※この作品はR-18です。

はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話   作:ケロリビドー

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 当て馬救済回アルベリオ編です。ミルキィ視点。


番外編5.おねえちゃんのおべんとう

 妹が人間の世界で婚姻した。

 私はというと毎日あまり変わらない。毎日楽しく仕事をして、好きな食べ物をいっぱい食べて、たまに男の精気を吸いに行ったりする。うちは各自自分の好きに過ごす家なので私がどう過ごそうが別に誰も構わない。だけど妹は姉である私に一つ頼みごとをして嫁いでいった。それはちゃんと何とかしてあげようと思う。

 

「わー、今日もおいしそうにできたな~。やっぱりこの揚げ時間がマストだわ~」

 

 猛りの粉をたくさん使った揚げシバリックビは綺麗なきつね色にカラっと揚がっている。こんなおいしそうなものを目の前にして食べないという選択ができるやつなんか絶対いないって色。

 私はそれをちょいちょいとお弁当用の器に詰めて、お昼の黄色い光の中を飛ぶ。こっちと人間の世界、空の色が全然違うから、青い空の下の妹の白いドレス綺麗だったなー。

 目当ての建物が近づいてきたので高度を落とす。あー久しぶり。こんなだったかー、行かなくなって結構経つからなー。

 

「アルアルいるー?」

「あ? なんだ、ミルキィじゃねーか。珍しいな。どうしたんだよ」

 

 アルアル、アルベリオ。学び舎で先生をやってる、近所に住むインキュバスの男の子。私の同級生で、ついこの間私の妹に振られた奴。あれから今一つ精彩を欠いた佇まいで仕事に行く姿をよく見た。近所では、なんか大人しくなっちゃったともっぱらの噂だ。書類仕事してたみたいで、眼鏡をかけてる。

 

「あれ? 眼鏡? アルアル目悪かったっけ?」

「気分」

「そっかー。あのさー。揚げシバリックビめっちゃ揚げたから食べなーい?」

「またそれかよ、おまえほんと揚げシバリックビ好きな。ここで勉強してた時も毎日毎日……。まあいいや、飯まだだしな」

 

 タイミングよくお昼の鐘が鳴る。ちびサキュバスたちがばたばたと教室から出ていく声がうるさく響いた。私たちはふたり連れだって使ってない教室に移動してお弁当箱を開ける。

 

「全、シバリックビ!! あの頃と全然変わってねえのな! 安心するわ逆に」

「いーじゃん、あの時より全然おいしいの作れるようになったんだから、食べてよ」

 

 アルベリオが入れてくれた地獄豆茶が湯気を立ててる。揚げシバリックビはさっき揚げたばっかりだからまだそこそこカラっとしている。アルベリオの白い前歯が衣をザクっと噛む音が聞こえてきた。インキュバスは肌の色が濃いから、歯が凄く白く見えるんだよね。

 

「ふん、うめーじゃん」

「しょ? アルアルは食べ物に関しては素直だから作り甲斐あるわぁ」

「食べ物に関してはってなんだよ、俺はそこそこ素直だっつーの」

「言うわ~。うちの妹に対してはややこしいことやってきたくせにさ」

「あ? あー。うん。すまねえ。なんかその辺考えようとするとボヤボヤしちまって、コメントできねえわ。俺何やってたんだろうな」

 

 アルベリオは遠い目で窓の外を見ながら口の中のシバリックビをもぐもぐと咀嚼している。妹への想いを催眠で消されてしまったので自分でもよくわからないのだろう。乱暴なことをしてしまったと。私の優しい妹は家を出る前に私に言っていたのだ。

 

「アルアルは好きな子いじめるタイプだからさあ、シルシルのこと好きなのみんな知ってたし。都会に行った時もシルシルに追いかけてきて欲しかったんでしょ。うまくいってると思ってたんだ。いじめる奴なんか好きになる子いるわけないのに。バーカ」

「うるせえな……。もう好きじゃねえし。あいつもうあのエルフ野郎と婚姻しちまったんだろ。さすがに他の男のモンなんか俺だって欲しがらねーよ」

「そういうとこ。悪くなりきれないの、アルアルのそういうとこ、私好きよ」

「ッハ。そりゃどーも。執着がなくなったからって自分が負けたのくらい理解してるぜ」

「でもね、エルフの彼と婚姻したってシルシルはシルシルのものだから。そうやって恋愛を勝ち負けで考えてるからアルアルは負けるんだよ」

「あー!? なんなんだおまえはよ! 俺に喧嘩売りに来たのかよ!」

「そんなことするほど私も暇じゃないよ。出会い、性交、あやまち、路地裏、仲間達」

「ハッ!!!????!!!???」

 

 五つの言葉を聞いたアルベリオは、どこかぼんやりしていた瞳に一瞬で精彩を取り戻した。

 妹の私への頼み事は、『アルベリオに彼の気持ちを返してあげて欲しい』だ。ほんとに優しい子だ。

 

「おまっ……! いきなりなんてことしやがんだ……。うお……、ぐ、くっそ……」

「ちゃんと失恋しときなよ。ぼんやりしちゃってさ。私だってそんな大人しくなっちゃったあんた見てらんないよ。シルシルの幸せは壊させないけどね。でもあんたにだって自分の気持ちを大事にする権利あるからさ。だから、催眠解きに来たの」

 

 アルベリオはしばらく頭を抱えてうーうーと唸っていた。鈍っていた失恋の痛手が数日分一気に押し寄せているのだ。そら頭も痛かろう。

 

「……うう。シルキィから聞いたのかよ、その解除ワード……。くっそ……負けるはずだわ……。おまえの妹、とんでもねえよほんと……」

「でしょ~? 自慢の妹なんだからね。で? どうする? 気持ちが戻ってきたけど、シルシルのこと追いかけたいと思う?」

「……いや。そんなみっともねえことできるかよ。これ以上恰好悪くなんかなりたくねぇわ。シルキィにはおめでとうくらいしか言えることはねえな」

「そう。ふふ。アルアルはちゃんと恰好いいから大丈夫だよ」

「うーっるせえわ……」

 

 あー、ちくしょうちくしょう! と天井を仰いでじたばたするアルベリオはちゃんと昔から恰好いい男の子だ。彼に惚れなかった女の子は私の妹と彼の妹くらいしかいない。そして、その他大勢には当然私も入ってる。

 

「ねえ、私とヤんない?」

「あ? おまえとか? おまえの妹に振られたばっかの俺が? そんなん手近なところで済ませたみてーでダサすぎんだろ。お断りだぜ」

「バーカ!! 手近じゃなきゃお近づきにもなれないでしょーが!! 夜あんたの家に行くから、おばさんとリルリルにちゃんと言っておいてよね!! お粗末様でした!!」

「あっ、ごちそうさまでした。じゃなくてよ!! おい!!」

 

 空の器を回収して、私は教室から出る。お昼休みが終わったちびサキュバスたちがわらわら戻ってきた廊下を通って外に出ようとすると、追いかけて来たアルベリオが追い付いてきた。

 

「待てって、おい……。あのさ」

「なあに?」

「……声は抑えろよな。おまえのあの声、デカすぎて窓割れるからよ……」

「ヒヒヒ。シルシルはいい女だけどね。私だってめちゃくちゃいい女だから、今夜はそれを思い知らせてあげるからね」

「期待してるよ……」

 

 羽を広げて空中に浮き上がる。おなか一杯食べた後なのに心も体もすっごく軽い。

 

「シルシルも幸せになったことだし、ママはいつも幸せそうだし。今度は私が幸せになってもいいよね!!」

 

 なんだか気分が最高で、私は意味なくすっごい高いところまで飛んだ。




 次回はもう一人の当て馬を救済したいと思います。
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