白狼天狗哨戒部隊。彼らは妖怪の山という巨大な集合体を守るため、日々その眼を光らせている。時には迷子を送還し、恐るべき妖物には要撃に当たった。第十六小隊は外部から同化された、いわば“純粋”な白狼天狗とはやや違う者達で編成されている。しかし優秀な隊長、犬走椛の指揮の元、安定した実績を示していた。
そんな彼らの幻想郷での日々の物語である。
妖怪の山多目的ホール。一年前、ある河童が守矢神社に提案、建設を始めた一大公共施設である。全天候対応のドーム形式ホールを河童が突貫作業で完成させたのには、ある思惑があった。彼らは妖怪の山で河川・湿地帯を支配しているとはいえ、技術力以外の名声をなかなか得られない。最大種族である天狗より格下である事は免れなかった。 しかし鬼に代わる新たな支配者、守矢神社が(表面上は)穏健の姿勢を見せている事から、河童内で勢力拡大の気運が高まった。神社や山内の妖怪、人里とのネットワークを技術力で構築し、山内の勢力へと還元する。元来保守的な天狗が他種族との交流を始めたというニュースも、更に彼らを大計画へと駆り立てたのである。
“守矢神社・河童共催、妖怪の山多目的ホールこけら落としコンサート”会場。
名高きプリズムリバー三姉妹の生演奏、それぞれソロの歌まで披露するとくれば、山以外からも妖怪・人が集まって当然である。
その喧噪の中、椛の視線が、にやけた顔で望遠レンズを構えた妖怪を捉えた。ステージ上のリリカのスカート、の中、を狙っている。バルコニーの立ち見席にいる椛達からは、混雑が間に入り数百m離れているというのに、彼女はどんどん容疑者を見つけていく。千里眼の賜物だった。
「警備本部、こちらマルガリータ。ブロックJにて隠し撮りだ。近くにいるのは?」
「我々の光学迷彩警備隊とモッキンバードが巡回中です」
「よし、確保してくれ」
椛は通信機の周波数を切り替えた。
「モッキンバード、聞こえるか?」
「こちらモッキンバード」
「ブロックJの三列目、望遠レンズカメラを持ったハイエナ族の妖怪だ。リリカ殿がステージ前列に来たら涎を流して撮影するから、お前達は河童警備員と共同で確保、本部へ連行」
「了解」
今日の椛は顔の横で髪を編み、そこに簪を縦に差している。服は薄紫に染めた振袖に、女性用の袴だ。現在、椛達はコンサートの警備任務に就いていた。“守矢神社・河童共催”という表記が示す様に、今や自分達は天狗と同格なのだ、という発信でもあった。 その催しに天狗からも人を出せと申し入れがあった。
天狗社会では、最高指導者である天魔は黙して語らず、大天狗が血気に流行る者達を抑えるのに苦労した。一部の鴉天狗など私兵を動員し、河童地区を強襲しようと目論んだ。尚、この企みは射命丸文にスクープされ未発に終わっている。結局お鉢は白狼に回され、たまたま非番の第十六小隊が“貸し出される”始末と相成ったのである。椛は無線を切り、苛ついた様子で舌打ちした。
「先刻から性犯罪者ばかりじゃないか! 変態しか来てないのか!」
隣の男がしれっと返す。
「根こそぎ逮捕すれば別のが出てくるんじゃないですか?」
こちらも着物に袴姿で、腰に警備員の証である木刀、懐には十手を差していた。
「私の目で全部探し出してやる! 女の敵めが!!」
「そりゃお仕事ですけど、本来は河童の責任なんですよ? 気は抜かずとも手は抜け、と言うでしょう。歌を楽しむ風情は無いんですか?」
「狼の風情は月だけだ!」
「この間の夜の趣向、そんなに気に入ってくれたんですか」
椛は真っ赤になり、一点を見つめたまま黙りこんでしまった。
「月の兎さんに見られながらの熱い一夜‥‥思い出として残ってくれたなら、て隊長?」
上官が泣きそうな顔に変わっているのを見て、椛の部下にして恋人である十蔵は慌てた。
「あの、そこまで傷付ける事を‥‥?」
十蔵の直感が、視線を移動させる。椛の尻の肉と尻尾が不自然に歪み、こね回す様に動いている。彼は無言で十手を抜き、何も無い空間を縦に薙ぎ払った。
「ぐはっ」
聞き覚えのある女の声がして、誰かが地面に倒れた。壊れたビデオ画面の様な光景が床に現れ、数秒後には完全に本体をさらけ出した。
「おい、そこのエロ天狗。同性でも痴漢行為は犯罪だぞ」
「あややややや、思いっきり殴ってくれましたね。レディにする行為ですか?」
「何がレディだ。紅魔館の500才のリトルレディが鼻で笑うぜ。それとも尻子玉ならぬ切子玉で思いっきりやっとけばよかったか?」
「この暴力ケダモノ、いずれ貴方達がまぐわっているとこを一面に‥‥」
背後から椛が文の首を決めた。ギブアップの意思表示も虚しく、新聞狂は落ちる。
「マルガリータ2? 近くにいるか」
「こちらマルガリータ2.。今本部です。騒ぎを起こしたのを連行しました。ご返事が無かった様ですが何かあったのですか?」
「いささか厄介なのを連行する羽目になった。指揮を少しの間代わってくれ。全員、今より指揮権は一時マルガリータ2に移る。分かったな?」
「了解!」
通信の別周波数から声がする。
「警備本部より、厄介な奴とは何かと大会運営が申しておりますが?」
「見れば判ると言っておいてくれ」
大会運営兼警備本部。
地面には猿ぐつわをされ、特製の妖怪用縄で縛られ、更にお札を三枚程貼られた文が芋虫の様に暴れている。呆れ顔で見下ろすのは、運営責任者の洩矢諏訪子と東風谷早苗、緑の作業用ツナギと作業帽、蒼く短い髪を両端でまとめた、化粧気の無い素直で可愛らしい顔の河童、河城にとりだった。椛は膨れっ面をしてそっぽを向き、十蔵は警備室のモニターからコンサートの様子を楽しんでいる。にとりが困り顔で椛に弁解した。
「ねぇ、お願いだから聞いておくれよ。まさか痴漢、いや痴女行為に出るとは思わなかったんだよぉ」
「この女に光学迷彩を与えたら幻想郷一破廉恥かゴシップ満載の新聞が発行されてしまうぞ!!」
「だからぁ、彼女が持っていた光学迷彩はタイプ十九、一つ前の型なんだ。欠陥が見つかったからすぐに壊れるんだよ」
「そういう問題じゃない!」
諏訪子が二人の間に割って入った。
「はいはい、そこでストップ。こうやって犯人は捕らえられたわけだし、今後河童はやたらと発明品を他人に貸さない。きちんと契約書を作るなり、遠隔爆破装置を仕込むなりしなさい。椛、二人に何か要求は? それで今回はチャラにしてあげてよ」
「諏訪子様が仰るなら、射命丸殿には石を抱いて」
「却下」
「では、今宵の宴会時、私と十蔵がそれ以外の罰を下します。にとりもそれに付き合う事で不問。よろしいでしょうか?」
「拷問とか以外ならよろしい。‥‥何その笑い?」
椛は慌ててサディスティックな笑みを隠した。ジト目で彼女を見つめる諏訪子、一言も発せずに嘆息する早苗。居心地悪そうにするにとり。もがく文。そんな面子に、十蔵が声をかけた。
「みんな、ステージの様子がおかしいぞ」
監視カメラには、叩きのめされたらしき白狼天狗達、一人三人の騒霊を守る男、そしてこれまた一人の娘が仁王立ちして相対している。頭には桃を象ったアクセサリを着け、白を基調としたベストにスカート、茶色のブーツ、サファイアをそのまま限界まで引き延ばした様な美しい髪、それらが包む痩身。ステージの中心には、“天人参上!!”と大書された牙門旗が突き刺さっている。
「会場中の河童警備員に告ぐ。携帯プラズマキャノンの使用用意。麻痺レベルにセット、ただしこちらの命令あるまで絶対発射しない事!」
にとりが矢継ぎ早に指示を下す中、椛、早苗、十蔵は部屋を飛び出していく。諏訪子はぼそりと独白した。
「何でもあたしらがやっちゃ面白くないだろうね。ここは見守るとするか」
ステージ上では、メルランのソロ歌唱、彼女がトランペットを吹かない珍しいスタイルが始まろうという時。その娘は突然観客席から飛び出し、大股でステージへと向かった。制止しようと飛び出した白狼天狗達を次々とその細腕でなぎ倒し、ぶん投げ、遂にはステージに上がってしまった。この時、指揮を執るマルガリータ2は本部へ連絡するより、自ら援軍に向かう方を選択してしまった。大きな過ちが犯され、次々とステージに上がる白狼達は倒されていく。観客は格闘興業でも見ている気分で大盛り上がりだった。しかし、メルラン始めプリズムリバーはステージ端まで追いやられ、彼女を守るのは今や白狼天狗一の巨人にしてトラブルメーカー、そしてメルランの大ファンである北ノ森牙堂がいるだけである。何処に隠されていたのか、先端鋭く巨大な牙門旗が投げられた。娘には共犯者がいるらしい。巨大な旗を細腕で簡単に受け取ると、それは軽々と振られた。“天人参上!!”と豪快に大書された旗が翻り、その状態を維持する魔法でもかかっているのか、旗は垂れる事無く雄々しく己を見せつけた。娘は牙門旗をステージ中心に軽々と打ち込み、そこへ“上”から投げ込まれたエレキギター、マイクを手にする。
「オイオイ、地上の愚民共ぉ!! 騒霊風情のか細い歌なんて聞いて楽しいかぁ?!」
さすがに会場は静かになった。そして大ブーイングの嵐が沸き起こる。娘はニヤリと笑った。
「私達“バーサーク・エンジェル”の天にも昇る歌声聞いたら、霊はご昇天、お前らは段階飛びで天界入りだ!! さあ、耳の穴かっぽじれ!!」
ドームの天井に潜んでいたらしき他のメンバーが次々と舞い降りる。いずれも息を呑む様な美男美女ばかりだが、派手なメタルファッションがやや不釣り合いだ。娘がギターを弾いたが電源がスピーカーに繋がっておらず、少し音が会場に響いただけだった。観客が大爆笑する中、娘はステージ脇で話し合いをしている四人を睨みつけた。すなわち、プリズムリバー三姉妹と牙堂である。
「お願いですからステージから控室に逃げて下さい! ワシが時間を稼ぎますから!」
普段物静かなルナサが、今回だけはひどく強情だった。
「ここは私達のステージです。それを暴力で奪い取るなんて、私許せません! 絶対に引きませんよ、えー昇天させられるものならやってみろってんだい!」
「ルナサさん言葉遣いが?!」
リリカがニコニコしながら牙堂の後ろを指差した。
「あー、あの変なお姉ちゃん来たよー?」
巨人は警棒を出しながら振り向いた。天人を名乗る女はニヤニヤしながら、一定の距離を保っている。牙堂は、初対面ながら相手がとてつもない実力者だと判断した。彼自身が鴉天狗に肉薄する程の力を持つのだ。相手の恐ろしさが“気”からも見て取れる。
(天人なら、ワシがそもそも敵う道理が無ぇ! だが、こいつらと郎党を叩きのめさなくては、メルランちゃんが‥‥)
不意に、牙堂の耳元で誰かが囁いた。
「ハッピー♪」
頬に軽い唇の感触。その次に沸き起こった凄まじいブーイングの嵐は、天人に浴びせられた物とは比較にならなかったが、男一匹牙堂には一切届いていなかった。彼の涙混じりの咆哮は会場のブーイングを打ち消す程であり、その身体から迸り出るオーラは天人娘をたじろかせた。真正面から警棒を振りかざし襲い来る彼へ、天人娘は両掌を重ね合わせ上下に開いた。一瞬にしてその間から”剣”が生まれ出る。赤い刃が振られ警棒はいとも簡単に真っ二つにされた。牙堂の喉元へ剣の切っ先が突き付けられる。
「ルールは一つよ。楽になりたければ何もしない事」
「ケッ、メルランちゃんの口づけを受けた今日、己が命日でも一向に構わねぇ!」
「そう。じゃあ楽しませてねっ」
剣を引っ込めた天人は、三段蹴りを始め怒涛のラッシュを開始した。天人の力は一発一発が岩をも砕くレベルである。牙堂は敢えて防御の姿勢を取らず、その全てを全力で受けた。倒れず、引かず、動かず。噛みしめた歯は砕け、視界も紅く染まる。それでも牙堂は耐え続けた。金剛石の如き意思は、彼自身を難攻不落の砦と化していた。他の天人達は娘を応援するか、客と賭けに興じ、三人の騒霊は一人を除いて恐怖に震えていた。
「メルラン! 何であの人を焚き付けたりしたのよ?!」
「あわわ、殺されちゃうよー、あの人、どうやって立ってるの‥‥」
牙堂を死地に追いやった張本人は、ケロリとしていた。
「ハッピーなあの人は輝いているじゃない♪ それに、ほら」
メルランが指差した方から、弾幕が言霊に乗って飛んで来た。
「ダブル霊撃!!」
「神徳・五穀豊穣ライスシャワー!!」
二つの技を同時、しかも不意に受け天人は吹き飛ばされた。そのままステージの端を飛び越え、ず、足で踏ん張り抜いたが。
「守矢神社風祝、東風谷早苗!」
「白狼天狗哨戒部隊、犬走椛!」
「同じく柘植早‥‥」
椛が拳骨を十蔵に見舞った。
「ここは私達が何とかするから牙堂を連れ出せ!」
「い、イエス・マム! じゃあこれを」
十蔵は木刀を椛に投げ渡し、立ったまま動かない同僚へと駆け寄る。観客はハプニング続きの中、遂に真打ち現れたりと大熱狂である。椛は木刀を正眼に構え、早苗は御幣と刀印をかざす。
赤い剣の切っ先を乱入者に向けた天人は、残忍に笑った。
「真っ向勝負で私に敵うわけ無いわ。この緋想の剣に勝てる者は地上に存在しない」
「牙堂! お前、いざって時は御三人抱えて逃げろって言われてたろ! どうして血ダルマになってんだ!」
十蔵が駆け寄ると安心したのか、牙堂は後ろへ倒れそうになる。三人娘と十蔵は全力でその巨体を支え、地面に横たえた。ルナサが泣きそうな顔で訴える。
「私達がステージを明け渡したくないって無理を‥‥」
リリカが恐る恐る原型を留めてない顔面を覗き込んだ。
「おじさん、死んじゃダメだよ、もしダメでも、私達が何とか楽団に‥‥」
長姉が突然ヒステリックに叫んだ。
「リリカ、縁起でも無い事言わないで!!」
末妹がその言葉の意味をどう解釈していいのか迷っている間、メルランがさり気無く牙堂に膝枕をしてやっている。
「かっこ良かったわよ、おじさん」
「ありがてぇ。何か極楽にいる様な気がする」
「ハッピーで何より」
こちらも微妙に危ない会話が交わされる中、十蔵は担架と救急箱を持ってきた河童達を急がせた。
「おい牙堂、すまんが極楽から現世へ逆戻りだぜ」
「そりゃねぇぞ。この特等席で、あの小娘がとっ捕まるのを見届けてやる。何たって隊長が負けるわけ無ぇんだ」
天人の娘は緋想の剣を片手に持ち、ピタリとその先端を相手に向けて動かない。緋想の剣には相手の弱点を攻める力があり、攻めても攻められても無敵の剣、であるはずだった。椛は正眼から、徐々に剣先を天へと向け八双の構えへと変わる。天人は歪んだ笑いを浮かべると、そのまま突きの姿勢で突っ込んだ。椛は思わぬ行動に出た。木刀をそのまま捨てたのである。そして、刃の下を潜りながら、カウンター気味に顎へトラース・キック(ここではスウィート・チン・ミュージックが相応しいか)を入れる。そこへ呪文の詠唱を終えた早苗が技を発動させた。
「蛇符“神代大蛇”!!」
ステージ床から何匹もの大型の蛇が現れ、天人娘を絡め捕る。彼女に椛の弱点が確かに“見えて”いた。しかし対象の戦闘スタイルが一瞬変化したため、弱点が“移動”してしまい、混乱したのである。他の天人達も河童が放った麻痺レベルのプラズマ砲を受け、全滅していた。蛇に縛り上げられた天人娘は、もがきながら喚いた。
「私にこんな事してタダで済むと思ってるの?! 私は天人の総領娘にして‥‥」
早苗が喝を入れ、蛇が締める力を上げた。
「反省が足りない様ですね!! 絞め落としてあげましょうか」
「私は遊びたいだけなのに!!」
天人娘と一同が睨みあっている間、一人マイクを持って大騒ぎの観客へ呼びかける姿があった。
「みーんなー!! メルランだよー! 私の話を聞いてくれるかなー?」
観客も先刻まで乱闘を繰り広げていた者達も、水を打った様に静かになった。微笑みながらメルランは続ける。
「ステージを中断しちゃってゴメン。私達は白狼天狗さん達が守ってくれたから大丈夫だよ。でも、このまま終わらせちゃったらみんな面白くないよね? ハッピーじゃないでしょ?」
大波の様なときの声がメルランに応えた。
「天人さんも本当は私達と遊びたいんだって。だから‥‥ここでステージバトル! 音楽で勝負をつけるのはどう!?」
場のボルテージが一気に上がった。観客は大歓声でメルランコールを送った。呆気に取られている他のステージ上の面々の中から、天人娘が進み出る。早苗が気付かず術をうっかり解いてしまったのだ。
天人がメルランからマイクを受け取ると、大ブーイングが発生した。その観客へ半ば自棄気味に拳を立てながら娘は叫ぶ。
「やってやろうじゃないの! あんた達はどう?!」
プラズマ砲を浴びていた他の天人達も、ふらつきながら全員片手を上げた。メルランはマイクを返され、にっこりと笑った。
「最高よ! それでは第二部、ステージバトル開始ぃ!」
全ての催しが終わり、客は家路に着いた。暴れに暴れた天子は、プラズマ砲を十発以上浴び、河童製特殊合金の網を投げられお札を五枚ぶつけられたというのに逃走に成功。だが妖怪の山の上空で現れたスキマに吸い込まれ、そのまま何処かへと連れ去られた。メルランの機転でその場逃れはしたものの、警備で醜態を晒してしまった椛はあちこちからお叱りを受け、散々な体で自宅への帰路に着いた。
そして今、椛は玄関に鍵もかけず、十蔵の一物にしゃぶりついていた。機嫌の悪い彼女は、いきなり文が扉を開けてシャッターを切っても無視せんとする勢いだった。口腔にモノを放り込んだと思えば時々甘噛み、少し怖い上目づかいで十蔵を睨む。続いて飴を舐める様に舌を全体に這わし、玉袋をやや強めに握る。飢えた狼、いやまさしくそうなのだが男はハラハラしながら肉棒を相手に委ねていた。だが身体は椛の与えてくる刺激へ正直に反応する。行為のため椛は喋れないが、視線で出すべからずと命じていた。十蔵は甘噛みされる度に軽い恐怖、舌が這う度にねっとりとした快感を味わわされ、それでいながらまだ射精出来ないと言う辛さに耐えていた。椛は事に及ぶ前、下半身の衣服と下着を無造作に脱ぎ捨てていた。今の彼女は口で十蔵の陰茎に奉仕?し、右手で自らの陰部を愛撫していた。指で敏感な陰唇を撫で、やや乱暴にこすりながら潤いを出す。指に液が絡みつき始めたら、割れ目を広げ豆の頂を求めた。絶頂はしない。それは眼前の男に与えて貰うためにあるのだ。器用に二つの技を進めていた椛だが、突然それらを止めてしまった。十蔵は上気した顔で不審そうな顔をする。
「椛?」
「ふふ、私も準備万端だ」
そう言うと彼女はゴロリと床に身を投げ出した。
「さあ、私をどう攻める?」
「そうですね‥‥あの天人みたいに、いきなり旗竿を立てるとしますか」
言うと十蔵は突進し、濡れる股を開いた。椛はされるがままになっている。彼は愛液の強い匂いを嗅ぎ、椛の方も既に準備万端だと判断した。堪えに堪えさせてきた陰茎を猛らせ、椛の中に入る。その時、椛はニヤリと笑った。彼女の脚に力が入り、素早く十蔵の両肩に脚が乗せられる。
「甘いな。もし私がその気ならお前は首を極められていたぞ」
「‥‥俺じゃ無きゃ萎えてますよ、こういう場合」
「え?」
「メルランさんを見習って、状況を利用させて貰います!」
十蔵は脚をものともせず挿入運動を始めた。
「お、おい! 誰が勝手に動いていいと」
「俺からは椛と繋がっている場所が丸見えです」
椛は起き上がって無理矢理接合部を見ようとするが、激しい突きからもたらされる快楽に押し流され始めていた。本当はもっと十蔵を我慢させ、自分の嗜虐心を満足させようとしていたのだが、それよりも今の体制の方が心地良かった。そして二人は無言でひたすら互いを求めあい、無言で達した。何とも言えない空気が場を包み、荒い息だけが聞こえていた。
「風呂、入るか?」
「頂きます」
なお、牙堂はメルランのお見舞いとサインを病院で貰い、大満足だったそうな。
続く?