※この作品はR-18です。

はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話   作:ケロリビドー

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11.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフの目標

「マノン、久しぶりですね。元気にしていましたか?」

「質問を質問で返さないでくださいませんこと? エルフの作法かしら?」

 

 むっ、なあにこの娘。感じ悪いな。

 

「わたくしたちは地下35階まで潜ってきた帰りですのよ? なのに見たところあなたたちはまだ地下6階でまごまごしてるご様子。わたくしの知っているレイモンドは強くて仕事のできる男だと思ったのですけど、わたくしは人違いをしているのかしら?」

 

 マノンと呼ばれた聖職者風の女性……いや、少女と言っていいと思う。その娘は足を肩幅ぐらい拡げて腕を組み、レイモンドさんをぎっと見上げて甲高い声で言い放つ。

 

「はは、進みが遅くてお恥ずかしい限りです……」

「またそうやってヘラヘラして! あなた最近評判悪いですのよ! すれ違った冒険者に噂されてますの! 娼館を出禁になって、半裸で叩きだされてヘラヘラ謝ってたって聞きましたけど本当なのかしら!」

 

 うん……それは本当なんだよね。レイモンドさんは困ったような曖昧な笑みを浮かべてこめかみをぽりぽり掻いている。

 

「ちょっと進んでは女を抱きに戻ってるから仕事が進まないんでしょう! どうしてこんな色ボケエルフになってしまったんですの!? 昔はここまでじゃなかったのに! わたくし、恥ずかしいです!!」

「おいマノン。そのくらいにしとけよ。確かにレイモンドは昔より堪え性がなくなったけど、抜けたお前がどうこう言うことじゃねえぞ」

 

 いつも間延びした話し方のドーソンさんが厳しい口調でずいっと割って入る。

 

「昔のよしみで心配してくれるのはありがたいけど、あんたが恥ずかしがることではないね。あたしたちはあたしたちで考えがあるからさ。あんまり言い過ぎないでやってくれない?」

 

 リィナさんは少しだけ優しい言い方で、でもしっかりと言い渡した。

 この娘、どうやら過去にレイモンドさんと何かあったみたいだな。レイモンドさんはいつも通り柔和な笑みを浮かべてるけど、できないことを責められて辛くない人がいないわけない。わたしはレイモンドさんの指先をきゅっと握る。

 

「そっちの人、どなたですの? 見かけない顔ですけど。新しく雇ったのかしら」

 

 マノンさんはようやくわたしに気付いたようだ。

 

「私の困りごとに対処してくれるシルキィ君です。ダンジョンマッピングのお手伝いもしてもらっています」

 

 さすがに弁当っていう言い回しはやめたらしい。今その言い方したら火に油って感じがするもんね。わたしもちょっと気になってたし。

 

「対処……へえ」

 

 わたしの頭からつま先までじろじろと見まわすマノンさん。

 

「こういう純朴そうな娘が好みですの。いやらしいですのよ。レイモンド。あまりがっかりさせないでくださいましね。もう行きましょうライオット。わたくし身を清めたいですの」

 

 ふん、とそっぽを向いてマノンさんは隣のダンジョンに戻っていった。もう一人の女の人が追いかけていく。

 

「ごめんね。今回結構嫌らしい敵が多かったからマノン、気が立ってるんだ。班長として俺が謝るよ」

「いえ、全部本当のことですので……」

 

 申し訳なさそうに言うライオットさんが頭を下げるのを押しとどめるレイモンドさん。

 

「けど、確かにちょっと心配ではあるな。大丈夫なのか? 俺にとってもあんたは先輩だから、評判が悪いのは気になるぜ。まあ余計なお世話だとは思うけどな。無理はしないでくれよ。じゃあ、行くわ。気をつけてな」

 

 ライオット班が立ち去って、なんだか微妙な空気だけが残った。

 

「レイモンド。進みが遅いって言ったらそれまでだけどよ、無理して進んで死ぬリスクを回避してるとも言えるから、あんまり気にしないでくれよな」

「あんたにも変なもの見せてごめんね。マノンは少し前にうちの班からあっちの班に移った奴で、レイモンドに憧れてたんだよ。そういう奴はマノンだけじゃないんだけど、まだ子供だから、人の顔が見えてる一個だけじゃないってのが理解できてないんだ。とにかく! あたしたちは望んでレイモンドと一緒にマッピングしてんだから、気にせず先に進もうよね」

 

 リィナさんが拳を掌にぱん、と打ち付けて気分を変えようとしてくれた。

 

「ここは隣につながる穴以外に分岐はしていないようなので、一旦引き返しましょう。この道についてはおそらくライオット班が報告してくれると思うので、私たちは自分の持ち場の調査を続行することにします」

 

 レイモンドさんの方針提示に従って、わたしたちは元来た道を戻る。ひとつ前の分岐を調べるのだ。

 

「さっきの人、ずいぶん若かったみたいだけど子供でも冒険者になることあるんですね」

 

 なんとなくまだ気まずくて、リィナさんに聞いてしまうわたし。

 

「あの娘もね、同じ孤児院で育った子なんだけど。教会に行くことを選んだ子たちは働くことを選んだあたしたちより早くダンジョン入りするんだよね。レイモンドはさ、そういう子たちを見つけるとほっとけなくてすぐ世話しちゃうところがあるんだよ。マッピングの時以外もそういう子について行ってダンジョンに入って、出た宝物とか資材を全部子供たちに譲ったりさ。そんな子達の中でもマノンはレイモンドにべったりの子だったから、最近のあいつ見て、王子様が狼になったみたいな気持ちでいるんだろうと思うよ。うちの班を抜けたのも、そっち目的でモンスターを生け捕りにして暗がりに持ってったレイモンドを見てショック受けちゃったのが理由だしねぇ」

「そ、それは、あんまり子供に見せたい姿ではないですね……」

「その時は私も切羽詰まっていて、音を消す配慮を忘れてしまったんですよね……。マノンには悪いことをしました。こういう感じなので最近は若い冒険者の引率は控えていたのですが、そろそろまた再開したいと思っています。なので。シルキィ君。頼りにしていますよ」

「あ、ふぁ、ふぁいっ」

 

 この頼りにしていますよはめちゃくちゃ抱きますの意味なので、思わず声が上ずってしまうわたし。

 

「とりあえずしばらくは女買わなくてよくなったんだろぉ? 金貯めようぜ。その体質、なんとかする方法も探せよ」

「そうですね。私のせいで二人の評判まで下がってしまうのはあまりに申し訳ないので、なんとかしたいとは思っています。今まで探していなかったわけではないのですがなかなかはかどらず、対症療法で我慢できなくなったら発散する方法を取っていましたが、いい加減なんとかするべきだと自分でも思います」

「そうと決まったらばりばり潜って仕事するしかないよね。頑張ろう、みんな!」

 

 おー、とばかりに結束するレイモンド班。レイモンドさんの性欲が薄くなっちゃったら、契約し続けるのは難しいかもしれない。吸っても吸いきれないくらいの底なしの性欲があるからうまく行ってるけど、そうじゃなくなったら、わたしが吸い続けたらレイモンドさんが死んでしまうかもしれないから。だから契約サキュバスとしては、レイモンドさんの性欲がなくなるのは困る。でも、シルキィとしてはレイモンドさんの願いを叶えてあげたいと思う。レイモンドさんとはまだ数日の付き合いだけど、体質が体質だから、性交相手を好きにならないように一線を引いている感じがあって、たぶんわたしのことも女として好きなわけではないと思う。だから、性欲がなくなったら普通に今までありがとうございましたって後腐れなく関係を解消されそうな気がして、それはちょっと寂しいなって思う。

 

「わたしも頑張ろう……」

「ん? シルキィ君、どうかしましたか?」

 

 なんでもないです、と笑って、わたしは彼らについていく。

 サキュバスとして、女として、レイモンドさんが手放したくなくなるようなシルキィになりたい。わたしにも初めて、サキュバスとして成熟したいという気持ちが宿った。




 引き続き面白かった、続きが気になるなどありましたら評価やブクマなどいただけると嬉しいです。
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