初めて入った彼女の部屋は、思った通りに片付いていた。
脱ぎ散らかしたパジャマも無ければ、狙いを外したティッシュがゴミ箱の周りで転がってもいない。そもそもの私物が少ないのか。こういうの好きなんだなって、猫の意匠が施された小物も、可愛いと言うよりは小綺麗に纏まっている。
「やっぱ、結構片付いてるねぇ…」
何から喋って良いのやら。「お邪魔します」といった後、どうして? と、聞けないままにお茶を濁す。
「そう、かな? 普通だと思うけど…。あ、でも、羽流の部屋はもうちょっと…」
「思い出さないで下さい」
「片付けてあげようか?」
「良いです。自分でできます。一人で出来るもん」
「そ…。じゃあ、次行く時までには片付けててね?」
「…うん」
さっきから、ずっとこんな調子だ。
ちょっと話しては会話が止まる。私達にしては珍しい。というより、私にしては珍しいのか。真冬はだって、お喋りな方ではないから。私が口ごもればこうもなる。
ていうか、来る気あるんだ。
そういうとこ迂闊だよね。しっかりしてるようで、どっか抜けてて、隙だらけな彼女の背中に手が出そうだった。
「じゃあ。疲れてるならベッド、使ってて良いから。私何か飲むもの持ってくるね?」
「いやいやいやっ。良いってそんな、もう平気だし。明日っ、明日ちゃんとデートしよ? 今日は帰って休むから、また明日、ね? 明日はちゃんと元気になってるからさっ…」
がしゃん。
鍵の落ちる音がした。
「まふゆ、さん?」
扉の前で立ち尽くす真冬は、私に背中を向けたまま動かない。
「だめ、帰さない。だって、まだ、来たばっかりじゃん…。ね、羽流? 今日ね、お母さん仕事で、居なくて、私一人だから…。お夕飯もさ、一緒に食べよ? 明日だって、休みだし…泊まってってもいいよ? お母さんにもね、友達泊まるかもって、言ってあるから…さ、そうしよ?」
いや、いやいやいや…。まって、少し待って欲しい。
「…意味、分かってる? 私にも我慢の限界というのがアリましてね? 女子会って、そうだよ…。ただの女子会のつもりならさ、ちょっと…今日はほんとごめん」
気にしないようにしていたのに、自分の苛立ちに目がいってしまった。
あんまりに無防備な事を言う真冬にも腹立たしければ、性欲に突き動かされそうになってる自分もイヤで。
「私だってっ!」
部屋を出ようとして、彼女の肩を掴む。押しのけてでもと力を入れた矢先、悲鳴にも似た真冬の声に体が動かなくなった。
「分かってるっ。分かってるんだよっ。今だって心臓バクバク言ってるしっ、喉だってカラカラになってるしっ。さっきだってっ! さっき、キスしようとした時からずっと、羽流、黙ったまんまで…怒ってて…。でもっ、あの時は私、あれが精一杯で…。傷つけるつもりじゃなかったの。羽流に辛そうな顔させるつもりじゃ、私っ」
「いや、怒っては…まぁ、うん。でもだからって…。全然分かってないでしょうが。じゃあ、何のつもりだったのってなるじゃん。キスする振りして、家にまで連れ込んで。お酒飲んで無いから大丈夫って思ってるんなら、ちょっとさ…。無防備すぎるって言うか…安心しすぎだよ、まふゆんは」
少しだけ、溜飲がさがる。
真冬に対して抱いた疑念は、いかにも、思い切りが下手な彼女らしいものだった。だからって、納得してるわけでもない。それでまた、勢い余って家にまで連れてきたの? さっきの続きをしてくれるっていうのかい? 鍵まで掛けて、閉じ込めて、私が何もしないだなんて思われてるのもイヤ。
「安心してるのは、羽流だって同じじゃない…」
「え、なに?」
「いつも ちょっかいは掛けてくるのって、私が断るって思ってるからでしょ?
たまに頷いたらすっごい慌てるもんね。冗談でもなかったんだよ…私だってっ。
いつもそうじゃん…。キスしよって言葉だけで、私がダメって言ったらすぐ茶化して誤魔化すし。大事にされてるのは分かるよ。好きって、大好きって、愛してるって、言ってくれるけど、それ以上は全然してくれないの、なんで?
分かんないよっ。私からすれば良かったの? 私はっ…ちょっと、強引にでも良かったのに。お酒のせいにばっかりしないでっ。そんな言い訳っ、羽流だって信じちゃいないでしょ? あんなの建前。だって私はっ、羽流に抱かれたの後悔してないもん。されてよかったって…。羽流は、違うの? また、したいって、今じゃ…ないの? 今じゃ、ダメ…ですか?」
ぷっつん。
涙混じりの告白に、私の中で何かが切れた。
どんっ…!
それはまるで きらめく花火の様。
我慢できずに、衝動的に、気づいた時にはすぐそこに、真冬の顔があった。
「あっ…」
ビクッと、大きな音に驚いた真冬が、小さく肩を震わせた。
扉の前で佇む彼女の横に手をついて、涙で濡れた瞳に、私の姿が映り込む。
「真冬さぁ…なに? 私をイジメて楽しいの? それとも、私にイジメられたいから、そんな誘うような事言ってるのかな? 分かってる? 自分でも言ってんじゃんっ。酒飲ませて、押し倒して、女の子同士でもアウトだよ。
キスさせてって言ってもさっ、いつもダメってばっかで。それ以上なんか出来るわけ無いだろっ。冗談だって思ってた? 冗談じゃないんだよっ…こっちだって。断られるたんびにさぁ…引かれたりしてないかなって、上手く笑い話にできたかなって。
でも、言わなきゃ伝わんないじゃんっ、だから、ずっと言い続けてて…。
軽くあしらうのも良いよ? それでもよかったよっ、私だって楽しかった。けどさ…」
けど何だ? あーもーっ!! 頭の中がこんがらがって。
勢いで真冬に壁ドンしたまでは良いけれど、そこから先が続かない。
少し待ってて欲しいと彼女は言った。指切りまでした大切な約束だ。私の好きを、まさかこれ以上押し付ける事も出来なくて、だけど、何もしないでいるのはもっと無理。
「嫌いだよ…。そんな気を持たせる様な事ばっかり言って。大好きなのっ、好き過ぎて辛いの、嫌われるのが怖いんだよっ。真冬がハッキリしないからっ、私、何も出来ないじゃんっ!」
違う。
嫌いだなんて言いたい訳がないし、思ってすらいないのに。まして、真冬を責めるようなこと、追い詰めるような事言って。優しいんじゃないんだ彼女は。人の頼みを断れないだけ。流されやすいのは、そうした方が結果的には楽だからで。こんな風に迫ってしまえば、私と揉めることを嫌った彼女は、きっと頷いてしまう。
「すれば…よかったんだよ」
「は?」
頷くとは思っていた。ただそれは、私に対する遠慮と、自分を守るためだけの妥協の筈で、一度逸らされた視線が、まさか私に向くなんては思わない。
目が座ってた。再び私を見つめた彼女の視線に、弱気は一切なくなっていて、初めて見た真冬の雰囲気に、息を呑まされる。
「キスでも、エッチな事でもさ。なに? 最初はあんな押し倒して、目の前でオナニーまで見せつけてっ、いきなり日和らないでっ、唇奪うくらいしてよっ!
二人で遅刻した時だってそうじゃん…。保健室にでも何でも連れ込めばよかったんだっ。ちょっと逃げたくらいで止めないでっ。意気地なし。羽流がっ、羽流だって、いつも中途半端に逃げるじゃんっ…。そんなの私だって、どこまで信じて良いか分からないでしょうっ!!」
意気地なし。
その言葉に頭が揺れた。この間くらった頭突きよりも目が回る。
言われればそうだ。
キスを迫って、行為を匂わせて、結局何もしなかったのは私の方。
私から触れたのは手を繋ぐ程度で、せめて、頬にくらいは するべきだった。
そのくらい、真冬だって許してくれただろう。そのくらい、真冬だって してくれたのに。好意だけを口にして、形にしなかったのは酷い手落ちだと思う。
「うるさい…うるさいっ!」
しかし、だがしかしだ。
ささくれ立った心を煽られれば、もう正気でなんかいられない。
薄皮い一枚の理性はビリっと捲れて、裂くような痛みに苛立ちだけが膨らんでいく。
「誰が意気地なしだよっ、まふゆん なんか むっつりじゃんかっ。この むっつりスケベっ!!」
「むっつりって…! 私がむっつりならっ、羽流なんか ただのドスケベでしょうがっ。顔が好きでっ、体が目当て? そんなの最低じゃないっ!!」
「はぁ!? 羽流さんを舐めるんじゃないよっ。心まで寄越せって言ってんだっ。まふゆん は私のものなのっ。爪の先から、髪の毛一本まで誰にも上げないのっ。
100万回繰り返したってっ、1秒先の未来までっ、全部全部っ、私が貰うんだっ」
「んっ!?」
お望みだって言うならしてやるさ。というよりもう、私はわたしを保てなかった。
扉際に追い詰めたって、出口はすぐそこだ。鍵も、取手も、真冬の手の届く所にある。なのに彼女は動かない。無理矢理に唇を奪ってやった。それでも彼女は逃げようとはしなかった。顎を抑えて、人差指と親指と、挟んだ頬に力を入れると、閉じようとした彼女の口を無理矢理に開かせる。
舌を伸ばすと、舌が逃げた。
けれど、狭い口の中。逃げる場所なんか何処にもない。
舌の根元に、舌先を押し当て、先へ、先へと向かって伸ばす。
逃げるように反り返った真冬の舌に、私の舌を絡ませた。根本から、唇の裏側をくすぐって、いつも手を引いて歩く調子で彼女の舌を引き寄せる。
あむっ。
唇から顔を出した短い舌先を甘く食んだ。
前歯で少し、挟み込むようにした甘噛に、ビクッと、真冬は体を震わせる。
「んっ♥ ふぅ…はぁ…ぁっ…」
ゆっくりと、唇が離れる。同時に彼女の視線が逸れた。荒くなった吐息。指先は、濡れた唇を撫でたまま、うんともすんとも言いやしない。これじゃ独り相撲じゃないか。その懐から奪い取ってでも、真冬からの愛が欲しいのに。肝心な所で人任せにするのは、彼女の悪い所だと思う。
「まふゆん? ねぇ、真冬。こっちを見て? 私を見ろよ…」
好きだと言わなくたって良い。頷く必要すらない。私はただ、真冬の瞳の中に映る私を見たいだけ。ただ、そこに映る私が、ちゃんと愛されているのだと、確かめたかったんだ。
「…」
何かを言いかけた唇。動いた視線が私を掠めるけれど、すぐに部屋の隅へと逃げていく。
「そっ…」
なら、それでも良い。つまらなそうに呟いた私は、掛けられた鍵へと指を伸ばした。
「まって…」
「なに?」
「やだ…」
「なにが?」
何もは言わない。ただ、鍵を外そうとした手を彼女に抑えられただけ。
頬が染まる。耳まで赤くなっている。じっと、彼女の顔を見つめてやれば、潤んだ瞳が私の瞳と重なって、ようやく真冬の中に私を見つけた気がした。
「ちゃんと出来るじゃん。ちょっとでも抵抗したら止めるからね?」
言うことを聞かない子は要らない。彼女への愛情を人質に取った私は、彼女からの愛情を束縛する。
「…っ」
さっきまでの威勢はどこへやら。期待からなのか、多少の不安はあったのか。
静かに喉を鳴らした真冬は小さく頷くと、不器用にも強張った体から力を抜いていく。
スルリ…。
肩から外した上着が腕から落ちた。
白いブラウスを飾る赤いリボン。解けたラッピングはヒラリと舞って、赤い蝶が飛んでいく。
一つ。ブラウスのボタンに指を掛けた。
二つ。首筋から伸びる細い線が、開けた胸元に流れていくのを見送った。
三つ。柔らかく膨らんで、谷間を作り、その向こうへと視線が吸い込まれる。
四つ。それは、淡い緑色。
五つ。それは、私が選んだ下着だった。
少し、子供っぽいか。淡いパステルカラーの緑色。
普段の彼女なら絶対に選ばないだろう。白いレースや、ピンクのリボンで飾られたブラジャーは、如何にも女の子らしくって、あの日、告白するかどうか悩んでいた彼女に、私が贈ったものだった。
「変、だった? やっぱり…似合わないよね? こんな…」
すっかりと、いつもの調子に戻った彼女の声は、恥じ入るように震えている。
「いや、変っていうかさ…」
「あっ、ごめんっ。男の子向けに選んでくれた奴だったのに。こんな時に着けちゃダメだったよね? でも、他に何選んでいいか分からなかったし、全部ユニしま で、同じのばっかりで。羽流が喜んでくれそうな下着とか…私」
「いや、全然いいよ。似合ってる、超似合ってる。私が選んだんだから間違いない。けど…」
「けど?」
「朝からここまで着替える暇なんか無かったよな?」
「…」
文字通り、朝からずっと一緒だ。
お花摘みにだって一緒に行ってたんだ。下着を隠せるような荷物なんか持ってはなかったし、彼女が着替えを済ませられるほど、一人になるタイミングなんて、今日に限って言えば絶対にない。
つまり真冬は、お早うからお休みまで、この下着をつけていて、勝負下着だと分かっていながら、この下着を選んだ事になる。親は仕事で居なくって? お泊りの許可も取っていて? 私を引き止めるための口実だと思っていた言い訳が、急に現実味を帯びてきた。
「やっぱり、むっつりじゃん」
「ちがうもん…」
「ずっと期待してたんだ?」
「だから…」
「いやぁ、まったく気づかなかったね? 大したもんだ。朝から、今まで、授業中もさ? ずっとエッチなこと考えてたの?」
「違うってば…。言おうとはしてて、お家に お泊り…しないって? でも、言えなくて…。期待してなかった訳じゃないけど。授業中、ずっととかじゃ…」
「まあ、そうだよね? 私とお家デートとか、部屋に二人きりでさ、ナニをしないとも限らないもん。それならそれで、早く言えばいいのに。あんなケンカする必要なかったじゃん? どうすんの? 私ちょっと収まりつかないんだけど?」
「どうって、そんなの。ぁっ、ゃぁ…」
ブラに触れ、胸に触れ、薄い布地のその中へ指を進ませようとすると、声を漏らした真冬は逃げるように体を引いた。
他意はない。
きっと、同じ状況なら私だってそうしただろう。
誰かに触れられるっていうのは、分かっていたって恥ずかしいし、反射的にも逃げ出したくなるものだ。
けれど、今は私が真冬の飼い主だ。
逃げる彼女の首輪を引くのだって、努めの一つだろう。
「真冬?」
「ちがっ…。逃げたんじゃなくって、ちょっと…くすぐったくって、だから」
「じゃあ、ホックは自分で外せるよね?」
「うっ…うん」
すぅ…はぁ…。
震えた吐息が肌を撫でる。
扉から背中を浮かせた真冬は、恐る恐ると服の間に手を差し込んだ。
パチっと、軽い音がする。それと同時に、ブラに支えられていた膨らみが重さを取り戻すと、触れていた指先が押し返された。
「んっ、はぁ…あっ、はね、るっ。っぁ…はぁ、はぁ…♥」
手の平に掛かる重みに指を広げ、ゆっくりと、刺激を加えていく。
ふるり、ふるり、震える素肌。荒くなる吐息に胸の上下が激しくなり、膨らみの向こうから、ドンドンと、胸の内を叩く鼓動さえ伝わってくる。
「気持ち良い?」
聞かれて、真冬は頷くしか出来なかった。
羽流の脅し。ちょっとでも抵抗したら止めるって、そのちょっとの基準が分からない。胸に触れられて、体を逃がしただけで睨まれたんだ。恥ずかしさに負けて、ここで首を振ってしまったら、そこでおしまいなんて十分に考えられる。
だから、仕方ない。
羽流に言われるまま、頷くのはしょうがない。
むっつりか…。
一体何を根拠に私は否定したんだろう?
嫌なら突き放せば良い。それを羽流は良しとしてる反面、その瞬間に関係を終わらせると脅された気がする。
ああ、日和ってるのは私も一緒だ。
羽流を試すような事ばっかり言って、自分では勇気を出したつもりなのに、結局彼女に甘えていただけ。怒らせちゃうのも仕方がない。顔も、体も、心まで、全部欲しいって言われちゃった。強引に迫られて、安心しきってる自分は、そうとうに嫌な女の子だ。
じっとりと、円を描くように胸を揉まれて、揉まれ続けて、体が熱くなる。
一つ、二つ、背中に汗が浮かび、擦れるブラウスの刺激さえ肌が欲し始めると、少しだけ、扉に背中を預けてしまう。
もっと、触って欲しい。
身を捩り、知らずと寄せた太ももに気づいても、止める事はしなかった。
足を閉じて、膝を重ねて、太ももの内側を擦り合う。それでも、足の付根、お股の前に出来た僅かな隙間は埋められないまま、その寂しさを埋めようと、愛液が滲み始めてくるのに気づく。
期待していた。
そう言われればそう。
私も羽流の事が好きで、求められる事を望んでいる。
少し待っていて欲しい。なら、待たせた私から言うべきなのに、彼女と二人、戯れ合う時間が楽しくて、ついと、先延ばしにし続けた結果が今。
まぁ、期待通りといえばそうなのか。
今日はお家デートしよう? その一言が言えないまま、気づけば放課後になっていた。部屋も片付けたし。お母さんの許可もとったし。後は羽流を誘うだけ。お泊まりなら彼女にだって準備はあるだろうけど、ちょっとびっくりさせたいなって、顔を赤くして、慌てる羽流が見たかった。
喜んでくれるかな? ちょっとしたサプライズは言えないまま。
どうしてこんなケンカみたいなっちゃたんだろ。おかげで、言いたい事も言い合えて、結果としては良かったのかも知れないけれど。それでも、なんだか余計な怪我をしてしまった感は否めない。
「んっ♥」
羽流の指が、乳首に触れる。
ピリッと伝わる甘い痺れに、思わず喉が鳴ってしまった。
じわじわと、高鳴る鼓動に合わせて広がる快感の熱。
期待が、実感へと変わり、お腹の奥、下腹に、ぽっと快感の火が灯るのは同時だった。
「足、モジモジさせて、トイレ行きたいとか?」
「んっ…それ、は…ちがっ、あっ…♥」
分かってる。言わせたいだけ。羽流は知ってて私をからかってる。
意地悪だ。まあ、そこは私も違いは無いのか。
もっと直接的に、触って欲しいとか、気持ちよくして欲しいだとか言えば、彼女は満足するんだろう。けれど、喉に詰まった羞恥心は、出かかった言葉を喘ぎ声へと変えてしまう。
「違うんだ? 私にはして欲しくないって意味?」
ぶんぶんぶんっ。
纏めた三つ編みを振り回す勢いで、訳もないまま首を振る。
胸に触れていた手が離れていく、それを怖いと思うほどに私は必死だった。
「ちが、くて…ね?」
「何が違うの? 本当は、私から逃げたいんじゃない? だって、こんなのレイプだよね? 真冬が逃げたいって言うのも仕方ないと思うよ?」
「っぁ…」
わざと強い言葉を使っているのは分かる。
そんな事を言われた私は、もう首を振るしか出来なくなった。
羽流は悪くない。これはレイプなんかじゃなくって、じゃあ、何なんだって言われれば…。
羞恥心が拳を握らせた。
いつもの私なら、ここで逃げてしまって、羽流もそれ以上はしてこないはずで。
まぁ、今日に限っては、どうあっても襲われちゃうんだろう。そこだけ切り取れば、レイプにも見えたかも知れない。でも、いつも通りじゃイヤだった。
彼女と同じ、私だって羽流に触れて欲しいと望んでいる。
スカートの端を握り込み、恐る恐ると持ち上げていく。
晒されていく太ももと、お股の隙間。
濡れた下着がヒヤリと冷えて、今の自分の状態を、意識しないでいられない。
「へぇ…。朝からずっとそんなだったり?」
「そんな訳無いっ! 無いけど…。羽流に触られて、こんなに…なってるのは、そうだから」
「責任取れって?」
「違うっ。ちがくて…。ただ、こっちも、触って欲しい…って、それだけ…」
ゆっくりと、ヴェールを脱ぐように。
捲くられたスカートの中から出てきたのは、ブラとお揃いのショーツ。
パステルカラーのエメラルドが魅せる彼女の下着。可愛さ全開で選んだ筈の下着は、だけど、頬を染め、涙を浮かべて、スカートを捲る真冬の姿と合わせた途端、羽流に得も知れない興奮を呼び起こしていた。
唇が、口角が、持ち上がるのを抑えられない。
ニヤリ…。笑った私は、相当に気持ち悪い顔をしていた事だろう。
「触って欲しいって? 何処を?」
「何処って…だから、お股…」
「お股ねぇ…」
随分とお可愛い事で。分かってはいても、まだまだ直接的な表現は避けているようだ。そんな理性、さっさと捨てちゃえば楽になれるのに。
「んっ…ぁはっ…♥」
いじらしく、擦り合わさっていた太ももに手を差し込んだ。
柔らかな肉の感触に挟まれながら、上へ、上へと、滑らせていくと、次第に熱気と水気が大きくなっていく。
太股の付け根に、指が触れる。
彼女の言う所の お股のすぐそこで、私は手を止めていた。
きゅっと、足が閉じる。すでに下着は濡れていて、押し付けられた手の甲に愛液が伝うほどだ。
むにゅり、むにゅり…。
太ももの付け根に指を這わせ、肌の内側を優しく揉んでいく。
誰にも見られない所、触れさせた事もない様な場所といえば、ココだってそうだ。
刺激になれない敏感な肌は、私が触れる度に もぞりと動く。彼女の興奮も手伝って、滲んだ愛液が、手の平の中にまで流れ込んできた。
ぬる、ぬる…。
愛液を塗り拡げるように、太ももの内側を撫でていく。「はぁっ…はぁっ…♥」か細い彼女の嬌声に耳をくすぐられた。興奮しているのは私も一緒。もっと彼女の乱れる姿が見たいだとか、自分の全部を押し付けたいだとか、当然の欲求はいつまでも我慢できるものじゃない。
「われ…め」
「なぁに?」
聞こえていて、もう一度聞き返す。
よくあるラブコメの主人公じゃないんだ。耳元でまで囁かれて、聞こえませんでしたなんてありえない。
「だから…割れ目に…」
「へぇ、まふゆんが 割れ目とか言ってる。やらしーんだー♪」
「っっっっ!?」
軽い言葉責めにも反応した彼女の肌は、一段と熱くなり、珠の汗が浮かび上がる。
しかし、それだけでは物足りない。また、中途半端な所で我慢される位なら、ここらでもう ひと越え、彼女の羞恥心を取り去っておきたかった。
「でも、それじゃ触ってあげない。もっとエッチな言い方思いつくよね?」
「エッチって…。ほと…とか?」
「あ、ごめん。ジェネレーションギャップだわ、それ。そうじゃなくって、もっとこう、モダンに行こう、ね? エロ同人見たいにさ?」
言われれば、そんな言い方も合ったかな。ただ、あんまりにも古風すぎてピンとも来なければ、逆に面白くなって笑ってしまいそうにもなる。
「…エロ同人って」
「読んだこと無いとか言わせねーぞ? まふゆんは むっつりだからな」
「むっつりって…また。わたし、そんなんじゃ、ないもん…」
羽流の意図に気づいた真冬は、ぎゅっと、スカートを巻き込む指に力を入れた。
頭には浮かんでいる筈の言葉は、なかなか口から出てこない。なんとか羽流の興味を他に逸らせないかと考えたけど、私を見つめる彼女の視線は真剣そのもので、唇の動き一つも見逃す気がないようだった。
にゅるっとした。
羽流の指が、挟んだ太ももの内側で蠢いている。
もぞもぞと肌をくすぐる様に、けれど決して、割れ目には触れてくれない。
くすぶった快感が、どんどんと熱くなる。ゴクリ…。喉に引っかかった生唾を押し込んだ。乾き始めた唇を無意識に舐めると、粘ついた水音が頭に響く。
おまんこ…。
言ったつもりで、だけど声にはなっていない。熱い吐息が溢れてそれだけだ。
私が躊躇う その間にも、羽流の指は 太ももの内側くすぐり続けていた。
くすぶった快感の火の粉は更に舞い上がり、焦れた体がもどかしくって堪らない。
ペロリ…。
不意に首筋を舐められて、ゾクッと、体が震えがる。
反射的に足を閉じ、窮屈だった太ももの内側の、更に奥へと、愛液で滑った羽流の手が押し込まれる。
快感に、理性が溶けていく。
早く、もっと、触って欲しい。
自分で自分を慰めることも出来ないまま過ごした夜を数えれば、もう耐えられない。望んでいた快感がそこにあるのに、このまま放ったらかしにされたら、私はきっと、彼女の前ででも、私に触れようとさえしただろう。
期待していた。
その通りだよ。
家で二人きり。そうともなれば、羽流だってもう我慢しないんじゃないか。
なんとなく、そんな雰囲気になったら大人しく流されようって 思ってたんだけどな。そのまま、なし崩し的に抱かれてさ。終わった後か、途中にでも「好き」って言えれば良い。きっと羽流に抱かれている時が、私が一番素直になれる時だと思うから。
なのに。
思っていたのとは大分違う。
イヤとは言えない私に、羽流の要求は どんどんと過大になるばかり。
「っぁ…」
もう、無理。
おまんこの 外側に指が這う度ドキドキと、胸が痛いくらいに高まる期待の音。
その音色に押し出されるようにして。
「おまんこ…触って。羽流…」
お願い。
とうとう私は、生まれて初めて、卑猥なだけの言葉を口にしてしまっていた。
「んっ、ぁぁぁっ…はぁっ♥」
歓喜の声。
下着の上から私を撫でる指先。彼女が与えてくれる快感に全身が震えて、涙と嬌声が止められない。「はぁっ、あぁぁっ、んふっ…ひゃぁぁっ♥」声を出せば出すほど気持ちが良くなって、ただ、撫でられているだけなのに、自分でするのとは全く別の快感にさえ感じていた。
「なに? すっごい声出すじゃん?」
「…」
答えない。けど、答えないのが答えだろう。自慰のお供に羽流を使ってしまった事を思い出し、じわり、体温が上がる気がした。触れられた肌に浮かんだ汗も、きっと羽流に気づかれてしまってる。
行ったり、来たり。
決して激しくはならない指の動き。
あるいは、もどかしいと感じたのかも知れない。物足りないと、もっととねだったかも知れない。私の割れ目を撫でる指。禁欲してたんじゃない。やることはやっていた。それでただ、上手にできなかった、それだけで。ようやくと、思い描いていた快感は、どんな少しの刺激でも、飢えていた私の欲を満たすには十二分に過ぎた。
「あぁぁぁっ♥ あっ、あ、やだっ、はねるっ…つよ、そんな、しちゃ…ひぅ♥」
「いや…そんなって、撫でてるだけなんだけどな。え、なに? ちゃんとオナニーしてた? まさか、やり方が分からない、なんて…」
「…」
「…」
呆れられたんだろうか?
何も答えず、ただ視線を逸らした私に、羽流がそれ以上追求することはなかった。ただ、おヘソの下にまで伸びてきていた指先が、下着とお腹の隙間にまで入り込んでくる。お腹を撫でられながら、太ももへと逸れた手の平に引っ張られた私の下着は、ズルっと、あっけなく脱がされてしまった。
晒された私自身はどうなっていたのか。
捲り上げたスカートが邪魔をして、その向こう側は良く見えない。
「逃げんなよ?」
「ぁっ…」
釘を刺された。
まるで、首根っこを掴まれた子猫みたいに体が動かなくなる。
私の耳元で囁いた羽流は、そっと体を離すと、膝を折り、ちょうど私の目の前で膝立ちになった。
見られてる。
意識するだけで、また、体温が上がってしまう。溢れた愛液は、太ももの内側を伝い落ち、その 一雫を追えてしまえるほど、快感を求めた肌は敏感になっていた。
何をするつもりなんだろう?
考える余裕もない内に、羽流の手が太ももに触れ、足を開かされてしまう。
捲られたスカートをくぐり、近づいてくる羽流の顔。「はぁっ」と、私に掛かる吐息に肌が震えて、抱えた快感が煮えたぎりそうになった。
ちゅっ。
ちゅぅっ。
キスをされて、軽く吸い込まれる。
ガクガクした。
体から力が抜けていく。
握ったスカートが指から離れ、羽流の頭を覆い隠してしまう。
お股が、割れ目が、おまんこが、私…羽流にキスされて、絶頂と見間違えるほどの快感に、体が崩れそうになった。ガタッと、扉に背中を預け、震える足で立ってられるのが不思議なくらい。
「こら、まふゆん。ちゃんと握ってなきゃダメでしょう?」
「そんな、そんなの…。立ってるのだって、やっとなのに…せめて、せめて座らせてよ…」
「なに? 触って欲しいんじゃないの? 私にばっかさせる気?」
「っ、ぁ…。分かった、分かったから…」
震える指先で、なんとかスカートの端を掴まえ直すと、見せつけるように捲り直す。イヤだなんて言えるわけがない。むしろもっとしてくれない方がイヤ。
今やめられちゃったら、みっともなく泣き喚いてでも、彼女に縋りついてしまいそうな自分が見える。
ちゅっ。
ちゅぅっ。
キスをされて、軽く吸い込まれる。
ゾクゾクとして、ガクガクとして、今にも崩れ落ちそうな体を支えるのにも精一杯。「ひゃっ♥ あっ♥ ふぁぁぁっ♥」自分の嬌声が頭に響く。口元を抑えようにも、スカートを掴んだままの両手は動かせない。声を出せば出すほど気持ち良くって、気づけばもう、喘ぎ声を上げる自分にさえ興奮してたと思う。
がたっ、がたっ…。
私に唇が触れる度、震えた背中が扉に打つかる音がする。
強すぎる快感を少しでも遠ざけようとして、だけど、お尻を羽流に掴まれた。
細い指先が、ぐにゅっと、お尻の形を変えながら、彼女の顔の前へと私が引き寄せられてしまう。
ちゅっ。
ちゅぅっ。
キスをされて、軽く吸い込まれる。
ゾクゾクとして、ガクガクとして、今度はブルっと、体が震え上がった。
伸びた舌が私を開く。陰唇に彼女の唇が押し付けられる。柔い肉の入口の中へと羽流の舌が入り込み、艶めかしい肉の感触が私の中で動き始める。
「ひぅっ♥」
漏れるような快感の吐息を飲みこんだ。
とうとう、私の中にまで羽流が挿ってきた。開かれて、押し付けられて、中で動いていて。指とは違う、もっと、太くて、柔らかい感触。ペロペロと、膣の浅い所を好き勝手に動く舌の感触に、未知の快感と興奮とが混ざりあい、びくっとして、びくびくっとして、一瞬、力が抜けたかと思うと、次の瞬間には、強い快感が一気に全身を駆け巡っていた。
「あっ♥ ふぁぁぁぁぁぁぁっ!? っぁ、ひゃっ、あっ、あぁぁ…♥」
声を上げ、体を震わせ、力が抜ける。
自分でも、どうやって立っているのか分からない。
ぼぅっとする意識の外側で、ぴちゃっと、ぴちゃぴちゃっと、水が跳ねる様な音に意識が向いてしまっていた。愛液が溢れたにしては、あんまりにも水々しい音だ。強い快感に、力の抜けてしまった体。もしかしてと、よぎった最悪の想像は、顔を上げた羽流の様子を見るにも違っているようだ。
「こんな潮吹いて。なに? そんな気持ちよかった? 羽流さんの舌は?」
「し、お? あぁぁ、そう…そっか? それ、そう…なんだ」
ほっと、胸を撫で下ろす。
そういう事がある、そういう物があると、知識としては知っていても、体感するのとはまた印象も違ってくる。気持ちよかったな。呆然と思ってしまうほどだ。
トイレを我慢した後の何倍か、何十倍か、それは言い過ぎにしても、心を手放すには十分過ぎる快感だった。
ぐしぐし…。
掴んでいたスカートが引っ張られ、力の抜けた指先から逃げていく。
何かと思って視線を下げれば、私のスカートがハンカチ代わりにされていた。
「ちょっ…」
ペロリ。残っていた潮を拭き取るように、羽流は唇に舌を這わす。
抗議の一つも上げたい所だけど、粗相をした手前、何を怒って良いかも分からない。手元にタオルも無いし、ハンカチは鞄の中、ティッシュで拭くには、あんまりにも量が多い。羽流の顔を紙だらけにしないためには、これも多少は仕方が無かったかも知れないが。
ベタッっと…。
重さを増したスカートが太ももに張り付く感触は、さっきまでの快感とは違い、多少の不快感を感じずにはいられなかった。
「汚しちゃった私も悪いけどさ…。彼女のスカートで顔拭く? 普通?」
その普通の基準も分からない。私に出来たのは唇を尖らせるくらいで、精々がこの位の小言でしかなかった。