくて連絡したんです。そ、その……返事が遅くなってしまってすみません。ですが、なんとかお願いできませんでしょうか。私、なんでもしますから」
心が痛い。
実際に合って、話を聞いて、彼女は本当にいい人なのだと思う。
旦那の残した尻ぬぐいをして、娘の夢の為に奮闘して。たった一人で今まで頑張ってきたのだろう。
そして唯一彼女を救えるのが蛇口が提示した愛人契約だ。
愛人契約なんて倫理的に間違っていると、ここへ来るまで思っていた。だけどここで断ることこそ、今回に限っては間違いなのではないだろうか。
彼女のことを思うと、その契約をすべきなのではないか。
──結局、その場で俺は決断できなかった。
♦
「どうすべきか」
帰ってくるなり、スポーツジムで体を動かしていた。
なんだか悶々として、なんでもいいから体を動かしたかったからだ。
「借金を肩代わりしてもいいよな」
彼女の借金額を聞き、転生前の俺だったら目が飛び出るような金額だった。けれど蛇口である今なら、決して払えない金額ではない。
愛人契約なんてしなくても、それで丸く収まるのではないだろうか。
「だけど、素直に受け取ってくれるだろうか」
人によるだろうけど、無償でお金を渡すなんて、あんまり受け手はいい気分にならないんじゃないだろうか。
少し話しただけだけど、小中さんのあの感じなら、申し訳なく思って結局のところ愛人契約をお願いしてきそうだ。
それに借金を肩代わりしたところで、結局は彼女が大変なのは変わらない。
何かいい方法はないか。
愛人契約ではなく、小中さんが申し訳なく思わないようにお金を援助できる方法。
「……そうか」
ランニングマシーンを止める。
この方法であれば、彼女に気を使わせずに助けることができるのではないだろうか。
♦
──あれから数日後。
蛇口は都内の高級タワーマンションで一人で暮らしている。
部屋は3LDKで、マンション内には屋内プールや展望室にラウンジ、トレーニングジムなんかもある。
よく行くスポーツジムは、マンション内にあるジムとは別で、24時間営業のジムだ。
なんとなく外のジムの方が落ち着くんだよな。
そんな自宅へ、俺は小中さんを招待した。
「わざわざお呼びしてすみません。どうぞ、あがってください」
「は、はい、失礼します……」
リビングに案内すると、最初に俺がこの部屋を見たときみたいに、小中さんは口をポカンと開けていた。
「あまり時間は取らせませんので」
「はい、ありがとうございます」
「確かこの後、用事があるって言ってましたよね。そういえばスナックの店長もなされていたとか」
コーヒーを淹れながら世間話を。
すると、ソファーに座った小中さんは膝に置いた手をギュッと握る。
「雇われですが。ただ今日は別の用事で」
「別?」
「その、夜の仕事を……始めようと思って」
「え……? ああ、夜の仕事って、他のスナックとかですか?」
「……いえ、その」
恥じらってみせる小中さんを見て、なんの仕事が想像できた。