※この作品はR-18です。

人形使いと人形と夏の思い出   作:量産機

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アリスは温かいのか?

 仲間はもう駄目だ。魔力の込められた武器で強かに攻撃された上、強制送還もダメージを伴う。弱々しく鳴くその身体に、慈悲の一撃を入れる。知らせすら入れられずに、仲間を倒す相手。使命は完遂出来るかどうか。弱気は禁物だ。さあ、行こう。今は亡き仲間達の骸を越えて。愛する、幻想郷のため。

 

 アキオは猛スピードで道路を走り、走り、家の扉(獣が破壊した跡は、完全に修理されていた)を開く。

「ばーちゃん! ばーちゃん! アリスが大変なんだよ!」

 返事は無かった。

「こんな時に何処行ったんだよ?!」

 とにかく、まず背負った娘を寝かせる必要がある。何処へ寝かせばいいか逡巡したが、物を運び易い一階の自分の部屋にした。アリスをベッド脇に座らせた、ら、そのまま横倒れしそうになったので慌てて支え、ベッド上に寝かせる。白い肌から汗が噴き出していた。

「タオル‥‥いや靴脱がして‥‥脱がすって何馬鹿言ってんだ俺は!!」

 一人で勝手にパニックに陥る彼の前に、人形達が空中静止した。小さな手で敬礼する。

「ん? 従います、て事?」

 頷く二体にアキオは、靴の処理とタオルを濡らして持ってくる様頼んだ。自分は救急箱を(必要なのかと考えもせず)取りに走りだそうとする。

「アキオ」

 アリスのか細い声が彼を止めた。矢の勢いでその傍らに戻る。

「これから大切なお願いをするから。よく聞いてね?」

「ああ。何でも言ってくれ」

「服、脱がして」

「お安い御用‥‥何突然言い出すんだよ!?」

 部屋の扉が閉められた。上海達が気を利かした、つもりらしい。

「早くして。大丈夫、私はいいから」

 アキオは喉を鳴らしたが、医療行為の一環だ、と自分に言い聞かしてアリスの服に手をかける。彼は物凄い冷汗を流しながらも、どうにかアリスを下着だけにした。興奮より疲労感が勝った。

「何やってるの? 全部取るのよ」

「頼む、俺をこれ以上苦しめないでくれ」

「私はもっと苦しいのよ、意気地無し」

 意を決して、アキオはアリスの下着に手をかけた。下は普通に脱がせたが、ブラジャーにやや手こずった。だが、それも取り去る。アキオは自分の仕事の成果をじっと見つめた。両手両足を力無く投げ出し、カチューシャを除いて全ての衣服が無い、産まれたままの姿のアリス。白く滑らかな肌、小さくもなく、大きくもない優しげな胸と、桃色の乳首。臍から腹部までの見事なラインと、髪と同じ色の叢。

「さあ、貴方も脱ぐの」

 魂が半ば抜けかけていたアキオは、急に現実に引き戻された。もう彼は何も言わず、鼻息荒く脱衣を始め、アリスの脇に立った。

「先刻の獣の力が予想以上に強くて、もっと魔力がいるの。回復を手伝って貰うわ」

「何をやればいいんだ?」

 アリスは手を差し伸べた。

「来て。教えてあげる」

 アキオに指示しながら始めたのは、単なる性行為では無かった。

「まずキスして」

「いいのか?」

「早くしないと本の角で殴るわよ」

 アキオは観念し、唇を重ねた。アリスは舌で相手の唇をこじ開けた。男も心得て、舌を不器用に絡める。しっかりと口づけを交わし、両者の間に涎の糸が繋がる。

「さあ、喉、胸、お腹、そして大事な所……順々に愛撫して」

 言われた通り、アキオは不器用ながら丁寧に愛撫を始めた。喉に舌を存分に這わせた後、男なら誰でも一度は憧れる胸に取りかかる。

「多少乱暴に扱ってもいいから」

 アリスはそう言うと、小さな声で呪文を唱えている。アキオは左手で柔らかさを楽しみ、右手で乳首を摘んでみた。呪文の声に小さな嬌声が混じった。そのまま、舌と手でアリスの胸は存分に形を変え、乳首は堅い突起と化した。

「駄目‥‥おっぱいばっかりじゃ‥‥駄目なの」

「でも、離れられない」

「お願いだから‥‥言う通りにして」

 少し不満そうにしながらも、アキオは腹部に移動する。ここでも舌が活躍し、アリスの身体が時々震えた。呪文が中断してしまう時もあった。やがて、終点に辿りつく。アリスは、自分で股を開いた。

「もうちょいムードってもんが」

 口を尖らせるアキオを、真剣な顔で睨むアリス。

「分かったよ」

 股間は既に濡れていた。アリスは自分で、ここを舐め、ここを責める、と教えていく。舌が動く度に、アリスの嬌声が強くなる。クリトリスを慣れない手付きで触り、剥こうとした時。アリスの身体が一瞬強張り、力が抜けた。

「あの‥‥アリスさん? まさか、お先に一人だけ‥‥」

「まだよ。本番が済んでないわ」

 荒く息を吐きながら、自分で秘所を開いて見せるアリス。

「早くして。あなたと私、一つになるのよ」

 アキオはしばらく目を閉じ、精神を集中させてから女体へ覆いかぶさる。

「そう、いいわ、そのまま」

 挿入運動が始まると、またアリスは呪文を唱え始めた。アキオは気付かなかったが、アリスの手の“糸”が彼に繋がれている。

「くぅっ! もっと、もっと来て!」

「任せろ!」

 腰を激しく叩きつける音が室内に響いた。やがて、アリスが二度目の絶頂を迎える。アキオも限界が来ていた。最後の瞬間、彼は力を振り絞って逸物を抜き、アリスの身体を汚した。

「ハァ、ハァ、ハァ‥‥アリス?」

「なーに」

「今、後始末するから」

「中でも、良かったのに‥‥」

 微笑するアリスの身体を拭きながら、アキオは心中で首を傾げていた。

(初体験って、もっと甘いものだと思ってたが、何かが違うな?)

 そんな彼の疑問を見透かしたかの様に、アリスは言った。

「これはセックスとは少し違うのよ。私の魔力を底上げして、貴方の魔力を分けて貰う事で弱った身体を活性化させたの」

 アリスの隣に導かれ、シーツを共に被りながらアキオは答えた。

「意味がわからない」

「それでよろしい」

 相手が元気になった事は確かなので、アキオは深く考えない事にした。それより、気になってる事がまだある。

「アリスは、昔彼氏とかいたのか?」

「? ああ、処女で無かった事が不満?」

「いや。露骨に言われたらどうでもよくなった」

「少し深い事情があるの。いいじゃない、これは儀式、なんだから」

 アリスは軽く欠伸をする。そしてアキオに抱きついた。

「少し眠るわ。何かあったらお願いね」

 返事を待たずに、呼吸が寝息に切り替わる。

「魔力、か。俺はとんでもない事をしてしまったのかな」

 アキオも程無く眠りに落ちた。

 

「どう? 上手く行ってる?」

「少し早かったですが、奴らが食い付きました。どうなったかまでは分かりませんが」

「そう。しばらく経ったら、こちらから二人程送るから迎える準備をよろしくね?」

「それはよろしいのですが、あの娘はどうするので?」

「知らないわ。好きにさせておきなさい」

「承知しました」

 

 アリスが目覚めると、もう夕暮れだった。彼女は決して人肌恋しくてアキオと肌を重ねたわけではない、つもりである。取りあえず魔力を分けて貰う必要があった。性交は儀式化する事により効果的な魔力供給の場となる。黒い弾幕を食らった時のダメージは、想像以上に大きく、退去魔法は魔力を大きく消費する。

(ごめんね、アキオ)

 性という分野では、アリスは外界の倫理が裸足で逃げ出す程経験を積んでいる。ただ、それは淫に堕しての事ではなく、修行だったり、魔の技に必要だったりと必要に迫られてなってしまったものだ。

(幻想郷の様にはいかない‥‥私は彼を利用しただけ、よね?)

 幻想郷では、有力者・実力者共に女性の占める割合が多い。アリスが魔法の森に住み出して、度々異変へ巻き込まれる様になってから、同性の知己ばかりが増えた。それはやがて、一夜を共にする関係にまで発展していく。男は、その体液が必要な時だけの存在であった。それだけ、の筈だった。

(馬鹿みたいね。儀式の後で感傷に浸るなんて。ノリが悪いわよ、アリス・マーガトロイド)

 彼女は、戦った獣について考える事にした。人形達の攻撃で重症を負っていた相手に、わざわざ退去魔法を使ったのには理由があった。眼の無い獣は、アリスの臭いを嗅いでいた。アリスの通った所だけを、正確に追ってきていた。

(私を追っていた。そして、退去が効いた、という事はこの外界の生き物ではない。私を狙って放たれた? 誰が? 何処から?)

 心当たりは無かった。

(誰かが意図的に、情報から私を遠ざけている‥‥そろそろ向き合う必要があるかしら?)

 アリスは行動に移る前に、身を清める事にした。アキオが後始末をしてくれたとはいえ、さすがにそのまま無視出来る状態ではない。服を着ると、部屋の外に出た。トメに見咎められたら、という気持ちは無い。むしろいたら好都合だ、とすら考えていた。

「シャンハーイ!」

「ほっ、そーれっ!」

「ヤンラーイ!」

「お、空中回転受けかよ!」

 子供の遊ぶ柔らかいボールで、上海とアキオが遊んでいた。アキオが軽く放った玉を、上海はケラケラ笑いながら受け止め、投げ返している。

 一方、蓬莱。

 ♪ちゃららー らーららららららー らららー♪

 TV画面の中で、派手な衣装と白い顔の男が、ベル付きの組紐を飛ばした。標的の首に紐が絡みつき、男は絞首刑の様な体制で相手を苦しめる。やがて標的が絶命すると同時にベルが鳴った。

「ホライッ! ホーライッ!!」

 他にも楊枝で相手の急所を刺したり、お好み焼きのヘラで喉を裂いたり、巧みな剣技を見せる暗殺者達がTVで活躍していたが、蓬莱は眼中に無い。首吊りの悪戯で使っているロープを腰に巻き、投げる練習を始めた。時代劇の再放送がとても気に入った蓬莱である。

 アリスはしばらく言葉を失っていたが、一番体の大きな子供に事情を聞く事にした。

「ねぇ、アキオ?」

「ああ、アリス、その、あの、痛て!」

 気恥ずかしさから視線を逸らした彼は、上海の全力投球をまともに食らった。更に、蓬莱が首にロープを巻きつける。

「おい! 俺は悪人じゃないっての! 頼み賃貰わないとただの人殺しだぞ!!」

 二体の主人はあっさり事情聴取を取りやめ、バスルームへと向かった。

「ちょっとアリス助けぐふっ!」

「覗かないでね~♪」

 アキオが上海のタックルを受けて、蓬莱がカッコつけでロープを首から巻き取る。ひっくり返ったアキオは、胸の上でぼんぼん跳ねる悪戯っ子を捕まえようと必死だ。

 そして蓬莱。

「ヒュオッ!」

 ロープを鮮やかに腰へ巻きつけていた。

 

 アリスがシャワーを終えて出てくると、両脇に人形達を座らせて、アキオが絵本を読み聞かせていた。

「‥‥こうして、青年と女戦士達の手によって、死のコンピューターは破壊されました。相棒の戦車からのメッセージを受け取った青年は、捧げる様に人参をかじりました。おしまい」

 本を閉じると、上海はアリスにとって、大いに見覚えのある名前が書かれた絵本を催促し、蓬莱は青い狸みたいなキャラが描かれた本を押し付けている。

「珍しいわね。その子達がそんなに懐くなんて」

 二体の本攻勢を防ぎながら、アキオは照れ笑いした。

「なんか退屈そうだったからな……物置から色々出してみたら、この通り」

「玩具に釣られたのかしらね? 上海、蓬莱? こっちへいらっしゃい」

 二体は本を放り出して、アキオの顔越しに喧嘩を始めていた。アリスの言葉を聞くと、怯えた様な顔をして青年にすがり付く。

「お、おい。お姉ちゃんが呼んでるぞ? いいのかお前ら?」

 ふるふると涙目で首を振る二体。アリスは吹き出してしまった。

「お姉ちゃん? そんな呼ばれ方初めてよ」

「だって、こいつらは……何なんだ? 悪い子じゃないみたいだが」

 アキオがなだめる様に頭を優しく撫でる。二体は少し機嫌を直し、落ち着いた笑顔を見せた。しかしアリスの方へは飛んで行かない。

「人形よ。私の可愛い、お人形さん」

「はぁ!? 妖精かなんかじゃないのか?」

 少しアリスのプライドが傷ついた。

「ちょっと、あんな馬鹿と一緒にしないでよ」

「妖精って馬鹿なのか? どうもアリスの言う事は分からん」

「‥‥もういいわ、それよりアキオ」

「?」

「これから、私は貴方を怒らせるかも知れない。でも、私はその行為をやめる気は無い。分かったでしょ? 私がどういう存在なのか」

 アキオは静かにアリスを見つめている。

「私は、ま」

 突然、二体を抱っこして青年は立ち上がった。

「そこまでにしとこう。アリスはアリス、なんだろ?」

「え‥‥」

 青年の顔に、幻想郷の知己の顔が重なる。黒白をイメージカラーとする、人間の魔法使い。

「ありがとう。じゃあ、一緒に来てくれる? パパさん」

 ニタニタと笑う上海達を抱えながら、アキオは階段を上るアリスの後に続いた。

 

 かつて、青年はその部屋に近づくなと言った。彼の両親が消えた場所。優しくも怪しげな老婆の姿は、家の何処にも無かった。アキオは上海達の玩具を探す時、ある一つの部屋を除いて全て探索したのだが、トメは居なかった。アリスとアキオ、人形達は、輝く板の部屋の前へと来ていた。扉は閉ざされている。

「アキオ。この部屋を調べるわ。貴方が駄目だと言っても、私はここを開ける」

 間髪入れず青年は答えた。

「今は、アリスなら何とかしてくれるって思うから。俺の事は考えないでくれ」

「ありがと」

 上海達も甘えモードから戦闘態勢に入り、サイドから護衛ポジションで浮遊している。

扉に手をかけ、一気に開く。中は以前と全く変わっていなかった。ただ一つ、あの板が壁に光り輝いている事を除いて。アリスは用心のため弾幕をチャージした。上海、アリス、アキオ、蓬莱の順番でゆっくりと部屋に入る。”糸 ”も廊下に張り巡らした。背中を突かれる心配は無い。

 板は相変わらず、光っているのに如何なる物も映そうとしない。アキオは不安そうに口を開いた。

「アリス? どうするつもりなんだ?」

「試してみたい事があるの」

 グリモワールが召喚され、アリスが呪文を唱える。本の間から一枚の札が飛び出し、板へと貼り付いた。瞬間、板は消えてしまった。

「!?」

「黙ってて」

 再び呪文が詠唱されると、札が戻り板は現れる。

(そういう事なの)

「おや、面白い事をしてるねぇ?」

 空気が凍りついた。アリスが振り向くと、アキオの喉に軽く手を添えた老婆が立っていた。

「天井は盲点だったかねぇ?」

 板が一枚外され、その穴から降りてきたらしい。

「まあ、私には魔法使いの警報は無意味だよ」

「ば、ばーちゃん……」

「アキオや。下手な動きすると首が変な方を向くよ?」

 軽く手を添えているだけだが、アリスはこの老婆が十分な殺意と技術を持っていると理解した。

「トメさん、妖怪ね?」

「その通り」

 乾いた紙を広げる様な音がして、顔の皺が伸びていく。髪も黒さを取り戻し、体つきも一回り大きくなった。美女ではないが、精悍な女妖へ生まれ変わった。

「この道をこちら側で管理する者さ。最近は色々あって、ずっと閉めてたんだけどね」

「黒幕はあいつね?」

「さあ、どうかね? あんたが生き延びたら教えてやるさ」

 突然、上海が横合いから切りかかった。しかし、数倍のスピードで飛んだ裏拳がその身体をブッ飛ばす。壁に叩きつけられた上海は、落下して動かなくなった。同時に足を刺し貫こうとしていた蓬莱は、回避された挙句踏みつけられていた。メキメキと嫌な音が響く。アリスは怒りに我を忘れかけていたが、アキオの喉の手を見ると、身体が動かない。

(落ち着いて。彼は、あくまで外界の人間よ!!)

 だが、手が動かない。

「おやどうしたい? ほんの少し幻想郷を離れただけで、もう心が鈍っちまったわけか。あたしが孫を殺すと思ったのかい?」

 アキオの喉から手が離れた。しかし、怒りの爆発は意外な場所から飛び出した。青年が肘をトメの鳩尾に叩き込み、浮いた足から蓬莱を押し出したのだ。その首筋に手刀が叩き込まれた。崩れ落ちる彼を抱え、トメはニヤリと笑う。

「さあ、そろそろあんたの番だよ? 最も、あたしは何もしない。人形は、勝手に攻撃してきたから自業自得さ」

 言うなり、トメは窓を破って夕暮れの中へ消えていく。アリスは上海と蓬莱の状態をチェックした。上海は内部機構を損傷して、緊急停止状態。蓬莱は身体が崩壊寸前で、“糸”で補強しないとバラバラになってしまいそうだった。

「私は何やってるのよ!! 外界の男なんかに! そのせいで」

 人形を“糸”で背中にくくり付ける。それを終えた時。板が変色し始めた。黒い色。あの獣の色。アリスはグリモワールを展開させつつ、弾幕の構えを取った。

(何か知らないけど、決着をつけてあげるわ)

 板から黒い微粒子が吐き出され、人の姿へと変化していく。アリスはその姿に覚えがあった。初めてこの外界に来た時の夢。自分を、体内から犯そうとした怪人。輪郭だけがはっきりしている、不気味な黒さ。間髪入れず、弾幕を叩き込んだ。全弾命中するも、獣の時の様な感触は無い。全くの無傷だった。グリモワールを手に取り、呪文を唱える。本の上に人形の姿が現れた。アリスは幻想郷でスペルカードルールに乗っ取った弾幕ごっこを行う際、人形を多用する。いつもは様々な形で随伴、あるいは隠し持っているのだが、今回はそのストックが無い。だが、紛い物を作り出す事は出来た。人形が怪人の顔に貼り付いた。それまで動かなかったそれは、さすがに面食らったのか、剥がそうと緩慢な動きを見せる。アリスは脱兎の如く部屋から逃げ出した。怪人も人形に手こずりながら後を追う。廊下の半ばで、怪人の動きが止まった。殺害レベルに高められた、”糸 ”の罠に引っかかったのだ。それでも、わずかに身体に食い込んだ程度で止まっている。アリスは階段を駆け下りながら、高らかに宣言した。

「擬似・魔操『リターンイナニメトネス!!』」

 爆発音は遠くにまで響いた。

 

 一つの家二階を半壊させた爆発が起こって、誰も気付かぬはずがない。

現場はすぐに消防と警察とマスコミ、野次馬で埋め尽くされた。日が落ちても賑やかさは変わりない。そんな中。あるコンビニ。逆は一人もおらず、店員も一人だった。

「いらっしゃいませ‥‥?」

 店員は、客の衣服に違和感を感じた。やや身長の低いその少女は、ウェーブのかかった金髪だった。黒い中折れの尖がり帽子、胸当てのある吊りスカート、エプロン。そして手にした箒。服装が異様なのではなく、違和感なく着こなしている姿が不思議なのだ。コスプレ以外有り得ない服装だが。

「おー、外界って面白い店多いなー」

 そう言いつつ、籠を手にした少女は目にして珍しそうな物を片っ端から放り込んでいく。

やがて、巨大な山を抱え、そのまま外へ出て行こうとする。店員はさすがに目の色を変えて飛び出した。

「お客さん! まだレジが済んでませんよ!」

「れじ? なんだそりゃ?」

「ちょ、アンタまさか外国人?! ニホンゴ、分かる?」

「私は幻想郷育ち、さ。日本語なら喋ってるだろ?」

「あー、もういいよ! ほら奥へ来て! 警察呼ぶから!!」

 肩を掴もうとする店員に、少女の思わぬ反撃が来た。跳躍した相手にお尻をぶつけられた店員は、後ろによろめいた。その隙に少女は籠を箒に引っかけ、それにまたがり空中に浮いた。そのまま急発進してガラス窓をぶち破り飛び去る。捨て台詞を残して。

「死ぬまで借りてくだけだぜ!」

 唖然としながら店員は、ふらふらしながらカウンターまで戻った。卓上に小さな穴が空いて、何枚かのお札が置かれた事にも気付かず、通報ボタンを押した。

 

 夜。トメ宅。

「おい、署じゃなんて言ってるんだ?」

「わけの分からん事を言ってる。何故か、市外への電話も無線も通じないらしい。俺の携帯も……駄目だ」

「街の道路で、巫女さんみたいな服を着た、変な女の子が踊ってたって通報もある……今夜はどうなってんだか」

 警官達が立ち話をしていた時。現場で作業をしていた鑑識員が、二階の爆発で空いた穴の下に、黒い塊があるのを見つけた。

「ありゃ? こんなの先刻まで?」

 黒い塊から、イカの様な触手が伸びた。鑑識員の口にそれは入り込む。その身体は次第に黒く変色していき、やがて、あの怪人そっくりとなった。同僚が仲間の異変に気付き声をかける。

「おい?」

 その声目がけて触手がまた飛んだ。

 

 巫女服、しかし不自然に肩と脇が露出した物を着たその娘は、通報された道路から既に移動し、別の目的地に来ていた。

「ここが最後ね」

 そこもまた道路だった。標識に、他市との境界が示されている。娘は印を切ると、静かに何事か唱えながら優雅に舞い始めた。彼女が通った跡には光の線が走り、不思議な模様が描き出されていく。

 やがて足を止めた娘は宣言した。

「大結界」

 光の線は消えた。何も変わった事は起きていない様に見えた。呼び出し音が鳴る。娘は大きなボタンの携帯電話を取り出し、しばらくどれを押せばいいのか迷った後、勘に従った。

「もしもし? ‥‥ええ、結界の展開は終わったわ。で、あいつは戻ったの? そう、飛び出して行ったのなら都合がいいわ。現地で合流するから」

 娘は宙に浮き、その場から飛び去った。

 

続いた

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