※この作品はR-18です。

バレンタイン・コンドーム   作:屍蜂朽一

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「R18オリジナルルーキー日間(加点)」ランキングで、1位になっておりました![2025/02/02/16:30現在]
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Case3:残念賞 母親の義理ゴム
3-1:流氷さより、流氷燕


「ただいま」

 

 二月十四日。放課後。

 

「おかえりなさい、燕」

 

 学校から帰宅した流氷(りゅうひょう)燕(つばめ)を、彼の実の母親・流氷(りゅうひょう)さよりが出迎えた。台所で夕飯の支度をしていたのだろう。ウェーブのかかったセミロングの髪をヘアゴムでまとめ、セーターとジーンズの上から紺色のエプロンを着ている。

 

「今年はどうだったの?」

「ダメだった」燕は言った。「誰からも、コンドームは貰えなかったよ」

「あら、そう」

 

 にっこりと、さよりは笑った。

 

「喜ばないでよ、母さん」

「喜んでないわよ」さよりはすうっと笑みを消した。「可哀想な燕。ショコラ高校の女子たちには見る目というものがないのかしら」

「まあ、今年もご縁がなかったってことで……それで」

「安心なさい。ちゃんと用意してあるから」

 

 さよりはエプロンのポケットに手を入れた。

 

「はい、ハッピーバレンタイン」

 

 ありふれたコンドームの箱を、彼女は差し出した。

 

「残念賞。お母さんからの義理ゴムよ」

 

     ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 二月十四日。バレンタインデー。

 それは、女性がセックスをしたい男性にコンドームを贈る、特別な一日──

 

     ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「燕のおふくろさんってさ、美人だよな」

 

 二月七日。ショコラ高校。健康診断中の、二年B組の教室。

 流氷燕は、友人でクラスメイトの弥生(やよい)真白(ましろ)にそう言われた。

 

「クールビューティーって感じでさ、いいよな」

 

「そうかな」

 

「そうだよ。かーっ、羨ましいぃ!」弥生は身をよじりながら言った。「いいよなぁ。美人なおふくろさんと義理ゴムエッチ、俺もやってみてぇ~」

 

「母ちゃんが美人でも、必ずセックスさせてくれるとは限らんぞ」

 

 そう言ったのは、こちらもクラスメイトで友人の引鴨(ひきがも)だ。

 

 他にも、花見(はなみ)、四方木(よもぎ)という友人がその場にいた。健康診断が終わった男子同士で、バレンタインデーについて駄弁っていたのだ。

 

「そっか、家庭の方針とかで違うんだっけ」

 

 弥生が記憶を探るように教室の天井を見上げた。

 

「テレビで見たな。息子に義理ゴムを渡しますかってアンケートで、渡すって回答したのは七割くらいだったんだよな」

 

「よく覚えてるね」燕は言った。

 

「マジで羨ましいんだって」弥生の表情は真剣だった。「で、確か渡す年齢は高校生になってからが一番多いって話だった」

 

「ウチもそうだったなぁ」と引鴨。

「僕は中学からだった」と花見。

 

(おれも去年からだった)

 

 と、燕は心の中で言った。

 

「僕は残り三割の、渡さない方針の家庭ってわけだね」と四方木。

 

「で、義理ゴムの使い方になると、セックスまでするって回答したのはその中の六割くらいで、ゴム素股まで、ゴムフェラまで、ってのがその後に続いてた感じだったな」

 

「ウチは素股までなんだよなぁ」引鴨は言った。「まあ、母ちゃんの素股、めちゃめちゃ上手いし、色んな体位でさせてくれるし、大満足ではあるんだけどな」

 

「ゴムフェラってしてもらってる?」花見が訊いた。

 

「してもらってるけど?」と引鴨。

 

「そっか。僕のお母さんは、むしろ挿入だけって方針なんだ」

 

「詳しく聞かせてくれ」

 

 弥生が身を乗り出す。四方木も興味深そうにしていた。

 

「大した話じゃないよ」花見は困ったように言った。「お母さんはまず自分で軽くオナニーをしてから、オマンコの中にたっぷり潤滑ゼリーを入れて、そのまま挿入だけをさせてくれるんだ」

 

「バレンタインデーのセックスに乗り気じゃないのか?」と弥生。

 

「乗り気じゃなかったら、そもそも義理ゴムなんてくれないよ」

 

 花見は首を振った。

 

「むしろ、敢えてそういうプレイをしてくれてる、って感じかな。ほら、バレンタインデーとはいえ、近親相姦だからさ。キスはダメ、おっぱいを見せるのも触るのもダメ、そもそも上着は脱がない、フェラもしない、クリトリスや下半身に触るのと挿入はOK──それがお母さんの線引きみたい」

 

「線引きかぁ。そういうのってあるよなぁ」引鴨が言った。「ウチはキスしたりおっぱいやお尻に触るのはアリなんだよな。裸にもなってくれるし。それでも挿入は絶対にダメ」

 

「そういやお前、姉ちゃんの義理ゴムは使わないのに、おふくろさんの義理ゴムは使うのか?」

 

「姉ちゃんは姉ちゃん。母ちゃんは母ちゃんだよ」と引鴨。「それに、知らない奴の直後がイヤってのが主な理由だからな」

 

「ふーん、そうか。そういうもんか」弥生はふむふむと頷いた。「それで、流氷は?」

 

「……うちは、条件つきでね」燕は慎重に答えた。「もし誰からもコンドームを貰えなかったら、母さんが義理ゴムをくれるって感じ」

 

「なるほど、そういう線引きのパターンか」と弥生。

 

「ウチは普通にくれる感じだなぁ」引鴨が言った。花見も頷いた。

 

「それで、流氷はおふくろさんの義理ゴム、使ったのか?」

 

「──あー、ごめん、おれちょっとトイレ」

 

 そう言って、燕は席を立った。

 

「……怒らせちゃったかな?」

 

 背後から、弥生たちのひそひそ声が聞こえる。

 

「いや、怒ってたって感じじゃなかったよ」と四方木。「答えたくなさそうな感じではあったけど……」

 

「そ、そうか」弥生はホッとした様子で言った。

 

「流氷くんって、確か去年は引鴨くんと同じクラスだったんだよね」と花見。「じゃあ、去年は末黒さんの義理ゴムを使ったって感じなのかな?」

 

「だったと思うが」と引鴨。「あれ、でもあの時、流氷って──」

 

 燕は教室を出た。

 

     ※

 

 燕は廊下を早足で──少し前屈み気味で、歩いていた。

 目的地は、二年B組の教室から遠く離れた、あまり使われていない、だからこそ比較的清潔なトイレだ。

 到着し、中を確認する。誰もいない。まだ健康診断が続いているのだから当然だ。

 一番奥の個室を使うことにする。

 個室に入り、便座を下ろしておく。トイレットペーパーを何回か巻き出し、そのまま便器の中に捨てる。入口に戻り、石鹸で綺麗に手を洗う。個室に戻り、直接手で触れないように鍵をかける。ふぅ、と息を整える。弾む息は、早足のせいだけではない。

 ズボンとトランクスを脱ぐ。

 ガチガチに勃起したペニスが、外気に触れた。

 

「うーん……」

 

 思わず唸る。友人たちが屈託なく語る親ゴムの話で、我慢できなくなるほどに興奮してしまったのだ。

 肌寒い廊下を歩くことで萎えることもなかった。こうなったらもう、抜いた方が早い。

 

(というか、普通に今すぐ抜きたい……!)

 

 トイレットペーパーをペニスにぐるぐると巻いて、即席のオナニーホールを作る。

 さらに、効率的に済ませるためにオカズを使うことにする。片手でスマホを取り出し、画像を呼び出す。中学生のころ、家族三人で海に行ったときの写真だ。

 実の母親を──水着姿の流氷さよりを、拡大してある。

 当時の彼女は三十四歳だった。グラビアアイドルが着るような紺色のビキニを、こともなげに着こなしている。強調された深い谷間に、目を吸い寄せられる。

 

「母さん……」

 

 小さく呟いて、ペニスを扱く。

 写真を見ながら、頭の中に記憶を呼び出す。

 日焼け止めを塗ってくれたときの、手のひらの感触。背中に当たった水着の生地と、柔らかな胸の感触。海の中でふざけて抱き着いてきてくれたときの、ひんやりとした肌の感触──

 

「母さん……!」

 

 普段の彼女の記憶が、そこに重なる。三十七歳になっても、彼女の美しさやプロポーションは変わっていない。

 低い声。落ち着いた話ぶり。金曜日の夜に映画を観るときは、燕のことをソファの隣に座らせる。甘い香り。細い腰と、むちっとした尻肉──

 

 それを、掴む。

 

『燕……』

 

 さよりが囁く。優しい声。太ももが開かれる。陰毛。濡れた大陰唇。小陰唇。口を開けた膣口。甘い香りが強くなる。コンドームを装着したペニス。ぐじゅ、と亀頭部が埋まる。ぐじゅぐじゅっ、とペニスが締めつけられる。母親が喘ぐ。女としての喘ぎ声──

 

 ──そう、これは妄想ではない。

 

 昨年の、バレンタインデーの記憶だった。

 

「母さんっ……‼」

 

 押し殺した声で、母を呼ぶ。一番気持ちのいい射精のために。

 

 ビュプッ、ビュプッ、ビュプッ、ビュプッ‼

 

 トイレットペーパーの中に、おびただしい量の精液を吐き出す。

 

『……童貞卒業、おめでとう』

 

 母親の優しい囁きを思い出しながら、余韻に浸る。

 

「オナ禁、しなきゃな……」

 

 燕は呟き、トイレットペーパーを便器に捨てた。

 

     ※

 

 燕は、流氷さよりのことが好きだった。

 母親としてではなく、一人の女性として。

 彼女で童貞を卒業する、そのずっとずっと前から。

 だから──

 

 二月十四日。バレンタインデー当日。

 

 燕は、クラスメイトの雪消(ゆきぎえ)美景(みかげ)と末黒(すえぐろ)芒(すすき)から義理コンドームを貰った。ありがたいことだった。

 しかし、放課後になると真っ直ぐに家へと帰った。

 途中、友人の弥生真白が、後輩女子の如月(きさらぎ)心愛(ここあ)と一緒に歩いているのを見かけた。恋人繋ぎで、肩を寄せ合って歩いていた。

 どうやら二人は、地域では有名なラブホテルに向かっているらしかった。そこはバレンタインデーの時期になると地域の学生たちがこぞって活用する施設で、現に今も似たような学生カップルが幾組も同じ方向に歩いている。

 

(如月さんが、上手くやったんだ)

 

 と、燕は思った。心の中で、彼女に祝福を贈る。ついでに、弥生のことも祝福しておく。

 

 だが、それはそれとして、弥生に自分の姿を見られたくなかった。話しかけられたくもなかった。少し迂回して、家路を急ぐ。

 

 そして、

 

 そして──

 

「ダメだった」

 

 と、自宅の玄関で燕は言った。

 

「誰からも、コンドームは貰えなかったよ」

 

 昨年と同じように、母親に告げた。

 

     ※

 

「残念賞。お母さんからの義理ゴムよ」

 

 流氷さよりが差し出したのは、普通のコンドームの箱にバレンタインデーの装飾が施された、いわゆるバレンタインデー仕様のコンドームだった。この時期になると、コンビニエンスストアやドラッグストアやスーパーマーケットの入口で、山のように積み上げられている。

 つまり、義理コンドームとして渡すのにちょうどいい箱入りコンドーム、というわけだ。

 

「14.8センチの推奨サイズはM……去年と同じだったわよね?」

「うん。ありがとう、母さん……!」

 

 それでも、燕にとっては特別なコンドームだった。ありふれた箱ゴムが、光り輝いて見える。

 

「でも先に、手洗いうがいをしないと」

「それもそうね」さよりは、ちらりと洗面所の方を見た。「ならせっかくだし、今年は一緒にお風呂に入る?」

「え」

「寒かったでしょう。お湯は沸かしてあるから、一緒に入りましょう」

 

 箱ゴムのビニール包装を破りながら、さよりは言った。

 

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