※この作品はR-18です。

はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話   作:ケロリビドー

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21.はらぺこサキュバスと性欲の強い男エルフと七番目のダンジョン

 レイモンドさんは目に見えて焦っていた。あの後アーダさんは気を失ってしまって、それ以上のことは聞けず、彼女が目を覚ますまで待つことも、無理やり起こすこともしたくないのでわたしたちはそのまま七番目のダンジョンに入った。以前は戦いのたびに水を飲み、落ち着きを失わないように進んだけど、誰かに時々言われないとそれすらレイモンドさんは忘れてしまっていた。

 幸い地下三十五階までのマッピングはライオット班が済ませているので、わたしたちはなるべく敵に会うことなく、かつ早く奥まで行けるルートを選んでどんどん地下へ降りた。時々はどうしても敵に会ってしまうため、わたしも幻影魔法と隠密を駆使して戦う。さすがに地下五階を過ぎると敵もちょっと手ごわくなって、結構怖い。でもわたしはレイモンドさんについていくことに決めたので、逃げたりしない。ツブラさんに勧められたダガーもとても切れ味が良く、大活躍してくれていた。

 

「レイモンドさん、大丈夫ですか」

「大丈夫です。今は本当にそれどころではないので」

 

 さっきから口数が少なくなり始めたレイモンドさんは、ダンジョンの奥だけを真っ直ぐに見ている。わたしの淫紋がチリチリ言い始めているので、そろそろ辛くなり始めているはずだ。だけど、彼は性欲解消の提案をずっと拒んでいる。そんなことをしている間にマノンさんやライオットさんがどうにかなってしまったら今度こそ本当に終わりだと、きっとレイモンドさんはそう思っているのだ。

 

「せめてお水だけでも飲んでください。本当にダメだったら言ってくださいね……!」

「ありがとうございます。いただきます。でも、本当に大丈夫です。私はやれます」

 

 そうして、わたしたちは黙々とダンジョンを潜っていく。いつも精霊魔法を使って賢くスマートに戦うレイモンドさんは、今はドーソンさんと一緒に力ずくで戦うような方法でモンスターを屠っていた。興奮すると粗暴になると言っていたし、きっと力のやり場が他にないんだ。顔の部品が尖って前に出ている錯覚が起きるくらい前のめりになって、レイモンドさんは食いしばった歯をむき出してゴブリンを突き刺した。

 

「フーッ、フーッ……、ああ、マノン、ライオット、無事でいてください……」

 

 他の人が守っているダンジョンのルールを破っても平気な人が人間としてのルールが守れるとは思えない。違反者は簡単に追いはぎや殺人者に変わるだろう、と、まだここに足を踏み入れたばかりの時のレイモンドさんが言っていた。そしてマノンを目の前にした時、彼らが凌辱者や人さらいに変わらないとは言えないと。それを一番危惧しているのだと。

 

「マノンが私のことを好きでなくても、私はマノンのことが心配なんですよ……」

 

 傷ついたような、怒ったような、どっちともつかない、出来損ないの笑顔のような顔でそういっていたレイモンドさん。今はその繊細な表情は見る影もなく、荒く息をつきながら何かに憑かれたようにひたすら敵を斃している。ズボンの前はパンパンに膨らんでいて、絶対にもう限界のはずだった。

 

「レイモンドさん!」

「不要です!! 放っておいてください!」

「っ……!!」

 

 振り向いて怒鳴った彼はとても怖かった。狂った犬のように目をギラギラさせて、食いしばった口の端から泡まじりの唾液が流れ落ちていた。

 

「落ち着きなよレイモンド! もう三十六階だよ!! ここを降りたら目的地なんだから、階段を探して、それからライオットとマノンを探すんだよ!!」

 

 罠がないか調べながら先行していたリィナさんが叫ぶように言う。すると左の分岐の奥からか細く声が聞こえた。

 

「……ーい。おー……い。ここだぁ……、早く、早く来てくれ……」

「ら、ライオットの声……!!」

 

 よろっと一度足をもつれさせて、レイモンドさんが駆けだした。

 

「おい! 待てってぇ!! 仕方ねえな、行くぞ二人とも!! ああ畜生なんて足が速えんだよ!」

 

 ドーソンさんに続いて、わたしたちもレイモンドさんを追いかける。穴の奥に消えるレイモンドさんの頭が見えた。あそこが階段だ。

 

「う、わぁっ……」

 

 降りた先は広い空間になっていて、そこに人が六人、ぐにゃぐにゃな手足を投げ出して倒れていた。そのうちの一人をレイモンドさんが助け起こしている。一体ここで何があったの……? どうしてみんなあちこち折れているの……!?

 

「れ、レイモンド……き、来てくれると、思ってた……アーダ、アーダは無事に、地上にたどり着けたんだな……」

「ら、ライオット! ま、ま、マノンは!?」

 

 言葉をつっかえさせながら性急に聞こうとするレイモンドさん。ライオットさんは血で汚れたお腹を押さえて、足もどうやら折れている。

 

「怪我を何とかするのが先だろ! この馬鹿!!」

 

 レイモンドさんをドンと突き飛ばして、リィナさんはライオットさんの傷を確認する。レイモンドさんの大きな体は突き飛ばされたくらいではびくともしないが、腰を落として様子を見るくらいにはレイモンドさんを落ち着かせる効果はあったみたいだ。

 

「急所は外れているようだね……足も多分綺麗に折れてる。応急処置しかできないけど、すぐどうにかなるってことはないね。ひとまずライオットに関しては大丈夫だ」

 

 リィナさんが布でライオットさんの胴体を固く縛り、落ちていた賊の剣の鞘を添え木にして足も固定する。

 

「結界石設置してモンスターが来ないようにしたのか。賢明だなぁ。よお、ライオット、しゃべれるかぁ?」

 

 ライオットさんが倒れていた傍の壁、足首くらいの位置に、六番目のダンジョンのセーフティーゾーンにあったのと同じレリーフがつけられている。怪我をして動けなくなったあとに設置したのだろう。

 

「違反者と出くわして……、マノンを逃がしたんだ、そしたらそいつらの一人が追いかけて行って、俺も追いかけようとしたところで、ううっ、正体のわからない、でっかいモンスターが突撃してきて、俺ごと奴らを蹴散らしたんだ、よ。俺、足が折れちまって、動けなくなって。アーダに助けを呼びに、離脱してもらったんだ……」

「な、なんですって! あ、アーダはそんなこと一言も……」

「言う前に気絶しちまったんだね。とりあえず、ここに倒れてる奴らと追いかけてった一人で賊は全部かい? ライオット」

「そいつで、全部だ。なあ、おい、レイモンド大丈夫か? 様子おかしくないか?」

 

 めらり、と。レイモンドさんの後ろ髪が炎のように揺れた。どうやら、怒りのあまり毛が逆立ってしまってるみたい……。

 

「レイモンドさん……?」

 

 わたしはおずおずと彼に声を掛ける。いつもは細めて笑っているレイモンドさんの眼尻は吊り上がってしまっていて、小声でぶつぶつと何か呟いていた。

 

「こんな地下深くで……そんな恐ろしいモンスターがいる中で……マノン一人が……賊に追いかけられているだと……そんな恐ろしい目に……子供が……? ありえない……ありえない……」

「おい、レイモンド!」

「そんなこと……、あ(・)っ(・)て(・)は(・)い(・)け(・)ま(・)せ(・)ん(・)!!!!!!!」

 

 海賊船の船に積まれた砲弾みたいに、レイモンドさんが駆けだした。

 

「またあいつっ……!! リィナ! ライオットを介抱し続けてくれ!! 俺は追いかける!! しかし足速えな!!」

「わたしも行きます!!」

 

 この迷宮の先で、レイモンドさんが本当に限界を迎えたら、それを受け止めてあげられるのはきっとわたしだけだ。淫紋はもうずきずきと痛いくらい脈打っているけれど、わたしはドーソンさんを追いかけて暗い道を走る。マノンさん、無事でいて。どうか、わたしのレイモンドさんを絶望させないでいてください。




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