【R18】 このすばらしからぬ展開にも祝福を! 作:レイトカマー
やってしまった。
ずっと探し続けていたあの人と、あんな形でお別れする事になってしまったからとはいえ、勢いでとんでもない事をしてしまった気がします。
これからどんな顔をしてカズマと向き合えばいいのでしょう?
確かに一緒にお風呂に入ったことだってあるし、実家では一つのお布団で一緒に寝たこともあります。
そして今日は、自分からカズマを訪ねて部屋に来て、自分からカズマが寝ているベッドに潜り込んで、そして自分から抱きついた。
以前に好きですよ言ったこともあらためて強調したし、押し倒されても構わないと受け取れる様なことまで口にしてしまいました。
だからといってそれを後悔しているわけでもないし、本当に求められてしまったら、それはそれでかまわないというか、カズマとそんな関係になれるなら、たぶん私は喜んでしまうのでしょう。
でも、いざ誰かときわどいことになりそうだと、最後はヘタレてしまう人です。
ダクネスにはキスされたみたいだけど、その後に仲が進展している気配は微塵も感じられないし、結婚式をぶち壊してお姫様抱っこで花嫁をさらったのに本当に何もしなかったのだから、ある意味ヘタレの達人なのかもしれません。
どうせ何もできないヘタレなら、私が押し切って無理矢理にでも関係を結んでしまえば、私だけの男にすることもできないわけじゃないかもと思ったりもします。
でも、カズマの口から好きだとは一度も言ってもらっていません。
カズマは私のこと、本当はどう思っているのでしょう?
少なくとも私から迫ったら、目に見えてドギマギしていたから、少なくとも脈はあると思っているし、さっきはちゃんと抱き締めてくれたし、何よりも優しくしてくれたことが嬉しかった。
それなら、そろそろ決断を迫ってみようか?
私だって、もう間もなく15歳になる大人。
確かに胸の大きさだけなら、ダクネスやアクアには大きく水を開けられているけれど、それはあくまでも今時点ではということ。
それに、ここ一年で成長もしているし、ぺったんこというわけでもない。
少なくとも将来は、お母さんくらいにはなれると信じてます。
だから、賭けてみたいと思ったのは、けっして気の迷いなんかじゃない。
でも、こんな気持ちになるのなら、もっと色気のある服で来れば良かった。
さすがにパジャマ姿でというのは、早まったかもしれません。
私の気が変わって帰ってしまったとしても、怒ったりなんかしないと言ってくれたし、待っていてくれれば嬉しいとまで言ってくれました。
私がベッドで待っていて、それを嬉しいと感じてくれるのなら、カズマはその先に何を期待するでしょうか?
それを想像すると、頬が熱を持ってきて胸がドキドキします。
普通、男の人はそういう期待をするはずです。
だから‥‥‥、そのつもりで待っていてあげようと思いました。
私の覚悟を示すために。
さっきと同じ様にベッドの左側に横になった。
その方が右利きのカズマには都合が良さそうだと思ったから。
パジャマの下は脱いでしまった。
脱がされる時の格好の方が恥ずかしいと思ったから。
パンツは‥‥‥、迷った挙句に脱いでしまった。
初めて脱がされるとしたら、背伸びしきった黒ではやはり恥ずかしいし、もしも染みなんかついてしまってたら、それを見られるのはもっと恥ずかしい。
だから小さく畳んで、パジャマの下と一緒にお布団の中に隠した。
それならいっそのこと裸でと思ってもみたけれど、慎みがないと思われるのも嫌だから、パジャマの上だけを羽織って、前のボタンは留めないで‥‥‥
我ながら随分と大胆な格好だと思うし、胸のドキドキが止まらずに顔が赤らんでいるのが自分でもわかります。
覚悟は完了したんだと自分に言い聞かせていたら、今頃になってちょむすけの姿がないことに気がついたのです。
ベッドの下を覗いても、部屋を明るくして見回しても、どこにもいません。
部屋から出て行ってしまったのだろうか? でも、いつの間に? どうしよう?
探しに行こうかどうしようかと逡巡していたところで、廊下を歩く近づいてくる足音が聞こえました。
急いでベッドに戻ってお布団を被り、眠ったふりをしていると部屋のドアが開く音がして、足音がだんだん近づいてきました。
ベッドの横で足音が止まると、ギシリとベッドがきしむ音がして、右側を向いて寝ている私の前にぽすっと何かが置かれました。
お布団を少しだけ引き下げると、ちょむすけがじっとこちらを見ていました。
「今度はどこに行ってたんですか? また心配しちゃいましたよ」
お布団の中から左手を伸ばしてちょむすけを撫でてあげると、とたんにだらしない顔になってゴロゴロと喉を鳴らし始めます。
「あれ? なんだかふかふかになってる様な気がするんですが?」
「悪いな、起こしちまったか? 風呂についてきたんだよ。コイツ、風呂嫌いだったんじゃなかったっけ? それが湯船に入りたがったんだよ。さすがに溺れちゃまずいから桶にお湯を張ってやったら、それはもう気持ち良さそうに浸かってたぜ」
「ちょっとだけ‥‥‥、うとうとしてました。そうですか、ちょむすけもお風呂嫌いが治りましたか? それとも温泉だからでしょうか?」
「う~ん、なんとも言えないな。アクセルの屋敷に帰って風呂に入れてみたらわかるんじゃねえかな?」
温泉と普通のお風呂の違いって何でしょうか?
ふと埒も無い疑問で返してしまったのは、こんな格好でカズマを待っていた私の気持ちを、何気ない雰囲気でごまかそうとしているからかもしれません。
「そうですね、帰ったら一緒に入りましょうね」
今この状況で起き上がったり、カズマを迎えるのにお布団をめくったりできないのは、私が物凄く大胆な格好をしていることがばれれたら恥ずかしいから。
だからさも自然に見える様に、ちょむすけを撫で続けました。
『みにゃあ?』
私の気持ちを察したのか、ちょむすけは起き上がって一回伸びをすると、ベッドから降りてしまいました。
「俺のために場所を開けてくれたのかな?」
「そうかもしれません。おかえりなさい、早かったですね?」
「うん、めぐみんの気が変わって、帰ってしまってたらと気が気じゃなくてな」
「待っていてくれれば嬉しいと言ってもらいましたから、私も期待して待っていました」
「そ、そ、そうか?」
私がクスリと笑うと、カズマは照れて頭をかきながら仰向けに寝転がりました。
左手を伸ばしてお布団をカズマの胸元までかけてあげていると、カズマは持ち上げた私の首の下に腕を通して、さっきと同じ様に腕枕をしてくれました。
仰向けに寝ているカズマのおなかに左腕を載せて、寄り添って胸の辺りに顔を埋めると、かすかに石鹼の香りがします。
カズマの視線が天井に向いているみたいだと気付いたら、随分と部屋が明るい。
そういえば、さっきちょむすけを探そうと明るくしたままでした。
「カズマ‥‥‥」
「ん? どうした?」
「その‥‥‥、明かりを落としてくれませんか?」
「お、おう、ね、寝るには明るすぎるよな。けど、なんでこんなに明るいんだ?」
「さっき、ちょむすけの姿が見えなかったので探したんです」
「そうか、ちょっと待ってな」
するりと私の首の下から腕を抜いて起き上がったカズマは、ベッドから降りると壁に付けられた魔導照明を調節するノブを、部屋が薄暗くなるまで回しました。
戻ってきたカズマを迎える様にお布団の端を持ち上げると、わずかな隙間に滑り込む様に潜り込んできて、私の方を向いて横になりました。
「ねえ‥‥‥、カズマ‥‥‥」
「ん? なんだ?」
「その、さっきの‥‥‥、続きをする前に‥‥‥、私のことをどう思っているのかカズマの口からはっきりと聞かせてくれませんか? 私はカズマのこと好きですと言いましたが、まだ、カズマの気持ちは聞かせてもらっていません」
「そうだよな‥‥‥、俺だってめぐみんのことは、その、す、好きだ」
「既にキスを経験済の、ダクネスよりもですか?」
「あれは礼だと言われた上でほっぺたにだぞ。俺からしたわけじゃないし、貴族の儀礼的なもんらしいからノーカンだ。仮にだ、無理矢理迫られてあの筋力で押し倒されでもしたら、か弱い俺には抵抗する術がないんだからな」
「いざとなったらドレインタッチやバインドで無力化できるじゃないですか。そこまでしなくたって私にしたみたいにフリーズでも」
「口を塞がれてりゃ、呪文も唱えられないだろ?」
「ダクネスのことは好きじゃないんですか? カズマに対して、あんなにあからさまな好意を見せているのに、応える気はないのですか?」
「つったって、あいつの性癖からくる欲求じゃないか。確かにダクネスは大切な仲間だし、性癖を除けば嫌いじゃないけど‥‥‥」
「美人ですもんね、それにあのけしからんボディなんか生つばものですもんねえ」
「う~ん、アレな言葉を発しないダクネスなら、確かに鑑賞するぶんにはなあ」
「あの凶悪な胸部装甲だけでも凄いのに、見て喜ぶだけなんですか?」
「それ以上のことは想像できないなあ、もしもそんな状況になっても、たぶんどうしたらいいのかわからずに、持て余してしまうんじゃないかとも思ってる」
「だから、おなかを触ったんですか?」
「まあな、結構俺ってヘタレだろ? あの場の空気にも耐えられなかったし」
「私の腹筋は割れてませんからね、笑いを誘ってごまかしても無駄ですよ?」
「うん、さっき抱き締めてみて良くわかったよ。めぐみんの抱き心地は最高だ」
そう言いながらカズマは私を抱き締めて、私もカズマの腰に左手を伸ばして抱きついて胸に顔を埋めた。
カズマの両手は私のパジャマの背中を抱いていて、私が今どんな姿なのか気付いてもいない。
「カズマは私と抱き合っている状況というか、この空気には耐えられているということですか?」
「う~ん、正直言うと相当に緊張してドキドキしてるんだけど、不思議とめぐみんなら素直に受け入れられるんだよなあ。きっと俺が生まれ育った国の女の子たちと見た目が近いってこともあるんだと思うよ。もっとも、めぐみんみたいな美少女は俺の周りにはいなかったけどな」
「アクアはどうなんですか?」
「アクアかあ、アクアなあ‥‥‥、無理だなあ、アレは絶対に無理だな、俺には」
「なのに、二人でパーティーを組んでいたんですか?」
「あそこまでポンコツだとは思わなかったからなあ」
「だけど、大切な仲間だと?」
「そりゃあそうさ、めぐみんは俺が何回死んだか、憶えてるか?」
「そ、そういえば確かに‥‥‥」
「最初は、雪精を捕まえるクエストで、雪山に行ったときだったよなあ?」
「そ、そうですね‥‥‥、冬将軍にチョンパと‥‥‥、カズマのが雪の上を転がって行くのを見た時には泣いてしまいました」
「そう、そして二度目は、リザードランナーを仕留めたものの、木から落ちて」
「ポッキリと、あらぬ方向に向いてましたねえ。あれはなかなかシュールでした」
「聖剣エクスカリバーなんて名付けてもらったしなあ?」
「あ、あれは、その‥‥‥、カズマがもう帰らないなんて言うから‥‥‥」
「ま、いいや。三度目は、その傷を癒しにアルカンレティアの温泉に行って」
「魔王軍の幹部のハンスに溶かされて、骨だけになっちゃいましたねえ‥‥‥」
「んで、四度目は、王都の魔王軍撃退戦でコボルトなんかに。あれは弱っちいことを忘れた俺が、調子に乗り過ぎて増長しちまったのが原因だけどな」
「更に五度目は、ダクネスの借金返済の件で、ヒュドラに呑まれた時ですね?」
「そう、五回もだよ? どんだけ弱いの俺って、なのにちゃんと生きてる」
「毎回、アークプリーストのアクアが生き返らせてくれましたね」
「死因の何回かは、あいつのせいだけどな。まあ、それでもなあ、アクアがいないと、イザって時に俺は死にっぱなしになっちまって、二度と皆の前には帰って来れないってわけだ。だから、これからも冒険者なんて危険な稼業を続けるとしたら、アクアがいない状況ってのは考えられねえんだよ」
「確かにそれは由々しき問題です」
「だろ? だから、冒険者を続けるなら今のパーティーを維持しなきゃなんない。だけど、もうお金もあるし危険な冒険者の仕事から足を洗って、堅い仕事に就いて暮らすのなら、誰かと一緒になるってのもアリってわけだが、めぐみんは料理屋の女将で満足できるか?」
「それは‥‥‥」
「紅魔族の血が、戦いを求めるのか? 里の皆さんだって、普通に服屋や靴屋をやってたじゃないか。俺は鍛冶や料理のスキルを持ってるんだぜ?」
「私だって、いつかはそんな落ち着いた暮らしをしたいと思います。でも、冒険は今しかできないと思ってます」
「俺もそう思うよ。だから、そのときまでは誰とも一線は越えられないと思ってたんだけどさ、いざめぐみんとこうなってしまったら、実は考えすぎだったんじゃないかと思えてきたから不思議だよ。要は仲間との交流を大切にしながら、めぐみんと節度を保った交際を続ければいいんじゃないかなって」
「ずいぶんとやわっこくなりましたね。でも、カズマにとって一線を越えるって、お布団の中でこんなふうに抱き合うことですか? 節度を保った私との交際って、どんな感じを想定してるんですか?」
「一つ屋根の下で一緒に暮らしてるあいつらの前では、イチャイチャべたべたしないっていうか、見せ付ける様なまねはしないってことかなあ。二人っきりで出かけたときや、誰も見てないときならその限りじゃないけど」
「今みたいなときですか? カズマも私のこと好きだって言ってくれましたけど、まだキスの一つもしてくれないじゃないですか」
「話題がいけないんだろうな。それにほら、なんかそんないい雰囲気になりそうだと、必ず‥‥‥」
「必ず?」
その時でした。
『めぐみーん! めぐみんどこー? いるー?』
アクアの声だ。
ドアの外では誰かがバタバタと廊下を駆ける音が聞こえます。
そしてドアが乱暴に叩かれました。
「これだよ! まったく‥‥‥。念のために布団被っといてくれ」
それだけ言うとカズマは抱擁を解いてスルリとお布団から抜け出すと、ドスドスとドアに向かって歩いて行ったのです。
『うるせえぞ! 何時だと思ってんだ、この疫病女神!』
『誰が疫病女神よ! この麗しい水の女神さまをつかまえて? バッカじゃないの? あら、おバカのヒキニートじゃなかったら、カーズマさんじゃありませんもんね。プークスクス。ねえ、めぐみん知らない?』
『知ってるよ! 今回も魔王軍幹部の討伐って大殊勲を上げた、ウチのパーティー最強の魔法使い様だろ? 確かに今回はアクアも砦の城壁の修復で大活躍したが、めぐみんの爆裂魔法がなきゃ撃退できなかったんだぞ! それに何があったのか知らねえが、ふさぎ込んでたじゃないか。こんな時くらいそっとしといてやれよ!』
廊下にカズマのどなり声が響いています。
ああ、ちゃんと私のことを見てくれていたんだ‥‥‥
『アクア、めぐみんはそっちにいたか?』
『おい、ダクネス。今回もさっぱり役に立たなかったのに、駆けずり回って疲れてる俺の安眠を妨害する気か?』
『みゅいん! あ、相変わらず容赦がないなカズマは。はあはあ、カズマ、もっ、もっと罵ってくれてもいいんだぞ?』
『そこで頬を染めてモジモジするんじゃない! この変態クルセイダー!』
『あ、あの、めぐみんはきっと一人になりたいんだと思います。私もですが、あのウォルバクって人と縁があったみたいですから‥‥‥』
『そうか‥‥‥、まあ宿の外には出ないだろう。アクア、私達は先に寝よう』
『ええ~、四人用のカードゲームがやりたかったんですけどお‥‥‥』
廊下が静かになったところで、カズマがドアを閉めて戻ってきました。
私がお布団から顔を出すと、ヤレヤレといった表情で両手を広げて見せました。
「とまあ、いい雰囲気になりそうだと邪魔が入る。紅魔の里でもシルビアの襲撃があっただろ?」
「でも、撃退した後は一緒のお布団で寝たじゃないですか」
「あんときゃお互いに疲れ切ってたじゃないか。一番おいしいとこもこめっこに持ってかれちゃったし」
「そうでしたね‥‥‥、でも、私は嫌いじゃないですよ。馬鹿馬鹿しい事で大騒ぎしながら、皆で騒々しく楽しく暮らしているのが私たちらしいですし」
クスクスと笑う私に、怪訝そうな表情を見せたカズマは、自然な動きでジャージの上を脱いでお布団の中に潜り込んできました。
その左腕に私が抱きついた時、カズマの動きが止まったのです。
「な、なあ、めぐみん?」
「なんですか?」
「今、その、腕に当たってるんだが」
当ててんのよとは、はしたないから言いません。
「何がですか?」
「ゆ、夢にまで見た、とってもありがたいものが‥‥‥」
「こんな風にですか?」
カズマの左腕に両手を絡めてギューっと抱きついたら、半袖のTシャツから出ている腕から先が、私の素肌に密着しました。
手の甲なんておなかの下の方まで届いて、指先は私の腿に触れています。
「め、めぐみん、パ、パジャマは‥‥‥?」
「羽織ってますよ、上は。ボタンは全部外しましたけど」
「パパパパンツ‥‥‥は?」
「ちゃんと穿いてましたよ、カズマがお風呂に行くまでは」
「いいい今‥‥‥は?」
「女性の口からそんなこと言わせる気ですか? 疑問に思ったら確かめてみる勇気も必要ではありませんか? 私だって勇気を振り絞っているんですよ?」
「い、いいのか‥‥‥?」
「でも、その前にお願いがあります」
「え? 何?」
「もう一度、私のことをどう思っているのか、私の目を見て言葉にしてください。そして‥‥‥、キスして優しく抱き締めてください‥‥‥」
ちょろい勇者(仮)カズマ、果たして行くのか?
次話もめぐみん視点で。