※この作品はR-18です。

彼女は彼女に恋をした。   作:霧里

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彼女たちは恋をした。

 

私の部屋で、私のベッドで、彼女が眠っている。

 

今更になって恥ずかしいのか、背中はこっちに向けたまま、無防備な素肌だけが晒されていた。

 

「羽流? ねぇ、羽流ってば…」

 

声を掛けて、突っついて、体を揺すっても返事がない。

眠っている。何て事はないんだろう。どうにも、呼吸の加減がわざとらしい。

撫でられて、くすぐったかったのか、体を揺らした羽流の背中が少し逸れた。

 

「はねるーん」

「…なに?」

「起きてるんだったら返事くらい…」

 

効果はバツグンだった。ちょっとだけ、恥ずかしいのを我慢したかいもある。

けれど、一体何が羽流の機嫌を損ねたのか、続く言葉はどうにもふてぶてしい。

 

「っち…」

「え、なに?」

 

聞き返して一呼吸。大きく息を吸い込んだ羽流は、ボリュームを間違えたかのように声を上げた。

 

「まふゆんのエッチっ!」

「は?」

 

ちょっと、イラッとした。

 

あんまりにも理不尽な物言いに、カチンともくる。

 

背中を丸め、体を抱いて、そんな被害者ぶられたって、こっちにも言い分はあった。

 

「押し倒してきたのはそっちでしょっ! 羽流のほうがよっぽどっ…」

 

丸まってしまった羽流の肩を引っ掴み、こちら側へと引き倒す。

まるで、さっきまでの仕返しみたい。羽流の上に陣取った私は、顔を隠す彼女の両手を強引に開き、ベッドに押し付けた。

 

「え、あ…ちょっ、なんで泣いて…」

「泣いてない…。こっちみんなバカっ」

「バカって…っ。ああ、もう…っ」

 

隠すように背けた顔。晒された頬に一筋と流れた雫が光る。

やりづらい。調子がくるって仕方がない。文句の一つも言ってやろうと思ってた。なのに、初めて見る羽流の泣き顔に、言いたい事も忘れてしまう。

 

あれ、羽流って、こんな小さかったっけ?

 

私より身長が低いんだ、それはそうなんだけど。色眼鏡かな。今まで私が羽流に抱いていた印象は、もっと、ずっと、大きかった。こんな風に涙を流す姿なんか想像できなくって、泣いている彼女を前に、何て言葉を掛けて良いのかわからない。

 

「羽流? ほんとに、どうしたっていうの?」

「別に…なんでも」

「無いわけ無いでしょうが」

「っ…だって、私、初めてだったのに。私、ダメって言ったのにっ」

「初めてって、そんなの私も同じで…」

「だからダメなんじゃんっ。そんなの余計ダメじゃないっ!」

 

本当に、羽流が泣いてる理由が分からない。

反省会でもしたいのかと思えば、そんな空気では絶対ないし。そりゃ、初めてどうしで至らない点も多かったかも知れないが、何も泣きたい程じゃ無いはずだ。

 

「今度は、ちゃんとしようって。優しくしようって、思ってたのに…また真冬に滅茶苦茶やって…。ごめん。ごめんね、ごめんなさい…ぅっ、くっ…ぇぅっ」

「いや、あぁ…それは、別に。私が変に煽ったせいもあるでしょ? 何も羽流だけのせいじゃないっていうか。泣かないでよ、エッチの後にそんな泣かれたら、私だって…どうしていいか」

 

まぁ、そうだよね。

 

無かった事には出来ないか。

 

改めまして、今日が初めてだって、思い直してもさ。やっぱり、私達の関係が始まったのは あの時からだから。もっと、いい思い出にしてあげたい。羽流なりに色々考えていたはずなのに、私が土足で蹴っ飛ばすから ややこしくなる。

 

「…怒ってない?」

「怒るわけない」

「…ほんとに?」

「ほんとだって」

 

なんていうか、弱気になってる羽流っていうのも新鮮だ。

私の気持ちを確かめようと、不器用な言葉の数々に、ちょっとだけくすぐったくなった。

 

「…オナっぴ」

「それはちょっと怒ってる」

「ほぉぉらぁぁっ、やっぱ怒ってんじゃんっ! まふゆんの嘘つきっ、バカっ」

「またバカって、あぁ、もう…。自分で蒸し返して泣かないのっ」

「ひぅっ…。ぁ、ごめ…な、さぃ…」

「あっ、いやっ…私も、声上げて…ごめん」

 

このままじゃ埒が明かない。

 

私が声を上げる度泣かれたんじゃ話が進まない。

 

多分、羽流にだって今の自分が分からないんだろう。

いつも通りに振る舞いたい反面、私に嫌われてないか不安でしょうがない。

理想的な初めてを演出できなかった後悔も重なって、私に滅茶苦茶やったことが重荷になる。丁度、満杯のお風呂に飛び込んだ後の様。お互いを想い合えた幸せがそこには合っても、少し身じろぎしただけで、お湯が溢れてしまっているみたいだ。

 

それは、私にとっても同じだった。

 

普段ならこんな事くらいで声を上げたりしないのに。

今日は色々有りすぎたから。嬉しかったり、悲しかったり、泣いたり、怒ったり、幸せだったりさ。羽流ほどではないにしろ、丸裸にされた私の心には、彼女の涙や泣き声が、いちいち突き刺さる。どうにかしてあげたいけど、どうして良いかわからない。羽流に泣かれると私も悲しくなってしまうし、喉に詰まる涙は苛立ちにも似てしまって、つい声を出してしまっていた。

 

「ねぇ、羽流?」

 

穏やかな声だった。それこそ、泣いてる子どもに話しかけるような調子で、真冬は私の名前を呼んでいた。

 

それでも、涙が止まらない。

 

嬉しくて、悲しくて、悔しくて、でもやっぱり、幸せでもあって。

真冬と話している内に、少しは落ち着いてきたかと思えば、ちょっと声を上げられただけで、ボロボロと涙が溢れてくる。

 

急に大きな声を上げられて、怖くなったのかも知れないし。ただ、幸せすぎただけかも知れない。とうとうと、やることをやってしまった事実に、心の中はぐっちゃぐちゃで、まるで感情がついていってない。

 

「聞いて?」

 

不意に逸らしてしまった頬を、彼女の両手が優しく包む。

 

「…なに?」

「私の好きなとこ、教えて欲しい。羽流は、私の何処が好きなの? 私にばっかり言わせないで。好きとか、大好きとか、愛してるじゃなくてさ。羽流の言葉で教えて欲しい。私だって怖いんだよ? 羽流、友達多いから、勝手にどっか行っちゃいそうで」

 

別に、何処にだっていかないのに。

 

真冬には、私がそんな女に見えるんだろうか。違うな。それは意地悪だ。

それじゃ私の方が真冬を信じてないみたい。ただ彼女はちょっと怖がりなだけで、子供っぽく甘えてくるのは安心させて欲しいから。

 

「そんなの…何処って言われても、全部?」

「雑。やり直し」

「だって…嫌いな所なんか。ちょっと怒りん坊な所くらいで」

「怒りん坊? 私が? 怒らせてるのは羽流でっ…」

 

ぴくっと、一瞬眉根を寄せた真冬だったが、私の瞳に浮かんだ涙を見つけた途端、勢いをなくしてしまう。これはズルい。だけど、止まらないものは止まらない。

嬉しかろうが、悲しかろうが、ちょっとでも感情が波打てば、すぐに瞳から溢れてしまう。

 

「怒んない?」

「どうしてよ?」

「笑わない?」

「笑うわけ無い」

 

そうは言うけどなぁ。

 

こういうのって、だいたい怒られたり、笑われたりするんだよなぁ。

 

「…顔」

「…」

 

渋々と、口にした答えに、一瞬で真冬の顔は曇ってしまった。

 

「聞いてっ。最後まで聞いてってっ…。顔怖ぃ、手…痛いよ…っ、ひぅっ」

「あ、ごめん…」

 

言わんこっちゃない。

 

とはいえ、私の言葉足らずも原因ではある。

 

「でも…。良いなって思ったんだもん」

「何を?」

 

「前に、彼と話してた時あるじゃん? あの時さ、ちょっと楽しそうに笑ってるの良いなって思ったんだもん。いつもどっかで縮こまって女の子がさ、くすって、ちょっと笑ってるの可愛いなって。そしたら、なんかドキッとしてさ。こっち向いてくれねーかなって、独り占めしたいなって…。

 

分かんないよ、私にだって。あの時は、だって、私も振られたばっかで、もう恋なんかしねーとか思ってたのに。いや、振られる度に思うんだけど。でもやっぱり、誰かを好きになる瞬間って、空気読んでくれない訳よ。

 

分かってはいたよ、アイツの事が好きなんだろうなって、だから、なるべく気にしない振りしてたのに。友達のふりしてさ、応援してみせてさ。それなら私も諦めきれるかなって、さっさとくっついちまえよって。

 

そしたら、まふゆん、振られて帰ってくるじゃん。もう、喜んでいいやら何やらさ…。失恋ってきっついのも分かるし、まふゆん今にも泣きそうなのに、平気なふりしてるし。どうにかしなきゃって。同情とか、下心も当然合ったけど。それでも、なんとか元気づけて上げたいなって思ってたら、勢いで押し倒しちゃってて。

 

こりゃ、嫌われたなって、なのに まふゆん、ちょっと待って欲しいって言うんじゃん、期待するじゃん。だから、その、何が言いたいかって言うとね?

好きになってくれた所が好きっていうか。ほんと、変とかさ、気持ち悪いって言われなくって。付き合えるかどうか別にしてもね? 受け入れてくれたのが嬉しかったって言うか。

 

もう、なんか、初めての経験でね。舞い上がっちゃってて、私も。この機会 逃したら、チャンスねーなとか、強引だったよね? あちこち連れ回して、イヤじゃなかった? いや、今更なんだけど、ちょっとでも、まふゆんの気引きたくって、わたし必死で…。だから、うん、好き」

 

一方的に喋り続けた私を待っていたのは沈黙だった。

 

引かれちゃったかな。

 

もう少し考えをまとめる時間もあれば、多少の格好はついただろうけど、いきなりのアドリブは不格好なまま、素直な気持ちを口にするのは難しい。好き、大好き、愛してる。真冬の言う通りだ。そういう分かりやすい言葉に、頼り切っていた私が悪い。

 

「ぷふっ…。あはははっ…」

 

言わんこっちゃない。

 

やっぱり笑われるじゃん。マジになった自分が恥ずかしくって、馬鹿みたいで、また泣いちゃいそうになって、行為が終わってからこの方、私の心はひっちゃめっちゃかだ。

 

「な、なんだよぉ、笑うなよぉ、笑わないって言うからぁ…。私だって、変なのは分かってんだよぉ。だから、お願いだからぁ…。真冬に笑われるの、やだ…いやぁ…」

「うん、うん。ごめんね、大丈夫だから。バカにしたんじゃなくってね?」

 

そっと、頭を撫でられる。

 

溢れた涙でさえ真冬の指が拭っていって、少しクリアになった視界に映った真冬の泣き顔は、私を慌てさせるのは十分だった。

 

「え、ちょっ、なんで泣いて…。あ、やっぱり…変だよね。気持ち悪かったよね? こんな、エッチまでしちゃって、ごめんね、ごめんねっ…」

 

「違うって。あはっ、ごめん、涙止まんないや…羽流の移っちゃったかな?

あはは…。えとね? 気持ち悪いとかじゃ絶対ないから。変なんて思ってないよ。

すごく嬉しくって、だからその。最初に顔とか言うんだもん。

 

体目当てかなって、ちょっと寂しいじゃない? なのに思ったよりも、羽流、私の事好きすぎてさ。笑わないって言ったのに、笑っちゃってごめんね? 今までずっと、好きって言い続けるのキツかったでしょ?」

 

「うっ…。そんなことは、ありませんけども」

「うん、そうだね。待っててくれてありがとうね」

 

また、頭を撫でられる。

 

頭を撫でられながらも、ポタポタと、彼女の涙が私の頬を濡らしていった。

 

「ね? 羽流。指切りしよっか?」

「好きだね? 指切り…」

「ダメ?」

「ダメなんかじゃ…」

 

小指を差し出した真冬に、私も小指を差し出して、二人の一番小さな指が、固く結ばれた。

 

指切りげんまんの呪文を唱えて…。

 

「えっと、どうしようか? 約束…羽流は何かある?」

「私より先に死んだら許さない」

「重い、重い、重い。それを言ったら羽流の方こそ、私より先に死んだら許さないんだからってなるじゃない。そんな、守れない約束は…」

「ゆびきっ…」

「切らないでっ。重たいってば…。えっと、もうじゃあ…ケンカ、とかさ。さっきみたいに、またするかも知れないけど、ちゃんと仲直りしようね? 羽流、照れ屋だから、ちゃんと言ってくれないと私も分かんないし」

 

分からない?

 

その言葉にちょっとカチンときた。

 

あれだけ言い続けていたのに、一体真冬には、どれだけも伝わっていなかったというのだろうか?

 

「は? 言いました。言ってました。好きです、大好き、愛してますって。ずっと、いつも、毎日、ネバーっ」

「は? 言えばいいってもんでもないでしょうっ。好きに頼り切らないでよっ。

羽流のそれは、ほんとんど お早うございますなのっ。分かりづらいったらっ」

 

「何っ!」

「何なのっ!」

 

頬を膨らませての睨み合いは、一触即発の状況にようにも見えた。

けれど、お互い小指を絡めたままの痴話ゲンカが長く続く訳もなく、ほとんど茶番のようなやりとりは、続く笑い声に攫われていった。

 

「ぷっ…」

「ふふっ…」

 

くすっとして、くすくすとして。

 

震えた小指でさえくすぐったい。

 

「ね? 羽流?」

「なぁに? 真冬?」

「好きです。私と付き合って下さい」

「ね、真冬?」

「なぁに? 羽流?」

「好きです。私と付き合って下さい」

 

うん…。

 

頷きあった私達に、それ以上は必要なかった。

 

ただ、小指の絡んだ手を少し持ち上げて。

 

せーの。

 

指切った。

 




最後までご覧頂き、ありがとうございました。

いいね、高評価等頂けると幸いです。

いつも通りイチャイチャしてたら、なんか引っ込みがつかなくなって…みたいになると思ってたのに。仲直りエッチもいいものだな。結果としては、これで良かったとも思う。

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