6-1:如月千夜子と嫁菜つくし
「つくしくん、ハッピーバレンタインだよ!」
二月十四日。夜。
ショコラ高校生徒会での仕事を終え、
三年C組所属、元生徒会長・如月千夜子。
チョコレート色のセミロングヘアー。小柄なつくしよりも頭一つ分以上大きな背丈。グラビアアイドル顔負けのスタイル。凛々しさと親しみやすさが同居している、生徒会長らしい生徒会長だった先輩の女性。
今夜、彼女の両親はいない。バレンタインデーだからだ。彼女の妹も泊まりだという。バレンタインデーだからだ。
恋人の家で、恋人の部屋で、二人きり。
待ちに待った、付き合って初めてのバレンタインデーだった。
「ありがとうございます、如月先輩!」
「んー、如月先輩?」
受け取ろうとした箱が、引き戻される。
「あ、すみません。ち、千夜子さん……」
「ふふっ。はい、どうぞ」
千夜子が手渡してくれたのは、コンドームだけではなく、コンドーム専用のケースや、精力剤や、使い切りタイプの潤滑ゼリーが詰まった高級品──
いわゆる、本命コンドームの箱だった。
「わぁ、ありがとうございます、千夜子さん!」
「喜んでもらえたみたいで嬉しいよ。じゃあ、さっそくだけど……」
「あっ、ちょっと待ってください」
つくしは自分の鞄を引き寄せた。
「千夜子さんに、渡したいものがあるんです」
「渡したいもの?」
「──じゃん! ハッピーバレンタインです!」
つくしは鞄から取り出した大きな箱を──
コンドームだけではなく、コンドーム専用のケースや、精力剤や、使い切りタイプの潤滑ゼリーが詰まった高級品。
いわゆる本命コンドームの箱を、差し出した。
「ぼくからの本命コンドーム──千夜子さんへの、逆コンドームです!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
二月十四日。バレンタインデー。
それは、女性がセックスをしたい男性にコンドームを贈る、特別な一日──
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「如月先輩、好きです。ぼくと、付き合ってください!」
十二月二十四日。クリスマスイブ。
ショッピングモール内に飾られた巨大クリスマスツリーの下で、つくしは如月千夜子に告白した。
そもそもの始まりは、一目惚れだった。
ショコラ高校に入学したその日、生徒会長として校門の前でにこやかに挨拶運動をしていた彼女に、つくしは一目惚れをしてしまったのだ。
「おはようございます!」
目が合ったつくしを真っ直ぐに見つめ、千夜子は挨拶をしてくれた。
「お、おはようございますっ……!」
思わず挨拶を返すと、彼女はにっこりと笑い返してくれた。
その瞬間、つくしは生徒会に入ることを決めていた。
動機は不純だったが、つくしは懸命に働いた。幸い、千夜子は後進の育成に熱心だった。一年生のつくしでも、会話をする機会は多々あった。その結果、念願叶って、つくしは彼女と仲良くなることができた。
あっという間に半年が過ぎた。三年生の千夜子は、生徒会を引退することとなった。
「あのっ、如月先輩!」
引き継ぎ式の日、つくしは意を決して言った。
「これからも、お話してもよろしいでしょうかっ? その、プライベートとかでっ……!」
それは実質、告白のようなものだった──と、
「もちろんだよ、つくしくん。これからもよろしくね?」
千夜子は、にこやかにそう答えた。
こうして、生徒会を離れても二人は同じ時間を過ごすようになった。
受験勉強の合間を縫って、千夜子は時間を作ってくれた。
一緒に登下校をしたり、昼休憩を一緒に過ごしたり、図書館で勉強会をしたり、勉強の息抜きにデートをしたり──
そして本日。クリスマスイブ。
終業式後に向かったデート先のショッピングモールで──地域では有名なデートスポットとなっている巨大クリスマスツリーの下で──つくしは、千夜子に告白したのだった。
「……ごめんなさい、受験勉強でお忙しいのに。でも……!」
「いいんだよ、つくしくん」
千夜子は首を振って言った。
「私もね、正直どうなのかなって思ってた。受験勉強に集中するべきなんじゃないのかって。時間の使い方を間違えてるんじゃないのかって。でもね、今はつくしくんがいるから、頑張れてるの。つくしくんのために時間を作ろうって思うと、底無しのやる気が溢れ出してくるの。だから私は、大丈夫」
「先輩……!」
「ありがとう、つくしくん」千夜子は満面の笑みを浮かべた。「私でよければ、ぜひつくしくんとお付き合いさせてください!」
「あ、ありがとうございますっ!」
つくしは腹の底から喜びが湧き上がるのを感じた。
「や、やった、やったぁ……!」
「大喜びしちゃって、可愛いんだ」
千夜子は笑った。
「ねえつくしくん、お願いがあるんだけど」
「な、なんでしょうか?」
「付き合うことになった記念に、ハグ、してみない?」
「えっ、いっ、今ですか⁉」
「今がいいんだけど……ダメかな?」
「い、いえ……ハグですね、やりましょう!」
こうして、巨大クリスマスツリーの下で。
恋人同士となったつくしと千夜子は、深く抱き合った。
「つくしくん、大好きだよ」
千夜子が囁いた、その瞬間──
「──先輩、ダメっ、あっ、あああああっ……‼」
ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ、ドピュッ……‼
つくしは、ズボンの中で射精してしまっていた。
※
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「大丈夫だよ。泣かないで、つくしくん」
ショッピングモール一階、男子トイレの入り口にあるベンチで、つくしは千夜子に慰められていた。
トイレの個室で、トランクスの中に出してしまった精液をトイレットペーパーで拭った直後だった。情けなさで、涙が止まらなかった。
「何が起こったのかだけでも、教えてくれない?」
「……ごめんなさい」
つくしは、ポツリポツリと話し始めた。
「先輩との、クリスマスデートが嬉しすぎて……告白が成功したことが、嬉しすぎて……その、少し、ぼ、勃起してたんです……ううっ……」
「そっか。だから最初、ハグを嫌がってたんだね」
「その時は、射精するとは思ってなかったんです……!」
つくしの瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「厚着してるから、先輩に勃起はバレないだろうと考えて、ハグしたんです。でも、ハグが、気持ちよくて、幸せで、それに……」
「……私が、大好きって言ったから?」
「ごめんなさいっ……!」つくしは両手で顔を覆った。「せっかくの、クリスマスデートだったのに! 大好きって言ってくれたのに! ごめんなさい、嫌いにならないでください……!」
「嫌いになんて、ならないよ」
断固とした彼女の口調に、つくしは思わず顔を上げた。
真剣な瞳の──それでいて、頬を真っ赤に染めた千夜子が、囁く。
「私だって、つくしくんとのデートで、エッチな気持ちになってた」
「え……」
「特に今日はクリスマスデートだから、その、何があってもいいように、色々準備もしてきたし……」
「ええっ⁉」
「気持ち悪い? 嫌いになっちゃう?」
「な、なりません!」つくしは力強く首を振った。「むしろ嬉しいというか、あ、いや、その……」
「私も同じだよ。むしろ嬉しい」千夜子は言った。「だって──恋人同士になった記念のハグで射精してくれるなんて、すっごくロマンチックだもん!」
「ろ、ロマンチック……?」
女子にとってはそうなのだろうかと、つくしは首を傾げた。
「でも、そっか。つくしくんは、ド早漏くんだったんだね」
「うう……自分でも、ここまでとは思ってなかったです」
「……ねえ、だったら提案が……ちょっとエッチな提案があるんだけど、いいかな?」
※
「あ、あの、先輩、着けてきましたけど……」
男子トイレから出てきて、つくしは言った。顔を真っ赤にして、もじもじとしている。
「お帰り、つくしくん。着けてきたってことは……勃ってるんだよね、今」
千夜子の興味津々な視線が、つくしの股間を見つめる。
「うう、先輩、なんでこんなことを……」
「それはもちろん、つくしくんがまた射精しても下着を汚さないためだよ」
つくしは今、千夜子が持参したコンドームをペニスに装着していた。彼女は専用のケースに、サイズの違うコンドームを何袋か用意していた。つくしはその中から自分のサイズに合ったものを選び、トイレの個室で装着してきたのだ。
千夜子からコンドームを貰ったという事実だけで、つくしのペニスは再び勃起していた。
「じゃ、行こっか」
「あ、あう……」
つくしは千夜子に手を引かれ、再び巨大クリスマスツリーの下へとやって来た。
改めて、カップルがたくさんいた。地域でも有数のデートスポットなだけはある。先程までは、千夜子とのクリスマスデートに夢中で、周囲のことなど気にならなかった。
しかし、今は違う。今のつくしは、勃起したペニスにコンドームを着けてここにいる。クリスマスムードのカップルたちの中で、射精するつもりでいる。そんなことをしようとしているのは、恐らく自分たちだけだろう。
「これから、またハグをするよ」千夜子は囁いた。「今度は射精しちゃっても大丈夫だから、思いっ切り恋人同士のハグをしようね。もちろん、射精を我慢できればそれに越したことはないんだけど……」
「が、頑張ります……!」つくしも小さな声で言った。
「じゃあ……はい」
千夜子が両手を広げて、彼を誘った。
「先輩……!」
射精してしまう恐怖が、一瞬、足をとどめる。
しかし、今や恋人同士となった千夜子の誘引力には、逆らえなかった。
巨大クリスマスツリーの下で、つくしと千夜子は、再び深く抱き合った。
「せ、先輩、如月先輩っ……!」
「あー、確かに。硬いの、当たってるね」千夜子が、楽しそうな声で囁く。「あ、腰引かなくていいよ。つくしくんのこと、ちゃんと感じさせて?」
「先輩っ……!」
つくしのペニスは、ハグだけでパンパンに張り詰めていた。同時に敏感にもなっており、千夜子の匂いや、体温や、ハグの力加減といった刺激だけで、射精感がじわじわと忍び寄って来ていた。
「ハグだけなら、射精は我慢できるんだね」
千夜子が囁く。
「……つくしくん、大好き」
「ふぐぅ⁉」
ペニスが、ズボンの下でピンッと跳ねた。射精感が、危ういところまでせり上がる。
「ふふっ。今度はちゃんと我慢できたね。偉い偉い」
千夜子が抱き締める力を強めた。
「つくしくん、大好き、大好き、大好き……!」
「如月先輩、あああっ……!」
ペニスの拍動が止まらない。射精が近い。
「ねえ、つくしくん、お願いがあるの」
千夜子が囁いた。
「ハグだけじゃなくて、ファーストキスも、今ここでしてみたいんだけど……ダメ?」
「先輩、ダメ、出ちゃう……!」
「ダメ?」
「ぼ、ぼくも先輩と、ファーストキスがしたいですっ!」
「ありがとう」
ちゅっ、と。
千夜子が優しく、つくしの唇を奪った。
「──んんんんんんんん~~~~っ⁉」
ドピュドピュドピュドピュ~~~~ッ‼
つくしは再び、彼女と深く抱き合ったまま射精した。
「いいよ、思いっ切り出して……」
キスをしたまま、千夜子が囁く。
「んんっ、んんんっ……!」
ドピュドピュッ、ドピュドピュッ……‼
クリスマスムードでイチャイチャするカップルたちの中、コンドームに精液を吐き出す。堂々とキスをするつくしたちのことを、誰も気にしていない。しかしこの場にいる誰も、まさかつくしが射精までしているとは思っていないだろう。
そんな背徳感がスパイスとなり、とてつもない快感の中で射精を終える。唇同士のキスをしたまま、余韻に浸る。
千夜子が、ゆっくりと唇を離した。
「ありがとう、つくしくん」
満足そうに、千夜子は微笑む。
「クリスマスに告白をして、ファーストキスも済ませて、しかも射精までしてくれるなんて……すっごくロマンチックだよ!」
(あ、これ、先輩にとってのロマンチックが独特なだけだ……!)
キスと射精でぼんやりした頭でも、つくしはそう確信した。
「これから、こうやって少しずつ慣らしていこうね」
千夜子はにこにこと笑う。
「目標は、来年の二月十四日、バレンタインデーがいいかな。処女と童貞を一緒に卒業できるように、特訓するの。もし成功したら……すっごくすっごく、ロマンチックだよね!」
ハッピーバレンタイン!
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
本日はバレンタインデー当日ということで、4回に分けた連続投稿を予定しております。
次回更新は06:05、その次は12:05、そして18:05の更新で、最終回です!
どうか最後までお付き合いください!