※この作品はR-18です。

椛との日々!!(本編終了)   作:量産機

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※食人要素はない。




日常篇
食卓


 妖怪は人を襲う。そして食うわけだが、血を滴らせた肉を食べるのか怯えさせた心を食うのかは、それぞれ異なる、らしい。そもそも妖怪の食事というテーマを扱い研究した者など、幻想郷にはいない。名高い稗田家の歴代当主も、この件については多くを記していない。有力な妖怪達との接触が多い稗田だからこそ、気を利かせて記録を意図的に避けたか、あるいは影の圧力かは分からない。

 しかし時に妖怪にもそれぞれ嗜好、あるいはタブー・体質で受け付けない物があるらしいという事が、巷の噂で流れる。

 妖怪の賢者の式である八雲藍は油揚げを好み、わざわざ人里の店にまで買い求めに現れる。気を逸らすための道具に用いられる程だから、相当思い入れのある食べ物なのだろう。

 吸血鬼レミリア・スカーレットは、齢500にして血を吸うのが未だ下手である。理由は諸説あってはっきりとしないが、とにかく直接人を噛むのが苦手らしい。紅魔異変以降、レミリアが博麗の巫女らと交友を持ち始めてからは、血肉を食べる事自体が少なくなっているそうだが、本人は健康かつ強豪の貫録を変わらず保ち続けている。ただしニンニクは淑女の食べる物ではない、と悪臭を理由に館で扱う事を禁じている、と言う噂もある。

 

 妖怪の山の食事情は難しい。鬼の時代は桃と豆類が持ち込みと栽培を禁止されていた。

 彼らにとっては深刻なアレルギー反応を起こす有害物質だったからである。四天王やその直属の部下クラスになると殆ど影響が無かったが、未熟な鬼達にとっては時に命取りになった。山内や勢力圏内では時々“有害植物駆除”が行われ、鬼が山を去るまで管理は厳重に行われていた。守谷神社が越して盟主となった後、桃と豆類が山に流入し経済に大きな影響を与えている。

 意外だが酒にも鬼は監視の目を向けていた。古来より人が怪物を退治する手段として、酒に一服盛るか、大量に飲ませて酔い潰す事例があった、鬼は酒に強く酔っても倒れる事はなかなか無いが、毒を盛られてはたまらない。更に質の低い酒を鬼は嫌った。四天王・伊吹萃香や星熊勇儀は上質な酒をいつでも得られる便利な品を所持していたが、大半の鬼は便利さと無縁であった。酒作には厳重な審査が設けられ、また殆どは場所を秘匿された。

 当時を知る者は、食は供され給金こそ良かったものの、獄に繋がれて働かされている様な環境だったと振り返る。現在これら極秘の酒造所はほぼ閉鎖されているが、一部がまだ稼働して旧地獄などに“幻の酒”を流しているという、

 こうして時の権力者によって、天狗を筆頭とする山の者達は“食”のタブーを課せられていたわけだが、逆に言えばそれらを守れば日々の糧には問題は無かった。唯一酒に関しては、鴉天狗にも酒豪が多かったため、鬼に酒の配給を増やして貰うため泣きつく事が多かった。

 

「なんだ、麦飯なら今食べているだろう?」

 妖怪の山・白狼天狗住宅街・犬走椛宅。居間で二人の白狼天狗が食卓を囲んでいた。胡瓜を具にした冷やし汁、ゴボウのきんぴら、代用肉のハンバーグ、そしてとろろを添えた麦飯。椛が包丁を振るったそれらを、部下兼恋人である柘植早十蔵は心底嬉しそうに食べ、その上で熱く語るのだった。

「いや、精製されたこの麦飯はとろろと一緒にズズっと腹へ入るのがたまらない、テングノムギメシは別物」

「ああ、あれか‥‥」

「昔修験者が食べていたもの、とされている。つまり天狗のルーツに‥‥」

「講釈が長いな」

「珍しい食材、です。元から天狗の身ではありませんが、一度食してみたい」

「残念だが、あれは高いぞ」

「‥‥高いって、買えるんですか?!」

「私が訓練を受けていた時代には、初任祝いの宴会で全員に少しづつ出されたものだ。だがあまりに高価なので廃止になった」

「何年程前なのでしょう?」

「忘れた。まあ原産地は覚えているぞ?」

「とても興味があります!」

「こら、箸で相手を指すな」

 親子の様なやり取りを二人は続けていた、

「確か飯縄山の物をスキマ妖怪がどうにかして譲って貰ってたらしいが‥‥」

「外界の霊地ですか‥‥で、幾ら位なんでしょう?」

「お前の年収に少し足した程」

 十蔵は黙り込み、そのまま冷やし汁の杯を取る。椛は微笑んだ。

「大して旨いものでもなかったぞ。それだけの価値がある、と認められた証だが、本当の価値はそれから自分で作っていくものだからな」

 冷やし汁の胡瓜を噛みながら、小声で男は呟いた。

「俺にとっては価値があるものだったのですがね」

「何か言ったか?」

「いえ」

 十蔵はその瞬間、椛へのプレゼントのリストに一つ、消し墨を入れた。

 

 

 続く?

 

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