TSリーガルがプレセアに身体をあれそれされる話 作:タニシカレー
この状況を表す擬音ははたして「ふにふに」で合っているのだろうか。本来その擬音はもっと心地よく可愛らしい、例えばそう、肉球のようなものに使われるべきではないか。少なくとも私はそう思うのだが、どうやら彼女にとってはそうではないらしい。目の前のものを揉みしだきながら、時折その擬音を口にするのだ。
とある事故で女性の身体になってしまい、彼女と背徳を共にしてしまってから数日。私の身体は無事男に戻り、戦闘にも問題なく復帰することができた。ところが全てが元通りとはいかず、私は今こうして新しい問題を抱えている。
プレセアが私の胸を触るようになり、私はそれを断れないでいる。
「私の胸など触って心地がいいものではないはずだが」
「そうでもないです。表面は女性のときより張りがあって、内側の確かな脂肪と筋肉の柔らかさを感じます。表面はそこまで硬くないので同じではないですが、実質肉球だと思います」
「そんな馬鹿な」
この疑問と淡々とした答えのやりとりも何度目だろうか。肉球を触ったときのような幸せそうな笑みもなく、彼女は気が済むまで私の胸を触る。私も困惑以外の感情が起きることもなく、彼女の気が済むまで表情ひとつ変えず様子を見ているだけだ。幸いなことに、それ以上のことをプレセアが望んだことは一度もなく、私もまたそれ以上のことを望む気持ちは全く湧かない。
「ありがとうございました。いい触り心地でした」
それだけ言って、彼女は宿に向かって早朝の空の下を駆けていく。彼女なりに時と場所を選び、何かを考えているのだろうが、私には彼女の思うところが何もわからない。
(何故私の胸を触るのだろうか、何故私は彼女に応えているのだろうか)
彼女が立ち去った後一人でそう思うのも、何度目だろうか。
女性の身体を差し出したとき、私の中にあったのは罪悪感とある種の使命感だった。彼女にとって大切な家族を奪ったこと、同時に彼女の苦悩を知らずに過ごしてきたこと。その意識があるからこそ、たとえ背徳とわかっていても彼女の望みを叶えてやりたかったのだ。さすがに彼女が私の手や唇を求めたとしたら、躊躇うことなく彼女の手を払っただろうが。
ところが、今はどうだろう。彼女が私に望むものも想像できず、彼女の望みを叶えたいのかもわからぬまま、淡々と身体を差し出している。心に決めた片翼とも呼べる人がありながら、その片翼に最も近く、そして最も心に入れてはいけない人を拒絶できないでいる。
(これ以上考えてはいけない。彼女の真意など、知ってはならない)
私が断れないのは罪悪感があるからで、彼女が求めるのは私自身ではない。そう言い聞かせながら、湧いた疑問と恐るべき可能性を己の脚で斬り裂く。こんな気分で空を斬るのも何度目だろうと思いながら、こうして空を斬る日が早く終わればいいと願いながら、私はどこか重い足取りで宿へと歩きだした。
さっき触れた胸の感触が、私の手を離れてくれない。あのとき見たあの表情が、忘れられない。
最初に女の人の身体をしたリーガルさんを見たとき、私の中にあったのはほんのすこしの心配と大人の身体への興味だった。本人が冷静にしているから心配が薄れて、私が手に入れることのできなかった身体への憧れと好奇心が膨らんだ。大人の身体を知りたくて、わざわざ張型を作って部屋に向かったとき、私にとってのリーガルさんは「ほしい身体を持っていて、願いを聞いてくれる人」だった。
リーガルさんは私の望むまま、言うがままに身体を触らせてくれた。きっと、私への罪悪感からそうしてくれたんだと思った……いいえ、そうではなかった。私が、あの人の罪悪感を利用してしまった。断れないと知っていたから胸を弄って、性感帯を暴いて、普通なら人には見せないところに手を伸ばした。そしてリーガルさんが自分で脚を開いて張型を求めたそのとき、私は自分が本当に望んでいたものを失ってしまった。
私が本当に望んでいたのは何だったんだろう。大人の身体を知ること、自分が失ったものへの想いをリーガルさんにぶつけること、リーガルさん自身を知ること、リーガルさんの向こう側に、アリシアに繋がる何かを見ること。どれも自分の気持ちのようで、どれもそうではないように感じて、わけのわからないままリーガルさんの身体を責め続けた。そうして結局私が得た答えは、アリシアに繋がる何かを見たかったわけではないということだけだった。
見つからない答えを探すように、今度は男の人に戻ったリーガルさんの胸を触るようになった。拒めない人の身体に触って、ひたすら自分自身の心を探っている。そして触る度に女の人のときに見たあの表情を思い出して、手の中にある胸の感触を刻みつけて、私はあるひとつの答えを見つけてしまった。
(私は、リーガルさんに触れたい)
その答えを見つけてしまったとき、胸の奥がずきずきと痛んだ。それはアリシアへの裏切りで、アリシアを奪った人に向けるべきじゃないもので、リーガルさんを確実に傷つけるものだから。
(それでも私は、リーガルさんに触れたい)
そして、胸を痛めながらもまた願う度に、私は嫌でも自覚する。私は純粋無垢な子供でなく、子供を経て成熟した大人でもなく、子供の身体でただ成長してしまった大人なんだということを。
(だって、触れた胸の感触も、あのときの表情も、全然私から離れてくれない)
近いうちに、私はまたリーガルさんに胸を触らせてもらいに行く。あくまでもお互い淡々と、ただ触る人と触られる人のままで。そしてまた触りながら願うのだと思う。どうか私の本当の願いに、リーガルさんが気づかないようにと。
終