はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
レイモンドさんと別れたわたしは自分の部屋に戻る。いままでお金なかったのですごーく簡素な部屋。今の生活が続けられればもうちょっといい宿入ってもいいな。
「レイモンドさん大丈夫かなあ。やっぱりつっこんで聞きすぎたかもしれない」
別れ際のレイモンドさんはもうすでにいつもの笑顔に戻っていて、明後日、ギルドで待っていますからね。と言ってくれたので、明後日は何事もなかったかのように一緒にダンジョンに入ろうと思った。
「それはそれとして……レイモンドさんの体質のことは気になるんだよね……」
大きいローパーに呑まれて、体質が変わってしまった……そういうことってあるのかな。エルフで性欲が強い人っているのかとか、性欲が強すぎるのをなんとかできた人っているのかとかもそうだけど、そういうこと、人に尋ねづらいと思う。レイモンドさん、自分のこと話してくれる時すごく言いにくそうに、かなり話の詳細を省いて話してくれたし、ローパーに呑まれた話はドーソンさんやリィナさんにも言ってなさそうなんだよね。でもなんか、わかる。女戦士がローパーに呑まれる話って、いかがわしい絵物語で人気なシチュエーションなんだよね。近所のインキュバスのお兄ちゃんが人間の絵物語の蒐集家で、見せてもらったことがあるから知ってる。ただでさえ評判が悪いのに、ローパーに呑まれて何かすごいことをされてしまったってみんなに、特に男の冒険者たちに知られたらもう挽回できないって思ってるんだと思う。男のプライドって言うのかな。女だってローパーに呑まれた話なんかあんまりしたくないと思うけど。
「そもそも、吞むような大きいローパーって、わたしもそういうお話の中にしか出てこないと思ってたんだよね。ダンジョンマッピング師のレイモンドさんがその時以来会えてないって言ってたんだし、すごく珍しいやつなんだろうな……。うーん、やっぱりわたしだけじゃ無理だな。おねえちゃんに話を聞こうっと」
わたしは桶に水を汲んで、床に置いた。スカートを捲って、剃刀で陰毛をちょっとだけ剃って、水にパラパラと入れる。使った剃刀で水面に魔方陣を描いたら、口の中で唾液をぐちゅぐちゅと混ぜてべっとそこに吐いた。これ、この水これ以降使えなくなっちゃうから嫌なんだよな……。
わたしが唾を吐いたとこから、ピンク色の、レイモンドさんに淫紋を描いたときと同じ色の光が魔方陣の形に拡がった。サキュバスの水鏡。これでサキュバス界に通信ができるのだ。
『もしもし~? シルシル~? どうした~? 人間の世界がせちがらくて寂しくなっちゃったん? ミルキィおねえちゃんですよ~♡♡♡』
桶から底抜けに明るい声が響いた。水面にダイナマイトボディのイケてるサキュバスが映っている。彼女はミルキィ。わたしのおねえちゃんだ。おねえちゃんはサキュバスなのに奥手なわたしを馬鹿にしない、数少ない大事な人。わたしは困った時、いつも彼女に相談してきたのだ。
「おねえちゃん、久しぶり。元気にしてた?」
『元気元気、元気すぎて襲った男の家の窓、アクメ声の衝撃だけで全部割っちゃった♡ てへぺろ!』
「あいかわらずだね~」
きゃあきゃあと姉妹久しぶりの通話を喜んだあと、おねえちゃんが聞いてきた。
『シルシル、顔から精気のオーラ漏れてるねえ。ちゃんと食べれてるんじゃん、おねえちゃん安心したよ~。前話したときはしょぼしょぼでさあ、眠った男お土産にそっち行こうかと思ったもん。あ、でもなんか見たことない色してるなぁ、どんな男吸ったの?』
「あ、えっと、今ね。契約してる人がいるんだよ、性欲がすごく強いエルフの男の人で……」
『性欲の強いエルフ~!? そんな優良物件いるの!? そんなのいたらこっちで情報共有してめちゃくちゃ食いに行っちゃうのに、なんでいままで埋もれてた?』
「わかんないけど……二十年くらい前に一人サキュバス相手にしたことあるかもって言ってたよ」
『え~、なんで黙ってるんだろ。そいつずるくない?』
「かもって言ってるから、相手してないかもしれないし……」
『いいな~、食べ放題、おねえちゃんもしたーい! あ、でもなんだろう。シルシル今蜂蜜みたいな色の精気オーラ出てるんだよね。普通エルフの精気って緑色だと思うんだけど……』
「そうなの? 今日初めて見えるようになったから知らなかった。まあ確かにあんまりエルフらしくない人ではあるけど……」
『こういうのママが詳しいんだけどな~。ママいま彼ぴぴと旅行中でいないんだよ~』
「ママ、彼氏とうまくいってるんだね~。また今度居る時に話したいなぁ」
『もうラブラブでさ~、うざいくらい。まあ、帰ってきたら話しとくよ、シルシルがうまくやってるって話したら喜ぶと思うし~』
おねえちゃん、相変わらず明るくてほっとするなぁ、わたしはちょっとサキュバス界の実家が恋しくなった。
「あ、そうだおねえちゃん、聞きたいことあったんだけど……」
『なになに? なんでも聞いて♡』
「ローパーって居るじゃない。あのにゅるにゅる触手の魔物。うちで皮剥いてサラダにするやつ。あれに呑まれて性欲がおかしくなっちゃうって話、聞いたことある?」
『ローパーに? 呑まれて? そんなでっかいローパー見たことないけどぉ、エロ絵物語の話?』
「やっぱりそう思うよねえ、聞いたことないよねえ」
『あ、でもさ。おかしくするってのはあると思うよ~、ローパーに食われる前の虫、動きが変だもん。多分あれなんかの状態異常で行動縛って逃げられなくしてるんだと思う~』
「え? 状態異常? ローパーってそんな能力あるの?」
『あるある~。んーと、なんだろうねぇ、性欲とかに関わってくるなら狂化、とかかなぁ。よくいるローパーって小さいからあたしたちには効かないけどさ。人が呑み込めるくらいでかいなら、人にも効いたりすることはあるんじゃなーいー? 大体吞み込まれるまで行って帰ってこれた人とかいなそうだから、実際どうだか知らないけどー。ってかそんな人、いんの?』
「えっと……わたしもちょっと小耳にはさんだだけ……だけど」
『シルシル、そっちで冒険者やってるんだっけ? あのダンジョンってのもなんか変な場所だよねえ、こっちでもないし、そっちでもないしさあ。もしかしたら、こっちにはいなくても、ダンジョンにはいるってこともあるかもしれないね~でっかいローパー。名前つけるならキングローパーって感じ?』
そうか。ダンジョンにいるリザードマンはわたしの知ってるリザードマンとは違ってたし、ローパーも巨大化しちゃってるってことはあるかもしれない。それに、狂化か。性欲が強くて困るっていう悩みだと恥ずかしくなっちゃって人に言えないかもしれないけど、狂化を解く方法だったらもっと探しやすいんじゃないだろうか。
「ありがとうおねえちゃん、わたし、元気出て来た!」
『あー、やっぱり何か悩んでたな~? おねえちゃんはいつでもシルシルの味方だからね、また何かあったら水鏡つなげてよね~』
「うん、わかった。元気でね、おねえちゃん」
水面を剃刀でまっぷたつに切って、わたしは水鏡を閉じる。あとには毛と唾液が浮いた汚い水だけが残った。本当にいや。これ。
明後日にはツブラさんに預けたダガーの調整が終わってるはずだ。ギルドに行く前に武器屋に寄って、レイモンドさんたちに会おう。そして、彼とふたりきりになったタイミングで、狂化のことを話してみようと思った。
「あ……サキュバスとして魅力的になる方法、聞くの忘れちゃったな……」
ばいんばいんの熟れたサキュバスになるのはまだまだ遠そう。とほほ。
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