はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
風の精霊よ。私のぼやきを聞いてくれますか。
いつも思います。私はなぜ他のエルフのように超然としていられないのだろう。誇り高く、潔癖で、排他的で美しく。私がエルフらしいのは外見と寿命だけです。傷つきやすく打たれ弱く、すぐに大声で笑ってしまうし、他者の嘆きを聞いて一緒に涙が出てしまうし、なにより、性欲が本当に強い。
私は暁の子と呼ばれていました。朝方にエルフの里へやってきたそうです。両親はいたようなのですが、里の外で消息を絶ってしまい、私だけが何者かに里へ戻されたようなのです。ですので、あまりよくは覚えていません。エルフは集落全員で子供を育てるので、特に問題はありませんでした。大人たちにとってはそうです。しかし、成長期に訪れた心と体の変化について、私は誰にも相談することはできなかったので、今思うと父親に居て欲しかったと思います。いや、父親が仮にいたとしても私と同じ性質を持ち合わせてはいないだろうと思うので、共感や解決はしてくれなかったと思うけれど、他の大人にこんなことを話したらすぐ里中で共有されて問題にされてしまうに違いないから、そうなる前に一番近い同性に打ち明け話ができたらよかった。結局、この問題を抱えたまま私は一人の女性を妻とし、私に恐怖を抱いてしまった彼女からその秘密は詳らかにされてしまいました。
私は里に居られなくなってしまいましたが、彼女が悪いとは思っていません。私が彼女の立場だったら、私だって私が怖い。発情期でもない通常の時期に、エルフにしては大きい体で迫られるのは本当に怖かったでしょう。私が居もしない父親に助けを求めたかったように、彼女もそうしただけだと思います。
人間の世界に飛び込んで、息がしやすくて本当にびっくりしました。里のエルフたちとは根本から物事に対する意識が違っているせいで疎外感を感じるのが常で、君たちのような精霊としか話ができなかったので、大きな声で泣いたり笑ったり怒ったりする人間たちはとても眩しく、そして人間の男たちは年中享楽に耽り、性欲を抱えていることを当然と思っている。そのための施設があることや、それで生計を立てている女性がいることにも驚きました。
私は、数十年はそれに甘えて、そんな女性たちを貪って過ごしました。昼間は冒険者として働き、夜は女を抱く。そんな生き方は、人間の男たちには豪快で好ましく見えたようで、いつの間にか友達と言えるような男たちが周りにいて、私は初めて受け入れられた気がして、ずっとこの生活を続けて行きたいと思いました。ざまあみろとも思いました。お前たちの里では除け者だった暁の子は、人間の世界ではなんなく生きていけるぞ、ってね。名前もレイモンドに変えました。人間の町に降りて初めて話した男の名前です。一度会ってそれっきりだけど、彼はきっともうその命を終えているかな。
そうして流れ流れて、私はこのダンジョンの最寄りの町に来ました。そこの娼館で出会った娼婦が、私の考えを変えるきっかけになりました。
その子、どうみても自分が言っている年齢より幼いんですよ。よくよく聞くと、孤児院を出て冒険者になろうとしたけどうまく行かなくて娼婦になったって言うんです。頭を殴られたような気がしました。人間の男たちが享楽的なので女もそうなのかと思っていたのですが、好きでやっているわけじゃない者も少なくはないということに私は気付いていなかった。子供が? 春をひさいでその日の食い扶持を稼いでいる? ありえない。ありえない。あってはいけません。
その子にはその日お金だけ渡して、何もせずに帰りました。そして後日、私は彼女を連れてダンジョンに潜りました。冒険者として使い物になるまで一緒にダンジョン攻略をして、今は引退していますが、立派な冒険者になるのを見届けました。そうしてよくよく見ると、子供の冒険者は一人や二人じゃない。子供を守っている大人がいない。私は自分を追い出したエルフたちを唾棄して、豪快で気のいい人間たちに好意的でしたが、子供たちを里全体で守っているという点ではエルフたちはちゃんとしていた。
私は捨てていた名前をもう一度拾って、『暁の子レイモンド』として再出発することにしました。困っている子供の冒険者がいれば一緒に潜り、なるべく大人の女を抱く。うまくいっていると思っていました。ダンジョン内で生きた罠にかかるまでは。
一番目と呼ばれるダンジョンの奥で、私はその時一緒に潜っていた仲間をかばって、穴に落ちました。かなり長いこと落下して、もうだめかと思いましたが、下では見たことのない大きさのローパーが触手を網のように張り巡らしていて、それに受け止められたので死ぬことはありませんでした。しかし、考えようによっては死ぬよりひどい。私は丸ごと、そのモンスターに吞み込まれてしまったのでした。
大きなローパーの腹の中で、私は尊厳を凌辱されました。そのおぞましい生き物は体内に何匹も泥食い蟲を飼っていて、それらが私の服の隙間から器用に入り込み、内臓を割り開いてとんでもない深さまで侵入してきて、私はたまらず食べたものを戻しそうになりましたが、ローパーの内壁から生えている太いミミズのような器官が口や鼻から入ってきてそれどころではなくなりました。その器官が頭の中をずるずると這い進む感覚に狂いそうになりましたが、叫び声を上げようとした瞬間になにかが『カチン』と嵌ったような、それでいて取り返しのつかないような感覚がしました。穴に落ちた時より、吞み込まれた時より、その時が一番恐ろしかったです。私がかつての妻に強要したのはこういうことだったのだ、と理解できて怖かった。
気が付くとローパーは私を吐き出していて、どこかへいなくなっていました。私はのろのろと起き上がり、水場を見つけて汚れた服を洗ったりしてからなんとか仲間と合流して、そのダンジョンを踏破しました。
それからです。そこらへんにいる人間の男と同程度だった性欲が、異常なほどに亢進するようになったのは。数か月に数回で済んでいた娼館の利用が数週間に数回になり、毎週になり、毎日になり。次第に一日に一度では済まなくなってきて、ダンジョン攻略にも支障が出て来た。抱きやすいモンスターを捕まえて犯したりしているせいでマノンにも嫌われたし、私がこんなだからドーソンやリィナまで白い目で見られている。申し訳なくて、涙が出そうで。おまけに無茶するせいで娼館まで出禁になって……そんな時、シルキィ君に声を掛けられました。
私は本当に疲れていたし弱り果てていた。精気に飢えているサキュバス、と聞いて一も二もなく飛びついて、やや強引に契約を急がせてしまった。性欲が強すぎて困っている私と、精気が吸えなくて困っているシルキィ君。おあつらえ向きじゃないかと。お互いを利用できれば万々歳じゃないか、と。百四十も近いのに、私は相変わらず未熟で軽率で馬鹿だと今は思います。だって、あの娘、いい子なんです。ひたむきで、明るくて、危なっかしくフワフワしていて。
シルキィ君が会って数日の私に好意を抱き始めているのなんか私にだってわかっています。淫紋を通して彼女の浮つきが伝わってくるし、この淫紋はおそらく契約者同士の結びつきを強くして、引き合わせている。だから、私も彼女のことは嫌いじゃありません。むしろ好きと言っていい。けれども、私がそれに甘えてはいけないとも思うんです。あんな、卵から出て一番最初に見た物を親だと思っている鳥の雛のような彼女を自分の欲望のままに貪っている自分にも嫌悪を感じます。だけど我慢ができない。彼女の健康的な肌を見るとどうしようもなく昂って、しゃぶりつくしてしまう。
ねえ、風の精霊よ。
「私って、どうしたらいいですか……?」
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