はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
49.リィナの予感①
その日あたしとドーソンがギルドに訪れると、レイモンドの姿がなかった。
「リィナ、これ見てみろよ」
あたしたちが冒険者としてではなくマッピング班としてダンジョンに潜るようになってずいぶん経つが、ドーソンは変わらずここに来ると依頼の掲示をとりあえず見る。どれどれと近づくと、そこには各マッピング班班長へギルド長からの呼び出しの知らせが貼ってあった。
「ねえ、あたしらの班長は今上にいるのかい?」
受付の彼女に尋ねると、今ギルド長を交えて会議中ですと教えてくれた。
「なんかあったのかよぉ。こないだみたいに二班だけとかじゃなくて、全部の班って珍しいなぁ」
「まぁ、とりあえず降りてくるまで待つしかないよね」
ドーソンの疑問の答えをあたしが知るはずもないのでそうやって答えると、あたしは壁に寄りかかった。見回してみると、他の冒険者たちも気になっているようでヒソヒソと噂話をしている。
(やべーモンスターが出たって言ってた奴が居たんだよ。今は教会で収容してるらしい……)
(収容してるってなんだ? なんか後遺症でも出たのかよ。そういえばあのマッピング師のエルフが狂化のモンスター被害にあったって話あったよな。あれって結局本当なのか?)
(あったあった。治療アイテムの依頼出してたよな。本当なんじゃね?)
「まったく……皆さん耳が早いですこと」
「それでご飯食べてる奴もいるからニャー」
教会、の名前が出てくる噂話に顔をしかめながらマノンが近づいてきた。アーダも一緒に居る。
「マノン、アーダ。そうか、ライオットも呼ばれてるんだもんね。一体何が起こってるんだい? その様子だとあんたは何か知ってるようだけど」
「リィナにドーソンもおはようございます。あんまり大きな声では言えないのですけど実は……」
「あっ! ライオット降りてきたニャー!」
アーダの声に顔を上げると、階段をマッピング班班長たちがぞろぞろと降りて来た。レイモンドもいる。一番最後に、めったに下に降りてこないギルド長もいた。普段全員ひとところに揃うことのない顔ぶれに、みんなざわざわと騒いでいた。
「皆さんおはようございます。今からギルド長から発表がありますので」
レイモンドとライオットがこちらにやってきて、ギルド長の方に向き直ったので、あたしたちも傾注した。
「ギルド長のカストロビエホだ。ここにいる者だけでも聞いて欲しいことがある」
ギルド長が話し始めるとその重厚な声に、騒いでいた冒険者たちは静かになった。
「昨日、一番目のダンジョンの奥で巨大なローパーに遭遇したという報告を複数受けた。五年前にマッピング師のレイモンドが遭遇した例があるので存在自体は大いにありうる。それ以来目撃報告すらなかった理由を先ほど班長達と話し合っていた。そこで生還できた目撃者がおらず、加えて広範囲でダンジョン内を常に移動しているのではないかという推測がなされた。諸君も知っている通り、一番目のダンジョンに潜るのは冒険初心者が多い。我々ギルドは現在、町長からダンジョンの自治も任されている。上級者でも手こずるようなモンスターを徘徊させたままでいるわけにはいかない」
五年前にレイモンドたちが踏破した一番目のダンジョンは、宝箱も軒並み開けられ、開けても中に入っているのは知能のあるモンスターが入れたしょぼい物ばかりなので初心者が腕試しに入ることがほとんどで、マッピングもたまに開く横穴くらいしかなかったし、罠もほぼ攻略されているので、かつてのレイモンドみたいに子供に付き添う物好きでもなければもうあまり上級者は入ることがなかった。一番目担当のマッピング班も他の穴と兼任しているほどだ。
「これからギルドとして依頼を出す。ダンジョンの地下十階以上潜ったことのない者は遠慮してほしい。これは上級依頼だ。腕に覚えがあるものは巨大ローパー討伐に向かってくれ。詳細はこれから掲示するのでそちらを参照のこと。以上だ」
職員によって掲示板に巨大ローパー討伐の依頼がでかでかと貼られる。なかなかの報奨金に沸き立つ者、未知の強敵に尻込みする者など様々だった。討伐依頼の出ている間は、初心者は立ち入り禁止になるらしい。気の毒だが、運の悪い初心者を助けながら探索しないで済むのは効率が良かった。
「皆さん、聞きましたね? 私たちはマッピング班として参加することになります。特に私は巨大ローパーを調べて狂化治癒の糸口を探りたい目的があるのですぐにでも潜りたいです」
レイモンドは見るからに気がはやっていた。そりゃそうだ。レイモンドは一人で悩みながらずっと巨大ローパーを探していたのだ。あたしだって、これがレイモンドが楽になる助けになるならいくらでも協力したい。ドーソンだってそうだろう。けど。なんだろう。あたしはなんだか、じんわりと嫌なものを感じていた。
あたしは、シーフだ。別に盗みなんかはしたことないけど、技能としてシーフ職を選択している。それはあたしが生まれつきこういう嫌な感じがするものに気付くのが得意だからだ。だから罠を見つける確率も高いし、解除も得意だ。
かつて幼いあたしたちに手を差し伸べようとした大人はレイモンド以外にもいた。そいつらを断ったのは主にあたし。なんとなく嫌なものを感じる相手にはついて行かない。それであたしは自分とドーソンを守ってきた。
ダンジョン内でレイモンドとヤった時も、これ以上放っておいたらレイモンドがぶっ壊れるような感じがしたからだ。その時は狂化のことは知らなかったけど、今はその選択をしたのは間違いじゃなかったと思ってる。
そのあたしが、今まさに嫌なものをひしひしと感じていた。
「レイモンド。凄く嫌な感じがする。これはきっと、良くないやつだよ」
「そうなんですね……。だけど、行かないわけにはいきません。私は、呼ばれているような気がする。長い苦しみに決着をつける時が来たような気がするのです」
「だったらよぉ、いろんな可能性を考えて手を打っておこうぜぇ。どっちにしろマッピング班は仕事として行かなきゃなんねえんだろ? どうせよ」
ドーソン、良いこというじゃん。そうだ。考えよう。
「今回はマッピング目的で行くわけじゃないけど、いつもの緑の明かりを使ったほうがいいと思う。もしこの間のカルキノスの時みたいに誰か一人が助けを呼ぶことになっても迷わないし、助っ人を連れて戻るのにも手間取らない。呼ばれてる気がするってんならそこまで道を作ろうじゃないか。そういうのはどうだいレイモンド」
「いいですね。各班の進んだ道が見ただけでわかるようになるし、行ったルートが外れだったときに他の班がもう見ているところをもう一度進んでしまう愚も避けられます。わかりました。他の班の班長に提案してきますよ」
「今聞いてたけど、悪くない案だね。俺も伝えてくるよ。気の早い奴はもう出ちゃいそうだもんな」
レイモンドとライオットは急いで他の班長を集めて話し合った。
「リィナ、怖い顔してますのね。リィナがそんなに嫌なものを感じるのだったらわたくしたちも気を引き締めてかかりますの」
「蓋を開けたら案外しょぼかったってこともあるかもしれないし、あんまり気負いすぎるななのニャー」
そんなに怖い顔してたか……。マノンとアーダが気を使って、声をかけてくれた。そうだといいと思う。レイモンドが以前呑まれたときも、下の階層に落ちたときにちょうどローパーの真上に落ちてしまってそのまま呑まれたのが不運だったとも言えるし。
レイモンドとライオットが戻ってくるのを待ってから、あたしたちはダンジョンへ出発した。
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