TSリーガルがプレセアに身体をあれそれされる話 作:タニシカレー
試作品の効果が説明通りであれば、朝にはこの身体も元に戻っているだろう。しかし、どうにも身体に燻る熱が抑えきれず、私はベッドの中で眠ることもできず耐えるように自らの身体を掻き抱いていた。
開発中の商品のモニターとして飲まされたのは、飲むだけで身体の性別を変えてしまうという恐ろしい代物だった。商品開発というより人体実験に近いそれを飲むのは非常に不本意ではあったが、本来行う予定だった別の商品の試験も控えており、また飲まなければそちらの試験に移れぬ雰囲気もあり、私は渋々その劇物の試験も併せて行うことにしたのだ。
二つの試験を同時に行なった結果、試験はとんでもない事故を引き起こした。いや、正しくは事故ではないのだが、二つの試験を合わせて行われたのは到底人には言えぬ淫猥な行為であった。そこに女性の身体となった私と、女性としての私の身体を知ったプレセアと、互いに背徳を手にするだけの条件が揃ってしまったがゆえの出来事だった。
そうして互いに試験から大きく外れた行為をし、途中からは試験の名目で快楽を貪ってしまった私は特に彼女を咎めることもせず二人で片付けをし、解散した後は自室で食事とシャワーを済ませて今に至る。
(本当なら何としても彼女を止めるべきだったのだろう。しかし……)
あの部屋の中で自ら晒した痴態を思い出し、身体がまた疼く。そして己の中に秘めていた欲を自覚しては、自己嫌悪と罪悪感と解放感が頭を掻き乱した。
もし本当に止めたければ、止めることはできたはずなのだ。私を拘束していたベルトとアームも、流されつつも本気で暴れれば破壊することはできた。だが、私はそうしなかった。快楽から逃げられず、心から離れた身体で快楽を受け入れ、終いには自ら快楽を求めてプレセアに蹂躙の悦びを請うた。張型を挿入れられて絶頂し、アームに身体を弄ばれて嬌声をあげ、進んで身体を暴かれにいったのだ。
私にはただ一人愛する人がいる。だがそれとは別に、今まで自分自身でも知らずにいた性への渇望があることを、その渇望を埋めるために背徳を求める自分もいると、認めざるを得なかった。
(こんな不実など、到底赦されない。それなのに……)
半ば無意識にバスローブの中に手を入れ、胸と下半身に手を伸ばす。そして胸の先端と下半身の性感帯を摘んだ途端、甘やかな刺激が身体に巡るのを感じた。
「っ……!」
プレセアに身体を暴かれるまで、色濃い性欲を抱いたことがなかった。アリシアとは婚前交渉をする気などなく、互いにそのような意識もせず愛しあうだけで十分満たされていた。片翼たる彼女を失ってからは、元々極端に薄かった性欲は更に遠のいていた。自慰すらしなかったわけではないが、私のそれは生理的なものを淡々と処理するための手段でしかなく、そこに欲は感じていなかった。
だが、今の私は明確な性欲を抱いて自慰をしようとしている。与えられた快楽を思い出しながら指を動かし、腹の底から湧くような悦びに熱く息を漏らした。
「ふぅ、ん……っ、ぁ……」
細かく、それでいて少々乱暴に敏感な場所を刺激して、身体に刻まれた感覚を追いかける。あの快感がほしい、身体が疼いてたまらない、せめて元の身体に戻るまでに、もう一度だけでも……。
「はぁ、っぁ、う、っ」
胸の先端だけを弄っていた手が胸全体を揉みしだく手つきに変わって、性感帯を刺激していた指が濡れた入り口に伸びる。愛液で濡らした指先が入り口に挿入ると根元まで一気に進んでいき、快楽を求めて激しく動き出した。
「ぁ、あっ!はぁ、ぁっ……!」
プレセアのものに比べれば長い指だが、それでも最奥には届かない。最も欲しがる部分には届かないもどかしさと快楽を拾いやすい場所への刺激が混ざって、私は自らの身体を弄ることに夢中になった。
(足りない、ほしい、もっと、もっと……!)
罪深いのに、手が止まらない。不実であるとわかっていながら、欲を掻き消すことができない。熱のこもったシーツを取り払い、卑猥な音を立てながら、望むままとはいかずとも絶頂へと近づいていく。
「うっ、ぁっ、あっ、あ……!」
胸と腰を振るわせ、得られない快感を埋めようと性感帯とナカを弄り回す痴態を恥じる反面、身体の方は恐ろしいほど興奮している。早く昇りつめたい、早く目が眩むような瞬間を迎えたい。弱点と言える場所を徹底的に責め抜いて、そして私は自らの手で絶頂を迎えた。
「あぁっ!ぁ……」
びくびくと身体を震わせて、絶頂の余韻に浸る。ベッドを激しく汚すほどの反応は起きなかったが、疼く熱はほんのすこしだけ収まった気がする。あくまでも、ほんのすこしだけだが。
次第に冷静さを取り戻していく頭と、いつまでも収まりきらない身体を抱えて、私は真っ白な天井を見つめる。未だ離れたままの心と身体で天井に映したのは、二人の女性の姿だった。
(アリシア、プレセア、私は……どのような者であるべきなのだろうか。お前達に、私自身に、どう向き合うべきなのだろうか)
掻き分けても先の見えぬ泥沼とぬるま湯に浸かるような余韻の中、私は再びシーツを身体にかける。より深くなりつつある悩みを抑えこみ、私は強引に眠ることにした。
引き返せる場所はいくらでもあったはずなのに、引き返せなかった。引き返さなきゃいけなかったのに、進んでしまった。私は思うまま、願うままに、リーガルさんの身体を弄んだ。何度もそう繰り返しながら、思い返しながら、一人ベッドに潜る。
開発会議が終わった後も、リーガルさんは気まずそうな顔をしつつも私を咎めることはしなかった。これからマッサージチェアをどう改良するか、今後も開発に携わってくれるか、それを私に聞いて、最後には今後も頼むと穏やかな笑みさえ浮かべて会長室に戻った。開発部門の方からあのアームのことを聞いてるはずなのに、あの人は私を咎めるどころか赦してしまった。本当は、赦されるべきじゃないのに。……いいえ、本当は赦されるべきじゃないという気持ちよりも、赦してほしくないという勝手な願いの方が近いのかもしれない。
試験で動かすべき安全装置を全部切って、マニュアル操作で触ってはいけないところに触って、そして私物の張型を挿入れて恥ずかしい姿を引きずり出す。私のしたことは、商品開発の試験から明らかに外れていた。それでもリーガルさんは私のしたことを受け入れて、私の前で綺麗な顔で乱れて、最後には自分から続きを望んだ。私はその望みに応える形で、片付けの時間までその身体を弄り続けた。
(最初は、あんなことするつもりじゃなかったのに)
そう、本当なら、触りたければ試験の後に頼むこともできたはず。だけど私は女の人の身体になりゆくリーガルさんを見て、頭の中に残っていた記憶と願いを思い出して、気がつけば急ごしらえの張型をさらにカスタマイズして、そしてマッサージチェアの安全装置を切っていた。
私はリーガルさんの身体に触れたい。だけど、それだけじゃない。誠実な紳士の顔を剥がして、いけないものに歪んだ顔をしてほしい。そして、この先見られないと思っていた女の人としての顔を頭に焼き付けていたい。そんな暗すぎる欲望を、自覚しなければいけなかった。
(この気持ちはアリシアへの裏切りで、リーガルさんが絶対に望んでいないこと。私だけが望みを叶えるような、罪深いこと。だけど)
ふと下半身に手を伸ばしかけて、止めた。試験の日の夜も同じようにして、同じように止めた。まだ燻り続ける何かは、私に対して身体への刺激を望まなかった。
(だけど……)
ただの恋愛感情なら、ある意味楽だったかもしれない。妹が遺した恋人を好きになってしまって、彼に心と身体を愛されることを望んで、彼を想いながら触ってもらえないだろう身体を慰める。それならありがちな裏切りで済んだ。
だけど、そうじゃない。自分の身体への刺激は望まない、触ってほしいわけでもない。もっと言えば、私を愛してほしいわけでもない。ただただ、リーガルさんの身体に触れたい。触れたときの表情が知りたい。触れることを受け入れてほしい。それだけでも十分罪深いとわかっていながら、それでも願ってしまう。
(おかしいね、アリシア)
(あなたもリーガルさんも傷つけたくないのに、リーガルさんがあなたを愛しているって痛いほどわかるのに)
(赦されないし赦されたくないのに、それでもあなたの知らなかった彼の“おこぼれ”がほしいなんて)
枕を抱いて目を閉じると、三つの姿が浮かぶ。私の知らないうちに大人の身体になって、私より早く命を落とした妹の姿。妹を手にかけ、誰よりも妹を愛し、妹の面影を理由に私を赦してしまう男の人の姿。妹を愛しながら、それでもいけないことに手を伸ばして、受け入れ求めた女の人の姿。まだ大人にはなれない身体ともう子供ではいられない心を抱いて、私は問いかける。
(赦されたくないけれど、それでも触れたいという願いを抱えていてもいいですか)
問いかけた先で、返事が返ってくることはない。それでもずっと、問いかけずにはいられない。そうして何度も問いかけては彼女達の姿を思い浮かべて、心はより粘度の増した泥の中をさまよいながら、私は今日もまた眠りに落ちていった。
終