※この作品はR-18です。

はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話   作:ケロリビドー

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22.マノンの遺書

 ダンジョン地下三十七階で魔物に追い詰められて、わたくしは籠城しておりますの。絶体絶命ですの。お笑いあそばせ。

 どうしてこうなってしまったのかしら。まだあれから三十六階の探索しか終えてませんでしたのに、三十七階でこんなにピンチになってしまうなんて……。

 違反者に出くわしたのがまず最初のアンラックでしたわ。相手は六人と数が多くて。それでも、ライオットとアーダさんなら倒せると思っていましたの。まさかそこにいきなりモンスターが突入してくるだなんて。まあ、ダンジョンですし? モンスターが来ることくらいは予想してましたのよ。けど、『こんなの』がいきなり来るとはちょっと思ってませんでしたのよね……。

 

 カチカチカチカチカチカチカチカチ。

 

 『そいつ』は、さっきからわたくしが籠城している穴を少しずつ掘って広げてますのよ。おおきいハサミは細かい作業には向いてないみたいだし、壁が石なので掘りにくいようで手間取ってますけども。

 カルキノス。大きな蟹のモンスターですわ。どうしてこんな地下にこんなモンスターが出るのかしら。腹たちますの。

 さらに腹のたつことにこの穴、行き止まりですの!! どこかに通じてると思って入りましたのに! だから、あの穴が大きくなったらわたくし、おしまいですの。一緒に逃げてた賊のおじさまは先に鋏まれて死んだみたいですけども。ご愁傷様! ざまああそばせ!

 

「物語だったら今が遺書でも書くような頃合いかしらね……。なんだか涙が出てきましたの……」

 

 つい最近、ダンジョンの横穴を抜けてばったり出会ったレイモンドに、わたくしずいぶん酷いことを言ってしまったような気がしますの。だけどわたくしだってすごくショックでしたのよ。

 

「レイモンド、わたくしを許してくださるかしら……」

 

 蟹のハサミがガチンガチンと壁に当たる振動の中で、わたくしは昔を思い出してしまいました。昔って言っても、わたくしまだ十三歳ですから、数年のことですけど。あら、ずいぶんと短い命ですのね。笑いも出ませんのよ。

 

 カチカチカチカチカチ。ガッ、ガッ。

 

 わたくしたちが今いるこの町はダンジョンで栄えているので、大体は冒険者か、冒険者を相手にした商売をしている人がほとんどですの。わたくしの両親も冒険者だったようですわ。この町では教会が冒険者向けの託児所を運営していて、子供のいる冒険者はそこに子供を預けて、二馬力で潜って稼ぐのはそんなに珍しいことではありませんの。そうしてそのまま死んでしまって、残された子供が孤児になるのもとてもありふれたことですの。わたくしの両親もそんな冒険者だったららしいですのよ。だからわたくしもそのまま孤児になって、教会の孤児院で育ちました。

 

 カチカチカチカチ。ガッ。パラパラ。

 

 わたくし、幸か不幸か浄化の才能があったようで、聖職者になる選択肢がありましたのでそちらに進むことにしました。ダンジョンでは呪われていて入れない道なんてのもザラにありますので、そういうところを浄化する聖職者は引く手あまたなんですって。だから他の子より数年早くダンジョンに入るようになりました。聖職者のいないパーティに雇われて浄化をするんですの。人によって、普段は教会に居て冠婚葬祭などを受け持ちながら依頼を待つタイプと、自分が冒険者としてダンジョンに潜るタイプと二種類ありますの。初めてレイモンドと一緒にダンジョンに入った時、わたくしは教会に居て、彼らの依頼を受けて一緒に入ったんですのよ。

 

「マノン君、君、私たちのパーティに入りませんか?」

 

 探索が終わった後、そう言ってきたのはレイモンドのほうからでしたの。何なんでしょうね? あの、レイモンドの謎の『君』呼び。今はマノンって呼び捨てに変わりましたけど。あれなんかすごくくすぐったかったから今のほうが気楽ですけども。

 それから、レイモンド班としてダンジョンに潜る日々が始まりましたわ。最初は楽しかったんですのよ。やっぱり両親の血でしょうかね。教会で祈りを捧げているよりは、わたくしダンジョンに潜っている時のほうが生き生き過ごすことができるってわかって。ドーソンとリィナは孤児院の先輩だったし、レイモンドは優しくて。わたくし憧れてましたのよ。聞けば、一番目のダンジョンを踏破した第一号だっていうし、落ち着いていて強くて、ちょっと抜けているところもたまにはあって、ずっと一緒に冒険していたいって思ってましたの。

 でも長くいるうちに、ちょっと変だなって思うこともありましたの。稼いでいるはずなのにいつも財布が寂しい様子だったし、探索中様子が変になって、まだ全然いけそうなのに地上に戻ってしまって、マッピングが遅々として進まなかったり。

 わたくしがそれに文句を言ったら、レイモンドは困ったような笑顔で「ごめんね。なにか方法を考えます」と答えて、それからたまに、人型のモンスターを生きたまま捕まえて、小一時間姿を消すことが増えたんですの。ドーソンもリィナも「大人にはいろいろあるから」としか教えてくれないし、それを挟めば先に進むことはできるから、腑には落ちないけどそれで納得してました。

 でもある日、いつもは何の音もしないのに、その日に限って連れていかれたゴブリンのメスがけたたましい悲鳴を上げていて、わたくしはドーソンとリィナの制止を振り切って様子を見に行ってしまって。

 レイモンドがあんな恐ろしいことをするエルフだなんて知らなくて。わたくしは取り乱して泣きわめいて彼を罵倒してしまって。もう一緒には居られないと言ってしまって。

 もう一緒に居られないのは本心でしたの。それは後悔してませんのよ。ダンジョンの中でモンスターを殺すことは別に、自分が殺されないためだし大丈夫ですけど、あんなふうに嬲りものにして最終的には殺すのを、憧れの人がしているというのは貞淑をよしとしている教会に属している聖職者のわたくしには到底受け入れられないことですから。

 

 カチカチ。ガッ、ガッ、ガッ。パラパラッ。ガッ。

 

 レイモンドは悲しそうに笑っていたけれど、その何かを顔でごまかすような仕草もわたくしには気に入らなくて、彼のことを嫌いになる要因でしかありませんでしたけど、彼に口をきいてもらってライオットを紹介してもらったのは感謝してますの。

 わたくしは、レイモンドよりもすごいダンジョンマッピング師になることでこの気持ちを納得させようとして、頑張ってダンジョンに潜ってましたのよね。ライオットもそれを汲んでくれて一日休んでまたマッピングを再開してくれたんだと思うのですけど、今思うとレイモンドみたいに二日休んで潜ればよかったですわ。そしたら賊に会わずに済んだのに。でも考えても詮無いことですの。今日でなくても違反者はいるし、この階を探索するかぎりカルキノスには遭ってたと思いますし。

 

 カチカチカチカチ。ガッガッ、ゴッ、ゴトッ。パラ。ボコッ! ボロボロッ。

 

 穴が結構広がってきましたのね。なんだか、視界が歪んでよく見えないから怖い姿を見ないで済んでよかったかもしれませんの。わたくし、大きな蟹に体を千切られて、食べられて死ぬんですのね。死ぬ前に、この間の無礼くらいは謝ってから死にたかったですの。わたくし、いつもポケットに遺書を入れてるんですけども、さっきそれにレイモンドに向けてごめんなさいって書きましたの。運が良かったら誰かがわたくしの遺品からこの紙を見つけてくれて……。

 

 ゴッッッ!!!!!!!!!!! バキ、メキメキメキメキッ!!!!!!!!

 

 涙で視界が歪んでいたから、一瞬アルビノのオーガが来たのかと思いました。ハサミを片方穴に突き入れてわたくしを探していたカルキノスを横合いから太い腕が殴りつけ、根元からもげたハサミだけが、わたくしの足元のすぐそばまで迫っていました。

 

「ワ……! きゃ、きゃああああああ!!!!!! うわあああああ!!!!!」

 

 驚きすぎて、そして穴から一瞬見えた顔に安心しすぎて、お尻の下に暖かい感触が広がっていくのを止められませんでした。一瞬遅れて羞恥に叫んでしまうわたくし。

 

「ん、しょ。おっきいハサミ……重い~……。えいっ」

 

 聞きなれない声がして穴を塞いでいたハサミが取り除かれると、この間レイモンドの後ろにいたくせ毛の女性が顔をのぞかせていましたの。

 

「うそ……今の……レイモンドですの……?」

 

「マノンさん、大丈夫ですか!? 助けに来たんですよ。さあ、早くここから離れましょう!!」




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