※この作品はR-18です。

北海道開拓異聞~薩摩隼人はアイヌの少年を愛でる~   作:とけそうだら

1 / 13
明治九年、北海道。
若きアイヌの村長ヌイと、彼を導く薩摩出身の開拓使・河端武。
炎のように真っ直ぐな少年と、影を背負う寡黙な剣士。
師弟として始まった二人の絆は、厳しい北の大地で、やがて特別な形へと変わっていく――。

※2025.04.29
全面的に改稿しました。


第1話 薩摩隼人はアイヌの少年を愛でる

 明治九年(1876年)三月。

 

 北海道の厳冬は未だその爪痕を留め、冷たい息吹は大地に執着するように纏わりついていた。

 遥か遠くに聳える山々は白銀の冠を戴き、見る者の息を呑む荘厳さで佇んでいる。

 だがその麓では、忍び寄る春の微かな胎動が確かに始まっていた。

 

 凍てついた地面を押し上げ、命の色を宿した若芽が遠慮がちに顔を覗かせる。

 鳥たちは喜びの歌を囀(さえずり)り合い、獣たちの弾むような息遣いが春風に乗って、森の奥深くへと心地よく響き渡っていく。

 澄み切った空気は冷たいヴェールを纏いながらも、その奥には揺るぎない春の予感が宿っていた。

 自然は長い冬の束縛から解き放たれつつあり、息を潜めていた生命の数々が、新たな季節の到来を待ち侘びるように蠢(うごめき)き始めていた。

 

 山麓の懐へと足を踏み入れると、そこは神聖な静寂が支配する別世界だった。

 天を衝く巨木たちの間を縫うように差し込む陽光は、足元に繊細で神秘的な揺らめく影を投げかける。

 木漏れ日の下、時折聞こえる鳥のさえずりや、小さな生き物たちの微かな動きは、この場所が神々の息吹に満ちているかのような荘厳さを際立たせていた。

 

 古より『カムイモシㇼ』——神の森——と呼ばれたこの聖域は、アイヌの人々が代々畏敬の念を抱き続けてきた場所であった。

 その神聖な森の中を、一頭の栗毛の馬が、熟練の乗り手を背に乗せ静かに進んでいた。

 背筋を真っ直ぐに伸ばした男は、無駄のない洗練された手綱捌きで馬を導いていく。

 その佇まいは静かで落ち着いているが、瞳の奥に宿る鋭さは、一瞬たりとも周囲の気配を見逃さない。

 馬は森の呼吸と調和するように足取りを進め、その存在は騒がしさを感じさせず、まるで春風の一部と化したかのようだった。

 

 男の名は、河端武(かわばたたける)。

 北海道開拓使札幌本庁(ほっかいどうかいたくしさっぽろほんちょう)に属する主事として、日々、北の大地の開拓と防衛の重責を担っていた。

 

 この地に派遣されて幾星霜、彼は数多の困難な任務をこなしてきた。

 公務として未踏の僻地を訪れることも珍しくなかったが、今日、この神々の森に足を踏み入れたのは、公務ではなく、彼自身の心に秘めた理由からだった。

 開拓の激務から解放された貴重な休養日を、彼は胸に秘めた目的のために充てていた。

 

 目指すは『オンカミサㇺ』——彼の管轄下にあるいくつものアイヌの集落の中でも、特別な意味を持つ村。

 数ある村々の中で、この小さな集落には、武にとってかけがえのない存在があった。

 

 彼はこのオンカミサㇺで、一人の若きアイヌの少年と、言葉の壁を超えた深い友情を育んでいたのだ。

 今日、武は、その少年との大切な約束を果たすため、春の息吹に満ちた深い森を、一刻も早く駆け抜け、村へと急いでいた。

 

(もうすぐだな…)

 

 やがて大地は岩が露出し始め、馬の足取りが覚束なくなったのを感じ、武は静かに鞍を下りた。

 見慣れた森の奥深くとはいえ、足元が険しくなるのは常であり、油断は禁物だ。

 手綱を握り締め、一歩ずつ慎重に進む。

 春の草木をかき分ける音だけが静寂を破り、遠くに霞む村の景色を瞼の裏に描きながら、武は歩を進めた。

 

 この未開の北の大地では、時に牙を剥く獣との遭遇は珍しくない。

 クズリや狼、そして、あの巨体を持つヒグマ。

 

 とりわけ、まだ雪解けの進まぬこの時期――三月から四月にかけては、長い冬眠から目覚めたばかりのヒグマが、飢えた腹を満たすべく活動を始める季節だ。

 冬の間に消耗した体力を補おうとする彼らは、時に凶暴性を増し、その巨大な体躯と鋭利な爪は、人間にとって致命的な脅威となりうる。

 開拓者や狩人にとって、それは常に隣り合わせの危険だった。

 

 その時であった。

 武は、奥の茂みがガサリと揺れるのを見逃さなかった。

 

「……!」

 

 武は素早く身を屈め、背に負っていた村田銃を音もなく抜き放った。

 

(獣か……)

 

 銃口を気配がした方角へ向け、息を潜めて耳を澄ます。

 全身の筋肉は強張り、微かな音も逃すまいと集中した。

 

 その瞬間、まるで黒い疾風が背後から襲いかかってきた。

 

(まずい……!)

 

 全身の筋肉が強張り、反射的に身を翻そうとした武の動きは、襲い来る影の質量に容易くねじ伏せられる。

 巨大な掌が制服を掴み、野生の奔流のような圧倒的な力が、躱すことすら許さない。

 それが何者であるか、武は本能的に理解した。

 

 巨熊――しかも、成熟しきった成獣だ。

 見上げるほどの巨体が、抵抗する間もなく無防備な武を押し倒し、容赦なく硬い地面へと叩きつける。

 

(このままでは……食われる……!)

 

 心臓が早鐘のように鼓動し、脳裏には最悪の光景が瞬時に焼き付く。

 覆いかぶさる巨体は逃げる隙間を奪い、ヒグマの巨大な顔が近づき、むき出しの鋭い牙が、武の顔面を捉えようと迫る。

 恐怖が氷のように全身を這い上がり、思考までも凍てつかせる。

 

 その、まさに鋭い牙が喉元に届こうとした刹那――

 

 ぺろり、と温かく湿った何かが顔に触れた。

 唐突な感触に、武の思考は一瞬停止する。

 次に感じたのは、ぬるりとした温かい感触が、まるで顔全体を優しく包み込むような、信じられない奇妙な感覚だった。

 

 ヒグマは、まるで親愛の情を示すかのように、武の顔を舐め始めたのだ。

 

「……え?」

 

 混乱と抵抗が同時に押し寄せる中、必死に身を捩る武を、ヒグマはまるで意に介さず、満足げに、執拗に顔を舐め続ける。

 その舌の動きは、愛情にも似た優しさを含んでいるようにも感じられたが、同時にその巨体の重みは容赦なく、武は絶望的な困惑に囚われる。

 

 その時、待ち焦がれた、懐かしい声が、武の耳に鮮やかに飛び込んできた。

 

「おーい、タケル!」

 

 その声を聞いた瞬間、武は弾かれたように顔を上げた。

 

「ゴウにやられてないだろうね?」

 

 声が響くと同時に、茂みからひょっこりと小さな影が現れた。

 風になびく黒髪、満面の笑みを浮かべながら駆けてくる少年。

 その無邪気で明るい姿に、武の全身を覆っていた氷のような緊張は、嘘のように溶け去った。

 

「ヌイ……!」

 

 少年――ヌイは、武にのしかかっている、ゴウと名付けられたらしいヒグマを一瞥すると、まるで親しい友人に飛びつくかのように、躊躇なくその巨大な背中に勢いよく飛び乗った。

 

「どーん!!」

 

 武は、さらに増した容赦ない重みに、文字通り息が詰まるような苦悶の声を絞り出した。

 

「がはっ!? ちょ、おい、ヌイ! 重い! 重いから、早くどいてくれ!!」

 

「だーめ。タケル、ずっと待ってたんだよ。なのに全然来てくれなかったじゃないか。ヌイは寂しかったんだから、これはお返し!」

 

 少年はヒグマの背に跨り、屈託のない笑顔で武を見下ろしている。

 その無邪気な笑顔は、まるで悪戯が成功した子供のようだったが、その瞳の奥には、紛れもない温かい感情が宿っていた。

 

 この少年の名はヌイ。

 アイヌのコタン、オンカミサㇺの若き村長(ソーオッテナ)だ。

 幼さを残すその姿からは想像もつかないが、その小さな肩にはこの地の未来が託されており、武とは言葉を超えた特別な絆で結ばれていた。

 

 武はゆっくりと息を整えながら、春の柔らかな日差しが降り注ぐ空を見上げた。

 ヌイの無邪気な笑顔と、ゴウの温かい舌の感触が、先ほどの騒動を遠い夢のように感じさせ、混乱した心にじんわりとした安堵をもたらしてくれる。

 やがて武は、その愛らしい少年を見つめながら、優しい声で口を開いた。

 

「……ああ、すまなかった。少しばかり、仕事が立て込んでいてな。待たせて悪かったよ、ヌイ」

 

 武の心からの謝罪。

 ヌイはその言葉を聞くと、ぱっと表情を明るくし、ヒグマの大きな尻を軽く叩いて、武の上からどかせた。

 

「ふーん、なら許してあげる! それで……今日は? タケル、またすぐに帰っちゃうの?」

 

 大きな瞳を潤ませ、上目遣いで武の様子を窺うヌイ。

 その表情には、ほんの少しの不安と、もっと一緒にいたいという切実な願いが滲んでいた。

 

「ふふっ、心配はいらない。今日は、一日中お前と一緒に過ごせる」

 

 その返事を聞いた瞬間、ヌイの顔に満開の笑顔が咲き誇った。

 きらきらと目を輝かせ、堰を切ったように勢いよく武に抱き着いてくる。

 

「やった! じゃあさ、タケル、剣の稽古つけてよ! それからね、他にもたくさん! 一緒にご飯を食べたり、川で水浴びしたり……あっ、そうだ! それから―――」

 

 その喜びを爆発させたような声と、太陽のように明るい笑顔を目の当たりにした瞬間、武の胸の奥がじんわりと温かくなった。

 ヌイの存在は、まるで春の陽だまりそのもので、周囲のすべてを優しく、そして温かく包み込んでいるようだ。

 

(この子の無邪気さに触れていると、不思議と心が安らぎ、遠い故郷を思い出すような、懐かしい気持ちになるな)

 

 そんな温かい思いが胸をよぎりながら、武は穏やかな微笑を浮かべ、ヌイの小さな手をしっかりと握り返した。

 そして、二人はまるで本当の兄弟のように寄り添いながら、ゆっくりと村へと向かって歩き出した。

 

 穏やかな春風が二人を優しく包み込み、遠くまで広がる緑の草原の景色が、これから訪れる静かで、かけがえのない時間を祝福しているかのようだった。

 

♦

 

 村(コタン)に到着した武を、オンカミサㇺの人々はまるで家族が戻ってきたかのように、心からの笑顔で迎え入れた。

 村の長老から幼い子供たちまで、誰もが武を見つけると手を振り、温かい言葉をかけてくれる。

 

「よく来たね」

「おかえり」

「せんせぇ、一緒に遊ぼうよ!」

 

 素朴で純粋な言葉の一つ一つが、疲れた武の心を癒していった。

 

(この村は、いつ来ても変わらないな。人々の温かさや、自然の美しさが、まるで故郷に帰ってきたかのような安心感を与えてくれる)

 

 だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

 北海道開拓使札幌本庁の主事として着任した当初、和人(わじん)とオンカミサㇺの間には深い溝があった。

 

 先任の開拓担当者による、オンカミサㇺへの傲慢で一方的な振る舞い―――

 

 その結果、和人への不信感は村全体に深く根を下ろし、武が後を引き継いだ時、彼らとの関係は修復不可能とも思えるほどに悪化していた。

 

 それでも、武は決して諦めなかった。

 愚直なまでに村へ足を運び、一つ一つの問題に真摯に向き合い、何度も、根気強く村人たちと膝を突き合わせて話し合いを重ねた。

 時には、時間をかけて誤解を解き、共に解決策を探る努力を惜しまなかった。

 その誠意は、ゆっくりと、しかし確実に村人たちの心を動かし、今では村全体が武を信頼し、心から歓迎してくれる、かけがえのない存在となっていた。

 

 オンカミサㇺの人々との間に信頼を築く中で、武にとって、とりわけ深い縁で結ばれていたのが、若き村長である少年、ヌイだった。

 アイヌの言葉で『炎』を意味するその名のごとく、ヌイの瞳には常に、揺るぎない熱が灯っている。 

 何事にも臆することなく、コタンの未来を真剣に憂い、全身全霊で困難に立ち向かおうとするその姿は、知らず知らずのうちに武の心を強く捉えていた。

 

 今では、ヌイは武にとって一番の弟子であり、暇を見つけては剣の稽古を熱心にせがんでくる間柄だ。

 だが、その有り余るエネルギーは時に、周囲を巻き込む微笑ましい騒動を引き起こすこともあった。

 

「だめっ、みんなあっち行って! 今日のタケルはヌイのだから! 二人で修行するんだからねっ!」

 

「ええーっ、またヌイだけずるいぞ! 先生、俺たちとも遊んでよー!」

 

 わらわらと集まってきた子供たちを押し退けるように、ヌイは武の手をむんずと掴む。まるで自分だけの宝物を誰にも渡すまいとでもするように、強引にその場から連れ出そうとする。

 その仕草には、子供らしい明け透けな独占欲が隠しきれずにいた。

 

「こら、ヌイ。向上心は結構だが、何度言ったらわかる? 村長たる者、そう子供じみた我儘を振りまくものではない。もっとどっしりと構え、威厳を持つことだ。常に己を律し、礼節を重んじるように教えているだろう。……それに、私のことは『先生』と呼べと、あれほど……」

 

「えー? やだ! だってタケルとヌイは夫婦(ウトマン)なんだよ。長老たちも、それなら気軽に名前で呼んでいいって、ちゃーんと許可くれたもん!」

 

 悪びれもせず、むしろ当然とばかりに言い返すヌイに、武はこめかみが引きつるのを感じた。

 

「……ヌイ、いいか。私たちは男同士だ。夫婦にはなれない」

 

「そんなの、関係ないもん! ヌイはタケルが好きなの! ずっとずーっと、一緒にいたいの!」

 

 その瞳は、どこまでも広がる北の大地の青空を映したように澄み切っている。

 一点の曇りもない、剥き出しの真実がそこには宿っていた。

 春の柔らかな陽光のような、けれど抗いがたいほど強いその感情が、武の心の壁を容赦なく溶かしていく。

 

「……お前の気持ちは、嬉しい。だが……すまないが、それは、できない相談だ」

 

「やだっ! どうして!? なんでダメなの!? もしかして……ヌイのこと、もう嫌いになっちゃった!?」

 

 大きな瞳を不安げに見開き、縋るように問い詰めてくる。

 その姿は、まるで雨に打たれて捨てられた子犬のようで、武の胸を強く締め付けた。

 

「そうじゃない、そうじゃないんだ。私はシサムウタラ(和人)で、お前よりずっと年上で……何より、お前にはこの村を率いる長の責任がある。私のような者ではなく、もっとお前にふさわしい相手がいるはずだ」

 

「そんなの、関係ない! ヌイは、タケルが好きなんだ! タケルがいいの! だから……お願い、ずっと傍にいて……!」

 

 それは、燃え盛る炎そのものだった。

 何の飾りも、計算もない、ただひたすらに純粋な熱情。小さな身体からほとばしる一途な想いが、武の心の奥底を貫いた。

 長年かけて築き上げてきた自制という名の分厚い壁が、ヌイの烈火のような想いに晒され、ミシミシと音を立てて軋む。

 

(この子の気持ちは、痛いほどわかる。だが……私には、この清らかな想いに応える資格がない……)

 

 押し寄せる感情の波に抗いながら、武は努めて優しい眼差しを作り、そっとヌイの頭を撫でた。

 その小さな頭から伝わる熱に、自分の心の奥底で燻っていた何かが、再び燃え上がりそうになるのを懸命に抑え込む。

 

(……このままでは、流される)

 

 一瞬の逡巡の後、武はあえて場の空気を断ち切るように、軽く咳払いをした。

 腰に差した木剣へと手を伸ばし、ゆっくりと抜き放つ。

 

「……お前のその真っ直ぐな想い、しかと受け止めた」

 

「っ!? タケル……」

 

「だが、言葉だけでは足りん。ならば――その想いの強さを、今度は剣で示してみろ」

 

 武は腰の木剣を正眼に構え、静かに、しかし射抜くような鋭い視線でヌイを見据えた。

 

「この私に、お前の剣で一太刀でも浴びせることができたなら……その時は、改めて、お前の願いを聞こうじゃないか」

 

(無論、この俺がそう易々と打ち込みを許すはずもないがな……今は、この熱を剣に向けさせるのが最善か)

 

 内心で呟きつつ、武は覚悟を決めた表情を作る。

 その提案を聞いた瞬間、ヌイの表情が劇的に変わった。

 

「ほんと!? タケル、それ本気で言ってる!?」

 

 ぱあっと顔を輝かせ、期待と興奮で瞳を爛々とさせる。

 

「ああ、武士に二言はない」

 

「やった! やったぁ! 絶対、絶対タケルに勝ってみせる! 約束だからね、絶対だよ!」

 

 ヌイは小さな拳をぐっと握りしめ、喜びを爆発させた。

 その瞳には、子供のように輝く歓喜と、同時に宿った、獲物を前にした獣のような獰猛な闘争心が燃え上がっている。

 

「さて、では――示現流(じげんりゅう)の稽古、開始だ。まずは『蜻蛉(とんぼ)の構え』より!」

 

「うんっ!」

 

 力強い返事と共に、ヌイは迷いのない足取りで武の前に立った。

 さっきまでの甘えた雰囲気は完全に消え去り、その瞳には剣術への真摯な渇望と、師である武への揺るぎない信頼、そして――必ず打ち勝つという強い意志の光が宿っていた。

 

 木剣を構え、対峙する。

 先ほどまでとは別人のような、研ぎ澄まされた刀のような気迫が、その小さな身体から迸る。

 

(……! 目覚ましいな……!)

 

 ヌイの凛とした構えに、武は静かに目を細めた。

 教えた通りの完璧な型。

 腰は深く沈み、切っ先はぶれることなく上段を捉えている。

 全身から無駄な力が抜け、静かな水面のような滑らかさと、一触即発の鋭さが同居していた。

 

(三年か……この地に足を踏み入れて、もう三年になるのか。まさか、あの荒ぶる獣のようだった子供が、ここまで……)

 

 剣に生きてきた武だからこそ、相手の構え、剣筋から、その精神性までをも読み取れる。

 ヌイの木剣が鋭く空気を切り裂く音。

 その一振り一振りに、この少年が積み重ねてきた血の滲むような鍛錬の日々が確かに刻まれていた。

 

 武は静かに息を整え、ヌイの繰り出す力強い打ち込みを、受け流し、時に捌き、導いていく。

 

(本当に……あの頃の、怒りだけを刃に変えていたような危うさは、もはや微塵もない)

 

 かつての、和人への憎悪を剥き出しにし、自傷すら厭わないような荒々しさはない。

 今のヌイには、確固たる克己心と、冷静に状況を見極める洞察力が備わっていた。

 剣の弟子としてだけでなく、一族を率いる長としても、その成長は目覚ましいものがある。

 その事実が、武の胸を深い感慨で満たした。

 

「よし、筋は良い。だが、もっと剣先に魂を込めろ! 相手の呼吸を読み、常に二手三手先を読むんだ!」

 

 武は、厳しい表情を崩さずに、しかし声には確かな手応えを感じながら鋭く檄を飛ばす。

 ヌイは食らいつくように、さらに鋭い打ち込みを返してきた。

 

 剣を交えるたびに伝わる、弟子の確かな成長。

 それは、単なる師としての喜びを超えた……言葉にし難い、熱い感情となって武の心を震わせるのだった。

 

♦

 

「ふぅ……。いい汗をかいたな」

 

 木剣を置き、じんわりと熱を持つ身体を伸ばしながら、武は息をついた。

 額から滴る汗を手の甲で拭い、隣で同じように肩で息をしている少年へ、満足げな笑みを向ける。

 

「うんっ! すっごく楽しかった! タケルと稽古すると、ヌイ、どんどん強くなってる気がするんだ!」

 

 太陽みたいにキラキラした笑顔。

 ヌイはそう言って、額に滲んだ汗を元気いっぱいに拭った。

 鍛錬をやり遂げた充実感と、師である武への隠しきれない尊敬の念が、その輝く瞳から溢れ出している。

 

 火照った身体を冷ますため、二人は木々の間を流れる清流のほとりへ向かった。

 汗を吸った上衣を脱ぎ捨て、ふんどし一枚の姿で冷たい水際に腰を下ろす。

 シン、と森が静まり返る。聞こえるのは、雪解け水が丸い川石を叩き、さらさらと涼やかな音を立てるせせらぎだけ。

 ひんやりとした清流の飛沫が、熱を持った頬を優しく撫でていった。

 

 ヌイが屈み込み、両手で掬った冷たい川水でパシャパシャと顔を洗う。

 若々しく、まだ少し幼さの残る肌から、ふわりと白い湯気が立ち上った。

 まるで水浴びをする森の精霊みたいで、その無垢な光景に武は思わず目を細める。

 

(……ひたむきだな)

 

 その真っ直ぐな姿は、どこか遠い日の自分を思い出させた。

 ただ強さだけを求め、がむしゃらに剣を振るっていた頃の、熱くて少しだけ青臭い記憶が蘇る。

 

「タケルは、ほんっとうにすごいなぁ……」

 

 川面をキラキラと反射する光を見つめながら、ヌイがぽつりと呟いた。

 

「なんでも知ってるし、すっごく強いし、それに……かっこいい! ヌイも、いつかタケルみたいに、立派な男になれるかな……?」

 

 その声には、憧れの色がぎゅっと詰まっていた。

 熱のこもった真っ直ぐな視線を受け止め、武は少しだけ照れたように頬を緩める。

 

「私だって、まだまだだ。知らないことばかりだよ。それに、道というものはどこまでも続いている。昨日より今日、少しでも前に進もうと学び続けること……日々の勉強、それが大切なんだ」

 

「べんきょー……? うぇ……ヌイ、そういうの苦手だもん……」

 

 あからさまに顔をしかめて、ぷいっとそっぽを向くヌイ。

 その子供らしい素直すぎる反応に、武は思わず苦笑した。

 

 そして、そばに置いていた木桶で冷水をざぶりと汲むと――悪戯っぽくニヤリと笑みを深め、それをヌイの頭へ容赦なく、ざばっと浴びせかけた。

 

「ひゃっ!? つ、つめたぁーーーっ!!」

 

 突然の奇襲に、ヌイが素っ頓狂な声を上げる。

 

「ははっ、少しは頭も冷えて勉強したくなっただろう?」

 

「もぉーーーっ! タケルのいじわる! バカー!」

 

 ぷんすか怒りながらも、びしょ濡れになった頭をブルブルと振る姿は、水浴び後の子犬のようだ。

 だが、すぐに何か閃いたようにぱちんと手を叩いた。

 

「……あ! そうだ、そうだっ! なら、ヌイ決めた!」

 

「……ん?」

 

「タケルのことなら『べんきょー』、する!」

 

 目をキラキラさせて、ヌイは自信満々に宣言する。

 

「だって、タケルが『学ぶのが大事』って言ったんでしょ? なら、ヌイにとって一番大事なタケルのことを学ぶのは、すっごく大事な『べんきょー』だよ! だからタケルの秘密とか、昔の話とか、ぜーんぶヌイに教えてよ! それなら、ヌイ、頑張れるもん!」

 

 キラッキラの瞳で、我ながら名案と言わんばかりに胸を張るヌイ。

 そのあまりにも都合の良い解釈と勢いに、武は思わずこめかみを押さえた。

 

「こら、阿呆。人の過去なんぞ詮索する暇があったら、お前自身の『今』を磨けと言っているんだ。お前はまだ若い。これからどんな道を歩むか、己の魂で見定めろ」

 

「むぅ~~……」

 

 ヌイは不満げに唇を尖らせ、何か言い返そうとする。

 だがその前に、武が濡れた手拭いをふわりと彼の頭に乗せ、わしゃわしゃと少し乱暴に拭き始めたものだから、抗議の声は口の中で霧散した。

 

「うわっ!? や、やめろってば! 髪がぐちゃぐちゃになるー!」

 

 ヌイは小さな身体をじたばたと動かして抵抗するが、武はどこ吹く風。

 

「はいはい」と楽しげに笑いながら、構わず拭き続ける。

 

 水を含んでしっとりと重くなったヌイの黒髪は、子供特有の柔らかさで指に絡みつく。

 ふんどし一枚の小さな身体がもぞもぞと動くたび、その無邪気さが伝わってきて、なんとも微笑ましい。

 

「こら、暴れるなって。大人しくしてろ。これが終わったら、たっぷり遊んでやるから」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ヌイの動きがピタリと止まった。

 ぱあっと顔が輝き、キラキラと星を散りばめたような瞳で、期待いっぱいに武を見上げる。

 

「ほんと!? やったぁ! 約束だからねっ! 絶対だよ!」

 

 全身で喜びを爆発させるように、手足をバタつかせ始める。

 そのあまりのはしゃぎっぷりに、武は再び苦笑を禁じ得ない。

 

「だから、そんなにバタバタするなって。まったく、いつまで経っても終わらんぞ、これじゃ」

 

 呆れつつも優しい口調で注意し、丁寧に、梳くように濡れた髪の水気を取っていく。

 ふと、拭かれるままになっていたヌイが、何か面白いことでも思いついたように、いたずらっぽく目を細めて武を見上げた。

 そして、にこっと屈託のない笑顔を向けて言った。

 

「……ねぇ、タケルってさ。なんだか、ハポ(お母さん)みたいだね!」

 

「…………ッ!?」

 

 ピシッ、と武の動きが凍りついた。

 いや、脳内で何かがバリンと砕ける音すら聞こえた気がする。

 じわじわと額に汗が滲み出すのを感じながら、懸命に平静を装う。

 

(ハポ……お母さん……だと……?)

 

 河端武、齢三十二。

 最近、朝起きると体の節々が微妙に軋むとか、無理がきかなくなってきたとか、そういう現実から目を逸らしつつ、心の奥底では「まだまだ若い」「むしろイケてる部類」と信じて疑わなかった自分がいる。

 断じて「お母さん」属性など持ち合わせていないはずだ。

 

(いや、落ち着け私。これは子供の無邪気な発言だ。深い意味はない。だがしかし、なぜ兄貴とか師匠とか、そういうカッコイイ方向ではなく、ピンポイントで『母親』なんだ……!?)

 

 若干、いや、かなりショックを受けつつ、それでも努めて穏やかな声色を絞り出す。

 

「……あの、なあ、ヌイ……? できれば、頼りになるお兄さま、あたりでお願いしたいんだが……」

 

 引きつった笑顔でそう言った瞬間、ヌイが「あっ!」と素っ頓狂な声を上げた。

 

 何かと思えば、急にもじもじと身体を揺らし始め、そわそわと落ち着かない様子で武を見上げる。

 頬がほんのり赤いのは、照れているわけではなさそうだ。

 

「ど、どうしたんだ急に」

 

「えっとね……あのね……」

 

 言いづらそうに視線をさまよわせ、小さな声でこう呟いた。

 

「……なんか、おしっこ、したくなっちゃった……」

 

「…………は?」

 

 今度こそ、武は完全に思考を停止させた。

 数秒の間をおいて、ようやく意味を理解し、深い溜息をつく。

 

「……そうか。まあ、すぐに拭き終わるから、もう少しだけ我慢しなさい」

 

「うぅ~~っ、で、でも、もう、あんまり待てないかもぉ……」

 

 言うが早いか、ヌイは小さな身体をくねらせ、必死に内股で耐えるような仕草を見せる。

 さっきまでの元気はどこへやら、今にも決壊しそうなダムみたいにプルプル震えているではないか。

 

「まったく……少しぐらい我慢できんのか?」

 

 武が呆れたように言うと、その言葉が何かスイッチになったのか、ヌイの顔がぱっと輝いた。

 

「あっ! そうだ! ねぇタケル、こうすればいいんだよ!」

 

 突然、何かとんでもない名案でも閃いたかのように、ヌイが目を輝かせて叫んだ。

 その自信満々な笑顔に、武は言いようのない不安を覚えるのだった。

 

(……おい、まさかとは思うが……)

 

 武の嫌な予感を裏付けるように、ヌイは何の躊躇もなく「んしょ!」と声をあげ、その場で立ち上がり――そして。

 

「……えいっ!」

 

 ヌイはいきなりふんどしに指を引っかけて横にずらした。

 すると、布の隙間から可愛らしい薄桃色をした幼竿がぴょこんと飛び出し、玉袋がぷるるんと上下に揺れる。

 

「お、おいヌイ……まさかお前……っ!?」

 

 武が焦った声を上げるが、ヌイは「ん?」と不思議そうに小首を傾げただけ。

 そして、武の制止など全く耳に入っていないかのように、くるりと川の方を向くと、シャーッ、と勢いよく小便を垂れ流す。

 

「見て見てタケル! すごい勢いで飛んでるよー!」

 

 キラキラと輝く清流の水面に、小さな放物線が描かれ、ぱしゃぱしゃと遠慮なく波紋が広がっていく光景に、武は完全に言葉を失った。

 

「ばっ……おま、おまっ……!?」

 

「えへへー! これならわざわざ茂みまで行かなくてもスッキリ!」

 

「スッキリ、じゃないわーーーっ!! ド阿呆っ!!」

 

 武の絶叫が木霊するが、ヌイはきょとんとした顔で首を傾げるばかりだ。

 

「お、お前……っ! な、何ということを……ッ! こんな神聖な場所でそんなことをするなんて……長老(エカシ)たちに見つかったらお叱りを受けるぞ……」

 

 ここは神々の森。

 その清らかな水は、魂を浄化するためのものだと、村では口酸っぱく教えられているはずだ。

 神聖な水で身を清め、祈りを捧げる場所なのだ。

 

「ま、また長老たちに知れたら、今度こそ本気で雷が落ちるぞ! 連帯責任で俺まで一緒に叱られるのはごめんだぞ!」

 

 武が必死の形相で訴えるが、当の本人はどこ吹く風。

 

「えー? だいじょーぶだって! もし見つかったら、ちゃんと『ごめんなさい』って言うから! ねっ?」

 

 ぺろっと舌を出して悪びれもなく笑う姿に、武はがっくりと肩を落とした。

 

「いや……そういう問題じゃ、断じてないんだが……はぁ……」

 

 もはやツッコむ気力すら失せ、深い深い溜息が漏れるのだった。

 

(……それにしても、こいつ……最近、妙に図太くなってきたというか、堂々とし始めたというか……。これもある意味、村長らしい風格が出てきたと言えるのか……?)

 

 武はぼんやりとしながら、ヌイの放尿を眺めた。

 年相応の未成熟な身体にふさわしく、包皮を被ったままの幼茎が、じょぼじょぼと小水を吐き出している。

 

 無邪気で純真な子供の、恐れを知らない行動には神々しいほどの美しさがあり、それと同時に生殖を司る器官からの放尿にはどこか淫靡な雰囲気を感じさせた。

 武はヌイの子供らしい軽率な行動を窘めるようには注意したものの、内心はかなり興奮していた。

 

(いかん……勃ってしまった)

 

 腰に巻いたふんどしを突き上げる武のモノは、はっきりと分かるほど勃起しており、布越しに成人男性の凶悪な形状を浮かび上がらせていた。

 

(……いや、これは生理現象だ。仕方がない。そう……仕方がないんだ)

 

 武は自分にそう言い聞かせるが、一度火のついた劣情はなかなか鎮まりそうになかった。

 

「ふぅー! スッキリしたぁ!!」

 

 やがて、すべてを出し終えたヌイが体をブルッと振るわせる。

 その股間から雫が飛び散りキラキラと光っているのが見えた。

 

「ん? タケル、どうしたの?」

 

「……い、いや! 何でもないぞ!? うん、何でもない……」

 

 武は、ヌイのあられもない姿から視線を逸らす。

 

「ふーん……?」

 

 ヌイは武の股ぐらにぶら下がっているモノを、興味深そうに覗き込んだ。

 

「なんでタケルのちんちんは、そんなになってるの?」

 

「……ッ! こ、これはだな……」

 

 武がしどろもどろになっていると、ヌイはニマーッと悪戯っぽく笑って言った。

 

「ひょっとして……ヌイがおしっこするとこ見て、興奮しちゃったの?」

 

「そ、そんなわけあるか!」

 

 図星を突かれて狼狽する武に、ヌイはどこか妖艶な流し目を送ると――。

 

「じゃあさ……タケルもここでおしっこしちゃえよ♡」

 

 そう言って、武のふんどしの脇から指を滑り込ませると……そのまま下にズラした。

 ぶるん、と勢いよく飛び出したモノが、空高く屹立する。

 

「な……ッ!? お、お前っ!?」

 

突然のことに武が目を白黒させる。

 

「えへへー! タケルのもおっきいね!」

 

「おまっ……! こ、こらっ! やめなさい!」

 

 慌ててヌイの手を払い除けようとするが、それよりも先に、ヌイの小さな手が武のモノに触れた。

 

「うぉ……っ!?」

 

 武は、思わず情けない声を上げてしまう。

 ヌイの手は小さく柔らかくて温かい。

 その小さな手でそっと包み込まれると、それだけで達してしまいそうになるほどの快感が背筋を走り抜けた。

 

「どうしたの? タケル、なんか変だよ?」

 

 ヌイは小首を傾げながら、武のモノをゆっくりと上下に擦り始める。

 

「お、おい……っ! やめないか……!」

 

 武は必死に制止しようとするが、身体が動かない。

 いや、正確には動こうとしなかった。

 

「えへへ……タケルのちんちんもおしっこしたそうだね! ヌイがちゃんと出せるように手伝ってあげるね!」

 

 ヌイは無邪気な笑みを浮かべながら、武のモノに小さな舌を伸ばす。

 

「お、おい……っ! 待てって……!」

 

 武の制止などまるで耳に入っていない様子で、小さな舌がチロッと亀頭に触れた。

 

「うぉッ!?」

 

 その刺激に、武はビクンと腰を跳ねさせる。

 そんな武の反応が面白かったのか、ヌイは更に大胆に舌を動かし始める。

 

「んちゅ……ぺろ……ほぉら、タケルはここが好きなんだよねぇ♡ レロレロォ♡」

 

 ヌイの小さな舌が、武の亀頭をペロペロと舐め回す。

 

「ふ……っ! ぐ……っ! お前、どこでこんなことを覚えてきたんだ?」

 

「フチ(お婆さん)たちから教えてもらったんだよ。男はこうやって気持ちよくしてやればいいんだってさ」

 

「あのババアどもめ……余計な知恵を……!」

 

 武は顔を赤く染めながら、人の色恋や性の事情にやたら詳しい村のお婆たちに毒づいた。

 

「タケルのここ、すごく硬くなってる♡ それに透明なおつゆもいっぱい出てきたね♡」

 

「ぐっ、くそぉっ……」

 

 その刺激に武の腰は砕けそうになり、膝がガクガクと震える。

 

「えへへ、タケルのちんちん、ビクビクしてる! かわいいなぁ♡ 剣ではいつも負けばかりだけど、こっちではヌイが勝っちゃうもんねー! ちゅっ、ネチョッ、レロォ♡」

 

 ヌイは、まるで新しい玩具を見つけた子供のように目を輝かせながら、武のモノを一心不乱に舐め回す。

 その小さな舌が亀頭から根元まで這い回り、時には玉袋にまで伸びてくる。

 

「うぉ……っ、くぁ……ッ!」

 

 武は必死に歯を喰いしばるが、幼い弟子の執拗な責めと巧みな舌使いに、射精本能は限界寸前まで追い詰められる。

 

(いかん……このままでは師匠としての威厳が…… 。くそ、まずいぞ……!)

 

 このままではヌイの口によって絶頂に導かれることは避けられないだろう。

 しかし、それは武の師匠としての沽券に関わる問題だ。

 

「んっ♡ ジュプッ、ヌリュリュ♡ チュプッ♡ せんせぇ♡ 我慢しなくていいんだよ? ヌイの口の中で白いおしっこいっぱい出しちゃっていいんだよぉ♡」

 

「くっ……! こういうときにだけ先生って呼ぶなぁ……」

 

 武は歯を食いしばり、なんとかヌイを引き剥がそうとする。

 だが、彼は頑として離れようとはしなかった。

 むしろさらに強く吸い付いてくる始末である。

 

「ぐっ、もう……だめだ……!」

 

「んっ♡ いいよ♡ せんせぇのトペ(精液)、ヌイにちょうだい♡」

 

 ヌイは武の亀頭を喉奥まで咥え込み、射精を促した。

 その瞬間、武の尿道から熱い飛沫が放たれ、ヌイの小さな口内を白く染め上げていく。

 

「ぐぅううっ……!!」

 

 ドクンドクンという脈動と共に大量の精が吐き出され、ヌイの小さな口内を満たしていく。

 そのあまりの量の多さに、白濁液が逆流し、口の端から漏れ出てくる。

 それでもなお、ヌイは口を離すことなく、一滴残らず飲み干そうと喉を動かし続けていた。

 

「んっ♡ んくっ♡ ごくっ♡」

 

「はぁー……はぁー……」

 

 武は自分の出したものを嚥下していくヌイの姿を見ながら、荒い呼吸を繰り返していた。

 

「ふぅー、ごちそーさま♡」

 

 ヌイは満足げに微笑むと、ぺろりと舌を出す。

 その幼い顔に似つかわしくない妖艶な仕草に、武は思わずドキッとした。

 

「えへへっ! タケルのトペ美味しかったよ♡ あ……あれ? もしかしてタケル、ちょっと照れてる?」

 

「……う、うるさいぞ」

 

「やったー! タケルをぎゃふんって言わせた!」

 

 きゃっきゃと無邪気にはしゃぐヌイの姿に、武はぐっと言葉に詰まり、天を仰いで深い深い溜息をつくしかなかった。

 

(くっ……まさか二回り以上年の離れた弟子にここまで手玉に取られるとは……不覚だ)

 

 内心でギリリと唇を噛みしめる。

 じわじわと込み上げてくるのは、言葉では言い表せないほどの敗北感だ。

 いや、これはもう屈辱と言ってもいい。

 師匠としての威厳がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じ、悔しさに小さく肩が震えた。

 

「へへん! ちょっとはヌイのこと、見直したでしょ?」

 

 まるで熟練の剣士が未熟な弟子を打ち負かしたとでも言いたげに、ヌイはぷいっと得意げに胸を張る。

 その小生意気で、心底満足そうな顔を見ていると、武の中で怒りというか、闘争心というか、とにかく大人げない感情が沸き起こってくる。

 

(く、くぅーっ! こ、このガキ……! ……このままでは師匠としての威厳が完全に崩れてしまう……どうにかして巻き返さなければ)

 

 武は自分を無理やり奮い立たせるように、すぅ、はぁ、と意識して深く息を吸い込む。

 あくまで冷静さを装い、心を落ち着かせようと試みるが、その引きつった口元とピクピクと痙攣するこめかみが、内心の焦りを隠しきれていない。

 

「……ふっ。小童が、少し勝ったくらいで調子に乗るなよ?」

 

 無理やり余裕綽々な笑みを顔に貼り付け、あえて軽い調子でそう言い放つ。

 その言葉の裏に、失いかけた威厳を何としても取り戻したいという必死さが滲んでいることなど、目の前の無邪気な弟子は気づくはずもない。

 そして――一瞬の隙を突いた。

 

「うわっ!?」

 

 ヌイが反応するより早く、その背後に回り込み、地面に小柄な身体を押し倒す。

 

「な、何すんだよタケル!?」

 

「ふふん。さっきのお返しだ。――覚悟しろ!」

 

 そして、勢いよくヌイのふんどしを引き下ろした。

 

「へぁっ!?」

 

 突然の出来事に、ヌイは素っ頓狂な声を上げるが、すでに手遅れだ。

 ふんどしの下から現れたのは、まだ毛も生えていないツルツルの幼茎。

 しかも、ヌイのそれはピンと上を向いており、まるで触ってくれと言わんばかりに存在を主張している。

 

「な、何すんだよ! 離せよぉ!」

 

 武の突然の変わりようにヌイは驚いてじたばたと暴れ出す。

 そんな少年を動揺を無視し、目の前の小さな尻の割れ目に手をかけると、そのまま左右に割り開いた。

 するとまだ固く閉ざされた薄桃色の蕾が現れる。

 武はその柔らかな肉の感触を楽しむようにゆっくりと、じっくりと揉みしだいていく。

 

「ひゃうっ!? ど、どこ触ってるんだよ!?」

 

「男を楽しませたかったらな……ここを使うのが一番なんだよ!」

 

 武はそうはやし立てると、竹刀のように太い指先を肛門へと伸ばす。

 

「あひっ!?♡ そ、そこは違うよぉ……」

 

 触れられたくないところを刺激される感覚にヌイは思わず悲鳴をあげるが、武は構わずに指先で窄まりを刺激し続ける。

 その度にヌイはビクビクと体を震わせていた。

 

「なんだ、ここを使う準備はしてこなかったのか? 口では偉そうなことを言ってもまだまだお子様だな」

 

「そ、そんなこと言われても……あっ♡ んくっ♡」

 

 武は指先を小刻みに動かしながら、徐々に押し進めていく。

 最初はきつく締まっていた肛門も、武の巧みな愛撫によって徐々にほころんでいく。

 

「あっ♡ あぅっ♡ やぁっ♡」

 

 やがて中指の第一関節まで飲み込んだところで、ヌイは甘い吐息を漏らし始めた。

 武はそんな弟子の反応を見ながら、さらに深く差し入れていく。

 そして根元まで入ったところでそして根元まで入ったところで、二本の指をくいっと折り曲げた。

 その瞬間、ヌイの口から甲高い悲鳴が上がる。

 

「んぁあああああっっ!!♡♡♡」

 

 どうやら前立腺に触れたらしい。

 ヌイは背筋を大きく仰け反らせ、激しく痙攣させた。

 

「よしよし、これで中はしっかりとほぐれたようだな」

 

 武は満足そうにうなずくと、指を引き抜いてヌイの小さな尻を鷲掴みにする。

 そして、いきり立った己の男根をあてがい、一気に貫いた。

 

 ズボオォオオオオオッ!

 

「ひっぎぃいいっっ!?♡♡♡」

 

 大人の肉棒を無理やりねじこまれた衝撃に、ヌイは目を見開いて絶叫する。

 しかし武は容赦なく抽挿を開始した。

 

 パァンッ! パァンッ! という激しい音が清流に響く中、二人の接合部からはヌイの愛液と武の我慢汁が混ざり合ったものが溢れ出す。

 

「んあっ♡ はぁっ♡ あぐぅっ♡」

 

 武の剛直はヌイの腸内をゴリゴリと削り、前立腺を押しつぶし、彼の肛門を限界まで拡張していた。

 

 

「ふああぁっ!♡ お腹の中でタケルが暴れてるよぉっ!!」

 

 あまりの質量と衝撃にヌイは絶叫を上げる。

 痛みはなかったが、内臓を押し上げられるような圧迫感のために呼吸がうまくできず、視界がチカチカした。

 

「ふっ、どうだ? 久しぶりの私のチポ(ちんぽ)は? 気持ちいいだろう?」

 

 武はヌイを背後から突き上げながら、耳元で囁く。

 その言葉責めに、ヌイの肛門はキュッと締まり、彼の陰茎からは我慢汁がだらだらと流れ出た。

 

 武はヌイを背後から突き上げながら、耳元で囁く。

 その言葉責めに、ヌイの肛門はキュッと締まり、彼の幼茎からは我慢汁がだらだらと流れ出た。

 

「あぅ、んぅっ!♡ そんなぁ、こと……ないもん!♡」

 

 ヌイは涙声で否定の言葉を口にするが、その顔は快楽に蕩けきっていた。

 口の端からはよだれを流し、焦点の定まらない瞳は虚空を見つめている。

 

 その様子を見て武は満足そうに微笑むと、腰を動かし始めた。

 最初はゆっくりとしたピストン運動だったが次第にスピードを上げていく。

 

ジュプッ…! ズポッ…!ズブズブ…! ズリュッ…! ニュプッ…! ズボッ…! 

 

「はぁあんっ!!♡ あふぁっ!♡ んっ!♡ あはぁんっっ!!♡♡♡ タケルっ!♡ タケルぅうううっ!!!♡♡♡♡」

 

 ヌイの口からとめどなく喘ぎ声が溢れる。

 激しく突き上げられるたび、ヌイの小さな体が跳ね上がる。

 それを押さえ込むように武は背後からギュッと抱きしめ、さらに強く腰を打ち付ける。

 

 パンッ! パァンッ!! グチュッ!! ズブッ!! ヌプゥウッ!!!

 

「あひっ!?♡ あぐっ!♡ あぅうんっ!!♡♡♡ あああっ!♡♡♡ んあぁあああっ!!♡♡♡」

 

 武の肉棒がヌイの小さな直腸をゴリゴリと抉る。

 そのたびにヌイは体を大きく痙攣させ、甲高い声で鳴いた。

 

 武が腰を打ち付けるたびに、ヌイの幼茎からは白濁した液体が流れ出し、地面を濡らしていく。

 

「どうだ? もう降参か?」

 

「まだ……だめぇ……!♡」

 

 しかしそれでもなお、ヌイは必死に耐えようとする。

 その健気な姿に武は目を細めた。

 

(まったく、強情な奴め)

 

 そんな弟子の姿に嗜虐心を刺激された武はさらに強く腰を打ち付ける。

 

 ズブッ! グチュッ!! ヌプゥウッ!! ズブブッ!!!♡♡♡

 

「はぁっ!♡ んんっ!!♡ タケルのが奥まできてるっ!!♡♡♡」

 

 ヌイは背中を弓なりに反らせ、武のモノを根元まで深くくわえ込んだ。

 そして、自ら腰を動かして快感を得ようとする。

 そんな弟子の痴態を見て、武も限界を迎えようとしていた。

 

「そろそろイキそうだ……! 受け止めろよ……!」

 

「うん……!♡ きて……タケルの熱いのいっぱい出してぇえ!!♡♡♡」

 

「くっ……! 出すぞ……!!」

 

 武は最後に一際強く腰をパァン! と打ち付ける。

 

 そして――ヌイの最奥に大量の精液を解き放った。

 

 ドピュッドピューーーッ!!!♡♡♡ ビュルルルーーッ!!♡♡♡♡ 

 

「あひぃいいっ!?!♡♡♡♡ あちゅいぃいいっ!!♡♡♡」

 

 ヌイは絶叫を上げながら体を弓なりにしならせて、幼茎から透明な液体を吹き出した。

 ドクンドクンと脈打ちながら大量の精子が流れ込んでくる感覚に、ヌイは背筋を震わせて悶絶する。

 

「あ……あぁ……♡ タケルのが……お腹の中で暴れてるぅ……♡」

 

 武の男根はヌイの小さな肛門を限界まで押し広げ、大量の精液を吐き出し続ける。

 そして、長い時間をかけてようやく出し終えたところで、ゆっくりと男根を引き抜いた。

 栓を失ったことで、ぽっかりと開いたままの肛門からドロリと白濁液が溢れ出す。

 

 その淫靡な光景に武は再び興奮を覚えそうになるが――なんとか抑え込み、ぐったりとした様子の弟子を抱き起こした。

 

「おい……大丈夫か? ヌイ」

 

 さすがに少しやりすぎただろうか、と心配になって声をかけるが……

 

「えへへ……♡ タケルぅ……♡」

 

 どうやらヌイは大丈夫そうだ。

 トロンとした瞳で武の顔を見つめると、そのままぎゅっと抱きついてきた。

 

「お、おい! もう終わりだぞ?」

 

 慌てて引き離そうとするが――

 

「やだぁっ♡ もうちょっとだけぇ♡」

 

 そう言ってさらに強く抱きしめ、頬ずりしてくる。

 そんな弟子の姿に苦笑しながらも、武は優しく頭を撫でてやった。

 

「ぅん……♡ ぁりがとぉ、タケルぅ……♡」

 

 ヌイは、蕩けた表情でかすれた声を漏らしながら、力尽きたように寝息を立て始めた。

 そのあまりに愛らしく無防備な姿に、武は苦笑しながらも、どこか心温まるものを感じた。

 

「まったく、最後まで世話の焼ける弟子だ」

 

 武はため息をつきながらも、やれやれといった表情でヌイを優しく背負い、帰路へと歩みを進める。

 日が傾き、森の中を包む薄明かりの中、武の背中でむにゃむにゃと寝言を言うヌイの声が微かに聞こえてきた。

 

「ん……タケルぅ……しゅきぃ♡」

 

 その無意識に漏れた愛らしい寝言に、武は思わずくすりと笑みをこぼした。

 心の奥から、じんわりと温かい幸福感が広がっていくのを感じる。

 

(そういえば、幼い頃の私も、師匠によくおんぶしてもらったものだな……懐かしいな)

 

 武の脳裏には、幼少期の記憶が鮮明に蘇ってきた。

 彼がまだあどけない少年だった頃、薩摩の厳しい道場で師匠と共に過ごした日々は、今も心に深く刻まれている。

 

 当時の自分は、何もわからず無邪気で、時には無茶なことばかりして師匠を困らせた。

 それでも、師匠は決して自分を見捨てることなく、いつも温かく背中を貸してくれた。

 稽古が終わると、自分が疲れ果てるまで師匠の背中にしがみついていた光景が、まるで昨日のことのように浮かんでくる。

 

『もっと大きくなったら、お前が師匠になった時に、自分の弟子に同じことをしてやればいい』

 

 師匠の優しい声が、ふと頭の中に響く。

 その言葉には、ただ弟子を育てるという意味だけではなく、次世代に繋がる大きな使命を背負うことの覚悟が含まれていた。

 

 あの頃はその言葉の意味を理解できず、ただ無邪気に笑っていた自分がいた。

 

 

 しかし、今ではその言葉の意味がどれだけ深いものだったかを痛感している。

 

(だが、私は……あの時、師を殺してしまった……誰よりも強く、優しかったあの人を……)

 

 一瞬、心の奥に潜む暗い影が顔を出す。師匠を斬ったあの時の記憶は、武の胸に鈍く響き続けている。

 

 あの決闘の日、剣を交えることになったのは運命だったのか、それとも避けられたはずの悲劇だったのか。

 武は今でもその答えを見つけることができずにいる。

 

(どれだけ時が経っても、あの瞬間の後悔は消えることはないだろう)

 

 だが、それでも彼は前に進まなければならない。

 師匠の命を奪ってしまった自分にできることは、師匠が望んでいたことを自らの手で果たすことだ。

 それが武の贖罪であり、人生の意味となっている。

 

(そうだな……師匠にはまだ遠く及ばないが、私には私なりの役割がある。ヌイを一人前に育て、いつか和人とアイヌとの架け橋となるような、誇り高い男にしてやることが私の使命だ)

 

 武は静かに心に誓いながら、背中で無邪気に寝息を立てるヌイの寝顔をそっと見下ろす。

 弟子の穏やかな寝顔を見ていると、まるでその純粋さが自分の心を少しだけ癒してくれるように感じた。

 

 だが、その癒しの奥には決して消えない暗い影が潜んでいる。

 森の冷たい風が頬を撫で、木々の間を抜けて静かに揺れた。

 その風の中に、かつての師匠との思い出が再び溶け込むかのようだった。

 

(この子には、広く大きな未来が待っている。この先、数々の試練があるだろうが、私ができる限りのことをして、その未来への道を切り開く手助けをしてやろう)

 

 武の心には、強い決意と共に温かな愛情が満ちていた。

 しかし、その奥底には、師匠への贖罪の思いが静かに流れ続けている。

 彼の足取りは、確かで力強かった。

 森の中の静寂が深まるほどに、武の胸に秘めた誓いと決意は、一層強く、揺るぎないものへと変わっていく。

 

♦

 

「あーら、先生。ヌイ坊とはしっぽりと楽しんだかしら」

 

 悪戯っぽい光を宿した瞳で、一人の恰幅の良い中年女性が声をかけてきた。

 口元は笑っているが、その目は値踏みするように武の顔色を窺っている。

 

「ふぉっふぉっふぉ、どうじゃった? ヌイ坊もなかなかやるじゃろ? わしらが手取り足取り、『男衆の喜ばせ方』ってもんを、みっちり仕込んどいたからのう!」

 

 皺だらけの顔をくしゃくしゃにして、別の老婆が続いた。

 年季の入った悪戯小僧のような、それでいてどこか粘つくような含み笑いが、その言葉には滲んでいる。

 

「うふふ、先生ったら、ずいぶんとお久しぶりだったんでしょう? もう、溜まりに溜まったものが爆発しちゃった、とか?」

 

 さらに別の、まだ若い女性が、鈴を転がすような声で、しかし明らかに揶揄する響きを込めて言い放つ。

 

 その言葉を皮切りに、周囲を取り囲んでいた他の女たちからも、抑えきれないクスクスという笑い声が漏れ始める。

 それは次第に大きくなり、まるで波のように武に打ち寄せた。

 

 武がヌイの家から戻る道すがら、気づけば集落の女衆に井戸端会議よろしく取り囲まれていた。

 まるで品定めでもするかのような、好奇と揶揄の視線が一斉に突き刺さる。

 

 羞恥と罪悪感が、まるで鉛のように武の胃の腑に沈み、呼吸すら苦しい。

 逃げ出したくても、足が縫い付けられたように動かなかった。

 気のせいではない。そこかしこの家の窓から、あるいは戸口の隙間から、幾つもの目がこちらを窺っている。

 集落全体が、この醜聞の目撃者になったかのようだ。

 

 武の背中には、脂汗がじっとりと滲み、北海道の冷たい風がやけに肌に刺さった。

 

「す、すみません、どうか、通してください……すみません……」

 

 顔から火が出るような思いで俯き、燃えるような頬を隠しながら、武は人垣を掻き分けるようにして先を急いだ。

 背中に突き刺さるクスクス笑いが、鞭のように痛い。

 

 その逃げ場のない状況に、武の心は針で幾度も突き刺されるような痛みに苛まれ続けていた。

 

(ああ、私は何ということを……! この集落の皆に、人としてあるべき高い道徳と倫理を説いてきたこの私が……! 己の欲に溺れ、あまつさえ弟子であるヌイ、それも村の長たる彼を手籠めにするなど……! なんと唾棄すべき卑劣漢だ、私は……! 断じて先生などと呼ばれる資格はない……!)

 

 俯いたまま、武は激しい自己嫌悪に襲われていた。

 しかし、その罪悪感に苛まれる心の奥底で、全く別の、熱を帯びた声が囁き始めていることにも、彼は気づいていた。

 

(いや、しかし……あんなにも愛らしくて、無垢な瞳でこちらを見つめるヌイを前にして……平常心でいられる男がいるだろうか? いや、いるはずがない……! あれは……そう、男としての、抗いがたい本能のようなものだったのだ。ましてや、私はこの薩摩の血を引く男……異郷の地で出会った、あまりにも眩しい一輪の花のような少年を、抱きしめたいと願うのは、もはや宿命と言っても過言ではないのか……!)

 

 薩摩趣味―――

 当時、薩摩藩で広く、そして熱烈に楽しまれていたのは、いわゆる男色の文化、中でもひときわ純粋で、清らかな稚児を偏愛する風習であった。

 現代の倫理観からはかけ離れた、ショタコン的な趣向が、当時の薩摩の社会に深く、そして官能的に根付いていたのである。

 

 武もその例に漏れず、その趣味嗜好を色濃く受け継いでいた。

 

 武は必死にもごもごと、自らの衝動を正当化しようと試みるものの、結局のところ、己の弱さ、抗いがたい本能に屈した事実は、紛れもない。

 ヌイに手を出してしまった罪悪感と、それでもヌイを求める心の狭間で、武の胸の内は激しく波立ち、混沌の様相を呈していた。

 

(それにしても……この村の女たち、どうしてこうも噂話が好きなのか……。この状況が続くようなら、胃がいくつあっても足りる気がしない……)

 

 どれほど剣の腕が立とうと、百戦錬磨の武であろうと、この村の女たちの噂話の前では、まるで生まれたばかりの赤子のように無力だった。

 彼の剛剣をもってしても、彼女たちの鋭い言葉や冷たい視線を切り裂くことはできない。

 羞恥と後悔が重くのしかかり、彼の心は激しく揺さぶられ、まるで足元にぽっかりと口を開けた奈落の底へ、今すぐにでも飛び込みたいような気分だった。

 

 武は燃えるように赤くなった顔を隠すように俯き、誰とも目を合わせることなく、ただひたすら無言で道を急いだ。

 彼の耳にはまだ、背後から追いかけてくるように、女たちの笑い声が遠く響いている。

 まるでそれは、彼の罪を嘲笑し、心を容赦なくえぐり続ける呪いの歌のように、彼の胸の中に深く染み込んでいった。






お話を読んでくださってありがとうございます。


もし、お話が面白いと思っていただけたら


★評価をつけていただけると嬉しいです。


あとお気に入りや感想を頂けると、創作活動の励みになります。



何卒よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。