はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
26.はらぺこサキュバスと性欲の強いエルフと後ろ暗い取引
レイモンドさんがライオットさんをおぶって地上に戻ると、アーダさんはじめ、ギルドの受付さんやマッピング師仲間がわっと出迎えてくれた。最近のレイモンドさんはあまり評判が良くなかったけど、これで少しは汚名がそそげるといいなって思う。
ドーソンさんがちゃっかりカルキノスのハサミを担いで帰っていて、けっこういい値段で売れた。レイモンドさんはわたしの服を台無しにしてしまったのを気にしていて、ちょっと分け前に色を付けてくれた。断ったんだけど、女の子の買ったばかりの服を駄目にしてしまった罪悪感で苦しいと言うのでしぶしぶ受け取った。服を揃えても全然余るので、どうしようかなと思ったんだけど、いろいろ考えて私は宿を変えることにした。レイモンドさんの常駐してる宿の、隣の部屋だ。これには理由があって、レイモンドさんがわたしのことを連れ込みすぎて追い出されそうになったからなのだ。
だからうちはあいまい宿じゃないって言ってるだろ!! なんども言っていたのにこのクソエルフ、聞きゃあしないんだからね、と怒り心頭のおかみさんと交渉して、店子同士が行き来するのならまあ許すと言ってもらうまで粘り、最終的には根負けしてもらった。
わたしとしては、どうせすることも一緒だし、もう一緒に住んじゃえばいいんじゃないですか? って思ったし言ったんだけど、レイモンドさんはそこの距離感はどうしても保っておきたいみたいで、断られた。まだまだ彼の鎧は分厚い。
「は? あんたらまだ付き合ってないのかい」
「あのエルフは腰抜け。お嬢ちゃんじゃなくてあいつが腰抜け」
リィナさんとツブラさんとは探索がないときに一緒にお買い物したりお茶したりするようになった。ふたりはわたしとレイモンドさんの仲の進展に興味津々で、会うたびにどうなのよどうなのよと聞かれる。二人はレイモンドさんと付き合いが長いので、どうしたらいいのかアドバイスを貰う相手としては申し分ない。ツブラさんにはわたしがレイモンドさんのこと好きなのは初見でバレバレだったし、リィナさんにも、好きじゃなくてあそこまではできないと言うことでバレた。二人の言うことには、当のレイモンドさんにもバレてる。けどここでぐいぐい行き過ぎるとレイモンドさんの性格上、腰が引けるのでうまく転がしたほうがいい(転がすってねえ)とのことで、わたしから好きという二文字を口に出して言うことはまだしていない。
「仕事のことなら肝が据わってるけど、自分のことで決定的なことを突きつけられるとレイモンドは逃げる。今回のことも逃げに逃げ続けて五年だよ。しかもエルフだから五年の長さがあたしたちと違う」
「ああ聞いたよ。あのエルフ、狂化の状態異常にかかってるの黙ってたんだろ? 噂になってるねぇ」
あれから数日。ライオットさんがいろいろやってくれたようで、レイモンドさんの狂化は冒険者たちの間で知られることになった。ダンジョンに潜って狂化にかかることがあるという情報は冒険者にとっては他人事ではないので前よりはレイモンドさんのことを嘲る人は減っていくんじゃないかと思う。それでもゼロになることはないかもしれないけど。
「一応、教会に呼び出しを受けて定期的に状態異常の治療を受けることにはなったみたいなんですけど、いろいろ前例がないみたいでうまくいってないらしくって」
「基本的に教会のやることは祈祷だからね。マノンが張り切ってるからレイモンドも無下にはできないんだろうね」
生還したマノンさんは自分がレイモンドさんを治す、と祈禱をしたり、いろんな情報を集めたりしてくれている。わたしもまたサキュバス界に連絡とってみないとなあ。この間はおかあさんと話せなかったし。
「レイモンドの評判が良くなると離れてた女が寄ってきそうなのは嫌だね」
「しっかり捕まえとくんだよ、お嬢ちゃん。案外流されやすいからね、あのエルフ」
「うう~、二人とも、面白がってるでしょう!」
「面白がってるに決まってるだろ」
「面白いもんねえ」
うう……。こうなると、わたしがセクシーさで誘惑するようなサキュバスじゃないのがとても悔やまれる……わたしより魅力的な女の人なんていっぱいいるもんなあ……あれ、でもレイモンドさん、ゴブリンとかリザードレディでもぜんぜんいけるエルフなんだっけ……だったら余計大変じゃないの。
「がんばろ……」
二人と別れ、新しく買った服を下げて、わたしは宿に戻る。今日は休みの日なのでレイモンドさんは部屋にいるかもしれないな。なんか理由つけて行っちゃおうかな。そんなことを考えていると、ドアをすごく高い位置でノックされる音がした。レイモンドさんだ。レイモンドさんの方から来てくれるなんて。
「シルキィ君、帰っていますか?」
「あ、はい!! 今開けますね!」
わたしが留守にしている間になんどか来てくれたらしい。わたしはあわててドアを開けた。見上げた位置に、やわらかく微笑むレイモンドさんの顔があった。ああ~、やっぱりカッコいい……。
「少し相談があるので、私の部屋に来て欲しいのですが……いいですか?」
「わ、喜んで!」
レイモンドさんからのお誘いが嬉しくて、ウキウキしながら彼の部屋に向かった。なんだろう。えっちかな?
促されるままに椅子にかけると、最初の日みたいにレイモンドさんがハーブティを煎れてくれた。レイモンドさんはエルフなのでもともとハーブティは好きなんだそうだけど、性欲を落ち着かせるためになるべくリラックスできるハーブを選んでいつも飲むようにしているそうだ。いろいろ頑張ってたんだなあ……。
「ええとですね、まず、この間は本当に無理をさせてしまって申し訳なかったです」
「またその話ですか? それはいいんですよ、その分わたしももらってるものがいっぱいあるっていつも言ってるじゃないですか。新しくお洋服を買うお金もいただけましたし、わたしは大丈夫です」
「いえ……私が、男としてシルキィ君に頼りっぱなしなのが情けないなって思っていて。ある程度は君に甘えずに自分でなんとかコントロールしなければと思っていまして」
え? 何? やだやだ。もっと頼ってよう。男のプライドとかそんなのいいじゃない。
「それで一つお願いがあるんですが……」
「あっ! 契約は切らないですよ!?」
「ち、違いますよ! 契約は……その、続けたいです。今更、君の体を知る前には戻れる気がしないので……。そうではなくて、それとは別のお願いがですね……」
珍しくもごもごとした話し方をするレイモンドさん。リィナさんから天然ジゴロと称された普段の滑らかさはどっかに行っちゃったみたい。どうしたんだろう。
不思議に思っていると、チャリ……と大きな手がテーブルの上に何かを置いた。見てみると、小金貨一枚。何? このお金。
「こういうことに値段をつけるのは失礼かと思ったんですが……その」
「??????」
「……今穿いている下着を、脱いで私に貸してくれませんか」
……んっ?
「は?」
「すみません! いきなり意味がわかりませんよね!! 説明します!!」
耳の先を赤くして取り乱すレイモンドさんはすごく新鮮。聞くと、どうやら性欲を一人で解消できるようにしたいので、自慰の練習をしたいけど、何もなしだといつまでたっても終わらないのでわたしの下着で気持ちを高めたいらしかった。なんかこれ、レイモンドさんが一人で考えたんじゃなさそうだな……。
「え、エルフは通常自慰なんかしないので、私も上手くできないんですが、139歳にもなって自分を一人であやせないのは恥ずかしいって思ってしまって! お願いします! 私に君の下着を貸してください!!」
「……えーっと……」
「いけませんか……?」
すがるように見てくるレイモンドさん。考えはわからないでもないんだけど、お金もらってはいって渡すの、なんか嫌だな……。
「わかりました。貸します。だけど、このお金じゃいやですね」
「そうですか。それではいくらだったら……」
「お金はいらないので、ちゅーしてください」
「えっ?」
何を言われたのかわからないという顔で見てくるレイモンドさん。
「えっちの時にするべろべろしたいやらしい奴じゃなくて、優しく、ちゅっ……てする奴、してください……」
言いながら恥ずかしくて、わたしはまたスカートの裾を握ってもじもじしてしまう。淫紋がじわっと熱くなった。レイモンドさんの顔を見ると、レイモンドさんも頬を紅潮させていた。
「どうしたんですか? 初めて会った日もそういうキス、平気でしてたじゃないですか」
「そ、そうですね……私は何を照れているんだ……おかしいな」
「そうですよ、さあ。お願いします」
目を閉じて、レイモンドさんの唇を待つわたし。いつ来るのか、いつ来るのかと思いながら待つキスは、思ったよりドキドキする。真っ暗な視界の向こうで、大きな気配がそわそわと動いているのがしばらく感じられて、それから何か急ぐように暖かくて柔らかくていい匂いのする何かがちゅっ、とわたしの唇に触れた。
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