※この作品はR-18です。

彼女は彼女に恋をした。   作:霧里

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DLC2:彼女と彼女のエピローグ。

 

お昼休み。

 

羽流と二人、弁当を食べ終わった真冬が一息を付くと、目の前にぴょんっと、何かが差し出される。それは、チョコレートのお菓子のようで、コーティングのされた細い棒が繋がる先は、唇をすぼめた羽流だった。

 

「ん?」

 

要求されていることは分かる。

 

ポッキーゲームがしたいんだろう。

 

なんで学校でと思わなくはないが、人前だと私が怯むと思ったに違いない。

 

人前でそういうのしないでって、まだ分かってくれないのかな。

少し悲しい。TPOだとか、私が恥ずかしいとかじゃない。いや、まあ、恥ずかしい事はそうなんだけど、キスを迫るみたいな羽流の顔を、衆目に晒している方が、私には耐えられなかった。

 

ピンっ…。

 

指で弾く。

 

親指に人差し指を引っ掛けて、勢い着けた指先で、ポッキーの軸を弾いた。

そう固いものではない上に、テコの効いたポッキーの軸はあっさり折れると、チョコレートの大部分が宙へと浮き上がる。

 

実際。鳩が豆鉄砲を食らった所を見た人は、どれだけいるんだろう?

 

羽流の表情を見れば、多分こんなだろうと思わなくはない。

 

驚いた羽流の顔。根本だけ残されたポッキーの軸は、キスを待つかのような唇に挟まれたまま。重ね合わせるように、私は唇を押し付けると、ぺろっと、舌先で残ったポッキーを奪い去る。

 

「ごちそうさま」

「な、あっ…」

 

食べ物を粗末にしちゃいけません。

 

宙に舞い、落ちてきた残りのポッキーを掴まえた私は、それを咥えながら羽流に微笑みかけた。

 

どうだ、恐れ入ったか。

 

予想外だったでしょう?

 

人前で私がこんなにするなんて。

羽流ですらそうなんだ。その光景を見ていたクラスメイト達が、固まる気持ちも分からなくはない。

 

羽流のお陰か、羽流のせいか。

 

はたして、どう言ったものかは悩ましい。

今まで良い子をしていた分だけ、大人達に知られれば、嘆息されてしまうこと請け合いだ。けれど、今の私には、先生の手伝いなんてもう知らないし、他人の顔色なんかも どうだっていい。

 

羽流がどう思うか。

 

私が新たにした線引は、愚直なくらいに真っ直ぐだ。

 

「レフリーっ! 今のずるいよなっ! ポッキーゲームってそうじゃないじゃんねっ!? 芸術点競おうってんじゃないのっ」

「ん、まぁ…ポッキーゲームでは無かったよなぁ、今のは…」

 

友人の一人に非情を訴えかける羽流。彼女は困ったようにしながらも、彼女は彼女の友達なので、私の味方するよりも、とりあえず羽流の肩を持つのは当然だ。

 

「レフリー? 後で数学の宿題見せてあげる」

「それは…」

 

揺れたか。

 

ならもう一つ。

 

「英語も付けたら?」

「セーフっ」

 

勝った。

 

やっぱり友情なんて…。彼女たちの関係を揶揄するでもないけれど。私と羽流。

二人の関係に比べれば見劣りはしてしまう。

 

「買収っ! 買収じゃんそれっ! ていうか、私にも見せろっ!」

「羽流はダメ」

「なんでさっ!?」

「お家デート。宿題を一緒にするって口実、なくなってもいいの?」

「うっ…」

 

口実、とはいえ彼女にはしっかりやって貰うんだけど。

放課後 居残りさせられたり、テストで赤点とって、一緒にいる時間が潰されては堪らない。

 

「しょうがないんだから。じゃあ、もう一回戦ね?」

 

残っていたポッキーを咥え直した私は、ずいっと、羽流に顔を近づけた。

 

「ちょっ、まっ、まふゆんっ。みんな見てますけど? 見られてるんですけど? 私がっ、恥ずいって…」

「ん?」

 

言われればそうか。

 

ちらっと、横を見れば視線のあった男の子が慌てて目をそらす。

最初の内は少なかった観客も、私達が騒ぐにつれて、些か賑も増しているようだった。

 

けど、まぁ、それだけだ。

 

羽流との仲を見られて困る事もないし、私達が付き合ってる事自体、既に羽流が言いふらしている。なら尚の事見せつけておかないと。羽流が私のモノだって、誰の横恋慕に邪魔をされるかも分からないんだから。

 

「ほら、はやく? するんでしょ? ポッキーゲーム」

「ちょっ、まっ。力つよっ、体重掛けんなって、うぉぉぉっ…」

 

ポキ…。

 

羽流の頬に突き刺さったポッキーが根本から折れる。

押し付けられたチョコレートが彼女の頬を黒く汚して、その肌からは甘い匂いが漂ってきた。

 

ちゅっとして、ペロッと舐める。

 

その瞬間、彼女の頭は茹で上がった。頬を染めた羽流は、力尽きた様にその場に崩れ落ち、へたりと、座り込んでしまう。

 

♪♪♪♪

 

昼休みの終わる予鈴の音。

しなびた羽流を拾い上げた私は、教室の出口へと向かって歩く。

顔を上げて、胸を張って、私が羽流の彼女ですって、誰かに遠慮する事は何も無い。私の羽流が騒がしてごめん、とは思うけどそれだけだ。

 

「え、あっ。北見さん? 授業は? もう先生くるよ?」

「しー…」

 

クラスメイトの忠告を前に、私は指を立ててみせた。

内緒話をするように。秘密にしててねと、お願いするように。

 

口元に指を立て、にっこり、微笑んだ私は、そのまま教室を後にした。

 

「マジか…」「しけ込みやがったぞアイツら…」「北見さんやるぅ…」

 

ざわり、ざわり…。

 

教室に広がった波紋は次第に大きくなり、一体何を見せられたのか、だれもかれもが顔を見合わせてしまっていた。

 




「羽流。人前でああ言う事しないでって言ったよね? 私…」
「いや、それは…そうだけど」
「まだ分かってくれないんだ? じゃあ…」
「ぁ…」

あるいは…。

「まふゆんさぁ…」
「羽流が悪いんじゃん。ああいうことしないって約束…」
「でも、キスしたのは真冬からだよね?」
「ほっぺにでしょ…それくらい」
「それくらい、なに?」
「勝手に、すればいいじゃない…」

どっちに転んでも美味しい。

最後までご覧頂き、誠にありがとうざいました。

いいね、高評価等頂けると幸いです。

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