はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
レイモンドさんの射精はほんとに多くて、わたしはおなかがちょっとぽっこり出た。中に出した精液が全然戻ってこないので大丈夫かとレイモンドさんは心配してくれたけど、サキュバス袋が時間をかけてゆっくり消化してくれるはず。こんなにいっぱい精気が取れる日がくるなんて数日前には全然思ってなかったな。レイモンドさんと出会ってまだ数日なのに、わたしはこんなにレイモンドさんのことが好き。不思議だな。恋って理屈じゃないんだな。
無理させてごめんなさい、声を荒げてごめんなさい、服を破いてごめんなさい、こんな蟹の死骸の上で犯してごめんなさい、とひとつひとつ謝りながら、彼は綺麗なハンカチでわたしの体を清めてくれた。そんなに謝らなくてもいいのに。でも、服がなくなっちゃったのだけは困るな。それに、まだ足がガックガクで全然立てない。狂化でコントロールが効かなくなったレイモンドさんの本気の突きが凄すぎた。まるで内臓を耕されたみたいだ。
「シルキィ君、君のマントはどうしました?」
「マノンさんに貸しました。お洋服が濡れてしまっていたので……」
「そうでしたか……それでは」
「ふにゃっ……?」
レイモンドさんはわたしの体をひょいと持ち上げると、自分のマントでぐるぐる巻きにしてさらにひょいひょいと抱き上げてみんなのいるほうに戻り始めた。こ、これはこれで恥ずかしいかもっ。
「俺、他人のこういうのこんな延々聞かされる日がくると思わなかったわ……」
ドーソンさんは言った通り近くで待っててくれた。レイモンドさん、精霊魔法使えないくらい取り乱してたもんね……。わたしの喘ぎ声も全部聞かれちゃったよね……。
「ドーソンさん、すみません~……」
「いいけどよ……レイモンド、もう大丈夫なんだな?」
「ご迷惑をおかけしました。もう大丈夫です」
「みんな待ってるからよ。一旦さっきのとこで合流しようぜ」
ライオットさんが倒れていたセーフティゾーンに行くと、全員欠けることなく揃っていた。ライオットさんはずっと眠っていて、マノンさんは死んでしまった賊の服を剥いで着ていたのでわたしもちょっと嫌だけどそうさせてもらう。おっきめのシャツを被ってベルトでウエストを絞ればなんとなくワンピースの感じだ。下着はないからおしりスースーするけど……。
「とりあえずあんたたちも水分取って岩塩舐めな。話はそれからだよ」
リィナさんが沸かしたお湯を差し出してくれた。そういえば喉がカラカラだ、いっぱい喘いだからな……。
「その……レイモンド」
お湯を飲んで一息ついたレイモンドさんにおずおずとマノンさんが話しかけて来た。
「こ、この間は酷いこと言って申し訳なかったですの。わたくし大人げなかったですわね。助けに来てくれて、その、嬉しかったですわ……ありがとうございます……」
座っているレイモンドさんと、立っているマノンさんの顔の高さは大して変わりがない。初めて会ったときは大人びて見えたけど、もじもじと後ろ手をせわしなく動かして、まっすぐ相手の顔を見られないマノンさんはこうしてみると年相応の子供に見えた。
「君が無事に生きていてくれたのなら、それだけで私は満足ですよ、マノン」
レイモンドさんがマノンさんの頭に大きな掌を乗せ、優しくなでる。マノンさんの大きな瞳がぶわっと盛り上がって、しずくがぽたぽたと零れ落ちる。
「う、うわぁああん、怖かったよお、レイモンドぉ!!!!!」
「よしよし……」
マノンさんがレイモンドさんの首に抱き着き、泣き出した。レイモンドさんは彼女を抱きしめ、背中をぽんぽんと軽く叩く。それを見てわたしは、二人が仲直りできたのがわかって本当によかったなと思った。
「ひっく、ひっく……レイモンド、すごく生臭い……」
うわっ。
「え、えっと、す、素手でカルキノスの甲羅の中に肩まで突っ込んで心臓を引っ張り出したからですね!! ね! レイモンドさん!!」
「は? レイモンド、そんなことしたのかい? 本当にエルフなのあんた? 小さいオーガじゃなくて?」
「私そんなことしたんですか!!? 覚えがない、怖いな……」
さっきの戦いを見ていないリィナさんが信じられない、という反応をするけど、当のレイモンドさんにも信じられないらしい。
「あのよお、俺あんまよくわかってなかったんだけどさあ。レイモンドのそれって、性欲がどうこう以前になんか、状態異常じゃねえ?」
あ、そうだ。おねえちゃんから狂化の話を聞いてたけど、チャンスがなくてまだレイモンドさんに教えられてない。でも、ローパーのこと人に話すの嫌がってるからここではちょっと言いづらいな……。
「確かに、我を失って代わりに馬鹿力が出るってどっちかっていうと『狂化』? あんまりお目にかかったことはないからそっちっぽい感じがするよねえ」
「狂化ですか……こんなになるまで我慢したことはなかったからそれには思い至らなかったな……」
「状態異常だったらわたくしたち聖職者の分野ですけれども、そんな何年も続くような状態異常、一朝一夕では治せない気がしますの。一体全体、レイモンドは何があってそんなふうになってしまったんですの?」
そこなのだ。状態異常の話は自然にそっちの方向になったからわたしが話さなくてよくなったけど、巨大なローパーの話はレイモンドさんがしたくならないと話せない。
「心当たりは……ないではないんですが……あまり愉快な記憶ではなくて……」
「なあ、レイモンドよお。俺たち、一緒にダンジョンに潜るようになって長いよなあ。そりゃエルフのあんたにとっては五年なんて短いと思うよ。でもさあ、俺たちからしたらあんたは付き合いが長いし、これからも一緒にいろいろやりたいと思ってるんだよ。だから、もっと俺たちのこと信用してくれよ。あんた、俺たちのよぉ、俺たちみんなの、兄貴じゃねえかよ」
「そうだよ。あたしたちはたまにはその、酷いからかい方したかもしれないしそれはごめんだけどさ。あんたのことをよく知らない冒険者みたいにあることないこと噂して笑ったりはしないよ。だから、ここにいる奴にだけでも話しておくれよ」
「ドーソン、リィナ……」
レイモンドさんは、若草色の瞳をちょっと泳がせた後、ぽつり、ぽつりと話し始めた。一番目のダンジョンで穴に落ちたこと、落ちた先でローパーに呑まれたこと。中でひどい目にあって、頭の中で何かが起きたこと。その後の、五年にわたる性欲過多との戦い。ときどき黙りながら、少しずつ話すレイモンドさんを、みんなで見守った。
「男の私がローパーに呑まれたなんて、恥ずかしくて誰にも言えなかったんです。それが皆さんに迷惑をかけるとわかっていても、笑われるのが怖くてずるずるとここまで来てしまった。結果、班が丸ごと白い目で見られることになって、本当に申し訳なかった。ごめんなさい、皆さん」
唇を引き結んだレイモンドさんをみんなが見ている。レイモンドさんは両手で顔を覆っていた。
「いや、あんたそれモンスター被害者じゃないか。モンスターにひどい目にあわされて後遺症が残ったことを笑うような奴がいたら、そいつがクソ野郎なんだよ」
リィナさんはそう言うし、確かにその通りなんだけど、口さがない人ってどこにでもいるから、レイモンドさんの気持ちはわかる。同じ男の人であるドーソンさんもそう思うんだと思う。彼は何も言わずに黙っていた。
「まあ確かに、不名誉ではあるよね。でもさあ、その後すぐ復帰してそのままダンジョン踏破したんだろ? そっちのほうがすごいって、尊敬するよ。気にするなよ」
「ライオット! 起きてたんですか!? 傷の具合はどうですか?」
「やあレイモンド。ありがとう、痛むけど大丈夫そうだ。それより、大きいローパーの話は興味があるな。それ、今まで内緒にしてたってことは一番目の地図にその情報、書いてないだろ」
「ええ……今一番目をマッピングしている班からも報告がないのであれから出てはいないと思うのですが……」
「いいよ、今一番目の新しい分岐を調査してるマッピング班の班長に俺が話通しておくよ。出所があんただってことは言わない。でかいローパーが出たって噂があるとでも話せばいいだろう。あとはレイモンドに狂化の状態異常がかかってるって話もするぞ」
「それは……ええと」
「そうだなぁ、レイモンドは長生きだから、絵物語とか吟遊で昔々性欲が強い男エルフがいましたって歌われても、まだ生きててそれを聞く可能性もあるし、今のままは嫌だろぉ。呑まれた話は伏せてもらって、噂流してもらえよ」
「それで今までの体たらくがなくなるわけじゃございませんけど、狂化の状態異常を治すお手伝いならわたくしにもできますわ。それにマッピング班が宝箱を開けるのはご法度ですけども、他の冒険者からそれを買い取るのは違反ではございませんから、いろんなアイテムを試すために依頼を出すのもいいですのよ」
「皆さん……」
レイモンドさんが喉をぐっと詰まらせる。
「あっ! 泣いた!! あんたほんとに人間臭いねぇ」
「俺、おまえのそういうとこ嫌いじゃねえよぉ」
レイモンドさんの片目から、しずくが一粒ぽろっと落ちた。慌てて袖でぬぐうレイモンドさんを、ドーソンさんとリィナさんが囃し立てる。みんな優しかった。みんながレイモンドさんに優しくて、わたしも嬉しくなった。
「いい大人がこんなじゃあ、わたくしが頑張るしかないですの!! これからじゃんじゃん潜って稼ぎますわよ! お金がないと情報が集めづらくて仕方ないですものね!!」
マノンさんが、なんだかビリビリにやぶった紙のようなものをぱっとまき散らして、おっほっほ!! と高笑いした。さっきまで自分が泣いてたのに……とレイモンドさんはそれを見て、泣きながら笑っていた。
このころはあんまり各キャラの服装とか考えないで書いてたんでレイモンドが袖で涙拭ってるの見て「お前いつも半そでじゃん」って思いました(イラスト参照)。