俺達は何処かの紫色した空間を、いつも漂って平和に暮らしていた。飯は最低限、有機物でも無機物でも食う。俺は“本”を読むのが好きで、それがプカプカ空間に浮いていると、他の奴が食ってしまう前に回収する。身体の中に物を同化させてしまえるから、便利な物だ。時々俺が体内の“本”を読んでいると、仲間が意味も無くケタケタと笑ったり、もう少し知能のある奴は知識はメシにならねぇ、とからかう。放っておいて欲しいもんだが、俺は確かに変わり者なのかも知れない。俺達にとって知識なんて屁の役にも立たないからだ。
そんな平穏な日々が、ある日終わりを告げた。何処かで甘酸っぱく、断固とした声で俺達を呼ぶ声がする。そっちへ行けば、二度と今の平和な生活は無くなると直感が教えてくれたが、仲間達はこぞって声のする方へと漂っていく。俺も必死になって、本に書かれていた呪文などを詠み抵抗したが、力及ばずこの身体を流れに任せる事となった。
俺達は、紫色の空間にぽっかりと空いた黒い穴に次々と吸い込まれていく。黒い穴に飛び込んだ途端、俺は不覚にも意識を失った。
誰かが、俺の近くで話している。耳障りな甲高い声だ。意味も理解出来ない。
あの“穴”を作りやがった奴か? だったら食ってやろう。帰り道など知るか。
目が痛い。少し難しい話になるが、俺達は余所の場所に行けないわけじゃない。自分の意思で出来る奴が少ないだけだ。知能が退化しちまってる奴、食い気ばかりの奴、余所の世界で変な影響を受けて行方不明になる奴や、面倒事を持ち込む奴もいる。俺は時々余所の世界に“見学”に行く程度だ。
俺達は大体何処へ行っても、そこに“適応”する。現に俺の目は、ただ眩しくて白と黒の線から、陰気臭い赤い絨毯(これらは本や余所の見学で名前を知った)、臭い蝋燭が入れられたランプ、本がそれこそ死ぬほど――俺は何故か死にそうに興奮していた――詰められた馬鹿でかい本棚、そして、本棚の脇の空間。俺が今立っている場所には本がところ狭しと置かれた机があり、その前に紫と薄紫の縦縞模様のゆったりとした布を纏った生命体が立っている。
「成功ね」
何が成功したのは知らないが、生命体は耳障りな声で満足そうに頷いた。俺はこんな生命体が何を考えていようと付き合う気は無い。腕を振りかざし、“返事”をしてやる。
それはただ空気音が高低したり、無意味な風の音にしか生命体には聞こえなかっただろう。だが、これが俺の話せる唯一の“言語”である。悲しい事に、俺も仲間もこの分野が苦手だ。
「そう興奮しないで。貴方の力を見たいだけだから。小悪魔!」
小悪魔と呼ばれる、黒い袖無しスーツ姿の新たな生命体が本棚の間を潜り、巨大な鳥籠をぶら下げて現れた。鳥籠の中には、髪の色は緑、他の者とは違い衣服を一切身に着けていないこれまた別の生命体が閉じ込められている。左側頭部をサイドテールにし、黄色いリボンと薄ピンクの瑞々しい肌色が印象的だった。鉄格子を掴み、目と鼻から液体、涙と鼻水というものを出しながら顔をくしゃくしゃにしている。鳥籠が降ろされ、小悪魔がその鍵を開けた。
「この妖精を滅茶苦茶に犯して欲しいの」
意味のよく分からない事を紫の生命体は言った。俺は生物学的に分類すると、“男”になるのかも知れない。しかし、俺達は他の生命体がやる様な生殖活動を必要としない。性的興奮を感じる事が無いわけでは無いが、あくまで過ぎ去りし時代の名残、だ。
小悪魔という生命体――こいつは明らかに紫のとは違う存在感があるが、攻撃心を感じられないのでどうでもいいだろう――は妖精の首を前から掴み、俺の前へと投げ出した。
紫の生命体、小悪魔と比べてみると体格は小さい。その背中には何かをむしり取った様な生々しい傷跡がある。緑の髪の妖精は、震えながらひどくゆっくりと俺を見上げた。
俺は相手を落ち着かせようと、手を差し伸べて立たせようとした。俺の手が目を見開いた妖精に触れた時。空気の漏れる様な音がして、妖精は口を大きく開いた。そこから空気が漏れている。俺達の喋り方に似ていた。
「翼をもいだ時、うるさいから声も出せなくしたのよ」
紫の生命体は、笑っている様だ。妖精は目と口を限界まで開き、自分を立たせた俺の手を振りほどこうとしていた。小ぶりな乳房が激しく揺れ、股が開いて淡い陰毛が晒されるのも構わずに足を開いて力を込める。随分と嫌われたものだ。
「小悪魔、見苦しいから、今日はここまでにしましょう」
紫の生命体が命じると、小悪魔は妖精の背後から手刀を首筋に入れる。妖精は前のめりに倒れ、緊張が解けたのか床に染みを作り出した。こっちの世界の生き物も、下は大変な問題だな。
もう一つの問題は、俺が妖精を落ち着かせようとしている時に、横から手を出した奴がいる事だ。これはどうしても話し合う必要が‥‥。
な、何だ。腹の辺りが痒い。
「失礼だけど、このルーン文字は貴方を現世に置いたまま動かなく出来るの。呼び出した時に身体へ記させて貰ったわ。それでは、お休みなさい」
俺の意識は暗闇へと落ちていった。くそ。
俺が次に目を覚ましたのは、あの紫の生命体が低い声で唱える呪文を聞きながらだった。腹に刻まれた文字が痒い。中途半端に効く魔法だ。床には、小刻みに震えながら緑の髪の妖精が丸裸で座らされている。その傍らにはあの小悪魔という奴が立ち、妖精の肩を掴んでいる。彼女の顔は不自然に綺麗だ。紫生命体が俺の住んでいた空間でも陰気で通る無表情さと眠そうな目つきをしているのに対し、小悪魔の顔は透き通る様な白い肌と一寸の狂いも無い、完璧な顔。美しさも度を越せば嫌味だが、この女はその点も計算された様にあどけなさの仮面を被っている。
紫の生命体が俺に言った。
「今日こそ従って貰いますよ、この妖精を犯しなさい」
馬鹿が。俺は貴様の命令になど従う義理も意思も無い。もっと頭の悪い奴を呼べば良かったな。しかし、そこに来てまた厄介な現象が俺を襲い始めた。痒みだ。それも前よりもっとひどい。俺は痒い所を必死で掻いた。掻き毟った場所が膨れ、ささくれ始め、体液を流し始めてもまだ痒みは止まらない。俺は考え直した。このままだと馬鹿の位置が逆転する。だが、俺は嗚咽している妖精にどうしても手を伸ばす気になれなかった。
「貴方はまさか妖精如きに同情しているのですか? 貴方にそんな感情があるとは驚きですが、まあいいでしょう。今回は失敗という事でこの妖精はこの場で全身の骨を砕き、他の妖怪に生きたまま食わせる事にします」
小悪魔の手に力が入る前に、俺は手を伸ばして妖精を巻き取った。一気に自分の元へ引き寄せる。俺にとってこの強要された生殖行為は何の意味も持たない。しかし、眼前で一個の生命体が砕かれるのを笑って観ていられる程、精神が太くも無い。
ならば、俺は俺なりのやり方でこの場を切り抜ける。俺は体を肉の壺の様に変化させた。そこへゆっくりと妖精を持ち上げ、静かに降ろしてやる。外の奴らは無邪気に喜んでいた。
「まぁっ、いきなり吸収しちゃうの!」
紫生命体はやけに喜んでいる。
「でもご主人様、いきなり食べてしまう可能性も」
小悪魔は紫生命体の名前を明かしてくれない。ちっ。
「いいのよ、データ取りにはなるわ」
お前は俺を何だと思っているんだ。怪物の様な物言いをしやがって。まあ、いい。
妖精は悲鳴を上げているつもりで、虚しい空気音を出していた。彼女を俺の体内に下ろす時、最後に猛烈な抵抗が来た。原始的だが効果的な技(本を読んでると色々便利だ)である、手足を暴れさせる行為だ。痛い。俺はそれほど生理的に受け付けない外見をしているのだろうか。
俺はやや悲しい気持ちになりながら、妖精を安心させるためにその頭を撫でてやる。妖精は暴れる事を止め、しばらく静かにしていたが、やがて顔を覆って泣き出した。
悲しい事に逆効果だった様だ。俺はそれでも諦めず、外の二人からは見えない位置で妖精の頭を撫で続けた。
妖精はどうやら諦めたらしく、一切の抵抗も止めた。そのまま俺の肉壁に寄りかかり、動かなくなる。俺はそろそろ始めても良いと判断した。自分勝手な判断だが、妖精も助け俺も無事に去るには、彼女にも少し苦労して貰わないといけない。
確か、昔読んだ本で、様々な生命体に共通して見られる傾向として、胸部の先端をいじると興奮するという話があった。また、性感帯というのはそれぞれの個体で違い、それは性交を実際に行って調べてみないと分からないらしい。先刻から俺の身体を怖がっている妖精には気の毒かも知れないが、時間が惜しい。俺は一気に七本ほど腕を増やした。1+7本になった腕で、太腿、尻、腹、乳房、背中、脇、口、そして秘所を触らせて貰う。
太腿の反応。くすぐったいらしく、出会ってから初めて笑顔を見せてくれた。手の先端で殆ど無駄な肉付きの無いすべすべとした太腿をなぞったが、あまり大した反応を見せてくれない。背中と脇、腹もほぼ同様の反応。だが、妖精はこれらの行為にあまり抵抗を示さなかった。背中の翼があったらしいところを何度もさすってやると、目を細めて寂しそうな顔をした。脇を二、三本の手で同時に強弱を付けて刺激を加えてやると、抵抗していたころより激しい力を以てこちらの体内で暴れた。ただし、顔は引きつった笑顔、とぎりぎり呼べる物に満ち溢れていた。ただ哀れなのは、その口から笑い声が一切聞こえない事だった。妖精の顔が可愛らしく林檎の様に紅潮して、若干疲労の色が見えてきたので刺激を止める。肉壁に背中を預け、息を荒くしている彼女の前に我が手の一本を差し出した。
唇に最初は軽く、二度、三度と触れてみる。妖精は俺に敵対心が無い事を悟ったのか、それともあまり物事を深く考えないで慣れてしまうタイプなのか、六度目からは自分で唇を押し付けて来た。八度目、隙を見てその口内へと侵入、ただし手の先っぽだけである。
彼女が噛み付いたり吐き出したりする前に、静かに俺の体液を絞り出す。ただし、別の生命体が使う精子というものではない。妖精が、これから行う“儀式”で役立つ様にするための物だ。白くどろりとしているが、味は甘めに調節しておいた。妖精は口に送り込まれた物にエメラルド色の目を白黒させていたが、腹が空いていたのか俺の手を掴むと、激しく吸い始めた。
こら、あまりがぶ飲みする物じゃない。俺は体液の分泌を止め、手を引っ込めようとした。しかし、妖精は赤い舌を出して手の先端を激しく舐め始めた。先刻まで体液が出ていた穴にまで舌を入れ、必死に液を掻き出そうとする。それだけでは収まらず、手で激しく俺の手を(ややこしいな)しごき、先端を激しく舌で舐め回し続けた。
残念だが、これ以上あの体液を与えるわけにはいかない。俺は液を出した手を無理に彼女から引っ込め、肉壁に収納してしまった。妖精は膨れっ面をして、床――俺の肉だが――に体育座りで腰を下ろしてしまった。別に問題は無い。彼女には少し休んで貰う必要があった。先刻飲ませた俺の体液には栄養剤の一面もある。あくまで一面、だが。
俺は、しばらく彼女の周囲で複数の手を躍らせていた。妖精は全く意味をなさないそれらの動きを、最初は横目で時々見つめるだけだった。しかし、俺が手を肩や横腹、お尻などに少しずつ、先端だけ触れさせ始めると、回数が増える度に身体が震えだした。そろそろ体液の催淫作用が効いて来る頃だろう。生殖活動が必要でない我々だが、“適応”や知識を得る事で色々便利な体になれる。妖精には悪いが、時間が惜しいためいささか強引な方法を取らせて貰う。手を使い、妖精の四肢を拘束した。彼女は潤んだ瞳で俺(肉壺)を見つめるだけで、抵抗せず股を開いてくれた。淡い緑の陰毛が生えた秘所は既に開いており、やや毒々しいピンク色をしていた。何故か俺の身体の色と同じだった。
俺は妖精の右手をその小ぶりな乳房に導き、反対側の乳房は自分の手を巻き付けた。左手を秘所へ導き、陰核とその周辺をいじる手伝いをさせる。この付近では主役は俺の手が務めなくてはならない。陰唇には手が二、三本殺到し、広げる役、内部を優しくマッサージする役と忙しい。最後に何も出せないが、妖精の口元にも手を持っていき、咥えさせて完成だ。
口担当の手は殆どする事が無い。ただ、彼女が積極的に先端を舐め、舌で転がし、吸い続けてくるので、それに応じて前後したり口内で暴れてみたりとサービスするだけだ。
胸担当は、右側を妖精自身ががゆっくりと揉み解しているだけなので、左側を強く揉み解してやる。とぐろ状に巻き付いてみたり、ジグザグに表面を這いまわってみたり、乳首も巻き込んで上下に暴れまわってみたり、乳首そのものだけを緩急つけて揉んでみたり、彼女に教え込む様に揉み続けた。
陰唇担当はデリケートな部分だけに大変だ。陰核を妖精の左手でいじらせらのだが、豆をただなぞるだけで快感を得てしまっている。俺としてはもう一ランク上の悦楽を得て欲しいのだが、俺の手は構造上豆の皮むきが苦手だ。かと言って彼女に言葉で教えるのも難しかった。他の手は陰唇の周囲を這い回って刺激し、内部へ侵入した細身の二本が上下左右、かき回しの柔軟体操を行う。床に汗と愛液が滴る程責め続けて、ようやく妖精にも受け入れる準備が出来た、と判断した俺はひときわ大きな手を出した。先刻、体液を彼女に飲ませたのはこれの衝撃に耐えきる体力を与えるためだった。その上、俺はまだ彼女の全身愛撫を止めていない。俺は相手の姿が見えるが、相手には俺の目が見えない。だから、アイコンタクトや表情で伝えるなんて器用な事は出来ない。だから、意思表示として大きな手を妖精の眼前に突き付けた。彼女は全身を襲う快感の波に身を任せ、自らもそれを貪ろうと必死だったが、その手を見、股間を指し示しただけで何がこれから行われるか察した様だ。だが、健気にも口に俺の手を咥えたまま、彼女は頷いた。俺は、ただ挿入を以て答えた。
妖精の四肢を拘束していた手は取り払い、口を始めあちこちの手も引っ込めさせた。大きな手が体内を貫くにつれ、妖精は苦しそうな顔をした。膣で先端を動かし、と思えば子宮を探り、あるいは焦らし、妖精が言葉にならない嬌声を上げて倒れるまでその挿入は続いた。
さて、最後の仕掛けだ、絶頂を迎えた妖精の身体が、緑色に強く輝きだす。俺は肉壺の上部を閉めた。そして出せるだけの手を出して、妖精を絡め取り、覆い包む。外部では、俺の腹の痒みが消えた。今まで無視していた紫の生命体は、椅子に座り茶など飲んでいる。俺は妖精から借りた魔力でこじ開けた、自分の世界への穴が背後に開いた事を確認し、そこへ飛び込んだ。
去り際、こんな台詞を聞いた。
「どういう事なの‥‥」
無事、紫色の空間に漂いながら戻る事が出来た。妖精は相変わらず俺の中に住んでいる。俺が奪われた言葉の代わりに、俺達の言葉を教えてやった。また、俺達しか行けない場所へも連れて行ってやり、俺の秘蔵している本も読ませた(殆ど意味が理解出来ていなかった様だが)。
もし、紫の生命体がまた俺を呼び出したら、妖精に友達を作ってやれるかも知れないな。
そういえば、世間では俺みたいな生き物を“触手”なんて呼ぶ事もあるらしい。失礼な呼び方だ。俺にはちゃんとした名前がある。それは‥‥。
終
「パチュリー様、何であの様な嫌らしい化け物を呼び出したのですか?」
「魔理沙の泥棒癖にお灸を据えてやりたかったのよ」
「過激過ぎませんか?」
「だから、私の言う事を聞く奴を探しているのよ。今回は、その点で失敗したわけ」
蛇足
大ちゃん
妖精ですのでこ〇されても復活します。触手君どころか作者も忘れてました。むしろ自然から切り離された今の状況が危険なのですが、体が変質しているので存在しています。