はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
「ウ゛オオォオ゛ォオオオォアアラァッ!!!!!!!」
ゴッッッ!!!!!!!!!!! バキ、メキメキメキメキッ!!!!!!!!
猛獣みたいな咆哮を上げたレイモンドさんが、横穴に取りついて中を探っていたカルキノスの甲羅を横合いから殴りつけて無理やりどかし、勢いでハサミの片方を千切った。
「は? マジかよ!? あいつ本当にエルフか!?」
「早く加勢に行ってあげて! マノンさんはわたしに任せて!!」
あんぐりと口を開けて驚くドーソンさんにお願いするわたし。レイモンドさんが心配すぎて、なんだか逆に冷静でいられた。多分、レイモンドさんは今、いつもは理性で抑えている力の加減が性欲を我慢しすぎたことによる狂化でバカになっちゃってるだけだと思う。カルキノスがハサミを狭い穴に入れてた時だったから勢いで千切れたけど、このあとあれを一人で素手で倒しきれるわけはないのでドーソンさんに頑張って欲しい。
「ん、しょっ……」
二人がカルキノスと戦っている間に、わたしは砕けた殻からプルプルした肉がはみ出ている大きなハサミを抱えて穴から引っ張り出す。おっきいハサミ、重い~……。
「えいっ!!」
思いっきり引っ張るとなんとか穴から出すことができて、わたしは穴を覗き込む。暗くてよく見えないけど、奥に誰かいる気配はちゃんとある。さっきレイモンドさんがハサミを折った時に甲高い悲鳴が聞こえたのできっとマノンさんだ。
「マノンさん、大丈夫ですか!? 助けに来たんですよ。さあ、早くここから離れましょう!!」
「う、うそ……今の、レイモンドですの……?」
か細い女の子の声が聞こえてくる。大丈夫そうだ。
「さあ、つかまって! 安全なところに移動しますから! ライオットさんもいます! 安心してください!」
「あ、ありがとうございますわ……。でも、わ、わたくし……」
手を掴んで引っ張り出すが、マノンさんはなんだかそわそわもじもじしていた。見ると足元がぐっしょり濡れてしまっている。ああ、そうか……無理もないよね。怖かったんだ。可哀そうに。
「これを着て、大丈夫ですよ」
わたしは自分の着ていたマントをマノンさんに羽織らせた。可愛い小鳥ははずしてしっかりしまっておく。そしてマノンさんの小さく細い肩を抱いて、上の階のセーフティーゾーンへ付き添って歩く。
「マノン!!」
「リィナ!!」
セーフティーゾーンではリィナさんが火を焚いてライオットさんの体を温めたり、お湯を飲ませたりしてくれていた。
「わぁああああん、リィナぁ! 怖かったですの!!!」
「よ、よかった。無事でよかったよ……怪我はないかい?」
「わたくしは大丈夫ですの……ライオットは? ライオットは大丈夫ですの!?」
「ああ、手当も終わって今は眠ってるよ。しばらく熱が出るかもしれないけど、あいつも戦士だ。すぐよくなるさ」
「よかった……。ふたりともしばらくここで休めば動けるようになりそうですね……。あ、リィナさん、マノンさん、その、濡れて冷えてるみたいなんで、見てあげてください」
わたしはマノンさんに恥をかかせないように、リィナさんにこっそり耳打ちした。
「ん? ああ、なるほどね……わかったよ。任せときな」
「あと、結界石のレリーフ余ってたらひとつくれませんか?」
「いいよ、あたしのカバンに入ってるから探してもってっとくれ。マノン、ちょっとこっちにおいでね……」
リィナさんはマノンさんを連れて物陰に入っていった。リィナさんは優しくて面倒見のいい女性だから、きっとうまくやってくれると思う。物色の許可をもらったので、ありがたく結界石をもっていかせてもらう。
カルキノスを倒したとしても、あの状態が続いたらレイモンドさんがどうにかなってしまう。わたしがなんとかしなくちゃ。
「わたし、行きますね! よろしくお願いします!」
声だけかけて、わたしはまた下の階に急いだ。まだ二人が戦っているはずだ。
「おお゛おおおおぉっ!!!!」
ガラガラッ!! ドッスン!! ガッ! ガッ! バツン!!
「ああ! 欠けたの直したばっかなのによぉ!! なんでまたこんなクッソ硬ぇの斬らなきゃなんねぇんだよぉ!!!」
「このっ!! エェッ!! この、この蟹野郎!! マノンを怯えさせるなんてっ!! うぅっ! ゆ、許しませんっ!! 許さんっ!!!! ア゛ァッ!!」
階段を下りて駆け付けたわたしの目に入ったのは、カルキノスをひっくり返して突き出た目を掴んで引き抜き、柔らかい裏側をボコボコ殴っているレイモンドさんと、残ったハサミや足を剣で切り落としているドーソンさんだった。
「レイモンドさん! 刃物! 刃物使ってください!!」
「ア゛ッ!!? はも゛の!!?」
「この野郎、わけわかんなくなってやがんだよ! こういう時に火とか出して欲しいのによ!!」
レイモンドさんが殴っていた裏側にはすでにヒビが入り始めていて、あと一押しで穴があくような感じだった。わたしもおろしたてのダガーを抜いて加勢する。ドーソンさんが順番に落としてくれてるとは言え、私の胴より太い足が体のすぐそばでガニガニしているのは怖い……!
「エエ゛ィッ!!!」
ボゴォッ!!!
わたしがダガーで切れ込みを入れたところにレイモンドさんの拳が突き刺さる。
「う゛うっ、う゛っ、フーッ……」
ガチガチガチ!!! バタバタッ!! ドスドスッ!!! メキョ、ぐちぐちっ、ヌチャッ……。
そのまま肩まで腕を突っ込んで中を探るレイモンドさんに、カルキノスの残った足が激しくバタつく。怖い怖い!!
「ふうっ、ふうっ、ふっ!!!」
ビチビチビチビチィッ!!!
息をつきながら引き抜いたレイモンドさんの手には何か六角形の白いものが握られている。そして、そのまま手の力でそれを粉砕すると、カルキノスの足が一瞬ビクンと硬直して、そして動かなくなった。
「……ドーソンさん、これを設置して少しの間レイモンドさんと二人にしてくれませんか?」
「え? いいけどよぉ。あれと二人きりって大丈夫なのかよ……」
「うう゛……うウウ゛ぅ……っ……」
もう動かなくなったカルキノスの上で、レイモンドさんは胸を掻き抱いて唸り声を上げている。彼はもう本当に限界なのだ。
「大丈夫です。レイモンドさんはわたしにまかせてください」
「そうかぁ? じゃあ……俺入り口で待ってるよ。なんかあったら名前呼んでくれ。ぶん殴ってでも止めるからよ。でも、できるんなら、あいつを頼むな。シルキィちゃん」
わたしのことを気にしながらもドーソンさんは結界石を設置して、この場を離れてくれた。これでここにこれ以上モンスターが入ってくることはない。ちょっと待たせることになっちゃいそうだけど、ライオットさんとマノンさんもすぐには歩き出せないと思うし許してもらおう。
「……レイモンドさん。お疲れ様。終わりましたよ」
わたしは蟹のおなかの上に登って、後ろからレイモンドさんの大きな背中を抱きしめる。湯気が出そうに熱くて、マント越しに染みてくるくらい汗でびっしょり濡れていた。
「ハァッ、ハァッ、は……」
耳を当てると割れそうに心臓が脈打っているのが聞こえて、それと同じリズムで淫紋がドクンドクンと疼いた。そっと手を彼の下腹部に滑らせると、鉄みたいにカチカチになった彼の淫紋のありかが窮屈そうに布を押し上げていて、そこも火傷しそうに熱かった。ゆっくりと、彼は振り返る。熱のこもった息遣いだけが冷たいダンジョンの中に響いている。
「頑張って我慢できましたね、レイモンドさん」
「し、シルキィ……」
「……お弁当の時間にしましょうね」
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