はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
レイモンドさんがマントを選んでる間、わたしも自分の服を見る。普段あんまり服とか買えなかったんだけど、ダンジョンマッピングの報酬が出たから買える! って喜んでたら、レイモンドさんが「それは、ゆっくり満足いくまで見たほうがいいですよ」って言ってくれたので店内別行動なのだ。女の子の服の買い物は時間がかかるから、そのほうがいい。
えっと、今の服気に入ってるからこれに何か足せるやつがいいなあ。ホントはダンジョンに潜るのにスカートなんか穿いてるのはダンジョンを甘く見るなって感じなのはわかってるんだけど、レイモンドさんがめちゃくちゃ興奮して我慢できなくなったときに破られちゃうかもしれないから、めくりやすいようにスカート穿いてたほうがいいよね……。股下が開くようになってるおズボンとかないのかなぁ……。
「って! やだぁ……」
レイモンドさんがわたしを犯しやすいように、っていう基準で服を選んでいることに気が付いて、頭から湯気が出るような感覚になった。そもそもサキュバスだったら普段から下着みたいな恰好でお外をうろうろできる人ばっかりなんだけど、わたしはそれができなくて、いつも服着てる! ってことでほかのサキュバスに笑われてたし、そんな所だからサキュバス界に下着以外のちゃんとした服ってなくて、こっちに来たときお洋服屋さんがあることに感動したくらいだったのに、股下が開くようになってるおズボンって何!? そんなのあるわけないでしょ!! 痴女の思考すぎる! ああでもわたしはサキュバスなんだから痴女でいいはずなんだけども! んんん、もう~!!
「ドロワーズ! ドロワーズを穿くことにします!」
誰も聞いてないのに、言い訳みたいに宣言してしまうわたし。店のお姉さんがクスクス笑いながら後ろを通り過ぎて行った。あっ、恥ずかしい!!
頬をぺちぺち叩いて気分を変えると、わたしもマントを探しに行く。前回ブランケット持参で行ったけど、荷物かさばったもんね。寝るときはマントにくるまって寝ればいいんだって思ったから。
「あれ、なんだろうこれ。かわいい」
途中、なにか小さいものがカゴに入れられて売られているのを見る。手に取ってみるとマントを止めるピンだった。いろんな素材でできたものがいくつかのカゴに分けられて売っている。その中に、動物が彫られている木製のブローチみたいなのがあってちょっとかわいいのだ。いろんなのがあるな……。まじまじと見ていると、後ろにでっかい気配が立つ。
「良いものは見つかりましたか?」
「あ、レイモンドさん。あと、私もマントを見たら終わりかなって、えへへ……」
「そうですか。それでは私は先に会計してきますのでごゆっくりどうぞ」
レイモンドさんは、わたしの肩ごしに木彫りのマント留めを一つ取ると店員さんに話しかけに行った。
「孤児院の子たちのね。手仕事品なんですよ。孤児院は教会が運営しているので、祈りが込められているお守りのようなもので。彼らの貴重な収入源なので、できるだけ買うようにしています。まあ、ちょっと私には似合わないのでつけないんですけどね。シルキィ君にあげます」
果汁の屋台で一休みしながら、レイモンドさんがさっきのマント留めをわたしに手渡す。木彫りの小鳥がピンクに塗ってあって、ちょっといびつで微笑ましい作りだった。
「ピンクで丸くて小さくて、シルキィ君に似ていますね」
「むっ、わたしこんなですか? でも、ありがとうございます」
受け取ってとりあえず胸につけた。確かにおもちゃっぽさがあるけど、レイモンドさんがくれたものだと思うと大事にしたいと思えた。
「レイモンドさんは子供がお好きなんですか?」
ドーソンさんやリィナさん、マノンさん。この数日で子供の時にレイモンドさんが世話したという人に複数会ってきた。好きじゃなかったらできないんじゃないかなって思ったので、聞いてみる。
「子供は好きです。いや、好きというか、人間の子供は大きくなるのがあっという間で少しの間しか子供じゃないのに、その間に死んでしまったりしたら大人になれないと思うと見ていて不安になるので、できるだけ多く生きていて欲しいと思ってしまうんです。私には子供がいませんでしたが、一度しか会わない子供でも、一日だけでも助けられると自分がホッとするのでお金や時間を割くことで安心したいという気持ちがあります。ただの自己満足ですが。子供が酷い目に合うのも辛いですし……ん? あれっ、私シルキィ君の歳って聞きましたっけ!?」
「わたしは十九歳ですよ」
「あ、よかった……いや、よかったのかわかりませんが……。私はシルキィ君に酷いことをしてるんじゃないかと思うときもあるので……」
「そんなこと。わたしももらってるものがたくさんありますし、契約したんだもの。嫌だったらそんなことしませんからそんなこと言わないでください」
「すみません。君に失礼でした」
レイモンドさんは笑顔だけど、耳が下向きに少し下がっていた。彼は疲れている。どれくらい今の状態が続いているのかわからないけど、辛いことがいっぱいあったんじゃないかと思う。
「レイモンドさん。契約者のよしみっていったら変だけど、わたしには話してくれませんか。ドーソンさんやリィナさん。あとマノンさんもみんな『昔はそうじゃなかった』って言ってました。もしかしたらその、欲求が強いのは生まれつきなのかもしれないけど、生活に支障がでるほどのものになったのは最近なんですよね? 何か心当たりはありませんか?」
かなり思い切って聞いた。リィナさんはレイモンドさんがあまり自分のことを話さないと言っていたので、もしかしたら彼の触れられたくないことなのかもしれないけど、この先契約者として感覚を共にしながら一緒にやっていくには必要なことだと思ったし、知りたいと思ったからだ。
「わかりました。ただ、場所を変えましょう。本当に聞かれたくないので……」
レイモンドさんがわたしを連れて来たのは、以前立ったまま繋がったあの路地裏だった。最奥の石畳に二人で腰を下ろす。
「君のことを便利なおもちゃみたいに使って、何も言わないのは確かにフェアではないですよね。なので少しだけ自分の話をします」
レイモンドさんはいつもはわたしの顔をじっと見てくる人だ。顔が美しい人は他人によく見られるのが当たり前になっているので、自分も他人にされている通り人の顔をじっと見てくるってお姉ちゃん言ってたなあ。でも今は何もない石畳を見ている。
「私の性欲が強いの自体は生まれつきです。エルフは発情期以外でまぐわいをすることはほとんどないと言っていいのですが、私は違いました。しなくてもいいけど時々すごくしたくなる。人間の男と大体同じだと思います。ただ、それはエルフの里では通常のことではなくて。里にいたころ、私には妻がいたんですが、そのことも含めて色々がうまくいかずに彼女とは別れ、私は里を出ました」
「奥さんが……」
さっき『子供がいなかった』ってひっかかる言い方をしてたのでそうかなって思ったけど、ちょっとショックみたいなものがある。いや、今はいないって言ってるんだからなにも気にすることはないんだけど。
「人間の社会で生きるのは楽しかったです。私の性格はエルフの社会よりも人間の社会のほうが向いていると思いましたし。ただちょっと、ヘマをしてしまって」
「ヘマですか?」
「大ポカです。私が一番目のダンジョンを踏破したという話は聞いたと思いますが、その時、私は『生きた罠』にかかりました」
生きた罠……それってもしかして……。
「ローパーです。それも見たことのないサイズの。私は丸呑みにされてしまって、中で……ああ、これ以上は恥ずかしくて……とにかく、なんとか命からがら出る事は出来たんですが、その時になんだか……頭の中で何か起きた感覚があって。それからです。最初は欲求が高まりやすいな、くらいで済んでいたんですが、年々我慢が効かなくなっていって今はこの体たらくです。あの時ローパーを倒せていたら何か調べることができたかもしれませんが、逃げられてしまって。それから私はローパーを見つけるためにダンジョンに潜っているんですが、まだ一度も会えていません。それで、とにかく沸き起こる性欲をその都度なんとかしていたら、どんどん評判が悪くなっていって……そんな情けないエルフです。私は。ああ。話してしまった。軽蔑してください」
「レイモンドさん」
わたしは、頭を抱えるレイモンドさんを抱きしめる。
「わたしはレイモンドさんのこと軽蔑なんかしません。サキュバスですし。わたしの体でいっぱい気持ちよくなって欲しいし。それに、レイモンドさんちゃんと頑張ってるじゃないですか。わたし、もっとお手伝いしたいです!」
「シルキィ君、君……」
ローパーはサキュバス界にもいっぱいいるモンスターだ。だから、わたしが調べればなにかわかるかもしれない。やっぱりお姉ちゃんやお母さんに相談してみようと思った。わたしにできることでこの人の助けになりたい。
薄暗い路地裏で、私は座ったままのレイモンドさんにキスした。レイモンドさんは目をぱちくりさせて驚いている。そういえば彼が起きている時にわたしからキスするのは初めてだったかも。
特にそれ以上何かすることはなく、私たちは路地裏から出る。レイモンドさんはいつもの笑顔じゃなく、なんだか中途半端な顔をしていた。でも、わたしの宿まで送ってくれて、また会う約束をして別れた。
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