※この作品はR-18です。

はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話   作:ケロリビドー

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39.はらぺこサキュバスと催眠講師

「シルシル、ちょっとこっちおいで♡」

「なあに? わたしそろそろ講習の申し込みしに行こうと思ってるんだけど」

 

 一晩明けて。出かけようとしたらおねえちゃんが手招きしていた。いいからいいから♡ とおねえちゃんの部屋に連れていかれる。

 

「じゃーん! シルシルが帰ってきたらあげようと思って新しい服作ってたの♡」

「わあ!」

 

 おねえちゃんは地元の下着屋さんで働いている。サキュバスは基本的に下着しか着ないのでお洋服と言ったら全部下着のことを指す。おねえちゃんは腕のいいお針子なのでこのあたりのサキュバスたちが喜びそうないろんなデザインの下着を日夜開発しているのだ。恥ずかしくて下着で歩けないわたしの服は、いつもおねえちゃんが作ってくれていた。

 

「人間の服はサキュバスからしたら布多すぎだからねぇ。でもほら、これならそこまで恥ずかしくないでしょ。ね、着て見せて見せて♡」

 

 おねえちゃんが作ってくれた服は羽や尻尾が窮屈でなく出せるように背中は全部空いてるけど、体の前側は全部隠すデザインでハイレッグカットのボディスーツの上からさらにもう一枚下着を穿くような、露出度は少ないけどセクシーで可愛いデザインだった。色もやさしい白とクリーム色。これならわたしでも着れる。

 

「おねえちゃんありがとう、これなら外歩いても平気だと思う!」

「うんうん、洗濯替えもあるからね。頑張るんだよ」

 

 おねえちゃんに見送ってもらってわたしは学び舎に向かう。道すがら、畑や家畜を育てている農場が見えた。かつては毎日のように歩いていた道だけど、ずっと人間の世界にいたから久しぶりだなあ。

 サキュバスやインキュバスだけでなく、わたしの産まれたこの世界に生きている生物はみんな、精気を栄養としてとる必要がある。こちらの世界の土は人間の世界のそれよりも精気に満ちていて、それから産まれた生き物だけを食べて生きていたころのサキュバス、インキュバスはもっと原始的だったと習った。ある時、異境界領域を渡ってよその世界の住人から精気を奪うやり方を見つけたとても賢いサキュバスがいて、そしてその精気は土から得られる精気よりもずっと濃厚で、良質で、他のサキュバスたちの頭も賢くした。それからはずっとよその世界に渡って住人を誘惑したり幻惑したりして精気を奪うのに特化した教育が誰でも受けられるようになって、それ専用の学び舎に通うのが普通になったのだ。わたしは……途中で発現するはずの催眠の能力が現れなかったからいままで休学していたかたちになる。

 

「あ、ローパー牧場……」

 

 金網で囲われた土地の中を、りんごぐらいの大きさのローパーがうねうね這いまわっていた。レイモンドさんは巨大なローパーに呑まれて狂化にかかってしまったんだったな……。

 牧場のおじさん(といっても外見は若いインキュバスだけど)がカゴにいっぱい入れた虫を金網の内側に放つと、黒い甲虫は自分からローパーに突進していって次々食べられていた。うわ……えぐい光景。この間おねえちゃんが、ローパーは状態異常で餌の虫の動きを縛って逃げられないようにしてるんじゃないかって言ってたけど、なんかちょっと違うような気がするな。

 

「お嬢ちゃん、おはよう。こんなの見てて面白いかい?」

「あ、おはようございます。いえ、なんかローパーが食事するところ、あらためてしっかり見たことなかったなって思って……」

 

 立ち止まって見ていたらおじさんが話しかけて来た。緑の肌のセクシーでハンサムなインキュバスさんだ。

 

「こいつらなあ、頭はそこまで良くないんだけど変わった狩りするんだよ。まず触手についた目玉で餌に催眠をかけて動かなくできる。そうやって一回呑み込んだ餌を生かしておいて吐き出すんだ。吐き出された餌はおかしくなっちまって、猛烈に繁殖したら今度は自分から食われに行くんだよ。だから雄の虫だけ一回呑み込ませておいてまた回収して、雌と番わせてからもう一回あげるんだな。ちゃんと自分が呑まれた相手のローパーがわかって、そいつに食われに行くんだぜ。見てみ」

 

 おじさんが指さした先で、ぐるぐると走り回ってから特定のローパーに食べられに行く虫たちがだんだんその数を減らしていくのが見えた。

 

「今年のローパーはよく食うぜ。丸々太って食いでがあるから、出荷が楽しみだな」

 

 そんなことを言って笑うおじさんを見てたら、なんだかすごく怖い気持ちになってきた。レイモンドさんは、一回呑まれたあとどうして助かったんだろう。まさか。まさかね。

 

「わ、わたしもう行かなきゃ!! お疲れ様です!」

「おう、転ぶなよ~」

 

 あのあと一度も巨大なローパーに遭遇してないって言ってたから大丈夫だと思うけど、不安になってくる。はやく催眠をコントロールできるようになってレイモンドさんの所に帰りたい。

 

「こんにちはぁ……」

 

 かつて通っていた学び舎の扉を叩いた。隠密スキルと幻惑魔法までは誰でも使えるしみんなで教わるけど、催眠あたりからはわたしみたいに覚えるのが遅い人はたまにいるので、講習と試験はわりといつでも受けられるようになってて、専用の窓口があるのだ。

 

「うーっす、催眠ですか。講習も試験も初めてで……ってシルキィじゃねえか。昨日ぶり?」

「えっ!!?」

 

 窓口から顔を出したのは、昨日わたしのマントを引っ張った赤いインキュバス。アルベリオだった。

 

「おいおーい、なんだよ、お前まだ催眠使えなかったのかよ、ウケる」

「……なんでアルベリオが窓口にいるの」

「なんでってこたねえだろうよ~。俺、ここの講師だし」

 

(あの子去年都会から帰ってきて~)

 

 そういえば昨日おかあさんが何か言いかけてた気がする。これか~。ちゃんと聞いておくんだった……。

 

「アルベリオがわたしの先生になるってわけ?」

「なんだよ、嫌なのか? まあでも今空いてんの俺しかいねえから、嫌でも俺に教わるしかないんだぜ~、まあいいじゃん。仲よくしようぜ。俺教えるの上手よ?」

 

 いやだなあ……わたしアルベリオ苦手なんだもん……。

 

「そんな顔すんなし。とりあえずこれに名前書いたら隣の部屋に来な。どんくらいのもんなのか見てやるから」

 

 渡された書類に記入して、促された部屋に入る。中で机に脚をのっけて座っているアルベリオが待っていた。う、偉そう~。

 

「まずおまえの精神力を見よっか。催眠はな、相手を圧倒してないとかけられないモンなんだよ。コイツに支配されても仕方ない。てかむしろ支配されたい、もう半分されてるって状態じゃないとな。そこまで持っていくには相手の精神力を上回るくらいの説得力をおまえが出せるかにかかってるワケ」

 

 偉そうだけどちゃんと先生してる……。わたしはアルベリオ個人への評価を一回忘れて集中することにした。

 

「幻惑魔法は使えるな? とりま、何か出してみ」

「何か? うーん……わかった。出してみる」

 

 わたしはいつもの白シルキィを幻惑魔法で出して見せた。攻撃されたら血を吐くだけの人形。これが一番得意だし、これしか出せない。

 

「オイオイオイオイオイ完成度低いな。なんで白いんだよ。精神力もそうだけど、想像力も足りてないんじゃね? おまえより年下でも、体温とか息まで感じられるような幻惑出せる奴いっぱいいるぞ。だから催眠使えるようになんのもおせーんだよ。おまえの親とかなんもアドバイスとかくんねーの?」

 

 むっか……!! 親は関係ないでしょ……!

 

「とりあえず、まだ試験とかできるような水準じゃねーな。ちょっと自分で練習して、最低でも色がついてる奴出せるようになったらまた来いよ。あと、自分の姿って案外自分では見えねーから、正面以外はクオリティ低いこと多いぜ。家族でも友達でもいいから、よく見て想像できる奴で練習してみな。できるようになったら次行かせてやっから。オツカレ。バイバイ」

 

 追い出された……。仕方なく、今日は元来た道を帰る。

 

「おかえりシルシル~。初日どうだった~?」

「まだ水準じゃないって言われて帰された……」

 

 出迎えてくれたおねえちゃんは、わたしの答えを聞くとからからと笑った。

 

「よくあるよくある!! じゃー、おねえちゃんと一緒に練習しよう!! あ、その前に今からエロフェロモン放出体操やるからやんない?」

「やる!!」

 

 気がかりなことも多いけど、今やれることを精一杯頑張るだけだ。レイモンドさん、待っててね……!




 揚げシバリックビはこちらの世界のヘルシー鶏から揚げくらいのポジションの料理なので味も多分そんなかんじです。
 シルキィ頑張れの気持ちは感想、評価、ブクマなのでいただけると嬉しいです!
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