「えと…お邪魔します?」
さて、傷心の女の子を家に連れ込むってのはどうなんだろう?
これが男だったら、何考えてんだって言われるんだろう。女の子同士でさえ、関係性にもよるかも知れない。
特に私はそう。
下心がまったくないなんて言えやしないんだ。
「ごめんね、あちこち連れ回しちゃって。疲れたでしょ?」
「まぁ、ちょっと。ようやく休めたって、思わなくもないよ?」
「にひひっ。ごめんごめん」
「良いよ…。良いんだけど…でも」
呆れ顔だろうか? 気持ちを切り替える様に軽く息を吐いた真冬は、じとっと、嗜める様な目で私の顔を覗き込んでくる。
「これ…お酒、だよね? どうしたの…」
「おにぃのを、ちょーっと借りてきただけだよ」
「友人が犯罪者になりそうなのを見過ごせって?」
「犯罪者って、大げさな。それにさ? バレなきゃ犯罪じゃ…いたっ、痛い痛いっ。ごめんっ、ごめんってば」
抓られた。
正しく彼女は真面目であった。
「でもさーでもさー。一缶開けたくらいでさ? 良いじゃんっ、なんかこう? そういうさ? 気分だけでも盛り上がろうぜって?」
「それなら、ノンアルコールでも良いじゃない…。て、ちょっと…羽流、聞いてってばっ」
聞く耳持たずだ。
未成年飲酒を勧めようってんだ。言ってることは全面的に正しい。が、酒を飲んでも忘れたいってのは、どっちかと言えば私の方。
「良いじゃん、少しくらい自棄になったってさ? 小学生でも無いんだよ。寝れば楽しい明日が待ってるなんて、絶対嘘じゃん…」
真冬の静止も そのままに、私は缶の蓋を開いていた。
シュコっと空気の抜ける音。シュワシュワ泡立つ炭酸と、仄かに香る甘い匂いは、それがお酒だなんては思わせてくれなかった。
「羽流? どうしたの…? なんか今日は、変だよ? 妙に元気だったし…。私のためって思ってたけど…なんか、私より落ち込んでない?」
「んくっ…ふはぁ…っ。ん、ジュースみたいだけど、なんかこう、あーってなるね、あーって」
「あぁ…もう。飲んじゃって…」
「えへへ…。だって、悔しいじゃない…。絶対大丈夫だって思ってたのに…」
「そりゃ…でも。彼にだって選ぶ権利はあるだろうし。優しくしてくれてたのは事実だから、責めるのも。私が変に舞い上がっちゃっただけで…」
頷いた私は、無言のままに開いた缶を真冬に差し出した。
1秒、2秒と進む時計の針。私と缶を交互に見やる真冬は、だけど、困った顔をしたまま動かない。
「はぁ…もう。一缶、それだけだから。二人で飲んでおしまい…。絶対だから」
「にひひっ。これで まふゆんも共犯者だねぇ…」
「わかってるなら、足洗ってよ…」
間接キス…。なんて思いもしてないんだろうな。気にもされてないのか、そんな余裕もないのかは分からないけれど。私が見ているその前で、真冬は恐る恐ると缶に口をつけた。
少しずつ。その塩梅を確かめるように。毒でも入ってんじゃないのかって慎重さも最初だけ。舐める程度じゃジュースと変わらず、ゴクリと、喉を鳴らすと同時にはっとする。
「あー、うん。あーって、なるね。たしかに…」
仄かな甘さが喉を通り過ぎると、残ったアルコールが喉に焼き付いた。
そう強くはない。けど、確かな異変を拒絶するみたいに、私達は交互に「あぁ…」と声を上げながら、アルコールの魅力に飲まれていった。
だんだんと、体が熱くなる。
頭も ふわふわしてきて、なんだか心地が良い。
よくあるジュースの缶を、二人で半分こ。
私に一缶開けさせるくらいなら、二人で飲んだほうがマシだろうと、真冬も思っていたはずだ。だけど、その空き缶がカランと音を立てる頃には、お酒に慣れない私達の顔は、もう真っ赤になっていた。
確かに、これは良い。
まるで夢見心地の様だ。
アルコールで浮ついた心臓は、ただドキドキと鳴り続けていて、なんだか変な心地にもなってくる。嫌なことなんて全部忘れてさ。ほぅっと息を吐いただけでも、面白いくらいに力が抜けていった。
「にひっ、ふひひひっ…」
「なに、羽流? 急に笑いだして…ちょっと、怖いよ?」
「だってさぁ…なんか、まふゆん顔赤いし…」
「そういうものでしょ…お酒って…」
体から力が抜けて、頭からも力が抜けて、考えることも面倒になって、理性で押さえつけていた感情が、ほろっと、口をついてもしょうがない。
「ねぇ、真冬。私がさ…下着売り場でね、付き合おっかって、言ったの覚えてる?」
「んー。うん、そうだね。友だちになろうねって、うん」
「あははっ。友達、うん、そうだよね…」
真冬の方も、だんだんとお酒が回ってきたのか、私をたしなめていた時の雰囲気は溶け始め、その口調もだんだんと覚束なくなってきていた。
「ねぇ、真冬。私達、付き合わない?」
「もう友達でしょ?」
「友達だよ? 友達だけど…。もっとさ、私が恋人じゃ、ダメですか?」
言っちゃった。
言っちゃったなぁ。
振られたばかりの少女を家に連れ込んで、お酒飲まして、告ってさ。気づけば、唇まで奪ってた。流石にやりすぎだろうと思う。いくら同性でもセクハラで済む範囲を越えていた。
それなのに、お酒のせいだねって、酔った勢いでって、簡単に考えてしまえるのが恐ろしい。真冬にとっては、初めてのキスだったかも知れないのに。私に付き合わせたばっかりに、彼女の初めてを奪ってしまった。
顔が赤いのは、何のせいだろうか?
真冬からの拒絶が無いのはどうしてなの?
ゆっくりと唇を離して、だけど、私を振りほどく様子もない。
頬を染め。奪われた唇に指を当てて、ただ、恥ずかしそうにうつむくばかりで何も無い。
拒絶されるなら良い。それは、まあ自業自得と割り切れた。
こんな唐突に唇奪って、嫌われたってしょうがないし、もしかしたら明日の教室で晒し上げられるのかも知れない。
でも、拒絶もされなければ、かといって受け入れてくれるでもない。
本当に困らせただけ。困ったように俯いたまま、真冬はすっかりと固まってしまっている。
なんだよ、それ。
止めて欲しい。
そんなん、期待しちゃうじゃんか。
押して良いのか? 押して欲しいのか?
押しに弱そうだとは思っていたけど、いざともなると意外と手はでない。
まるで話に聞く童貞見たいだ。態度を決めかねる真冬に、私も決意が固まらないまま、もう一度と、彼女の顔に唇を寄せていった。
ちゅっ…。
触れ合う唇と唇。肌の薄い所から伝う体温と、少し湿った唇の感触に頭が熱くなっていた。唇が離れ、吐息が漏れる。アルコールの残り香に、頭がクラリと揺れて、ふわふわとした心地よさが一気に燃え上がる。
「まふゆんが…。真冬が悪いんだからな…。こんな、抵抗もしないでさ、もう良いってことじゃんね?」
せめて、ベッドの上に。そうは思っても、そんな余裕はどこにもなかった。
いくらカーペットの上にでも、押し倒した床は固い。少し曇ったその音に、はっとさせられる。
「勝手に、すれば良いじゃん…。お酒飲ませて、こんな風にさ…。悪いのは羽流の方…ズルいんだよやり方が。今、求められたら…私、だめって、いえな…っ。振られて、悲しいって、自棄にもなるよっ、私だって…ぅっ。羽流のこと困らせないようにって、ワガママ言わないで我慢してたのに…っ。一緒にいてよ…今、一人にされるのはイヤ…だから」
喋りながらも、真冬の瞳には涙が溢れ始めていた。ぐすっ、ぐすっと、鼻を啜り、流れ出した涙を何度も拭っている内に、綺麗な顔がグチャグチャになっていく。
「うん、ごめんね真冬。後で謝るから、今は…許して、ね?」
そんな彼女の頬に手を添え、私達は唇を寄せ合った。
正直、不安はある。お互いに自棄っぱちなのはそうだ。
初めてのお酒に完全に酔ってしまっている。後で後悔するんだろうな。
こんな滅茶苦茶、お酒が切れればきっとダメになる予感はあるのに、でも、一度盛り上がった感情はまるで手が付けられない。
ちゅっ…。
もう一度、唇が触れ合い、少し離れて、水音の途切れる音がする。
確認のためのキスだ。もっとして良い? 尋ねるみたいに軽く触れ合わせ、伸ばした舌先で唇の隙間をくすぐった。
「ぁっ…んっ…」
可愛いな。
戸惑ったように息を吐いて、緊張からか引き結ばれていた唇から力が抜けていく。
開いた唇の隙間に舌を忍ばせ、その奥にある真冬の舌を軽く舐める。
つつくように、少しだけ。固い歯に守られた彼女の舌は柔らかく、何か触れちゃいけないモノに触れてしまったような罪悪感を私に抱かせた。
ずっと、こうしていたいな。
いつまでだって続けてられる。
胸がドキドキしすぎて、すっごく苦しいのに、今、唇を離してしまったら、全部が台無しになりそうで怖かった。まるで、夢から覚めたみたいにさ。二日酔いで顔を青くした私達が、息も絶え絶えで寝っ転がってんの。
それはそれで、面白かったろうな。
なんでもない青春の1ページとしては、笑い話にもなるだろう。
でも、それはイヤだ。今はヤだ。もう一度なんて無理。
お酒の力も借りずに告白なんて、真冬だって、また私がお酒を持ち出したら今度こそ怒るだろう。
たまたまだ。
振られて落ち込んでいる真冬と、巡ってきたチャンスに居ても立ってもいられなくなった私。引くに引けなくなって。拒むに拒めなくって。グチャグチャな私達を、お酒の力がくっつけているだけ。
最低だな。
分かってる。
何度も言わないで。
でも、ここまでやって、ごめんなさいは嘘でしょう。
やることやって、どうにでもなれって、それでどうにかなれば、まぁ、良いかなって。考えてるようで、何も考えてないな、私。
ドキドキ、ドキドキ、ドキドキと…。
アルコールに煽られた心臓に、背中を蹴っ飛ばされているみたい。
マンガなんかで良くあるよね。なにかの拍子に倒れ込んで、女の子の胸を鷲掴みにするようなやつ。今の私がまさにソレだった。作法なんて何も無い。ただ無造作に、広げた手を真冬の胸に押し付ける。
「んっ…」
一瞬、息を呑むような仕草の後、真冬は肩を竦めてしまう。
驚かせただろうか? 私だって驚いている。何やってんだコイツって思いながらも、触れた彼女の胸、その、おっぱいの柔らかさに感動を禁じ得なかった。
なんなら一言「でか…」って、素の声が漏れてたくらいだ。
「でかって…。別に、大きくなんか…普通、だよ」
「それ、私の乳に向かって言えますか? ほれ、言ってみ? まふゆん? ほれ?」
「うっ…乳って、そんな言い方…。てっ、もう…おっぱい、叩かないでって」
ぺちぺちと、刻んだオノマトペは、ふるふると彼女のおっぱいに伝わっていく。
「そりゃ、まふゆんより大きい子も多いけどさ。あれはあれで、大変なんだぜ? 胸が目立つように、こっそり制服詰めてたり、ブラで形整えたりさ? ガチるやつは姿勢まで気にするからな?」
「あぁ、なんかモデルさんみたいな子いるよね…私は、よくわかんないけど。羽流もそうなの?」
「まぁ、綺麗には見せたいわな。大きさで勝負はしないけど。逆に、まふゆんは、わざとでしょ、それ?」
「うん、まぁ…。変な目で見られたくないし…」
気持ちはわかる。妙な色気を出せば、男にも女にも、変に絡まれるからな。
それを嫌った真冬は、わざと身体の線が出ないように、余裕のある制服の着方を選んでいた。
だから、余計にだろう。
そこそこあるだろうなって思っていた。体育の着替えの時にすら、人目を気にしていた彼女のおっぱい。実際に触れてみた膨らみは、思っていた以上の存在感を返してくれる。
しゅるり、胸元のリボンを解く。
一つ、二つと、ボタンを外せば、首筋から続く白い肌が、あからさまに盛り上がっていった。もしかしたら、無い物ねだりなのかな。女性的な膨らみに憧れる気持ちは大きい。私にだってもちろんある。貧乳だなんだと揶揄されたって、男の胸板とは比べられたくない。
まぁ、アレはアレで綺麗だとは思うけどね。
筋肉質な胸板。ボディビルダーまでいくと若干引くけど、それは、無駄に乳を膨らませた女にも言えること。綺麗に整えられた身体っていうのは、性別の区別なく、そう言えるものだとは思う。
だからって、男の体になりたいかって言われればそうでもなかった。
女の子のままが良い。格好いいより、可愛いが好き。もし自分が男なら、そう思って男装をしてみた事もあるけれど、まあ、ボーイッシュって、ファッションとしては楽しめたかな。
「…ユニしまだ」
「そりゃ、そうでしょ…」
完全に開けた胸元。最後まで真冬の おっぱいを隠していたのは、どこにでもありそうな普通の下着。その薄紫のモノトーンは、真冬のイメージに合ってはいる。
けれど、女の子の衣装としては、いささか落ち着きが過ぎるというものだ。
「いや、ユニしまでもさ。選び方ってあるじゃん? なんでそう、うーん…地味なの?」
「だいぶ…言葉選んでたね?」
「うっさい。ババ臭いとか言われたかったんかいっ」
「それは、まぁ…」
つーんっと、してらっしゃる。
ババ臭いは流石に言い過ぎたか。でも、それを厭う気持ちがあるってことは、おしゃれに全く興味がないという事もなさそうだ。
「紫、好きなんだ?」
「紫じゃなくて、藤色…」
「同じじゃん」
「同じじゃないもん…」
つーんっと、している真冬の胸を、つんっと、突っつく。
頬に差し込む赤色は、自分が今、どんな状況にあるかを思い出したんだろう。
嫌がりはしないでも、無反応ではいられずに、恥ずかしさに身を寄せた真冬は、胸を突かれる度に小さく体を震わせていた。
可愛いなぁ。
そんな反応が、イチイチ私の興奮を逆撫でてくる。
無性に虐めたくなるのは何でだろう? どこまでしたらイヤがるのか、どんな風に声を上げるのか。ゾクリと、湧いてきた嗜虐心を抑えるのも大変だ。
「ね、羽流? 羽流も…脱いでよ? 私ばっかり…なんか、恥ずかしい」
「ん? なぁにぃ? まふゆんは、私のナイスバディを見たいのかい?」
「…うん」
なるほど。
ちょっとドキッとした。
好きな子から肌を見たいと言われて嬉しい反面、思い出した羞恥心に頬が染まる。
しゅるり…。
リボンを解く。
1つ、2つと、制服から腕を抜き、3つ、4つと、まくり上げたキャミソールから頭をくぐらせた。お互いに下着姿。おそろいになった私達は、しばらく見つめ合い、どこかしらから湧いてきた気恥かしさに視線を彷徨わせる。
「その、羽流は、青が好きなんだ?」
「青じゃなくて、浅葱色」
「同じでしょ?」
「同じじゃありませーん♪」
売り言葉に買い言葉。あるいは、オウム返しに真冬の真似をしてみると、なんだか くすぐったくなって、どちらからともなく笑みをこぼす。
止めるなら今だろう。
気の迷いでした。お酒のせいでしたって言えるのはここまでだ。ちょっとディープなキスをした程度、まだ火傷で済む。二人で笑いあった後、ふと途切れた会話は沈黙に変わっていた。
気まずいっていうんじゃない。
ただ、胸が詰まって息苦しい。乾いた喉に押し込んだ生唾が、べたりと張り付いたみたいだ。
「あはは…はぁ、ん。えと、喉、乾いたね?」
「…うん」
なんとか場を繋ごうと始めた会話も続かない。
自分の状況を思い出したのか、頬を染めた真冬は顔を背け、恥ずかしそうに身を寄せている。「はぁ…」と、零れた溜息の一つですら艶やかに響き、私の手は知らず知らずと彼女の肌に引き寄せられていた。
ぴくっ…。
触れた途端に真冬は体を震わせる。肌はさらに赤みを増し「んっ…」と、飲み込むように声を押し込んでいた。
さわり、さわり、さわさわと…。
体の線を確かめながら、彼女の肌を撫でていく。
柔らかくて、温かい。人肌の温もりでも、それは少し熱いくらいで、真冬の興奮が指先から伝ってくるみたいだった。何でこうも違うんだろう。同い年で、同じ女の子の筈なのに。
魅力的に思う。
きっと、異性の目から見れば、どっちがエッチかなんて言わずもがなか。
インドア派であろう真冬の肌白く、出不精な体はソレといった筋肉も見られない。
そのくせ、肉付きだけは良いんだもんな。もちろん、太っているとかじゃない。
女の子の欲しい所に、欲しいお肉がある感じ。胸にも、腰回りにも、お尻に太ももにと、女性らしい丸みは同性の私からしたって羨ましい。
可愛い。だけなら勝つ自信もあるんだけど。
私にだってコンプレックスくらいはある。こんな天然もの えっちを目の当たりにすると、少しだけ羨む気持ちはあった。世間体で言えば、私の体型はちんちくりんだ。いわんや、男子連中にそうだと からかわれる事はあるし、その度に噛みついていれば、小動物扱いされても仕方がないだろう。
太ももに指が触れる。
そのまま内側へと滑らせて、真冬の中心に向かって撫で上げていくと、恥ずかしさに耐えかねたかの様に、真冬は足を閉じてしまっていた。
「やっぱり、イヤ?」
「イヤ、じゃ…ない、けど…でも」
初めて見せた抵抗らしい抵抗は、だけど、私の嗜虐心を煽るだけ。
むしろこれは、彼女からのサービスなのかと思うくらいには、私の胸は高鳴っていた。無反応な相手を虐めたって面白くはない。いじめっ子ではなくても、ある程度の反応を期待してしまう気持ちは誰にもあるだろう。
「でも?」
問いかけながらも、私は指の動きを止めなかった。
太ももに挟まれた手。きめ細やかな肌の感触に指先を滑らせ、むっちりと押し付けられた柔肌の肉感を掻き分けながら指先を伸ばしていく。
挟まれているが、動かせないほどじゃない。その柔肌をくすぐるように指を動かせば、ふるふると足が震え始め、不意に力が抜けたかと思えば、慌てた様に足が閉じられる。
この子、わざとやってんのかな?
恥ずかしがってるのは伝わってくるんだけど、なんていうか、こう、今まで虐められて来なかったのが不思議なくらい。あんまり目立ちたくないって、極まれば気配まで消せるものなのか。
「ね? まふゆんってさ? 自分でイジったことある?」
「…」
返事はない。ただ、意図する所は伝わったのか、首筋に、頬に、耳の先。
肌の薄い部分が赤みが差していく。YESかNOか。それだけでは分からないけれど、そういった事に興味がない訳でもないらしい。
「ふーん。答えないんだ?」
「そんなのっ…羽流は、どうなの?」
「あるよ?」
「なっ…!?」
そんな驚かないで欲しい。私だって年頃なんだ。自分の体を持て余す日だってある。好きな子の事考えながら、自分の気持ち良い所イジってさ。寂しいなっては思うけど。気持ちよくなってる内は、そんな事考えなくて済むし。
「分かってる? まふゆんの事考えながらしてたんだよ? 私?」
「わ、わたしっ!?」
「うん、そう。まふゆんのココ、触ってあげたらどんな反応するのかなーとか、まふゆんにも、私のこと触って欲しいなぁ…とか」
ちょんっと、伸ばした指先が下着に触れる。
薄い布地の向こうに感じる僅かな湿り気は、まだ汗とも愛液ともつかないままだったけど、触れた途端に身を寄せた真冬の反応は、初めてのものじゃなかった。
自分がそうだったから良く分かる。
最初に、興味本位で触れた時はそうでもなかった。ただムズムズして、くすぐったくって、モヤモヤした感じがお腹に広がってくる。そのうちに落ち着かなくなって、頭がぼぅっとしてきて、触ることが気持ち良いって気づくまでには、なかなか手間をかけたもんだ。
「ぁっ…♥」
漏れた真冬の声は、間違いなくその快感を知っている声だ。
今にも泣き出しそうで、切なそうで、体の中に灯した熱をそのままに、快感に期待する嬌声。
なんか、妬いちゃうよね。
私はさ、真冬の事考えながら自分を慰めてたっていうのに、真冬の考えていた相手は絶対に私じゃない。
「ふーん。まふゆん、そういう声だすんだ?」
「ちがっ、今のは…だって、あっ♥ やめっ…指、さわっちゃ、そこ…んっ♥」
少しだけ指先に力が入るのも止むなしだ。
太ももの隙間を泳がせながら、下着の上をスルリと撫でる。1回、2回、下から上に撫で上げて、上から下に撫で下ろす。繰り返す、繰り返して、少しずつでも彼女に近づいた指の先が、その中へと沈み込む。
くちゅり…。
汗なんかじゃない。
薄い布地の向こうに感じる確かな湿り気。下着越しに感じるスリットの内側から、滲んできたのはサラサラとした汗ではなく、もっと粘ついた感じのする水気だった。じわじわと。弄れば弄るほど奥から奥から滲んできた愛液が、私の指先を濡らしていき、乾いていた下着は、すぐにも愛液の湿り気に覆われていく。
ゆっくり、ゆっくり、繰り返す。
驚かせないように、優しく触れる。
声をかけるのもなしだ。淡々と割れ目をなぞるだけ、上へ下へと、単調な刺激を繰り返す。触られるのが気持ちい。私に触ってもらえるのが気持ちがいいい。
下手な変化をつけるよりも先に、まずは、私との触れ合いに抵抗感をなくして欲しかった。
「はぁ…っ、んっ、ゃっ♥ はぁっ…はぁ、ふぅっ…ひぅっ♥ はぁ、はぁ…♥」
だんだんと、だんだんと、真冬の声が溶けていく。
多分本人ですら気づいていない。まだ固さの残っていた嬌声は次第に柔らかくなり、甘いものが響くようになってくる。体からは力が抜け始め、太ももの隙間が開くのと同時に、口元を抑えていた指先でさえ頬へと流れていく。
くちゅり…くちゅり…。
頃合いを見図り、上下を繰り返していた指の動きに、少しだけ変化をつけた。
上下運動は変わらず、ただ少しだけ、下着の上で楕円を描く。ぴたり、閉じていた割れ目を開く様に指を動かすと、広がった割れ目の隙間から愛液が溢れ出してくる。
「はぁ、あぁぁぁっ♥ な、なんで、これ…なに、これ…ゃぁぁ…っ♥ こえ、でちゃ、んっ♥」
「気持ちいいでしょ? 昨日今日覚えたばっかりの まふゆんとは年季が違うんだよ、私は」
「そんな、こと…ひゃっ♥ 覚えてなんか、わたし、しらなっ…ぁっ♥」
ぴくっと、真冬の腰が跳ねた。
だらりと、下着の端から流れた愛液が太ももを流れていく。
指の動き一つに身悶える真冬を見ていると、なにか、こう、自分の中から溢れ出しそうだった。無い物ねだりなのは分かってる。それでも、おちんちんの一つもあれば、今の私は彼女を犯すことに躊躇いはなかったろう。
それでも、私だって真冬と同じだ。
興奮で、どうしようもなく体は火照っていた。お股から溢れた愛液は下着を重くして、太ももにまで流れ出しちゃってる。気持ちよくなりたいなーって、思うじゃんね? 私だって、真冬にして欲しいし、真冬が欲しい。
きゅぅっと、お腹がなった気がする。
下腹部に力が入り、押し出された愛液が、ぽたり、真冬の太ももを濡らしていった。
「あっ…ぇと…」
気づかれちゃったな。
少し困った顔をして真冬が私を見つめてくる。
触ってあげたほうが良いのかな? その戸惑いは確かに浮かんでいて、でも、中々踏ん切りは付かないようだった。
「ね、真冬? も少しだけ、足開いてもらって良い?」
「え? うん…いい、けど…」
おずおずと、まさにそういった風に真冬は足を開いてくれた。
肩幅くらいか。異性と体を重ねるには物足りないが、それでも、女の子どうしで足を絡めるには十分だ。
真冬が開いてくれた足の隙間に、私の足を落としていく。
お互いにスカートを捲り上げる。藤色と浅葱色、薄い下着を重ねるみたいに、
太ももの内側、白い肌が触れ合った。
「んっ♥ やっばぁ…ゾクってきた…これ、どうしようね?」
「どうって…しらないよっ。ぁぁ…はぁ…♥ いいから、なんでも良いから…早く。恥ずかしい…私、死んじゃいそうで…だから」
「早くって、まふゆん、スケベかよ」
「すけっ…て、どっちがっ! 人のこと押し倒しておいてっ…」
「うひゃっ…♥」
ちょっとした抗議のつもりだったんだろう。真冬が太ももを揺らすと、その刺激が私のお股を震わせた。もう、堪んないよね。好きな子の太ももにお股押し付けて、ぐっと割れ目を直接押し上げられるの。思わず変な声だって出てしまう。
お腹の奥で快感が開くんだ。
もっとして欲しいって思う。
自分からお股を押し付けて、彼女に抱きつながら、押し付けた私の太ももを大きく摺り動かしていく。ヌルヌルと、グチャグチャと、かき混ぜられる愛液の音が全部だった。いやらしい水音に、私の理性なんかとっくに溶かされていて、真冬の体で感じる快感が、私を狂わせていった。
ドキドキ、ドキドキ、ドキドキ…。
心臓の音が頭に響く。腰を動かして、足を動かして「んはっ♥」「やっ♥」「はぁっ♥」と、蕩ける真冬の声を聞く度に、私の快感も燃え上がっていく。
「ごめっ、まふゆんっ。わたしっ、これっ。はぁ…はぁっ、ふぅぅっ、ひぅぅっ…!? とまんなっ…きもちいっ、はぁっ♥ まふゆんっ、すきっ、すきぃぃっ…♥」
気づけば、うわ言の様に名前を呼んでいた。
ガクガクと震える腰を押さえつけ、彼女の身体にしがみつくのが精一杯。
快感に、頭が染まる。快楽に、体が溶かされていく。もう、何もかもが遠くになって、気持ちいいが全部になって。
もう、イッちゃいそう。
絶頂の間際、私の体は抱き寄せられていた。
背中に回された真冬の手に、きゅっと力が込もる。
遠慮はある。快感に流されるまま、ついとそうしてしまったのかも知れない。
それでも、真冬に求められたのは嬉しかった。瞳から涙が溢れて止まらない。
抱き返そうとして伸ばした手は、がっちりと彼女を捕まえて離れなくなる。
「はねる、はねる…。ふぅっ、あっ♥ はぁっ、やぁぁっ…わたしも、ひゃっ♥ もう、気持ち良い、からっ。だから…あ、このまま、最後まで…んっ♥ はなしちゃ…やっ♥ はなれ、ない…でっ♥」
名前を呼ばれただけで、頭がグラグラと煮えたぎった。
熱い吐息が頬を撫で、甘い嬌声が耳に響く。真冬と触れ合う肌の全部が気持ちよくって、ぐちゃぐちゃと、腰を、太ももをと動かすほどに、掻き混ぜられた快感が私達を絶頂へと押し上げていった。
耳鳴りがする。
頭がぼぅってなって、自分がどうなってるかも分からない。
ただただ強く抱きしめられていた。そのまま強く抱きしめ返していた。
お腹が煮え滾るように熱い。きゅぅってなって、ぎゅぅってなっていて、沸騰した快感が、ゾクゾクと全身を震わせる。絶頂の快感。だけどそれは一人でするのとは全然違う。頭が白くなって、お腹が熱くなって、ソレ以上があるなんて思わなかった。
声が出ない? ううん、気持ちいいで喉が震えてる。
一杯一杯なにか叫んでて、真冬の事呼んでる様な、真冬にも呼ばれてるみたいな。快感で震える体を必死に抑えようとして、彼女の身体にしがみついていた。
同じ様に抱き返されると、お腹で感じる熱とは違う。もっと優しい温もりに胸が満たされていく。
長い、長い、絶頂は、ずっと続いていく様で、でも、ふとした瞬間に快感の並が引いていった。ぎゅっと、真冬にしがみついていた手から力が抜けて、そのまま彼女の方へ倒れ込んでしまう。頬を押し当てた胸の内から、ドクン、ドクンと、強い鼓動が直接耳に響いてくる。
ぽんっと、背中を叩かれた。
ぽんっと、あやすように叩かれた。
子供扱いされてるみたいで、ちょっと悔しい。
いつのまに立場が入れ替わってしまったんだ。真冬を可愛がっているつもりで、いつしか私の方が可愛がられてて。だけど、真冬の温もりからは離れがたい。
絶頂の後の気だるい体を動かすのも億劫だ。恥ずかしさに逃げ出したい気持ちもあるけれど、今更見られて困る自分はあるのだろうかと考える。
「えと…真冬、さん?」
「なに?」
行為の後しばらくして、ようやく身なりを整えた私は、真冬の前で正座をしていた。ほぼ土下座からの平謝りを繰り返しながら、ちらりと覗き見た彼女の顔は能面の様で、冷めた視線で射抜かれた私は針の筵だった。
「怒ってますか?」
「羽流のえっち。変態。もう知らないっ…」
「うっ…です、よねぇ…」
返す言葉もございませんよ。傷心の少女を家に連れ込み、酒を飲ませて、行為に及ぶ。最低の称号を得るには十二分に過ぎた。
「そう、言って欲しかったりする?」
「言われても、しょうがないとは、思ってる…」
「なんで七五調? 冗談で済ませようって言うなら、本当に知らないからね?」
「はい、ごめんなさい」
そうは言っても、真冬に怒ってる様子はなかった。冷めた視線もそこそこに、一つ、大きく息を吐き出した後は、お酒を前にした私を窘めていた時の口調に戻っていた。
「えと…羽流が、私のこと好きだっていうのは分かったけど。今日のはだって、お酒のせいもあるし。私だって自棄になってるところもあって…だから、その」
「いいよ、忘れてくれて。正直、ここまでさせて貰えただけで…私はさ」
「それって、一度したらもう満足? 私じゃ物足りなかったとか?」
「それはっ…意地悪な言い方だと思う。またしたくないって言ったら、したいよ、そりゃ…」
「ごめんね。私だって、こんな急にさ…。そりゃ、羽流の事は好きだけど、でも…「うん」とは、まだ言えないから…」
答えあぐねている。
私の好きは嬉しいけれど。自分の好きを上げて良いのか分からない。
そんな真面目に考えなくてもいいのにな。でも、考えてしまうのが真冬なんだろう。優柔不断と揶揄する人もいるかもしれない。でも、ちゃんと考えようとしてくれるのは素直に嬉しい。
少なくても、いきなり肉体関係を迫った私と比べれば全てが立派である。
「えと…はい」
そう言って、真冬は私の方へと小指を差し出した。
「はいって、なに、それ?」
「指切り?」
「可愛い事するね?」
「イヤ?」
「イヤじゃない…。えと、じゃあ…はい」
差し出された小指に、自分の小指を絡めて繋ぐ。『指切りげんまん』呪文を唱えては見たものの、一体の何に対しての約束事なのかイマイチ思いつかないままだった。
「私も、羽流との事考えてみるから。ちゃんと、好きになれるように考えてみるから…。羽流が無理じゃなかったら、少し、もう少しだけ待ってて欲しい」
ああ、そういう。
なんていうか、イチイチ真面目だな。
こんなのノリでなんとかって…。
ああ、そういう。
そんなノリでいたからだろうか? 今まで私の恋が実らなかったのは。
ただでさえ難しい年頃の、ただでさえ難しい同性愛。一度振られて、もう傷つくのはイヤで、痛いのは怖くって。でも誰かを好きになるのは止められない。だから無意識に、振られても良いようにって、コケる事ばっかり上手くなっていたのかも知れない。
私も、少し真面目になっても良いのかな…。
「えっと、じゃあ私からは…。真冬が無理だったらちゃんと言って欲しい。同情とかそういうのは良いから。普通じゃないのは分かってるし。そういう覚悟はは…いや、ないけど。無いけどあるから、大丈夫だからっ」
「ふふっ…。ないけどあるんだ…そっか、ふふっ」
「もうっ、笑わないでよっ。私だって…何言ってるか分かんないしっ」
なんでだろうな。笑われているのに、全然嫌な気がしない。
口元に手を当てクスクスと、鈴が転がっているみたいな笑い声。その笑顔が彼にじゃなく、自分に向けられているのが心底嬉しかった。
「ごめん。うん、分かった。それじゃあ…嘘ついたら、どうする?」
どうもこうも。呪文の続きは針千本だ。
しかし、現実問題として、針を千本を集めるのは難しいし、ましてそれを飲むともなると有言実行の壁は高い。
一つ、小指に視線が落ちる。
ケジメ案件。それは、古来より受け継がれてきた由緒正しい方法。
それこそ、その場のノリと勢いで出来る、針千本よりもお手軽な決済手段だ。
「この指を切り落とすわ」
「やだ、男らしい…。ヤクザ映画でも見たの?」
「いや、そういう覚悟の話しかなって」
「じゃあ…。私も…そういう覚悟で」
視線を重ね、頷いて、小指を繋いだままの手を持ち上げた後。
指切った。
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前作の子が思った以上に気に入ってしまった。
こういうルートも良いかなって、ついやってしまった。