その夜。拓也は、夢を見た。
それは、奇妙な夢だった。その夢の中で、拓也は自分の姿を、
まるで幽体離脱でもしたかのように、離れた位置から眺めていた。
拓也の体はダチとダチが連れて来た連中に犯されていた。
拓也は思った。
(ああ、俺もあんな風にされたいな)
ていうかこれ俺がここに来る前の状況じゃん。
とか思った時、そこで目がさめる。
拓也「…………なんだ、今のは」
拓也は、今見た夢のことが気になった。
もしかしたら他のみんなも見てるかなとか思って、拓也はみんなに聞いてみた。
拓也「あの、変なこと聞くんですけど、自分がここに来る前の状況を、俯瞰視点で見る夢を見てたりしません?」
ゴブリン仮面「僕もみたよ、確か登山中でテントの中で寝っ転がっていたな....」
デナリー「私も見ていた。私は仲間と一緒にテントで寝ているところだった。」
田所「俺も同じです。俺はK2さん達とテントで雑魚寝していたとこですねぇ!」
スコット「みんな、本当に見たの?俺はみてなかったよ...」
俺とスコットを除いたメンバーの夢に妙な統一感。
これって元居た世界での今の状況!?ダチはぐったりしていた拓也のケツマンにダチが腰振りまくってたからそうなのかもしれない。
スコット、助かっていたのか。
意識がない状態だったりするのかな。
とにかく拓也たちは今日も2000m進むべく登山を開始する。
しかし、少し登ったとこで二つのルートがあらわれた。
右ルートは広大な氷河を進むルートであり、比較的どこにでもキャンプが張れそうだけど、急勾配が奥に見える。
左ルートは、岩稜を進んでいくクライミングルート。
キャンプが張れる広い場所が少なく、ビバーク
を強いられそうだ。
だが雪崩などの心配がないぶん、クライミングの腕に自信があるならリスクは少ない。
拓也「……」
拓也は悩んでいた。
たしかに拓也はクライミングが得意だけど、さすがにこの岩場を登るのは手こずりそうだな。
でも氷河を進むルートは雪崩の恐れがあるし……。
どうしよう?みんなに聞いてみるか。
拓也「......オレがSMバーへ行った時、左右に男がいて、右の男はムチを持って左の男は蝋燭を持っていたんだよね。俺はその二人の内、右側の男を選んだぜ。みんなならどっちを選ぶ?」
デナリー「なんだ?どうした」
拓也「右と左、どっちが正解なんでしょう」
田所「そんなん決まってるじゃないですか、右ですよ右」
スコット「そうだよね、僕もそう思うよ」
デナリー「どういう質問なんだこれは? ちょっと意味わからないのだが……」
ゴブリン仮面「恐らく右の氷河を進むか左の岩場を進むかで質問しているんじゃないかな。ちなみに、僕は右の氷河を推奨するよ、理由は見晴らしが良いからだ。」
デナリー「なるほど、確かに右回りのルートの方がよさそうだ」
みんな揃って右を推し始めた。
シェルパの爺さんにも聞いたけど、特に何も語ろうとしない。
よって、拓也たちは氷河を進んだ。
しばらくすると、拓也に頭痛やめまい、吐き気が襲った。
この気分の悪さは急性高山病だなとガタイで分析。
でも不思議と、酸素が薄いような感覚はない。
デナリーが言った。
デナリー「おい、大丈夫か。顔色が悪いようだが……」
スコットも心配そうにしている。
スコット「うん、なんだか苦しそうだし、どこか痛むのかい?」
拓也は、二人の優しさに感激。
拓也「実は、さっきから頭がガンガン痛くて、体が怠いんだよな……。でも、この痛みと怠さは、俺にとってはご褒美みたいなもんだから、気にしないでいいぜ。」
デナリー「本当に大丈夫なのか?」
氷河を進むこと1時間。
拓也の中で痛みの分析が終わった。
これはただ単に脳を、精神を、直接締め付けられているような痛みだと分かった。
まさに精神と肉体の苦痛のサンドイッチ状態。
新しい拷問方法を思いついた。
そんなこんなで拓也たちは9000mに到達したぜ。
体調は最悪。
でも、俺は登山を続ける。
なんでだろう、この痛みは俺にとってのご褒美なんだ。
そんなこんなで拓也たちは9000mに到達したぜ。
体調は最悪だけどな。
でも、俺は登山を続ける。
なんでだろう、拓也は苦しみや痛みに対して、恐怖心など抱いてはいなかった。
むしろ、この苦痛は俺にとっての喜びであった。
この痛みが、この苦しみが、この快感が、 俺を絶頂へ導いてくれるのだ。
シェルパ「共に登ってきて痛感しましたが、皆さんはお強いですのう」
テントの中で食事を準備し、振る舞いながら、老人
は口を開く。
明るく振る舞ってはいるが、どこか寂しげな雰囲気を感じる。
シェルパ「私の、かつてのお師匠様の足取りを思い出しましたよ。
彼も偉大な登山家で……いえ、何でもありません。
今のは、忘れてくだされ」
拓也「……そんなぁ、教えて下さいよぉ」
シェルパは何も語らず、いつものように黙ってしまった。
拓也「頼むよ。何か言ってくれよ」
だが何も喋らない。
なんなんだよこの爺さん。
拓也はイライラした。
田所「にしても、なんだかんだ9000mっすねぇ」
スコット「僕たちのペースだと、4日後には頂上に着きそうだ」
デナリー「改めて思うがこの山の高さは異常だな、ここまであっという間だけど...」
この不思議な世界に来て、1週間ぐらいは経ってるかな?最初はお互いを疑い合っていた俺達だったけど、時間がたつにつれて、妙な連帯感が生まれていた。
まぁ……オレは相変わらず、引かれてるんだけどね(笑)
ゴブリン仮面「僕は元の世界で、ずっと孤独に登っていたから....久々だよ、多人数で登山するのは。」
拓也「登山続けられるだけすごいぜ!俺は登山自体やめちゃってたからな。」
田所「個人登山もいつかやろうと思ってるんですよね。いつも3....か4人ぐらいで登ってるから、たまには一人になりたい時もあるし。でもまだ一度もやってないんですけど。」
スコット「個人登山は危険だから、難易度の低い山で経験を積むといいよ。」
デナリー「そうだな」
田所「...やっぱり、みんな本当に一流の登山家なんですねぇ!俺、狂気山脈を登頂して自分が登山家の頂点だって思ってたんすけど、まだまだ全然っすね!」
ゴブリン仮面「確か浩二は狂気山脈をチーム全員で登ったんだっけ?十分すごいじゃないか。」
ゴブリン仮面がそう言うと、全員がうなずく。
田所「いやぁ、あれはもう仲間がいたからできたんすよぉ!」
拓也「でもあの山、マジヤバかったからなぁ....」
俯いてた、デナリーが拓也たちに意を決したような様子で語りかけた。
デナリー「……お前たちのことを疑い、無礼な対応をしてしまったことを、謝らせてほしい。
すまなかった」
拓也「いえいえ、そんな、とんでもないぜ」
彼女は、真剣な表情で続ける。
デナリー「正直、お前たちの事は信用していなかった。
それは、
お前たちの主張……その、第二次狂気山脈登山隊のことだ……それが、私にとって受け入れられない事実だったからだ」
スコット「デナリーさんの世界じゃ第二次登山隊は全滅したんだっけ」
田所「無理ねぇなぁ、俺の所の全員登頂なんてなおさら信じれるはずないよ」
デナリー「ああ、それに私は.....」
デナリーは懐から一枚の手紙を取り出して、続けた。
デナリー「コージー・オスコーの、異母姉弟なんだ」
拓也たち第二次登山隊の面々は、その話を聞き衝撃を受ける。
思い返してみれば、彼女が今手にしている手紙はコージーのジャンバーにあった手紙で、宛名にデナリーと書かれていた。
名前の既視感は、ここからきていたんだ。
それに装備もコージーと同じ高そうなブランド品。
姉弟だということに、疑いはない。
デナリー「私にとって、弟の遺体をこの手で回収したことは、今でも痛烈な記憶として残っている。その記憶と、お前たちの主張は、どうしようもなく矛盾したんだ」
拓也の心臓の鼓動が他の人に聞こえそうなぐらい鳴り響く、コージーが死んだときの記憶がフラッシュバックしてきて、その瞬間全身の力が抜けて気を失いそうになる。
でも失神したほうが楽なのに、オレの心はそれを許さない。
彼女は今、俺と同じようにトラウマと戦っているのだ。
俺も負けられない。
田所「うーん、そうだったのか.....」
デナリー「私も登山家の端くれだ。一緒にここまで登っ
てきて、よく分かった。お前たちは、本物の登山家だった。本物の登山家は、嘘をつけない。少なくとも、意味のない嘘は、つけない生き物だ。……そうだろう?」
拓也「……そうですね」
ゴブリン仮面「うん、そうだよね」
デナリー「だから、お前たちの言葉を、信じることにした」
田所「ありがとうございます」
スコット「僕も、デナリーさんの気持ちはよくわかります」
デナリー「コージーが、登山を始めた切欠は、たぶん私なんだ」
拓也「そうなんですか」
デナリー「家庭環境がちょっと特殊でね……弟は、小さい頃は
私によく懐いたんだが、次第に周囲の人間から、私と
比較して“直系の跡取りなのに”だとか、心無い言葉
を向けられるようになって。
それから、だんだんギク
シャクするようになった」
田所「oh……」
デナリー「私は弟の死に、責任を感じている。コージーが、登山を始めた切欠は私にあるからだ。家庭環境がちょっと特殊でね……私と弟は、小さい頃は仲が良くて、二人で近所の山を登ったりして遊んでいたのだが、次第に周囲の人間から、私と比較して“直系の跡取りなのに”だとか、心無い言葉を向けられるようになって。それから、だんだんギクシャクするようになった。そして、私が初めて未踏峰を制覇した時、それまで先鋭登山にあまり興味を示さなかった弟が、急に当てつけのように危険な登山にのめり込み始めたんだ。」
田所「あの異様なやる気はそういうことだったんすね....」
デナリー「傍から見ても無謀な登り方をしてたよ。止めるべきだった……でも、その時は私はもうカナダに居て距離も離れていて、おまけに、私はこんな不器用な性格だから、あの子にうまく接することができなくてね……私はあの子を愛していたけれども、あの子は、きっと私を憎んでいただろうね」
あいつがギザなセリフ吐いて自分の力だけで登ろうとしてたのは、そういう経緯があったのか。
拓也は思い出す。
確かに、あいつは意地っぱりで、軽はずみなこと言う気難しいやつだ。
でも、決して誰かをずっと憎むような奴なんかじゃない。
拓也とも最初はいざこざあったけど、最終的には俺のケツ掘ってくれたしスカトロプレイに誘ってくれた。
俺があいつの誘いに乗らなかったことに後悔しているのは、それだけイイ奴だからなんだ。
拓也「その手紙、読んであげてください。
あなたを責めるようなことは何も書いてないと思うんです。
だから、お願いします」
拓也は深く頭を下げる。
田所「うん、きっとあなたを憎んでない、あいつは....登山を前向きに楽しんでたんで」
デナリー「……わかった。」
拓也「……そうだったんですね」
デナリー「私が殺したようなものなんだ……愛する弟を」
あいつは確かに、デナリーさんに複雑な感情を抱いているかもしれない。
でも、淫獣拓也はあいつが、誰かを憎むなんてことは絶対にないと断言していた。
だから、あいつがデナリーさんに対して抱いていた憎しみや怒り、そういったものは、全てデナリーさんの勘違いだったんだろう。
そして、あいつがデナリーさんの事を本当に愛していたことだけは、間違いのない事実だったんだ。
拓也「きっとコージーはあなたを憎んでるんじゃなくて、ただ、追いつきたいと思っただけですよ」
デナリー「……」
デナリーは、黙り込んだまま、しばらく手紙を読む。
その気丈な瞳に涙を浮かべながら、そして、ぽつりと呟いた。
デナリー「……そうか……そうだったのか」
彼女はひとしきり読んだ後、涙を拭ってオレたちにいった。
デナリー「……聞かせてくれないか。
弟が、狂気山脈でどんなだったか」
拓也は、狂気山脈でのコージーの姿を語った。
意地悪なところはあったけど、勇敢で、登山家としては一流かもしれない奴だった。
そして俺は奴に対して持つ後悔を、臆することなく語った。
ゴブリン仮面が語ったコージーは、性格こそ悪いけど、仲間想いで、山を愛する気持ちは本物だったと語った。
最期は、自分を逃がすために、一人であのうじゃうじゃいる黒い化け物を食い止めようとしたらしい。
田所の世界のコージーは、凄い登山家で、立派な男だった。
今でも一緒に登れたことを誇りに思っている、と、田所は言った。
デナリーさんは俺たちの話を聞いて、しばらく沈黙した。
デナリーさんは、泣いていた。
デナリー「……ありがとう。
ここでお前たちに会えた神の計らいに、感謝しなければならないな」
デナリーさんは、涙を拭いて、顔を上げた。
俺たちはこれでようやく、登山チームとして動き出したんだ。
翌日、ここは標高9000m、何気にデスゾーンを超えているのに、みんな活力が残っている。
ここはやっぱり現実と違うな。
昨日と同じく、二つのルートが拓也たちを出迎える。
右の氷河をそのまま突っ切るルートは、この先は落石、
雪崩の危険地帯になる。
長い時間をかけるのは危険だから、行くなら速攻を目指したほ
うがいい。
ここからなら、トラバースして左の岩稜ルート
に合流することもできそうだ。
しかし雪稜のトラバースは多くの危険を伴う。
拓也は、ルート選択を迫られていた。
デナリーは、険しい表情で二つのルートを見つめ、言った。
多少の危険はあれど、ここから急に岩場を進むのは危険だと判断、俺たちの体が高度に順応できているとはいえ、長い時間をかけて休憩しにくい岩稜ルートに合流はキツい。
異論はでず、俺たちは氷河を歩みだした。
デナリー「氷河を進もう」
ゴブリン仮面「右に行くしかないだろう」
スコット「右だな」
拓也「右にするか」
拓也たちは、結局氷河を渡ることとなった。
俺たちはいつもより早いペースで登っていく。
いつ雪崩が発生するかわかんねーからとっとと通り抜けたいよな。
デナリーが先頭を行き、俺達ははその後ろをついて行く。
積もっている雪は柔らかく、まるで新雪を踏みしめるような感触だった。
だが、一歩足を進めるたびに、その雪の下からは固い岩肌が顔を覗かせ、足を取られそうになる。
そんな不安定な足場に苦戦していると、ゴブリン仮面がオレに話しかける。
ゴブリン仮面「拓也、ちょっといいかい?」
拓也「あ、はい。
なんすか?」
ゴブリン仮面「昨日、デナリーの話を聞いていて、改めて考えたんだけど......拓也は、狂気山脈に登ったことを後悔しているかい?」
突然ハードな質問されて、オレの頭ん中は真っ白になる。
『どうしてそんなこと聞くんですか?』なんて聞き返せるような雰囲気じゃなさそうだから、俺は答える。
拓也「……後悔はありまっす、メンバーが亡くなって、発狂して、オレは……世間から批判されまくりで、でも、一つだけ、あれから変わったことがあるんです」
ゴブリン仮面「…………」
拓也「俺、センパイ以外の人間も好きになってきたッス!第二次登山隊のメンバーはみんなイイヤツで、今までウリ専でしか人と繋がってなかったからすごく新鮮で、身近な人の優しさにも気づけて、俺、これから体だけじゃなくて心も誰かと繋がっていきたい!って思えるようになったんですよ」
ゴブリン仮面「そうか......僕も同じく、後悔しているよ。
あの山を登ったことに、でも、君とは違って、何もよくなかった」
拓也は息を切らせる。
ゴブリン仮面「僕はあの山で、仲間が死ぬ姿や狂う姿を見て、怖くなったんだ....誰かと関係を作るのを。
だから、ここの世界に来た時だって、最初は君たちに出会えてうれしかったけど、この山を登るって聞いて、君たちと関わることが嫌になったんだ……」
オレは、背筋が凍るような感覚に襲われた。
ゴブリン仮面はため息をつきながら続ける。
ゴブリン仮面「僕はあれから人との関係を断つために、なにもかも捨ててきた、家族も友人も……そして、自分自身も。
しかし、それでも僕は今、こうやって君と話している。
どうしてなんだろうね」
オレが返答をする前に、前のデナリーが足を止めた。
デナリー「みんな、あれを見てくれ」
彼女の指先を見ると、そこには氷河が裂けてできた氷の塔、“セラック”があった。
「マジで!?」と思わず声を上げるビルダー拓也。
夜が迫っているから迂回している時間などない。
ここを通るしかないみたいだ。
田所「怖いですね...、これ……」
スコット「でも、いくしかないね。さっさと通り抜けよう。」
俺たちは急ぎつつも慎重にそばを通り抜ける。
今にもこれが崩れて、俺らのいる場所へ雪崩れ込みそうな気配を感じる。
全身が恐怖で痙攣。
今日の拓也の服はSM嬢のように黒いエナメル質のボンデージ・ファッションに身を包んでいる。
黒光りする肌に網タイツがよく似合う。
だから決して寒さに身を震わせているわけではない。
それでもあと少しで乗り越えられる...はずだった!
ゴブリン仮面「危ない!!」
突然、セラックが崩れ落ちて氷の塊が拓也たちに降り注いだ。
オレはその声に反応し、咄嵯に飛び退く。
静まった後、ハァハァ喘ぎつつける拓也は周囲を見渡した。
するとゴブリン仮面が、目の前に突然現れた。
ゴブリン仮面「大丈夫かい?拓也?」
ゴブリン仮面は顔を青くして、慌てて俺に駆け寄った。
拓也「ふぅ……みんなは?」
背後から雪をふむ音がきこえたので振り返ると、シェルパとデナリーがぎこちなく歩くスコットに肩を貸している。
田所は? 俺は周囲を見回すが、奴の姿は見えない。
デナリー「無事か?二人とも!」
拓也「田所はどこですか....?」
デナリーは言葉を詰まらせた様子で、何かを言いかけて口をつぐむ。
ゴブリン仮面「....彼はあの氷の塊の下敷きになってしまったようだ」
淫獣拓也は、ゴブリン仮面の言葉に耳を疑う。
ゴブリン仮面「残念だが、彼の死は避けられないだろう」
拓也「嘘だろ!?」
デナリー「……」
淫獣拓也は、慌てて周囲を見渡す。
俺以外のメンバーはシェルパを含め暗い表情をして田所の死を受け止めている。
オレは信じたくない。
どこだ?どこにいる?こんな突然に、どうして? 死ぬ? あいつは何も、何も言わずに、オレを置いて、先に行ってしまったのか? そんなこと、そんなことがあるはずがない!! 淫獣拓也は、叫んだ。
拓也「田所―――ッ!!!」
田所「お待たせ」
田所は、横にあるでかい氷の陰から現れた。
オレはびっくりして腰を抜かす。
拓也「なんだよお前!さっさと出てこいよ!よかった……。
心配したんだぜ…」
田所は俺にムチ打たれながらヘラヘラと笑う。
田所「ごめんごめん、なんか恥ずかしくて、出られなくて……」
デナリー「とにかく、無事で何よりだ。」
田所「すいません、心配かけてしまって。」
拓也たちは誰一人欠けることなく先へと進み。
そしてついに、標高12000mへとたどり着く。
既に狂気山脈の標高を超えてるなんて、信じられない気分だった。
しかし、まだ頂上まで4kmあって遠い。
拓也は、その現実に目を背けたくなった。
田所、俺はこのままこの山を登っていいのだろうか、俺は迷っていた。
湯を沸かすための火を眺めながら、“シェルパ”は思いつめた表情をしていた。
思えばこの老人、ビルダー拓也達が登山している間...いや初めて会った時からずっとこの表情をしているように思える……。
シェルパは意を決したように語り始める。
シェルパ「……申し訳ない。私が案内できるのは、ここまでです」
唐突に、シェルパはそう言って、ビルダー拓也たちに別れを告げた。
しかも声まで急に変わったぜ。
ゴブリン仮面「どうしたんです?何か問題でも」
シェルパは、言った。
シェルパ「私は過ちを犯した。許されぬことと分かってはいますが、皆さんに懺悔します。私は、脅されて皆さんをこの山に連れて来たのです」
急な懺悔に、拓也は面食らう。
拓也「脅された?誰に?」
シェルパ「神々です...神はあなた方をそれぞれ元の世界、『覚醒の世界』から別時空にある、幻夢境……ドリームランドと呼ばれるこの世界に呼び付けました。神の目的は、あなた方の処刑です。」
田所「はぁ!?なんで処刑される必要があるんですか?」
いきなり壮大な話になって、拓也はいったいどういうことなんだ?と話についていけず困っていた。
やっぱりここは夢だったのかと拓也は思った。
じゃあ夢の中で死んだ田所は? いったいどうなるんだよ。
シェルパは、続ける。
シェルパ「エルダーワンズ……地球本来の神々であった彼らはかつて山の頂に住んでいました。しかし、人間が山々の頂を制覇することで彼らは居場所を追われ、住処を失っていきました。多くの神々はこのドリームランドに逃れて来ましたが、『覚醒の世界』に残された最後の神々の聖域が、かの狂気山脈だったのです」
つまり、山の頂上は神の聖域ってこと? 拓也は、混乱していた。
シェルパは、言った。
シェルパ「しかし、貴方たちが、その頂をも極めてしまった。地球最後の神々の山嶺は踏み荒らされ、神秘性を完全に失ってしまいました」
山の頂上が神々の聖域?だからなんだというんだよぉ!
要するに、自分の居場所を人間に踏み荒らされたから怒ってるってことか?だからって俺達をこんな異世界に拉致して殺すとか、勝手すぎるだろうがぁぁ!!神だから何をしても許されると思ってんのかよふざけんな!
シェルパは、言った。
シェルパ「これに腹を立てたのがエルダーワンズ、そして彼らを庇護する“外なる神”です。彼らは罪人に裁きを与えることにしました。かつて同じように神を冒涜したものが裁きを受けた、この山で」
ふざけんじゃねーよ!拓也は、心の内で叫んだ。
ビルダー拓也は、そんなことのために登ってたんじゃない!! シェルパは、言った。
シェルパ「この山の本当の名前は、“裁きの霊峰”ハテグ = クラ。私は数百年前のまだ若かりし頃、我が師匠、賢人バルザイに伴われてこの山に登りました。私が貴方たちをここまで案内することができたのは、偏にその時の記憶を頼りにしてです」
デナリー「そう....だったのか」
しばらく黙って話を聞いていたメンバーも、この真実を飲み込み始め、恐怖に震え上がった。
神が、自分を殺しに来るだなんて、信じられないし信じたくもない。
しかも自分たちが行ってきた登山という行為が、神に対する冒涜だったなんて、受け止められなかった。
シェルパ「結局、我が師バルザイはこの山の道半ばで、神々の怒りを買い、裁きを受けて還らぬ人となりました」
神様って、一体何者なんだろう。
いくらなんでも自分勝手が過ぎるんじゃないのか? 拓也は、心の中で思った。
拓也はだんだんと怒りがこみ上げてきた。
シェルパ「皆さんも、きっとそうなる。……彼の過ちを、繰り返してはならない。いまからでも、貴方たちに引き返してほしい。そして山とは無縁な、神の祟りにあうこともない、平穏な生活を地上で送ってほしい」
ゴブリン仮面「……(汗)」
シェルパ「神々との約束を違えた私は罰を受けるでしょう。それでも構わない。私は間違っていた。いまからでも、貴方たちに引き返してほしい。そして山とは無縁な、神の祟りにあうこともない、平穏な生活を地上で送ってほしい」
シェルパは、そう言って、拓也たち一行に頭を垂れ、 深く謝罪の意を示した。
人間の探究心は抑えられないもの、そんなの神様だったら分かってるはずだ?なのにこんな形で罰を与えるなんて……。
拓也は拳を握りしめていた。
ここで山を下りればどうなる?神の奴隷として一生を過ごすことになるかもしれない。
そんなの嫌だ。
人間の探求心を理解できない神々になんて屈服したくない。
俺は、俺はこの山を登りたい。
それが神の意向に反したとしても、登りたいんだ。
死ぬことなんて怖くない。
センパイ...レオやマネージャー、セクフレのみんながいない世界なんて、生きてる意味がないんだからな!神なんか必要ねーんだよ!
拓也「淫獣拓也は、おりません!登山続けまっす!」
スコット「えぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
拓也が宣言すると、全員唖然としていた。
拓也がここまで言うとは思わないとばかりの目線で俺を見る。
拓也「みんなここで降りていいのか!?」
田所「あっ先輩……」
拓也「そんなに死ぬのが怖いのか!?登山家なのに!狂気山脈を登るときだって、死を覚悟して登っただろ!そんなにこの世界で生きたいのか!?こんな、親しい人もいない、自由もない!神にいつ殺されるかびくびくしながら生きる人生がいいってのか!?ビルダー拓也達は登山家なんだぞ!自分の命より大事なものがあるだろうが!命をかけて登山を続けてこそ登山家なんだよ!」
スコット「おお」
ゴブリン仮面「拓也……僕は君に同意するよ、山の頂きを踏んで、神の姿を目で捉えて、死のうじゃないか!」
ゴブリン仮面が拓也の意見に賛成し、立ち上がった。
デナリー「私も登山家の端くれだ。死ぬのなら、山のなかで死にたい。」
デナリー、田所が立ち上がる。
アタル「そうですか……では、私はここに残り、貴方がたの行く末を見守ろうと思います。貴方たちが万が一にも思い直し、引き返すと決めた場合、いつでもそうできるよう準備を整えておきます。傷を受けた場合、ここまで戻って来てくだされば、全力で治療しましょう。そして、もし貴方がたが命を落とした場合、私も命運を共にし、ここで命を断ちましょう。それが、私にできる唯一の贖罪だ」
俺たちは、アタルさんを残して、先に進むことにした。
翌日、5人の登山家が出発する。
アタル「皆さん、どうか気をつけて」
アタルの表情は、どこか寂しげだった。