※この作品はR-18です。

椛との日々!!(本編終了)   作:量産機

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時にはこんな椛・十手とスカート

 椛と自らが隊内でどの様な噂になっているかを知るため、相部屋の住人、億を樹から簀巻きにして吊るした十蔵。簀巻きをゆっくり優しく揺らしながら、十蔵は尋ねた。

「みんな? 殆ど知ってるって? どういう事なんだよ?」

 億は泣きそうな声で答える。

「そりゃ気付きますぜ! 教官と十蔵さん、結構あちこちであんな事やこんな事なすってるでしょ! 嫌でも」

 十蔵はブランコを押す様に激しく簀巻きを揺らした。

「本当にござんす! でも誰も悪く言ったりしてやせん! むしろ」

 億はしまった、と口をつぐんだが遅かった。十蔵は簀巻きごとを吊るしたロープを回し始めた。手を放すと絶叫と共に簀巻きが回転する。

「むしろに包んでほしい?」

 簀巻きは目を左右に行き来させながら、微笑んだ。

「夢のお寺から斧を持ったネズミが」

「もう一度逆回転で回すか。元に戻るかもしれん」

 ロープに再び手をかける十蔵。危険が億を現実に引き戻した。

「やめて止めてお願ぇしやす!! みんなは折檻されている十蔵さんが楽しそうだとか、いつ振られるのかとか、えーと、外からの言葉で何て言ったかな‥‥リア王が何とかとか!」 

「悪くは言ってないが良く言ってる様にも聞こえない‥‥」

 その時、十蔵の耳に誰かが枝を踏む音が聞こえた。彼は武器を携帯していない。億を背にし、徒手空拳で戦う構えを取る。

「おやめなさい。私にその様な事をしても無駄ですよ?」

 静かで、何処か憂いを帯びた声だった。十蔵は驚き、落ち着かない様子で構えを解く。

「雛様」

 厄神こと鍵山雛。生きとし生ける者の”厄“を背負い、散らす事を宿命とする神。緑の衣装と長く紅いリボンを大量にたなびかせた彼女の姿は、儚げで美しかった。

「その人を下ろしてあげなさい」

 十蔵は視線を逸らしたまま答える。

「し、しかしこいつにはまだ聞かなくてはならない事が」

「天狗がミノムシの真似をしても、宴会芸にもならないわ」

 雛が手の平を吹くと、緑の光弾(十蔵もオクも初めて見るが、弾幕戦用の物である)が飛んで簀巻きを吊るしていた縄を切る。派手に落ちたオクだが、頭に降りていた血を振り払う様にしながら、雛を見た。

「感謝いたしやす、厄神様! でもあっしからも言わせて頂きやすが、十蔵さんも別に悪気‥‥があったんでござんしょうか?」

「すまん、少しあった」

 少し、という部分でやや怪しむ顔をした億だが、すぐに表情を切り替える。

「と、とにかく恩人、いや恩神でござんす!! 何かご入用の際はあっしにご用命を!

 ちり紙から爆弾まで何でも手に入れてご奉納いたしやす!」

 雛は道化めいた物言いをうつむいて聞いていたが、最後は口に手を当て小さく笑った。

「あら、なら今度‥‥人里にあるって噂のキウイフルーツって果物、手に入れて下さるかしら?」

「へい! 何処にあろうと必ず手に入れやす!」

 オクは気合を入れて簀巻きのまま立ち上がり、跳躍しながら去って行った。

(あいつ‥‥いつでも逃げられたのに‥‥)

「あら、少し厄が濃いわね。坊や、少し動かないで」

 顔を上げた十蔵の前で、雛は胸の前で手を組みくるりと鮮やかに一回転した。手を誘う様に前へかざすと、十蔵の体から紫色の”厄 ”が目に見える程流れていく。

 その全てを吸い取りきると、雛はスカートの端を持ち上げてお辞儀して見せる。

「お粗末様でした、あまり友達にオイタしちゃ駄目よ? 坊や」

 十蔵は視線をまた逸らしながら答えた。

「雛様。覚えてらっしゃらないですか?」

「何をかしら?」

「妖怪の山の近く、狼人の村が一つありました。俺の故郷です。雛様はよく俺達の厄を集めに来て下さった」

 雛は少し考え込んだ。

「‥‥あら、貴方あそこの‥‥」

「俺、何度か雛様の舞を見たけど、今でも変わらない。すごく、綺麗です」

 十蔵が雛の顔に緯線を戻すと、相手は優しい微笑みを浮かべていた。

「ふふ、長い時を生きているけど、悪い気はしないわ。でも、その先は言っちゃダメ」

 ウインクしながら、人差し指を自分の口の前に立てる。

「彼女、怒らなくても怖いのではなくて?」

 突然怒鳴られた様な気がして、十蔵は直立不動の姿勢をとってしまった。

「あら図星なの? ごめんなさい、冗談で言ってみただけなの」

 雛はからかう様な口調で笑った。

「俺は別に神様を口説こうとしたわけじゃありませんよ! でも、バレたら‥‥」

「ここで交わされたのは、あの人が私にキウイを持って来るという口約束だけ‥‥貴方は何も見ざる、聞かざる、言わざる‥‥」

 リボンを翻し、静かに歩み去ろうとする雛。

「待ってください、何故キウ‥イ?とかいうのなんです?」

「緑の果物が好きなの、私」

「そうだったんですか‥‥。じゃ、俺はあいつに雛様のほこらの場所を教えてきますよ。失礼します!」

 敬礼して言い残し、十蔵はそこから低空で飛び去って行った。。

 雛はしばらくその場に立ち尽くしていた。

(確か、山の近くで狼人の村、私が訪れていた所といえば‥‥あの坊や‥‥?)

 

 十蔵が億に雛の祠を教えてやり、彼は喜び勇んで人里へ飛んで行った。その結果は不明である。

 翌朝。訓練基地・道場での朝稽古。防具を着け、訓練用武器を用いる、一対一の白兵戦訓練が行われていた。本来は道場全体を使って、それぞれ相手を見つけてやり合うのだが、今この道場は一人の暴君に支配されていた。椛が会議のため不在で、別の白狼天狗が教官を務めているのだが、とうの昔にのされている。暴君・牙堂の槍が九番の武器・メイスを弾き飛ばした。九番はそれなりに腕の立つ男で、隊の中でも評判が良かった。椛にも積極的に稽古を挑んでいる。十蔵も何度か手合せしたが、黒星の方が多い。

「ま、参った!」

「馬鹿野郎、これは戦いじゃあ! 戦で参ったもクソも無ぇ!」

 牙堂の前蹴りが九番の胸板をまともに捉えた。壁に叩きつけられた九番は、血を吐いて倒れる。

「次はどいつだぁ! ワシの腕をなまらせるな! ザコなら二人がかりでもいいぞ!」

 手練れの者は今の九番で全て倒された。十蔵はまだ中堅クラスである。

「よし! 二番、十五番! 適当なのを選べ」

「はい!」

 この二人は早くから牙堂の腰巾着として振る舞っていた。十蔵は、射命丸文に情報を売った人物なのではないかと睨んでいるが、まだ確証は無かった。二番と十五番は適当に何人かを引っ張り出し、牙堂の前に放り出した。十蔵はその中に億の姿を見つけた。

適当に選ばれただけあり、泣いて逃げる者、腰を抜かし動かない者、失禁する者などいたが、二番と十五番が追い返し、牙堂の槍や拳、蹴り一撃でのされていく。残るは億だけであった。彼の武器は普通の片手剣だが、元々白兵戦の成績は下から数えた方が早い男である。

「逃げろ! 億!」

 十蔵は叫んだが、億は震えながらも牙堂を見据えている。

「あっしは厄神様に悪いモン取って貰ったんだ! こ、こんな野郎一捻りだ!」

 一瞬十蔵はきょとんとしたが、すぐに合点がいった。

(あのアホ、雛様は出会っただけで自動的に厄を吸い取ってくれるんじゃない!!)

 次の行動を起こそうとして、彼は一瞬躊躇した。が、次の瞬間脱兎のごとく道場を飛び出した。牙堂はそれを見て爆笑した。

「これはお笑いよ! 椛先生へご注進か。目上の力を借りるなどとは、誇り高い我らにはあってはならぬ行い! あるいは単に逃げたか、いずれにしろ腰抜けじゃ!!」

 二番と十五番も嘲笑する。残りの者からは失望、同調して逃げ出そうとする者もいた。

 だが牙堂が槍の石突きで畳を突き、皆を黙らせる。

「終わったらお前らの頭数を数える。足りない者は何処までも追って探しだし、叩きのめす。これ以上は逃さん。さぁて」

 牙堂は一人立ち向かう億に向き直った。

「気骨は認めてやろう。だが実際の骨はどうかな?」

 

 一方の椛は、哨戒部隊司令部にいた。暗い会議室で、対象のスケッチやズタズタにされた民間人のおぞましい現場写真などが、河童製のプロジェクターに次々と映される。

「この凶暴な妖怪は、残念な事に対話の出来る者では無いらしい」

 議長を務める哨戒部隊司令は、プロジェクターを切った。カーテンが自動的に上がり、暗い室内に光がさす。部屋には各小隊の隊長、そして椛が出席していた。第三小隊の隊長が手を上げる。

「質問、よろしいですか?」

「許可する」

「この妖怪は本当に地下‥‥あの地霊殿への道を通って現れたのですか?」

「旧地獄よりの通報だ。あの辺りは温泉が噴き出たり、聖輦船が飛び立った聖地巡礼とか色々重なった挙句、歓楽街化が進んでいる。酒の匂いにでも釣られて一暴れ、そして地上へとお出ましになったわけだ」

「地底の連中がわざと追い出した可能性は?」

「可能な限り追撃をして、この近辺で見失ったと言っている。どっちにしろ、鬼がいる向こう側に文句はつけられん。それに、これは守矢の依頼、いや命令と言うべきかな」

 隊長たちがざわめいた。司令は続ける。

「妖怪の山で最も機動力と兵力、高度な組織を有しているのは、我ら天狗だ。守矢の軍神にも同じ事を言われれば、とても嫌とは言えまい」

 次は第五小隊の隊長が挙手した。

「我々は常に出動態勢にありますが、鴉天狗の応援は得られるのですか?」

「無い。向こうは畑違いと出兵を拒否した」

 隊長達はいきりたった。

「幾ら何でも怠慢ではありませんか! 大天狗様に上訴し、出動要請を頂きましょう!」

「落ち着け。我々だけで、やるんだ」

 顔に斜めの傷跡を三つ持つ司令は、隊長達を見渡した。

「俺が若い頃、白狼天狗も鴉どもみたいに傲慢でな。他に何があろうと知ったこっちゃない‥‥そう思ってた。哨戒の任務も身分がもたらす暇つぶしだとな。しかし、長い時に色々あった。これもそうだ」

 顔の傷をなぞって見せる。

「そして鴉がしない仕事を俺達はこなしてる。鴉なんかじゃ無い、この山そのものを守ってるのが俺達だって事さ。俺達の流す血は、白狼の誇りと団結、そして山の守護者という勲章だ」

 隊長達は皆眼に闘志をたぎらせていた。何気ない顔の司令はスクリーンを上げ、地図を張り付けた黒板を奥から引っ張り出す。

「各部隊の担当地域を説明する。配布した資料と併せて頭に叩き込んどけ!」

 

 そして各小隊の配置が決まり、部屋には司令と椛が残されるだけとなった。説明を終え資料を片付けていた司令へ、椛は静かに歩み寄る。司令は資料をまとめ終えると、葉巻を出して先端を食いちぎった。

「椛か。何か言いたい事がありそうだな?」

「はっ」

「内容は分かっている。今回の訓練兵の参加についてだな?」

「率直に申し上げます。今の彼らではものの役に立ちません」

 司令はマッチをすり、時間をかけ葉巻に火を移した。紫煙を軽く吹き出す。

「彼らはまだ獲物も狩れない子狼かね?」

「まだ教えていない事もあります。相手が危険な妖怪では太刀打ち出来ないどころか、仲間の足を引っ張る可能性も」

「‥‥実はな椛。お前にだけ言っておかなくちゃならん事がある。訓練部隊について厄介な横槍が入ってきた」

 椛の顔が少しだけ動いた。

「どういう事です?」

「鴉どもだよ。あいつらの中には外部の血が入る事を嫌うのが多い。今回の新兵養成計画は、あのお方の発案だというのにな」

「私達に、存在意義を示せと?」

「そう見せかけて、何か失点を狙ってるのかも知れん。‥‥何かあれば、すぐにカバーさせる。それに、何よりお前がいる」

 椛は顔を紅くした。司令とは二ケ台の年月の付き合いである。親子の様な関係であった。

「こ、光栄、であります」

「よろしい!」

 葉巻をくわえたまま、司令はニヤリと笑った。その時、会議室の扉が開いた。

「司令! と椛教官! ここにおいででしたか!」

「何事だ?」

「訓練部隊基地より報告です!」

 

 時は少し遡る。

 億は斬りかかった最初の一撃で、剣を弾かれた。そのまま横殴りに振られた槍が、彼の空いた右腕をへし折る。そのまま吹き飛ばされながらも、彼はまだ盾を構えて突進した。牙堂は避けもせず、槍も使わず、ただ中段蹴りを叩き込んだ。億の力では防御すら出来ず、足は脇腹に食い込んだ。人間なら即死しかねない衝撃に、再び億は宙を舞う。血を吐きながら、まだ億は立ち上がろうとする。

「もう立つな七番! 殺されるぞ!!」

 誰かが悲痛な声を出したが、二番と十五番が叩きのめしてしまう。その時である。道場内へ軽々とジャンプし、飛び入った者がいた。

「十二番!? お前、逃げたんじゃなかったのか!」

「やめろ! やられるだけだぞ!」

 仲間達を無視して、防具、自らの訓練用剛剣、盾を持つ十蔵。その背後に、二番と十五番が近寄る。

「ノコノコ舞い戻って来たか、でもお友達はもうご臨終だぜ?」

「牙堂様、いやまず俺の足にキスしな。そうしたら殴らないでやろう」

 十蔵は二人を交互に見つめ、にっこりと笑い尋ねた。

「どっちだ?」

「ああ?」

「教官と、俺の事ブン屋に売ったの」

 二人も健やかに笑って返答した。

「俺だ」

「俺よ」

 次の瞬間、二番はハイキックをまともに食らい昏倒。十五番は続け様の後ろ回し蹴りで膝をぶち抜かれた。

「こいつら何かで縛っとけ」

 まだ無事だった者達に命じ、十蔵は興味深そうな牙堂の前に立った。

「お前とは一度も手合せした事が無かったな?」

「まず危険は避けるべきもの、という極意を以前武道の雑誌で読んだ」

「ほう! ワシを危険と見るか!! いいぞいいぞ! お前も弱そうだが目はいい!」

「早くやろうぜ! そろそろ皆異変に気付く筈だ」

 剣を構える十蔵。牙堂も頷き、いきなり槍を上段から叩きつけた。それを受けた盾から強烈な衝撃が伝わる。

(この化け物! まともに受けてたらそれだけで負けだ!)

 態勢を低くした十蔵が走る。牙堂はすかさず振り上げた槍の石付きで突こうとするが、剣で打ち払われた。懐に飛び込み盾で突撃するのかと思いきや、突然停止した。次の瞬間、牙堂が絶叫を上げた。その爪先に、十蔵の踵が食い込んでいる。隙だらけの相手の右小手に、剛剣が叩き込まれた。地面に落ちる槍。しかし、足元がおぼつか無いとはいえ、牙堂の力は健在だった。敢えて盾を捨て、そのまま十蔵を殴り飛ばしたのだ。十蔵も咄嗟に武器と盾を手放し、衝撃を受け流そうとしたが、食らったものがものなだけにあまり効果が無かった。畳を転がりながらも、かろうじてノックアウトは免れていたが、意識が朦朧としている。対する牙堂も、手と足にダメージにまだ苦悶の表情を浮かべている。しかし彼はまだ自らの意思で動けた。槍を拾い上げ、投げつけようとしたが、利き腕ではなく狙いが定まらない。そこで、彼は槍を杖代わりにして十蔵に近付き、止めを刺す事にした。死神の船の棹の様に近付く槍。

(忌々しい‥‥折角取ってきた”アレ ”も使えないで終わるのか)

 その時である。彼の耳に誰かの声が聞こえた。

「立て」

(ありゃ? 幻聴?)

 次に来た声はもっと強烈だった。

「起きろぉ!! 十蔵! 起床時間はとっくに過ぎてるぞ!!」

「やべぇ!!?」

 何故か身体が勝手に反応し、男は一気に覚醒した。素早く立ち上がり、構えを取る。牙堂は突然の出来事に戸惑った。構えを取る十蔵が道場を見渡すと、腕組みしてこちらを見守る新たな人影があった。

「負けたら許さんぞ! 十蔵!! 負けたら私を乗せて腕立て伏せ百回!」

 もはや観客と化した他の訓練兵から、口笛、手拍子、囃し声が飛ぶ。

(教官、平然と仰られるとこが怖いです)

 今、十蔵を蘇らせたのは入隊の頃から椛に叩きこまれてきた恐怖、では無い。

(教官がいたから? あそこに?)

 彼はその疑問をひとまず忘れる事にした。牙堂が歯を食いしばり、痛む足を大地に叩きつける。使えない右腕も、槍を握った。

(負けん! ワシは応援など必要とせん!)

 全身全霊の力を以て牙堂が槍を振りかざした。十蔵は現在、無手である。槍が振り下ろされた。無論頭にでは無い。肩を狙っていた。直撃したら防具の上からでも大打撃を受ける。妖怪の再生能力を以てしても、再起には時間がかかるだおう。誰もが牙堂の勝利を確信した。四人を除いて。

 槍が、銀に光る棒に受け止められた。十蔵は棒の両端をしっかり握り、圧力に耐える。そして前へ向け、棒を滑らせながら突進した。牙堂の根性がついに崩れ、踏み抜かれた足から膝が落ちる。利き手も槍から離れ、片手だけが槍を引こうとする。そこへ、銀の閃光が襲い掛かり、槍は叩き落とされた。片膝立ちの牙堂前に立った十蔵は、その頭をなぎ払った。面が飛び、それでもまだ牙堂は倒れない。彼は最後の力で十蔵を抱えた。指が使えないためしっかりロックされていないが、それでも丸太で締め上げられているような技だ。銀色の武器を振りかざしていた十蔵は右手こそ自由だったが、左手は挟まれてびくともしない。彼の手から武器が落ちた。身体がミシミシと不気味な音を立てる。

「負けを、認めろ。お前はよくやった」

 牙堂がささやいた。だが十蔵は不気味な笑みを浮かべた。

「いいや、勝つのは俺だ!」

 自由な右手が思いっきり伸ばされる。そして、巨人の頭頂部へ肘が落下した。先に牙堂、次に十蔵が倒れた。

 

「なかなかやるじゃないか。あの二人、是非参加させたまえ」

「司令。ああ見えてもゴロツキと馬鹿者ですよ?」

「私の時代はそんな奴ばかりだったさ」

 

 道場の窓で、カメラのシャッターを切り、巻き上げる音が連続で響いていた。

 

 数日後、訓練基地・食堂。

 十蔵は軽く酒杯を傾けた。

(天狗って本当酒に強くなるんだな‥‥白狼天狗に同化される前は一滴も受け付けなかった酒が、今はスムーズに喉を通る。そういや、億はどうやってキーウイだったか何かを手に入れたんだろう?)

 彼は先刻まで酒席で乾杯の音頭を取るなど大騒ぎしていたが、一段落つくと十蔵に雛の住む祠へ猛スピードで飛んでいった。片腕とアバラと内臓をやられているのに、である。だが、彼の事は彼の事だった。

 食堂がざわついた。十蔵が見ると、牙堂が足を引きずりながらも入ってくる。彼がじろりと周囲を睨むと、ざわめきは収まった。彼は十蔵を見つけると、ゆっくりと近づいてくる。二番と十五番の姿は見えない。やがて、彼は十蔵の隣に座った。挨拶も遠慮も無い。如何にも彼らしい振る舞いだった。

「頂くぞ」

「好きにしな。億達との間接キスが好きならな」

 身体を揺らしながら牙堂が笑った。彼は酒瓶を取ると、そこから直に飲み始める。

「何処まで力技なんだか」

「力は結局、全てを制する。この幻想郷だって力が支配している」

「関わりない事さ。俺は俺の範囲で出来る事をする。それだけでも大変だぜ?」

「なら、ワシはワシの範囲で力を磨き続けるざ」

「パパラッチに気をつけな」

 立ち上がり、牙堂は笑いながら胸を叩いた。

「別に撮られて困る事はしていない。今度プリズムリバーのコンサートにでも行こうぜ」

 十蔵は酒を噴き出した。牙堂は席を立ちながら言い捨てる。

「冗談だ。メルランちゃんを応援するのに相棒はいらねぇ」

 酒瓶を持ち去っていく大男の後ろ姿を見ながら、十蔵は頭を振った。

(お前は攻撃しなくても十分相手を倒せるよ。一番堪えたぜ)

 その時、館内放送が響いた。

<認識番号十二番、教官室へ出頭せよ>

 数分後十蔵は“犬走椛”とネームプレートの貼られた部屋の前にいた。

(何の用事だろう?)

 ドアを二回ノックする。

「入れ」

 扉を素早く開け、中に入る。やや安っぽい、スチールデスクの向こうに座っている椛へ敬礼する。

「十二番、出頭しました」

「休め」

「はっ」

 後ろで手を組む十蔵を、椛はいつかの様な無表情で見つめる。

(怖いな。改めて見ると教官の無表情は)

 そんな事を考えていると、椛は机の上に銀色に光る物を置いた。

「これはなんだ?」

 全長四十㎝、手で握る柄には黒い紐が固く結びつけられ、そこと攻撃用の部分を分ける枝の様に太刀もぎが取り付けられている。

「はっ、家に伝わる秘伝の武器です。十手、と申します」

「見たところ、光ってはいるが銀製ではない。だが、かなりの逸品かな」

「銀だと自分ら達狼人、てか今も白狼ですがアレルギーが出てしまいます。何か希少な金属を混ぜていると聞きました」

「牙堂戦で隠して用いたのは何故か?」

「奴とは力の差があり過ぎます。正面からぶつかれば勝機は無い。ならば‥‥」

「もういい。馬鹿なりに少しは学習しているな?」

 椛は微かに笑った。微笑とすら言えない様な、小さな笑いだった。

「さあ、これを返してやるから来い」

「はっ」

「違う! 机を回り込んで来い!」

 上官の命令通り、十蔵はデスクの横から椛の前へ移動した。白狼天狗は椅子に腰かけ、腕と足を組んでいた。何故か視線を逸らしている。

「教官?」

 椛は何も答えない。十蔵は、彼女の様子を観察してみた。髪形、ケモノ耳はいつもと変わらず。顔も不自然に視線を逸らしている以外は特に異常なし、組んだ手、その奥の巨乳。腹、そして二本の白く優しさと逞しさを兼ね備えた細い足。白狼天狗の娘はミニスカート姿だった。それも、射命丸文らが好んで着用している、黒いプリーツスカートである。

「お前に質問がある」

「はっ」

「似合っているか?」

 足を戻し、椛は立ち上がった。くるりと回って見せる。膝の丈までしか隠れていないから、空を飛ぶのには高度な技を要するだろう。十蔵は神妙な面持ちで見つめ、眺め、視線を固定し続けた。

「お前もこういうのが好きなのか? 命令だ、即答しろ」

「好きです」

「よろしい」

 何が“よろしい”のか曖昧だが、椛は満足そうに紅い顔で頷いた。

「そろそろ自分の十手を返し」

「まだ話は終わってない。貴様、牙堂戦でした約束を覚えているか?」

「は?」

 突然椛の手が十蔵の服を掴み、内股が炸裂した。そのままうつ伏せに転がされる。

「負けたら私を乗せて腕立て伏せ百回、だったな」

「ちょっと待ってください!! あれは相打ちというか自分の勝ちであります?! ついでにいうと自分は奴の汗臭い抱擁で左手にヒビが!!」

「ふん、倒れて意識を失ったくせに勝利者気取りだと? ボクシングだって最後まで立っていた方が勝ちだ! よってあの勝負、両者敗北とする」

「最低な裁定、語呂までつまらねぇ!!」

 椛はうつ伏せの背中に飛び乗った。十蔵は途端に静かになった。

「ほら、どうした。姿勢をとれ」

「あの、背中が物凄く重いんですが」

「女の体を重いとは、貴様はデリカシーにも力にも欠ける様だな?」

 十蔵の目が後頭部に付いていたら、巨乳をニヤニヤしながら背中に押し付ける椛が見えただろう。

「む、無理です教官。やっぱり腕上がらない」

「この根性無しが。私がいいというまで頑張りを見せろ」

 一応形だけは踏ん張るものの、一ミリ程度しか動かない。その間椛は身体を少し前へ移動させ、両手を首に回したり、耳に息を吹きかけたり好き放題始めた。

「教官、自分で遊ぶのはやめてください‥‥もう、ヤバいです」

 十蔵は泣きそうな声を出した。

「何がヤバいのだ。はっきり言え」

 椛は十蔵の耳を甘噛みした。激しくもなく焦るでもなく、ただ単調に味見するがの如く噛む。

「下半身がであります! この体制だと恐ろしく圧迫されて大変な事になりそうです!」

「昔読んだ漫画に、それ一本で体を浮かせた偉人が出ていたぞ?」

 背中に椛は頬と胸を擦り付けている。狼というより愛玩動物を思い起こさせる動きだった。

「教官! せめて仰向けに! お願いです!! 泌尿器科は勘弁!」

「もう、つまらん奴だ。ほれ」

 椛は十蔵の頭を撫でるのを止め、ようやく上から退いた。男は仰向けになり、マラソンを全力疾走した時の様に息が荒く、股の辺りのテントは隠しようが無い程怒張していた。

  「さて、別の罰を考えねばならんな」

 彼女はじっと十蔵の顔を見つめ、自分のスカートと視線を行き来させた。

「よし。新しい腹筋を試してみよう」

「それなら何とかいけそうです」

「安心するのはまだ早いぞ?」

 いきなり椛は相手の顔をまたぐと、そのまま膝を着いた。スカートが丁度十蔵の頭を覆っている。 彼はその中で異様な光景に遭遇していた。本来ならあるべき物、秘所を始め股間を守る下着が無い。銀色の草むらの間から、ぽたりぽたりと愛液が顔面に落ちてきた。

(俺が机を回る前に早業で脱いだのか? それとも最初から? ‥‥教官、お願いだから

 変な方に暴走しないでください!)

 椛はスカートをめくって十蔵に命じた。

「何をしている? 早く始めろ」

「具体的な指示をお願いします」

「そうだな、感じるままに、丁寧に動け」

 答える気が失せた十蔵は、秘所に顔を近付けた。既にびしょびしょになっていたそこからは、続々と蜜が溢れてくる。必死でクンニリングスを続ける事数分。十蔵が陰核の皮を剥いてやり、その周辺を軽く舌で愛撫してやると椛の体が一瞬跳ね上がり、そのまま脱力した彼女は股を十蔵の上に乗せてしまった。

(!!! ちょ、待てこれは本当に洒落になら、息が! 息が!)

 呆けたまま動かない椛の下で必死にもがく男一人。再び数分後、ようやく椛の体を持ち上げ、横に転がして難を逃れた。再び荒い呼吸で、命の感覚を味わう十蔵。しかし口に残っていた愛液が気管に入り、猛烈にむせた。その傍らで椛は、幸せそうな顔をしていた。

「このままで終わりませんよ!」

「お? 貴様まだいたのか?」

 十蔵は袴を脱ぎ捨て、下着の前を開けた。陰茎が獲物を求めるかの様に飛び出す。椛は紅潮して緩んだ顔をしながら問う。

「私はもう満足してしまったぞ? お前はもう用無しだ」

 そのくせ、スカートをめくり上げ挑発するかの様に秘所を見せる。

「こちらには大切な用事がありましてね!」

 激しく、正常位で突き入れる十蔵。椛は手をだらりと後ろに投げ出し、なすがままの姿勢を取っている。

「ううっ! いい、いいっ」

 椛は目を閉じ、体内に挿入される陰茎をひたすら受け入れていた。

「それは結構ですね!」

 仕返しのつもりで突っ込んでいる十蔵が必死で、白狼天狗の娘は余裕の顔をしている、

「でっ、用事、とはなんだ?」

「一つ、俺の武器返して貰う事! 二つ、これ以上変な嗜好に目覚めない事!」

「最初はっ、好き、好きっ! ああっ!」

「ごまかさないで下さい!」

「持ってけっ! 二つ目、そっ、それは」

「ううっ、それは、で?」

「もう遅い!!」

 

 二人にとっては、ある意味思い出の場所である基地の大浴場。牙堂達の乱戦で、現在訓練は休止状態にあった。大浴場も湯が抜かれ、シャワーと洗い場だけが使える状態である。ここで今、椛が十蔵の背中を流してやっていた。

「ふぅ。男の裸の背中は、いつ見ても広いな」

「今日は、精神的に疲れました」

「お前は、私が狂ったと思ったのか? 安心しろ」

 男の背中に柔らかい物が当たった。今度は生で。

「ほらまたそんな事を! 駄目ですよ!」

「冗談だ、ところで、今日のお前は妙に硬いな?」

「どこが?」

「ふふ、お前も十分変態だ」

 

 続く?

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