鳴潮の短編二次創作(集)です。

自分の感じた暖かさを共有していきたい。

感想・評価よろしくお願いします。

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落ち着いた雰囲気
微エロ注意、本番はない


長離:お母さんのように暖かく

 

 乗霄山での任務も終わり、虹鎮の民たちも生活に活気を取り戻した頃、一方漂泊者の頭には払っても除けても考えないようにしてもまとわりつく一つの疑念があった。

 

 先の任務での最後に長離は自身の離火の力を使いソノラを空間ごと破壊した。ここで気がかりなのは漂泊者の出会ったもう一人の長離のこと。力の扱い方を知らず、幼く弱々しい印象を与える節々の傷が今でも鮮明に脳に焼き付いている。あのような少女の姿を見て、何も思うなと言う方が無理だろう。本当に、長離の体に問題はないのか。あの過去を覗き見る奇怪な夢の影響はないのか。

 

 (……長離にもう一度会ってみよう。やっぱり心配だ)

 

 漂泊者は長離のいる今州へと訪れる。余裕そうなあの表情、口ぶりの裏に痛みがあるのなら、取り除くべきだろう。長離は、私の大切な友人であり、仲間である、大切な人なのだから。

 

 

─────────────────────

 

 

 といっても、長離の住まいを知っているわけもなく、ひとまず、私は今州城へと今汐に長離を尋ねたい胸を伝えるためにやってきた。

 

 「ソノラを破壊……ですか。報告では聞いていましたが、長離先生は本当にそんな荒業を……」

 

 まるで、報告でしか聞いていないかのような口ぶり。

 

 「……?本人に直接聞けばよかったんじゃない?もしかして、喧嘩でもした?」

 

 「……いえ、別にそういう訳ではありません。ですが……最近は鳴式の後処理が立て込んでいて少し忙しく、話す機会もなくなってしまいまして。一段落してお話しようとしてもなんだか思い詰めた表情で考え事をされていてとても私などには……」

 

 困り眉で唸る今汐と、無表情で隣に立ち、邪魔にならないようにと気配を消している散華。二人はとてもいいパートナーなのだろう。実際、散華は今汐によってトラウマを克服し、戦場に立てるまでになったという。長離には、隣にいてくれる人はいるのだろうか。虹鎮で長離に対する聞き込みを行った時も、長離への評価は千差万別。とても民からの人気者という訳ではなかった。

 

 「……喋って大丈夫なの?仮にも結構偉い人のプレイベートを」

 

 「ふふっ………ええ、心配には及びません。今州にあれほど貢献してくださったあなたになら、長離先生も快くお許しくださるでしょう。信頼の証というものです」

 

 「そう?ならいいんだけど」

 

 「では、長離先生のお住いを……散華」

 

 今汐は散華に適当な紙とペンを渡して一言指示を出す。すると散華はスラスラとインクを走らせ、みるみるうちに簡易的な一枚の地図が出来上がった。

 

 「漂泊者、これを」

 

 「これは………」

 

 黒いインクで現在地から長離の住居への道のりが端的に書かれ、その道の終点には朱雀を表す羽の紋様が描かれている。文字の一つもないその地図をこの場に居ない者が見てもなんの地図か判断するのは至難の業だろう。

 

 「これ、地図を書いただけなのに、随分と小難しく感じる」

 

 「ほら………あなたの言う通り。長離先生は偉い人ですから」

 

 セキュリティー要素ということか。ニコッと笑い手を振る今汐と軽く頭を下げる散華。地図まで書いてくれた二人に感謝しよう。軽い会釈の感謝の言葉を述べて二人に背を向ける。

 

 「長離先生のこと、よろしくお願いします。長離先生が今一番信頼を寄せている友はあなたですから」

 

 心配そうに眉をひそめる今汐に漂泊者は振り返り、笑みを携えて力強く宣言する。

 

 「心配しないで、後は私に全て任せてくれればいい」

 

 そして顔の向きを直し、長離の元へと歩き出す。話を聞く限り、考えていたよりも深刻そうな長離の状況。心なしか、私の足取りはだんだんと早まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 「……ここかな?」

 

 15分ほど歩き大きい集合住居の中の長い廊下にたどり着くと、そこには長離の住んでいるであろう一室があった。真鍮製のドアノッカーのついた荘厳な雰囲気のある一室だが、不思議と富を象徴とししたようなものは感じない。

 

 コンコンッ

 

 「長離?いる?」

 

 ひとまずノックをして不在じゃないかどうかの確認をする。今汐の言い方からすると長離は毎日一日中悩んでいると言っても過言では無いのだろう。少し、緊張してきた。

 

 「……漂泊者?ちょっと待って。今開けるから」

 

 部屋の中から透き通った声が聞こえてくる。ここにいるとはわかっていたはずなのに、いざすぐそこに長離がいると思うと、心がざわついてくる。

 

 ギィィィィッ……

 

 「………え」

 

 ドアの軋む音を立てながら長離が部屋の中から体を半身出す。

 

 「漂泊者……?いきなりどうしたの?」

 

 長離は今日は休日だったのだろう。短い丈で真っ白なネグリジェとこちらも白のラフなショートパンツに身を包み、いつもは一つに結ばれている長い髪も楽なように下ろされていた。

 

 不思議そうに首を傾げる長離、私はというといつもとは違うあどけなさの増したその姿に、見とれてしまう。艶かしいその顔が、さらけ出されたその足が、私の視覚を埋め尽くす。

 

 「ひょ、漂泊者……?大丈夫なの?」

 

 「……ん。あぁ、ごめん。ボーッとしてた」

 

 すると、廊下の窓から人の声が聞こえてきた。なぜか突然、私の中に焦りと緊張が走った。

 

 「……!長離、早く中に入れて」

 

 「う、うん?わかった……」

 

 私は長離の背中を押して部屋の中へと押し入り、ドアをバタンと閉めた。全く運動も戦闘もしていないのに、息が疲れる。気が滅入る。

 

 「漂泊者……?何かあった?」

 

 「いや、まぁ………」

 

 「……?」

 

 言ってもいいのだろうか。こんなこと言ったら、変に思われたりしないかな。

 

 「誰か人が近くにいて、そしたら、なんでか長離の姿を見せちゃいけない気がした」

 

 「それは………」

 

 長離は指を唇に当て、少し考えると、嬉しそうに不敵な笑みを浮かべた。

 

 「ふふっ……もしかして、普段と違う私の姿に見とれちゃった。とかかな?」

 

 「…………まぁ…そうかも」

 

 「あっ、本当に………そうなんだ」

 

 「うん………綺麗だったから……」

 

 もう一度、長離の格好を見てみると、いつもより抑えられた肌の露出に加えて、下された髪の影響で普段の聡明で知略に溢れた雰囲気から一変して、清楚な印象を持つ。……ある一部分を除いての話だけれど。

 

 「ありがとね。そんなこと言われるなんて思ってなかったよ」

 

 「いや、私もごめん。変なこと言っちゃって」

 

 「構わないよ、別に……それで、まださっきの質問の答えをもらってないけど?」

 

 あ、そうか……要件を聞かれてる途中だったか。

 

 「ほら………長離、乗霄山で無理してたでしょ?心配になちゃって」

 

 「そのことは大丈夫だって言ったと思うんだけど……」

 

 「それでも、どうしてかわからないけど、何をしても、どこに行ってもずっと長離のことが頭から離れなくって」

 

 多分、これはきっと、そういうことなんだと思う。記憶がなくて、昔のことも何も知らないけど、何となく分かる。

 

 「……ふ〜ん………そっか」

 

 「それに、ちゃんと来てよかった」

 

 「………?」

 

 「今汐が言ってたよ。最近の長離は元気がないって」

 

 今汐にも話せないほどの悩み………私ならなんとかできるかもしれない。ただの自惚れかもしれないけれど。

 

 「今汐………随分と口が軽いのね」

 

 「私になら話しても長離は許してくれるだろうって言ってたけど。違った?」

 

 「違いはしないけどね……ただ、最近心につっかえた骨が取れないというか………本当に、個人的なものなんだ」

 

 頬をぽりぽりとかいて目を下に背ける長離。そんな小さな動作でも、扇情的に見えて仕方がない。共鳴反応によって普段から火照っているその肌が、今はいつも以上に赤くなっているような気がして、意識がそこに吸い取られる。私は、誤魔化すように話題を逸らす。

 

 「……あっ、じゃあさ、長離はもうご飯は食べた?」

 

 「いや?これから食べようと思っていたらちょうどあなたが来たからね」

 

 「じゃあ、一緒に食べよう。誰かと一緒に過ごせば長離もリラックスできるでしょ?」

 

 食事は相手に歩み寄る第一歩、悪い案じゃないと思う。

 

 「構わない……いや……ありがと、嬉しいよ。漂泊者」

 

 「うん、私も長離とご飯食べるのは初めてだから、嬉しい」

 

 「じゃあ、そこに座ってていいよ。遠慮する必要は無いよ」

 

 ニコッと笑い合うと、満足したように長離は身を翻し、ハンガーに掛けられたエプロンを手に取り身につけた。私は長離に言われた通り、ベッドの上で長離を待つ。

 

 「あれ、もしかして………長離が作ってくれるの?てっきり食べにいくのかと思ってた」

 

 「うん、今日はここにあるもので済ませてしまおうと思っていたんだけど……私の料理は嫌だったかな?」

 

 「まさか、すっごく嬉しい」

 

 「………なら、よかったかな」

 

 幸せそうに笑う長離が台所に立っていて、私がベッドでその光景を眺める。なんだか、親子みたいだと感じてしまう。

 

 「………」

 

 「………」

 

 お互いに何も話さないが、確かにそこに存在している。この感覚はとても暖かくて、安心する。暇を持て余すことはなく、長離の料理はいつの間にか出来上がっていた。

 

 「はい、できたよ。漂泊者」

 

 テーブルにドンと置かれた数枚の中皿、その上には松鼠魚や腌篤鮮、金絲蝦球などなんとも豪華な品揃えだった。

 

 「……あれ?こんな量作れるほど時間あったっけ………」

 

 時間にしては40分程度だったはず、それでこの量を作るといのには無理がある。

 

 「作り置きしてたんだ。私だって一人暮らしだから。時間のない日もあるからね」

 

 意外と庶民的な長離の毎日を想像して、思わず口元が緩む。

 

 「ちょっと、漂泊者?何その表情……」

 

 「……ん?いや、なんでもない」

 

 「その表情………さっきも妾のことをジロジロと見ながらしてたよね?」

 

 バレないようにしていたつもりだったんだけど、いつの間に私の方なんて向いたんだろ。

 

 「バレてたんだ………その…………なんていうか、長離ってお母さんみたいだなー。って思ってさ」

 

 「……妾が、漂泊者の?」

 

 「うん。私には親の記憶とかはないけど、きっと、こういう安心感で溢れるような関係が親子なのかなって。それに………」

 

 私は膝を着いていた長離にジリジリと寄り、その体を抱きしめた。

 

 「…ぁっ…漂泊者?……ん」

 

 「ほら、すっごく暖かい。長離の肌に触れると、胸の奥がポカポカする」

 

 頭を柔らかい胸元に沈めて、腕を更に深く背中に伸ばして力を強める。距離もさらに近づくと、太ももが触れ合う。長離の肌は、やっぱり暖かい。

 

 長離の体はどこも柔らかくて、いい匂いがした。顔をグリグリと横に動かすと、布越しでも分かる柔らかさがぐにゅっと変形して私を包み込んでくれる。

 

 「ひょ、漂泊者っ………」

 

 「……ん?」

 

 「ま……待って……っ」

 

 ピトッ

 

 長離の手が、私の両頬に触れた。何かと思って上にある長離の顔を覗き込んでみると、頬はいつも以上に上気して赤くなっており、目は大きく見開いたまま息遣いは荒くなっていた。私、少し距離が近すぎたかも。

 

 「あ……ごめん。急に抱きついたりして、びっくりした?」

 

 「ぁ……」

 

 私が長離に巻き付けた手を解くと、名残惜しそうな表情で顔を見られてしまった。

 

 「漂泊者………少し、心臓に悪すぎるんじゃないかな……?」

 

 流石に、いきなりあんなことしちゃダメだったよね。普通はそうだ。今回ははっきり私が悪い。

 

 「ご、ごめん。もうしない……っん」

 

 人差し指で口を止められ、真っ直ぐと正面から見つめられる。その整った顔に思わず息を飲む。

 

 「………そんなこと、言わないで?」

 

 「その………さっきはびっくりしちゃったけど、私だって、一人の女なんだよ?」

 

 立ち上がりエプロンを床に脱ぎ捨て、私がさっきまで座っていたベッドの場所に長離は座り隣をポンポンと叩いて手招きする。

 

 「何を……」

 

 「続き……しないの?」

 

 「でも、せっかく温めた料理が冷めるよ?」

 

 横目で、ちらっと料理に目線を移す。長離のことを直視できないから。適当なことを言って、話をすり替えようとする。だってこんないきなり、ムードを変えられても反応できない。

 

 「まさか、そんなことでこんな機会を無駄にするつもり?」

 

 元はと言えば、私が突然抱きつきなんかしたから。長離の近くに居たくて、長離に近づきたかったから。

 

 「………うんそうだね」

 

 自然と声が出る。長離に一歩、二歩と近づいていき、ベッドの上に座る。

 

 ベッドに置いた手に長離が手を重ねてくる。その次は手のひらをベッドと私の手の間に滑り込ませて、指を絡めて手を繋いだ。

 

 そしてお互いに見つめ合い、向かい合ってそのままベッドに倒れた。

 

 ……ゴツゴツと服の装飾が体に突き刺さる。この状態では、まともに寝れない。

 

 「ごめん、ちょっと邪魔なものを取っていい?」

 

 「………うん。構わないよ」

 

 繋いだ手を離し、急いで足についたレックポーチ、ニーハイソックス。腕のプロテクターと手袋を外した。

 

 「よし………」

 

 振り向くと……ベッドに横たわり妖艶な、それでいて不安そうな笑みを浮かべる長離の姿。髪は乱れて体にまとわりつき、惜しげなく足を露わにして服の上からでも主張されている胸は重力によってベッドに流れて一部分が歪んでいる。

 

 元の体制に戻ると腰に手を伸ばし、足を足と足の間に滑り込ませる。肌と肌を擦り合わせ、音と、体温と、肌触りを楽しんでゆく。

 

 顔の距離が近づく、長離の大きく美しい色合いをした目と、筋の通った高い鼻、薄い唇。全てが均整を取り艶かしい顔立ちを形作っている。そんな顔と至近距離で見つめ合うと、それだけで緊張してくる。本当に、綺麗な顔。

 

 「本当に………漂泊者はかわいらしいね」

 

 「嘘、長離の方がずっと綺麗」

 

 「そんなことないよ。こんな可愛らしい子、見たことない」

 

 そんな真剣な表情で、そんな甘い言葉を吐かれたら、歯止めが聞かなくなってしまう。だんだんと、お互いの距離が縮まっていく。

 

 「……んっ……」

 

 唇と唇を合わせるだけの行為、特に味はしない。

 

 「初めての接吻は味がすると聞いていたけど………どうやら嘘みたいだね」

 

 「長離、もしかしてキスしたことないの?」

 

 「お恥ずかしいことだけどね。そういう漂泊者はどうなの?」

 

 「私は………わかんないけど、今覚えてる限りそんなことをした記憶はない。それに……これからは一人だけになるし。どっちにしろ変わらないよ」

 

 「ふふっ………ありがとね」

 

 長離の初めてのキスを、私が貰えるなんて、すごく、すごく嬉しい。と長離の初めてのこと、もっと欲しい。 

 

 「長離、舌、入れるよ?」

 

 「うん、わかった」

 

 再度、長離との距離が縮まっていく。ゆっくりと目を閉じていき、口の感覚に全神経が集中する

 

 「ん……………っ………ぅ……」

 

 今度は、さっきよりも甘い味がする。舌と舌を絡み合わせて、唾液の交換をする。気持ちが昂って手が思わず下へと伸びる。ネグリジェを下からたくし上げて、その柔肌を少しさらけ出す。

 

 「ちょ………っと……!ぅぁ…………待っ…ん」

 

 喋るために口を離した長離の頭に手を添え、逃げられないように口付けをする。

 

 「…は……ん…」

 

 引き締まったお腹に乗っかった女性的な脂肪。柔らかい脂肪の中に硬さがあって、服に覆われなくなり冷めていく肌が、お互いの体温によって温まり触り心地が変わっていく。くびれがあるのに、しっかりと肉付きもいい。魅力的な体型に、私の感情も起伏を激しくなる。

 

 そして、手はお腹から腰、背中からショートパンツの中に入り込み、臀部へと辿り着く。

 

 口を離し、その代わりほっぺを擦り合わせ、猫のように声を上げる。

 

 「………ぅん………長離……」

 

 「漂泊者っ………待って……」

 

 引っかかるものが何も無い滑る肌。柔らかい脂肪の柔肌が外気に晒された自らの手と籠った熱気が快感を演出する。

 

 「長離………暖かいね」

 

 「……ひっ………ぅん、……そう、ね…………」

 

 手をさらに奥に入れると、臀部と太ももの境界線がどこかわかる。押し込んだ時の反発の違いで、反発が少なくなると太ももだと分かる。太ももは臀部に比べると体温が低く、そこの境界で温度のメリハリがつけられる。

 

 そして、頭に添えていたもう片方の手を、長離の上半身へと持ってゆく。

 

 「……んっ」

 

 「長離、触ってもいい?」

 

 「もちろん……さっきみたいにもたれかかってきてもいいんだよ?」

 

 ネグリジェを更に上げる。すると、長離の豊饒な総丘が日の目を見た。下着のサイドベルトに指を掛けてその実のコーティングを剥がした。

 

 顔をそれに埋め、抱きしめる。暖かいその密着感に、思わず寝てしまいそうになる。

 

 「漂泊者……もう、妾もいいよね」

 

 ずっとされるがままだった長離の腕が、私の背後へと回された。衣服の紐を上、下共に解かれ、その下に着ているものも少ない私は、直ぐに肌の露出を増やした。

 

 長離の衣服を剥ぎ取った手はそのまま力を強め、私を抱き締め返してきた。体の前方で感じる柔らかさと、微かに触れるお腹の感覚。絡み合う足の艶やかさ。

 

 その全てが、私にとっての初めてで、琴線を揺らす感覚だった。

 

 「ねぇ、漂泊者……」

 

 突然、長離は動きを止めて私の顔を正面から見た。

 

 「……ん、どうしたの?」

 

 「あなたは、これから色々な場所に行くのよね」

 

 「うん、一応今のところは……ね」

 

 「じゃあ……私のことも、いつか忘れてしまうのかな」

 

 そんなことない……って言いたいけど、実際、私は今記憶をなくしている。記憶を無くすのが一回で済むという保証も、これが一回目という確証もない。

 

 「もしかして………それで悩んでたの?乗霄山の後からずっと?」

 

 「そう………だって、あなたに惹かれる人はきっと私だけじゃない、そしたら、いつの間にか私のことを忘れちゃうんじゃないかって不安で………仕方なかったんだ」

 

 それでも、私は今、確かにここで生きている。そしてそこには今、長離が、一緒にいる。

 

 「大丈夫だよ。長離、私は長離から離れたりなんてしないよ」

 

 「でも、あなたは記憶を取り戻すために……」

 

 「それも大事だけど、それと同じくらい………それ以上に大切なものが新しくできたら、そっちを優先するのは当然でしょ?」

 

 私の旅は、誰かに決められたものじゃない。私が、私のやりたいことのために何をするか決めるんだ。

 

 「一緒に旅をするのもいい。一緒にどこかに住んでゆったりと暮らすのもいい」

 

 長離の目からぽたり、ぽたりと大粒の涙が零れてきた。

 

 「だから、そんな泣かないで。私は、長離のことが大好きだから」

 

 「うん……ぁりがとう……漂泊者」

 

 「………それで、そっちはどうなの……?」

 

 「……私も、漂白者が、大好き」

 

 満面の笑みで笑う長離。普段見せないその弱々しく、小さいその姿に、あの過去の長離が重なった。

 

 大きくなったね。強くなったね。

 

 そんな言葉をかけたくて堪らない。母と父をなくし、頼れる人もいない中で、ようやく見つけた頼れる人とももう既に会うことは出来なくなり、今となっては人に頼られる側の立場。長離には、あまりにも人に甘える経験が不足していたんだ。

 

 私は長離のことを母親かのごとく強く、強く抱きしめた。長離も、子供かのごとく、私を強く、強く抱きしめ返した。

 

 冷めてしまった料理は、後で温めて食べるとしよう。

 

 





長離に体温が暖かい設定を加えた人と対談したい

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