はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
「こほっ」
自分の咳で目が覚める。うっすら目を開けると窓から射しこんだ光に空中の塵がキラキラ光って綺麗だ。
「朝だ……」
誰に聞かせるともなく呟いた声は、昨日啼かされすぎたせいでちょっとかすれている。べたべたに汚れていたはずの体は綺麗に拭き取られていて、下着を着せられていた。ベッドのシーツも新しいものに変えられている。わたしが眠ってる間にレイモンドさんがやってくれたんだろうか。
「レイモンドさん……どこだろ……んっと……わひゃんっ!!」
彼を探してベッドから降りようと足を床につけて立ち上がろうとして、力が入らずに膝がかくんと折れ、べしゃっと転ぶ。
「んひぃん……痛い……」
わたし、あのあとどれくらい犯されてたんだろう……これサキュバスじゃない人間の女の子だったら無理だよ……。
「あ、でも床がひんやりしててきもちいー……」
誰もいないのをいいことに、そのまま床に倒れてぺっちょりと伸びるわたしだった。
『まったく、何をどうやったら一晩でこんなに汚せるんだい! 教えてもらいたいもんだよ!』
『あはは……お恥ずかしい限りです』
しばらくそうしていたら、下からレイモンドさんと……宿屋のおかみさんかな? が話している声が聞こえた。声はわたしの下を移動して、外に出ているみたいだ。
ぷるぷるとしたおぼつかない足取りでもう一度立ち上がり、わたしは窓の外を覗く。いつもは下からしか見えないピカピカの白い額が上からよく見えた。レイモンドさんだ。簡素なシャツとズボンだけ纏って洗い立ての真っ白なシーツを広げて干している……まぶしい。絵面が爽やかすぎる。
「おや? 目が覚めたんですね。おはようございますシルキィ君。体、痛くないですか?」
「おはようございますレイモンドさん……っていうか、お洗濯! お手伝いします! わひゃっ!!」
わたしのいろんなあれで汚れたシーツをレイモンドさんが洗わされているんだと気づき、あわてて下に行こうとして窓から離れたわたしは再び転んでしまう。
「無理しないでくださいね、すぐ終わりますから! お水飲みましたか?」
「ま、まだでふ~」
窓からひらひら手だけ出して返事する。な、情けない……。とりあえず何はなくとも足に力が入るまで待たなきゃいけないことがわかって、椅子に座って足を曲げたり伸ばしたりしていたらだんだん感覚が戻ってきたので、お水を飲んで服を着るなどしていたらレイモンドさんが戻ってきた。
「シルキィ君、大丈夫でしたか? よくよく考えてみたら無理させてるのは私でしたね、申し訳ない……」
キラキラキラキラッ……!! って効果音が付きそうな笑顔で謝ってくる。うわっ、この人、昨日ので思う存分性欲発散して、百回生まれ変わってきたのか? ってくらいスッキリしてる!
「い、いえ。わたしもいっぱいエナジードレインできたので……ちょっと前なら信じられないくらい体に力が充実してますのでっ!」
これは本当。今まではおこぼれ精気しか吸えてなかったせいでよわよわ冒険者だったけど、昨日は自分でもびっくりするくらい戦えてた。最初の日やダンジョンの途中でレイモンドさんの精気を吸ってたせいだと思う。気のせいかと思ってたけど、実は今なんとなくレイモンドさんの輪郭にだぶるように蜂蜜色の光が見えてる。ん~……これ多分生命力が見えてるんだ。娼館通りでレイモンドさんを見かけた時、すごい精気の持ち主なのはサキュバスの本能でわかったにせよ、ここまでしっかりと見えることはなかった。わたし、もしかして強くなってきてる?
「それはよかった。私も今日はとっても気分が爽やかです。昨日話していた通り、装備を整えに街に出ようかと思っていますが、シルキィ君、行けそうですか?」
「はい! お供します!!」
デートだ! そうだ! デートの約束してたんだった! デートだよね? デートであってるよね!?
「シルキィ君! ちょ、君、尻尾がすごい速さで回転してますよ!! それ隠してから出ましょうね!?」
「あ、そ、そうでした! ちゃんと隠して……オッケーです!! 行きましょう!」
昼間の町はいつも賑わっている。ここはダンジョンの最寄りなのでいろいろなところから冒険者が集まっていて、そういう人向けの宿屋や店がたくさん開かれているのだ。人ごみの中でも背が高く、サラサラの金髪を風になびかせるエルフのレイモンドさんはとても目立つ。周りの人の視線やひそひそ話が嫌でも届いた。
(色ボケレイモンドだ……)
(あのエルフまた違う女連れてんじゃねーか。俺もあやかりたいもんだね、やっぱ顔かぁ?)
(あいつ娼館の女抱きすぎて出禁になったんだって?)
(ダンジョン踏破第一号様もああなっちゃしょうがねえな)
この国の人たちが信仰している宗教は貞淑であることを良しとしているので娼館通りもかなり治安の悪い区画にある闇商売だし、そこを出禁になったっていうのはかなり評判を落とす情報だ。マノンさんの言っていたことは本当のようだった。わたしにも聞こえているくらいだからこの陰口は耳のいいレイモンドさんには筒抜けだろうけど、彼はそ知らぬふりでニコニコ微笑んでいる。わたしはたまらなくなって、レイモンドさんの指をぎゅっと握った。
「シルキィ君どうしました? 疲れちゃいましたか?」
「な、なんでもないです! ちょっとはぐれそうになっちゃっただけです!」
「歩くの速かったですかね。気を付けますね」
「そんなこと……でも、ちょっと安心します」
レイモンドさんのおっきなおっきな手が、わたしの手を握り返す。それだけでわたしは、雨宿りできる場所をみつけた猫みたいにホッとしてしまった。
「あ、ここですよ。私や班のみんなが贔屓にしてる店です」
レイモンドさんが足を止めて指さした店は小ぢんまりとしていて可愛い作りだった。ドアが少し小さく、レイモンドさんは体を折り曲げて店に入る。
「こんにちは。元気にしていましたか? ツブラさん」
「お? 久しぶりじゃん。顔出さないから死んだのかと思ったよクソエルフ」
ツブラと呼ばれたその店の店主は、背の小さい女の子だった。いや。違う。もしかしたらわたしより年上かもしれない。彼女は、ドワーフだった。
「またそういうことを言う……剣が欠けたって言ってドーソン来たでしょ。死んでたらその時聞いてるでしょうに」
「金がなくて装備新調できない奴なんか死んでるのと一緒だろうよ。来たってことは今日は金があるんだろう? 何探してんのさ」
「今日は彼女の武器を見繕ってもらおうと思って」
「えっ!?」
レイモンドさんの破れたマントが気になってたのでそっちを先に……とか思ってたらわたしの武器でびっくりした。
「シルキィ君、君のそのダガー、君にはちょっと重すぎるんじゃないですか? ダンジョンで戦っている時に振り辛そうだなって気になってたんですよ。いい機会だから彼女に見てもらったらいいと思いますよ」
「ほーん。どれ、見せて見な」
「あ、えっと。お願いします……ひゃ!」
ツブラさんに鞘ごとダガーを渡すと、腕をグイっと引っ張られた。
「ふーん。ふむふむ……」
「あの……」
ツブラさんは大きな眼鏡の奥の目でわたしの腕とダガーを見比べる。
「確かにこりゃ、あんたの筋肉に全然合ってないね。ていうかちゃっちぃ! どんだけ安物つかってんだよ、命がいらないのかい! 悪いこた言わない、こっちにしな」
わたしのダガーをぽいとカウンターに投げて、横の棚から新しいのを一振り持ってくるツブラさん。受け取るとそれはとっても、羽のように軽いダガーだった。許可をもらって鞘から抜いてみる。そのダガーの刃は薄く、ランプの光を反射して煌めいていた。
「そいつは薄いが、しっかり強いよ。切れ味もいい。あんたを守ってくれるだろう。買うんならちょっと調整してやるよ。レイモンド。あんたの剣も置いてきな。見てやるから。お嬢ちゃんの調整代はおまけしてやるけど、あんたのはしっかり取るよ」
「いつも助かっていますよ」
「ハンッ。金以外の礼は余計だわ」
調整にはちょっと時間がいると言うので、武器はちょっと預けて、次はレイモンドさんのマントを見に服屋に行くことにした。
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