※この作品はR-18です。

彼女は彼女に恋をした。   作:霧里

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彼女は彼女と遅刻した。(Bパート

 

ーside 羽流ー

 

 

一限の授業も終わり、教師と入れ替わるように、羽流は教室へと入っていった。

 

「やー、やー」「どうも、どうも」さながら気分はナポレオンか「あれ、羽流? 今日は休みじゃなかったの?」なんて各所から上がる歓声を受け止めていると、ただの教室の扉でさえ凱旋門に成り代わる。

 

あえて目立つ。私はそれで良い。

 

耳目を集め、大手を振って机に向かう私の後ろで、真冬がこっそりと教室に入っていける時間を作りたかっただけ。本当なら彼女と二人並んでさ。

なにか、たとえばそう。◯ースベーダーの曲でも流して、教室に入りたかったけど。そんな事をした日には、真冬は回れ右をして帰っていたかも知れないな。

 

大遅刻をカマした私に、沸き立った教室の波が落ち着いた頃。

 

チラリ。彼女の席を盗み見た。

 

なんだか、どっと疲れたように肩を落としている。ため息は重たく、ぼぅっと眺める視線は机の角。

 

何か、良からぬ事を考えているな。

 

当て感ではないよ?

 

これは長年(当社比)の、真冬ちゃんマイスターとしての経験からくるものだ。

 

図書室に向かう途中で繋いだ手。ぎゅっと、握った彼女の手の平は柔らかくて、温かくて、それから少し、そう、彼女の名誉のために、汗ばんでいたという表現は避けてはみても、しっとりと、手を洗った直後の様な触り心地ではあった。

 

それは、内心の動揺を隠したい時の彼女の癖。

 

「良いよ?」と、言われた時は流石の私も焦ったさ。

「バカ言わないの」って、適当にあしらわれるだろうってもね。でも、突然降って湧いた幸運に、私は二の足を踏んでしまった。ここでガッと食いつけないのが、不慣れと言うか、如何にも童貞っぽい。

 

悪戯には悪戯を。真冬にしては踏み込んだ言葉に、たじろいでしまったのは事実。

でも、それだけ彼女との距離が近づいたとも思えば嬉しい。最初の頃に比べれば、遠慮のない物言いもするようになった。あの子の口から「バカ」だなんてさ、売り言葉に買い言葉だったんだろうけど、思い出しても笑ってしまいそう。

 

けれど、その反面。

 

ある種、落ち着きを見せ始めた関係に、不安を感じないでもない。

私になら、このくらい甘えてもいいだろう。真冬が安心してくれるのは、そりゃ嬉しいけども、それで彼女が満足してしまうのイヤ。

 

「…」

 

倦怠期…。

 

そういうには早すぎる。けど、このままズルズルっていうのもな。

居心地が良いのは分かる。私だってそうだ。恋とか忘れて、このまま きゃっきゃっと遊んでいたい。けれど、宙ぶらりんと、どっちつかずでいる方が私には辛かった。

 

それも真冬次第か。あの時、図書室に向かう途中。彼女は何を隠したがっていたのか。

 

ぽつり、呟いた言葉は聞こえなかった。ただ、照れていた訳じゃないはずだ。

何かを言っていたのは確かだけれど、それが私の耳を撫でる頃には何でもなくなっていて、不満を漏らした様な声音が響いただけ。

 

こっそりと、席をたった。

 

抜き足、差し足、忍び足。すれ違う友人たちにも、しぃーっと指を立て。

いち、にの、さん、で、彼女に近づいていく。

 

彼女の席、そのすぐ隣に立ち、それでも真冬は気づかない。

 

ぼぅっと、机の角を眺めたまま、時折もぞもぞと体を揺らし始める。

今頃、彼女の手の平は汗ばんでいるんじゃないだろうか。根拠なんかないよ。これは多分に私の願望も含まれている。

 

「良いよ?」頷いた真冬。「どっちに行く?」そう迫った真冬。

どうせ私はヘタれるだろう。それを前提にした冗談だとして、どうしてそれを信じられるのか。

 

一度、押し倒されているくせに。

 

私はそんなに良い子でないし、我慢強くもないんだよ。傷心の友人にお酒を盛って、そのまま盛ってしまうような女さ。あんまり試すような事を言われると、何をしでかさないとも限らない。それは、真冬にだって分かっているはずだ。

 

こっそりと、真冬の顔を覗き込む。

 

彼女に私の影が落ちる頃になってようやく、顔を上げた真冬と目が合った。

 

紅潮した頬に、潤んだ瞳。熱っぽい視線が私を射抜く。

 

それは、初めて彼女と一夜を過ごした日に見た輪郭をなぞっていて、胸が高鳴ると同時に、引き結んだ唇が むにゅりと蠢めいた。

 

ゾクゾクと、下手な高揚に唆された私は、ゆっくりと、真冬に顔を近づける。

あとちょっと。おでこに、頬に、唇に、不意を付くまでもない。無防備にさらされた唇は、中途半端に開いたまま。キスを出来るようなその距離で、ぽつり、私は彼女に囁いた。

 

「結構気持ちよかったよ?」

 

ああ、やっぱりだ。

 

真冬が机の角を見つめて何を考えていたのか。それが、この答え。

何も無いなら「なにが?」って、聞き返すはずで、私の呟きに察しが付いた程度なら「しらないっ」って、ちょっと不貞腐れるでも、照れるでもすれば良いんだ。

 

なのにさ…。

 

「ぅごぉっ…!!」

 

その瞬間に、私は悲鳴を上げようとして失敗した。

 

およそ、年頃の娘が出していい声ですら無い。あごに打つかってきた彼女の額は、私の悲鳴を喉に押し込むと同時、とてつもない衝撃で頭が揺れる。

 

絶対に、絶対にだ。

 

何も考えていなかったやつが、こんな反応を返すわけがない。

不意に突かれた図星に、大慌てで立ち上がるなんてこと。

 

この、むっつりスケベめ…。

 

その言葉を、ついぞ口にする事もないままに、私は真冬と一緒に机に突っ伏していた。

 

 

ーside 真冬ー

 

 

疲れた。なんだかどっと疲れた。

 

ようやく授業も終わり、やっと席に付いたってのにこの疲労感。

「やーやー」「どーもどーも」と、目立つ羽流に隠れて、席にたどり着いた真冬の心臓はドキドキと、まだまだ落ち着いてはくれなかった。

 

今日のドキドキと、昨日のドキドキ。すでに同じ回数に達してしまっている気がする。ふと、そんな事を考えたせいか、いつしか私の視線は机の角を見つめていた。

 

ここで、羽流は…。

 

夕日に照れされる彼女の横顔を思い出す。

 

こうして座って見上げれば、きっと快感に頬を染める顔がそこにはあったはず。

一度想像してしまえば、ソワソワと、妙に体が落ち着かなくなった。

結局、ちゃんとイケないまま眠ちゃったし、それでなんだか、変な事ばっかり考えてるだけ。

 

落ち着いて。

 

深呼吸をして。

 

多少の欲求不満を頭から追い出せば、昨日、すぐそこで、羽流がしてたんだなんて、見つめた視線の先を想像して、やっぱり変な気分になってしまう。

 

だって、羽流がこれみよがしにしちゃうから。

 

私が居るの気づいてたくせに、余計盛り上がるんだもの。ドン引きされるって考えなかったのかな? 実際、羽流以外の相手だったら、私…絶対、その場から逃げ出してた。

 

でも、それじゃあさ。

 

羽流だったから、私はずっと覗いてたっていうの?

 

気づかれてるの分かってて。羽流も私に気づいていて。私はそこから動けないまま、好奇心なんかより、もっと強い言葉に縫い付けられていた。

 

そりゃ、私だって羽流のこと考えながらするのは、いつもより気持ちよかったけど…。見られながらするっていうのは、流石に想像が追いつかない。

 

なんだか、体がムズムズする。

 

嫌な熱の上がり方だ。

 

じっとりと、纏わりつくような、引き寄せた太ももの内側を意識しないではいられなくなり、もぞり、意味もなく足を動かした。

 

ダメだ、やめよう。

 

思っていたよりも、私は妄想に没頭していたらしい。

近づいてくる足音にも気づかない。落ちた人影にようやく顔を上げると、目の前には笑顔の、むにゅりと唇を歪ませた羽流が居た。

 

キスをされるそんな距離。近づいてくる悪戯な笑顔を前にしても、私は動けない。こんな所で? まさか? 恥ずかしい。そう思うよりも期待の方が勝っていた。

皆に見られたらどうするの? そんなの、羽流がどうとでもするだろう。急に唇を奪うんなら、そのくらいの責任は取って欲しい。

 

「結構気持ちよかったよ?」

 

ぽつり。耳を撫でた言葉にくすぐられる。

 

期待していた光景には随分遠く、内心の妄想を見透かされたような気がして、反射的に立ち上がった私も悪かった。

 

がんっ…!!

 

頭に何かが打つかる音。「ぅごぉっ!?」と聞いた事も無いような彼女の悲鳴。

 

あごか、おでこか、分からない。

 

とかく固い何かが頭を打ち、頬を染める間もなく目を回した私は、羽流と一緒に机に突っ伏していた。

 

 

ーCパート(おまけ)ー

 

図書室にて…。

 

「まふゆんはさ、100万回の人生があったら何したい?」

「絵本? なつかしいね、それ」

「ねー。なんだっけ? 海賊王になったり、大怪盗になったりさ」

「え? そんな大げさな話だったかな? まぁ、うん、でも…。急に言われても、ちょっと困る。羽流はどうなの? 100万回って、そんなにしたいことある?」

 

「私はねー…。100万回一生のお願いが使えるのは強いかなって思う」

「…100万回で足りるの?」

「どーゆーみー?」

「だってもう、10回は聞いてるよ? 私」

「???」

「不思議そうな顔をしないで。私が間違ってるみたいじゃない」

「いや、やっぱり数えてんじゃんってさ」

「数えてた訳じゃ…。そのくらいはってだけで…」

「だったかにゃー?」

「可愛くしたって、誤魔化されないからね?」

 

「にゃはははっ。あ、でもさ。100万回生まれ変わっても、私は真冬に恋する自信あるよ? この本みたくさぁ…えっとね、こんな感じかな? ん、こほん」

 

ある時、はねるん は まふゆんに恋をしました。麗らかな、春の陽気の時でした。燦々と、降り注ぐお日様の下で一緒に遊びました。秋の木枯らしに肌を寄せ合って、冬の寒さに かじかんだ手を繋いで温め合いました。

 

「まって…すとっぷ。恥ずかしいからやめて。だいたいあの猫の最後ってろくな死に方…」

「それでも、まふゆんと一緒なら はねるんは幸せでした。はねるんは まふゆんの事が一番に大好きだったからです」

「止めてってばっ」

「えー良いじゃん。まふゆん も はねるん に100万回恋しようぜ?」

「私は…いいよ」

「あれ…。今、振られた? 私?」

「ちがくて…。ほら、100万回もあったらさ、羽流に会えない時も出てきそうだし。それは、いやで…。だったら、今だけで良いっていうか。その…私はね、このまま時間が止まったらなって…」

 

「…」

「…」

 

「殺し文句かよ…。はねるん、きゅん死したじゃん」

「そう…」





ご覧頂きありがとうございました。

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ちょっと、長くなりすぎたので3分割。なんとか一つに纏めようと思ったけど、どうしてもテンポが悪化するので泣く泣く。
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