はらぺこサキュバスが性欲の強い男エルフと一夜のあやまちで契約してしまう話 作:ケロリビドー
無事にララミィを家まで連れ帰ったレイモンドとアルベリオはまずは土と埃でどろどろのララミィを風呂に入れて隅々まできれいに洗った。アルベリオは自分一人でいいと言ったが、ララミィがレイちゃとお風呂入ると駄々をこねたので、でかい男二人と女児でわちゃわちゃと入浴をすることになった。
「ただいまーっ! あれ!? ララお風呂入ったの?」
「ママお帰りなさい! レイちゃとパパと一緒に入った!」
「まだお湯が暖かいので、もしシルキィ君たちも入るなら早めにどうぞ」
「あ、レイモンドさんありがとうございます。じゃあおねえちゃん、久しぶりに背中流しっこしよう?」
「よーっし、久しぶりにぴっかぴかにしちゃうぞ~」
「ララちゃーん、ララちゃんの服いっぱい買ったからママたちがあがったら着て見せてね~」
シルキィとミルキィは久しぶりの姉妹水入らずが楽しかったのか上機嫌で浴室に消えて行った。女性陣の声が聞こえなくなるとアルベリオが歯切れ悪く娘に話しかける。
「……なあ、ララよぉ~。物は相談なんだがよ、今日あったことは、その、ママには内緒にしといてくんねえかなぁ~」
「ええ……言わなきゃダメじゃないですか? 危ないことがあったんだし、あっちについて行っても同じこと起こった可能性あるんだし……」
「黙ってろ、エルフ。な。な~? なんか一個パパが買ってやるから、な?」
「ん~、じゃーねえ、チェルばぁばがつけてるデスアクメパフュームのキッズモデル買ってくれたらいーよ」
「あんなえぐい匂いの、ちびサキュがつけるような香水じゃねえよ……」
「じゃー言っちゃお、ママ~♡」
「まてって! わかったって!!」
「ははは」
レイモンドは、生意気で可愛いララミィとタジタジのアルベリオを眺めて微笑む。子供を育てるのはいいものだ。しかし実際自分の子供を守り、責任もって育てるのはとても大変なことなのだ。
「畜生、マジでこすっからいな。いったい誰に似たんだ……。おい、笑ってんじゃねえよ。飯済んだらサシ飲みすっぞ。お前とは一度じっくり話してみたかったんだよ」
「ええ、是非ご一緒させてください。行きつけの店に行きましょうか」
その後風呂から上がってきたシルキィとミルキィが二人で肉と芋を大量に油で揚げ、五人でわいわいと夕食にした。ララミィは沈黙のご褒美がよほど楽しみらしく、昼間会ったことをミルキィに告げることはなかったようだ。
「おいシルキィ、ちょっと旦那借りるからな。こっから先は男の時間だぜ」
「え? アルベリオとレイモンドさん、いつの間に仲良くなったの? 昼間何かあったの?」
「まーな。寝取って朝帰りになっちまったらごめんな」
「は? そんなことしたらあんたのことぶっ殺すんだけど?」
「私はシルキィ君一筋なので……あまり遅くなりすぎないようにしますのでちょっと親交を深めさせてくださいね」
アルベリオのからかいに噛みつかんばかりに突っかかるシルキィに断りをいれ、レイモンドはアルベリオを連れて、かつてシルキィの家族と顔合わせをした店に赴いた。
大柄なレイモンドとアルベリオは夕食後でもまだまだ全然腹に余裕があったので、その店の定番メニュー、小腹満たしと呼ばれるひき肉の団子で酒杯を傾けた。
初めは料理の味の話や街の印象の話などの雑談をしていたが、酔いが回るにつれ話題はシルキィの話になった。
「俺、シルキィのこと好きだったんよな。まあ聞いてるだろうと思うけど」
「はい、伺っています。シルキィくんは優しくて可愛いので何も不思議なことはないです」
「ああ、そうだな。それにあいつは案外気が強い。控えめに見えるが我も強い。自分がこうと決めたらやり通す肝の強さがあるんだ」
「そうですね。とても素敵な女性です。私にはもったいないくらいです」
「もったいなかったらどうすんだ? もっとふさわしい相手がいたら負けるのか? お前は」
べ、と長い舌に酒杯の最後の一滴を垂らしながらアルベリオが尋ねる。その問いに、レイモンドはニコニコと笑顔のまま答えた。
「もったいないので、死ぬまで身の丈に合わない贅沢を享受させてもらいます」
その答えを聞くと、アルベリオは一瞬酔いに据わった目を見開く。そして大声で笑いだした。
「……はっはっは。あーあ、改めて完敗だな」
「勝負なんてしてましたっけ?」
「俺はな」
笑いながらアルベリオはレイモンドの酒杯に酒を注いでやる。
「あいつの催眠の試験を受け持ったのは俺なんだよ」
「そうらしいですね。ありがとうございます」
「試験の時にさ、シルキィが言ってたんだよ。『わたしのレイモンドさんはわたしがピンチの時は絶対助けに来てくれる』ってな」
「ん……逆ですよ。私のピンチの時に助けに来てくれたのはシルキィ君の方でしたし……」
「まあ聞けよ。でな、今日のお前見てたら、実際それは本当なんだろうなってそう思ったんだよ。改めて、ララのこと助けてくれてありがとうな。レイモンド。んで、シルキィのことよろしくな」
そう言ったアルベリオの顔は、レイモンドにとって恋に敗北した卑屈な男の顔ではなく、憎めない兄の顔に見えた。
「もっと飲めよ。夜はまだこれからだぜ」
「ミルキィさんに怒られちゃうからほどほどにね……」
乾杯、と二人の義兄弟は酒杯を打ち付け合った。
次の日、飲みすぎで痛む頭を抱える二人にシルキィが蜜を混ぜた柑橘の果汁を飲ませていると、ドアを叩く小さな音がした。
「……お、おはようございます。あの、ララミィちゃん、いますか」
シルキィがドアを開くと紙束を抱えて俯いた男の子が一人立っていた。
「リット、おはようございます。君、一人で来たんですか?」
「レイモンド先生、おはようございます。あの、ぼくララミィちゃんに渡したいものがあって……」
「リット!」
昨日ララミィと一緒に大冒険をしたリットが来ていると気が付いたララミィが奥から駆けだして来た。内気なリットが話しづらいだろうと思ったので、レイモンドはララミィとリットを庭に置いてあるガーデンチェアに座らせてそっとしておいてあげた。
「おはようリット。どうしたの?」
「お、おはよう。えっとね、これ……」
リットは抱えていた紙束から何やら選び取り、その一枚をララミィに差し出す。
「なになに? これなぁに? 見ていいの?」
「う、うん。ララちゃんだけ特別。他の人に見せないでね……」
受け取った紙をララミィが広げてみると、そこにはララミィが大人のサキュバスになったらこんな感じかな、といったような煽情的なサキュバスの絵が子供にしてはこなれた筆致で描かれていた。
「これ、ひょっとしてララ?」
「う、うん。大人になったララちゃん、描いてみた。なんとなく似合いそうだったから角と尻尾と羽つけちゃったけど……。昨日危ない目に合わせてごめんって思って……でもぼくお金ないから、お礼にできるものこのくらいしかなくって……い、嫌だったら捨てて!」
ぎゅっと目をつぶったまま言うリットをよそに、ララミィはその絵をまじまじと眺める。
「い、嫌じゃない?」
「うん。嫌じゃない。気に入った。これ、もらっていいの?」
「一番うまく描けたやつだから……もらってほしい」
「ありがと、リット!」
ララミィは白く輝く乳歯の口をにかっと笑みの形にして笑うと、リットの唇にちゅっとキスをした。今度は精気を吸ってしまわないように我慢した。何をされたのか理解したリットは真っ赤になって狼狽える。
「わ、わ、えッ、今のって」
「ララもごめんね。ララがあんなこと言わなきゃリットは危ないとこに行かなかったもん。だから今のはララのお返しのごめんねだよ」
「わ……あ……」
「絵物語、描けたらララに見せてね!」
そんな二人の様子を大人たちは家の中から窓越しに見ていた。
「もう彼氏作っちゃうんだ……ほんとに優秀だなあ……ララちゃん」
「当然だぜ。なにせ俺と」
「私の娘だもん!!」
「またララちゃん連れて遊びに来てくださいね」
レイモンドとシルキィの家は、これからもきっと笑いの絶えない暖かい場所だろう。そこに新しい風が吹くのを感じ、エルフとサキュバスの夫婦は顔を見合わせて笑った。
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