【R18】 このすばらしからぬ展開にも祝福を! 作:レイトカマー
出血シーン割愛しました。
カズマ視点でお送りいたします。
夜明け前にめぐみんは自分の部屋に帰って行った。
俺は風呂支度をしてドアを開け、誰もいないことを確かめてから無言で手招きしてめぐみんを呼び寄せ、そして歩き難そうにひょこひょこと帰る背中を見送った。
別れ際に、めぐみんの方から首に両腕を回してキスしてくれた。
その柔らかい唇の感触を思い出しながら、俺はぼうっと湯船に浸かっている。
とうとう俺も一線を越えてしまった。
もはや誰にもDTランク冒険者などと呼ばせはしない。
いや、待てよ。
今のところ、卒業しましたあなんて公言はできないか。
そんな事を言おうものなら、必ず相手は誰だという話になる。
アクアやダクネスだって大騒ぎするだろう。
めぐみんは勝気だから、心身ともに大人になったと胸を張るだろう。
特にボッチのゆんゆんに対しては、容赦の欠片も見せずにアドバンテージを誇示するかもしれない。
いや、本当に大人になったから、そんな子供じみたマウントの取り合いも卒業するかもしれないじゃないか。
うん、信じよう、俺の恋人を。
これが大人の余裕ってやつか? 爆発しろと妬まれるリア充の思考か?
これならアクアからヒキニートの童貞なんて罵倒されても、それは誰のことさと軽く流してしまえる。
思い返すまでもなく、その一歩を踏み出すかどうかの勇気だけだったんだな。
失敗したらどうしようと結果を恐れて、びびっていただけだったんだ。
踏み出してみたからこそ、なんだ大丈夫じゃないかと気づくことができたんだ。
要するに、これが自信ってやつなんだな?
まあ偉そうな事を言っても、やっとDTランク冒険者を卒業できたって段階だ。
アレだ、初めてスライムを倒した初心者と同じってとこだな。
慢心しないように、初心を忘れないように、気持ちを引き締めなきゃな。
俺らしくねえって?
そりゃあそうさ、びびりの童貞とはサヨナラしたリア充一年生だかんな。
それにしても、可愛かったなあ。
女の子の、いや、間もなく成人するんだから女性って言わなきゃ失礼だよな。
うん、気をつけよう。
じゃないと正真正銘のロリコンの烙印が押されてしまう。
けっしてロリマさんなんかじゃねえからな。
ちゃんとめぐみんは大人の女性だった。
腕の中にすっぽりと納まる華奢な体も抱き心地満点だったし、すべすべで柔らかい肌も150点だ。
確かに凶悪な胸部装甲を誇るダクネスや、けっこうご立派なゆんゆんなんかには負けるんだろうけど、手の平にすっぽり収まって、優しく包み込まないと壊れてしまいそうな柔らかさも、それはそれで最高だったし、何と言ってもあの感じ易さと甘い声は男心をくすぐって余りある。
そして極めつけは、俺の聖剣エクスカリバーを熱く包み込んで、文字通り一つになったときの、めぐみんの幸せそうな表情だ。
あんな顔見せられたら、もう、愛してるとしか言えないじゃないか。
もちろん、めぐみんも俺も初めてだったから、おっかなびっくりでぎこちなかったんだけど、それでもちゃんと最後までやり遂げることができた。
うん、めぐみんには感謝しかないな。
でも、大丈夫だったろうか?
最初は痛いのを堪えていたのか、顔をしかめて耐えている様にも見えた。
苦しいのかと聞いても首を横に振っていた。
俺もできるだけ優しく振舞ったつもりだったけど、やっぱり心配だ。
歩き方もなんだかぎこちなかったし、うん、これからは優しくしてやろう。
たぶん今の俺は、だらしなく緩んだ表情をしてるんだろうな。
ふとお湯の中に目を落とすと、俺の聖剣エクスカリバーが雄姿を誇っていた。
湯船の中で立ち上がり、バットスイングの様に溜めを作って腰を振ると、そそり立った俺の分身が少し遅れて横なぎに振られて水滴を飛ばした。
振れば玉散る氷の刃、子供の頃に昔々のビデオで見た人形劇か何かのセリフだったような気がしたが、妖刀村雨だったっけ?
さあて朝飯でも食いに行くかと上がろうとすると、湯船の前ではだらけ切った顔の黒い毛玉が、桶に張ったお湯に浸かっていた。
昨夜もそうだった。
湯船の縁に前足を掛けて入りたそうにしているちょむすけを、何だか普段と違うなと訝しく思いながらも、この中で我慢しとけと桶に湯を張ってやったら、湯加減を見る様にちょいちょいと足先を差し込んでから、やがて中に入って丸くなった。
なんだろう、この猫は?
いやまあ猫じゃないんだけど。
どうして急に風呂好きになったのかは知らないが、まあ清潔なのは良い事だ。
何だか、あのお姉さんみたいだなあと思いながら、俺はふと思ったことを言葉にしてみた。
「ウォルバクさん、湯加減はどうですか?」
その名前を俺が口にした瞬間、ちょむすけの片耳がピクリと動いた。
たまたまか?
それとも、とうとうちょむすけが擬人化するのか?
ひょっとして、こいつが育ったら、あのお姉さんに化けたりするのか?
「‥‥‥まさかなあ」
俺は気持ち良さそうに目を細めているちょむすけを両手で持ち上げて、さあ上がるぞと声をかけた。
「あれっ、つうかお前、今までちっとも成長しなかったのに、なんかちょっとだけ育ってないか?」
宿の食堂でちょむすけと一緒に朝飯を食っていたら、女性陣が起き出してきた。
相変わらず若干一名が騒々しい。
「カーズマさん、おはよう。ねえねえ聞いてよ、めぐみんたら夜明け前に帰ってきたと思ったら、そのままベッドに潜り込んで部屋から出てこないのよ。どこに行ってたのって聞いても、頭からお布団被ったままで返事もしないのよ」
「ああ、おはよう、アクア。昨夜も言ったろ? そっとしといてやれよ。お前、女神を自称してるくせに、思いやりの欠片もないのな」
「なんて事言うのよ、この童貞ヒキニート。私はねえ‥‥‥」
「はいはい、慈愛にあふれる水の女神様だろ? おはよう、ダクネス、ゆんゆん。俺はもう朝風呂に入ってきたからな。今日はここで一日ゆっくり休養取ってから、明日アクセルの街にテレポートで帰ろうぜ。頼めるよな、ゆんゆん?」
「ええ、それはかまいませんが、めぐみんは大丈夫でしょうか?」
「切っ掛けさえあれば、立ち直るのに時間はかかんないだろ。紅魔族ってメンタルも強いもんな。あれを最後にここ何日か一発も撃ってないから、そろそろ溜まってるはずだよ。後で俺が声かけて、遠くでスッキリさせて来るさ。爆音が聞こえたら復活したと思ってくれ」
「いつになく優しいなカズマは、まるでパーティーのリーダーみたいだ」
「今回も全く出番がなかったクルセイダーと、最高殊勲を上げた魔法使いとの評価に差を付けるのは、リーダーとしての当然の役目だろ? 援軍のゆんゆんだって、トイレの女神だって大活躍したっていうのによ」
「はあはあ、あ、朝から容赦がないなぁ‥‥‥」
「朝っぱらから嬉しそうに頬染めて、はあはあ悶えてんじゃねえ。ゆんゆん、この変態をテレポートでどっかに捨ててくれ」
「ふみゅん! 」
どたばたと騒がしい朝食を終えたところで、食堂の調理場を借りて料理スキルで簡単な食事を作ると、桶とタオルを抱えてめぐみんの部屋を訪ねた。
ノックしてドアが開いたところで、眠たそうな目で顔を出しためぐみんを部屋の中に押し込んで、クリエイトウォーターで桶に水を張り、水中で手の平を広げて、俺のオリジナル魔法のマレキュラ・バイブレーションでお湯に変えた。
この魔法は、取得ポイントが低い幾つかの魔法を組み合わせた俺のオリジナルだが、その名の通り現代の日本人なら誰でも知っている水分子の振動を、少ない魔力消費で再現したいわば人間電子レンジ魔法だ。
偉そうに俺のオリジナルなんて言ってるけど、実はなんちゃってアルティメットスキルの教えてラファエル先生(仮)を活用して、俺が知ってる現代日本人の基礎知識と、この世界の魔法を融合して構築したものだ。
この魔法の欠点は、水分を含んだ物くらいしか加熱できないことと、直接触れている物か精々容器を介してしか温められないことだ。
つまりは、沸騰させると火傷するから、精々顔を洗ったり体を拭くためのお湯を温めるくらいしか出番はないのだが、これはこれで結構重宝している。
「皆はどうしてるんですか?」
「朝食を終えて、朝風呂に行ったよ。今日は一日ここでゆっくり休んでから、明日ゆんゆんのテレポートでアクセルの街に帰ることにしたんだ。皆には俺がめぐみんを連れ出して、日課の一日一爆裂をやらせてすっきりさせてくるって言ってあるから、これで体を拭いて身支度ができたら来てくれ。俺は部屋で待ってるから」
「それは、ありがたいのですが‥‥‥」
「どうした?」
「その、何と言うか‥‥‥、おなかの下の方に何か挟まっている様な感じがして、歩くのが辛いのです。とても、その‥‥‥、爆裂魔法が撃てるような遠いところまで、歩いて行ける自信がありません‥‥‥」
「うん、それは俺のせいで間違いない。だから、ちゃんと移動手段は考えてるよ。んじゃ、待ってるからな」
暫く部屋で待っているとドアがノックされ、開いてるぞと声をかけると、いつもの魔法使いの装いでめぐみんが入ってきた。
俺は一旦ドアを閉めると、めぐみんのローブの背中に左手を回して、帽子の大きなつばを右手で持ち上げながら、顔を傾けて唇を重ねた。
すぐにめぐみんも応えて、俺の首に左手を回して唇を吸い返してくる。
うん、リア充の恋人同士の挨拶って最高だ。
ひとしきりお互いの唇を堪能し合ったところで、さあ行こうとめぐみんの手を引いて廊下に出た。
小股でひょこひょこと脚を引き摺る様に歩くめぐみんに合わせて、廊下をゆっくりと進み、階段を一段ずつ登ってバルコニーに出た。
何をするつもりなのかと訝る様な目で見ているめぐみんの前で、俺は右手の人差し指と親指で作った輪っかを覗きながら遠くの山々を見回した。
「テレスコープ」
呪文を唱えると、指で作った輪っかの中の光の屈折率が変わる。
つまりは、その名の通り望遠鏡だ。
これもマレキュラ・バイブレーションと同じく、教えてラファエル先生(仮)の力を借りている。
視線の中心部の倍率を上げて遠くを観察する千里眼の魔法と違って、魔法が発動している対象は指の輪っかの中の空気だし、覗いている間だけ効力を発揮すれば十分だから、日本人の現代知識にもとづく超省エネのオリジナル魔法だ。
「よし、あそこが良さそうだ」
遠くの岩山を指差すと、ここから撃つんですか? いくらなんでも距離がありすぎますよと首を傾げているめぐみんの肩を抱いて、俺は高らかに呪文を唱えた。
「テレポート!」
俺は今、宿から見えていた遠くの岩山に、めぐみんの肩を抱いて立っている。
「ええっ! 上級魔法じゃないですか、それもいつの間に?」
「驚いたか? 驚いたろ? 男子三日会わざれば刮目して見よ、つってな。といってもコボルトなんぞに殴り殺されたり、ヒュドラに食われたりの反省から、やっぱり非常事態から脱出するための手段が必要だなって、痛切に感じてたんだ」
「それで、テレポートですか?」
「ああ、紅魔の里にシルビアが攻めてきたときだって、里の皆は自在に駆使してたじゃないか。俺もあれができたら、あんなに死ぬこともなかったよなって」
「でも一体誰に習ったのですか? アクセルの街で使えるのは、ゆんゆんとウィズくらいしかいませんよ?」
「そのウィズだよ。ダクネスの借金を返すために俺の発明品の権利を全部バニルに売ったろ? 魔道具店の売り上げはそこから急拡大したんだが、そこでまたウィズがやらかしたんだ。売り上げのほとんどを、売れっこねえ商品の仕入れに突っ込んじまって、バニルに折檻されたんだ」
「はあぁ、それでどうして?」
「俺が教会でぶちまけた金貨は、結局王国から補填されて返って来たろ?」
「それと同時に、カズマのダクネスに対する所有権も消失したんでしたね?」
「まあそこに、一片の後悔もないけどな。んで、戻ってきた金で、売っ払っちまった権利の一部を買い戻しに行ったとこで、バニルの奴が不良在庫を返品するために箱詰めしてたんだが、ちょいとピンとくるもんがあったんで、それを買い取る条件として、ウィズにいくつか魔法を教えてもらうことになったってわけだ」
「でも、教えてもらっただけで、よく習得できましたね? あれは結構難しい制御を必要としますから、上達しないと無駄に魔力を消費しますよ」
「最初は精々5mも跳ぶのがやっとだったけどな。歩いた方が遥かにマシだって、悔しがる悪感情が美味だって、バニルにも随分と笑われたぜ」
「つまり、努力したということですか?」
「おうよ。つったって、今んとこは目視可能な距離を一日一往復が限界だけどな」
「それでもこの距離を跳べるのなら、逃げ足としては十分です。生存確率がぐんと上がりますね」
「そう、そこが一番大事。それにまだ同行者一人がやっとだからな。今回の魔王軍との戦闘ではゆんゆんに運んでもらったけど、当面の目標はめぐみんとふたりで、ヒットアンドアウェイを実行できるレベルになることだと思ってる」
「カ、カッコイイです、カズマ!」
「むふふ、そうだろそうだろ? 最強の魔法使いを支える最弱職を目指さなきゃなんないからな」
そもそもさあ、スキルって何なの?
それも貯めたポイント使ってスキルカードで登録するって。
女の子のパンツばっかり脱がしてるスティールだって、その後に取得した諸々のスキルだって、全部が魔力を消費して発動する魔法じゃん。
どうなってんのよこの世界の法則は? って話だよ。
大体さあ突っ立ってる女の子のパンツ、どうやって剥ぎ取ってるのさ?
引きずり下ろしたってんならわかるよ、でも最初はショートパンツのクリスだからね? 腰の両サイドでちょん切ったりでもしなきゃ無理じゃん。
それが握り締めた拳を広げると、肌の温もりも残っている、脱ぎたての文字通りホッカホカのおパンツ様が、原型を留めたままで鎮座していらっしゃったんだよ。
もう、ヒャッハーって振り回して感動を表現するしかないじゃん。
つまりだよ、染みが付いてないか、匂いはどうなんだってとこまでは確認した事ないんだけどさ、原型を保ったままで場所だけを移動したんだよ。
うん、間違いなく体温は残ってた。
瞬間的に場所を移動するって、何かに似てるって思わないか?
そう、ウィズやゆんゆんが使う上級魔法のテレポートだ。
俺のはおパンツ様ばっかりだけど、人間を何人も跳ばせるのと何が違うんだ?
で、ラファエル先生(仮)の出番ってわけだ。
何度もスティールとテレポートを繰り返しては、その時の魔力の使い方と流れを知識として蓄積して、ラファエル先生(仮)を使って解析したんだ。
結論から言うと、対象の認識、転送先の指定までは同じで、運べる人数や物の量に跳べる距離は魔力次第ってこと。
最初にクリスにスティールを習った時には、奪えるものはランダムだって聞かされたけど、あれって騙されたんだと今更ながら気づかされた。
要は奪う対象を明確に意識して、突き出した拳に握ることを強くイメージできればよかったんだ。
現に、ソードマスターのアララギさんだか、カツラギさんだかの魔剣は、ちゃんと奪えたじゃないか。
対象をランダムにって時は、思い描ける一番のものを奪っていたってこと。
ゴメンナサイ、女の子のおパンツ様は青少年の憧れでした。
ええ、めぐみんの言った通り、それこそ血の滲む様な努力をしましたとも。
おパンツ様を思い浮かべてしまわないように、それはもう心を清らかに保って。
奪った物の転送先は、見えてる場所ならどこへでも可能だった。
そう、どこへでもってとこが重要。
アクアが見せてくれた、手の中の物が消える手品も同じだった。
要するに逆スティールってわけだ、どこに跳ばしてるかは不明だが。
そこで転送先を明確にイメージしてりゃ、物の移動も自由自在ってわけ。
試しにと自分を跳ばしてみたら結果は驚きで、寧ろ逆スティールで跳んだ方が、テレポートで跳ぶよりも遥かに遠くまで行けたし、魔力の消費も少なかったんだ。
だけど逆スティールなんて叫んだら、周りは『何言ってんの?』てなもんだろ?
だからイメージを確たるものにして発動は無詠唱。
テレポートって叫んでるのは周囲の誤解を招かないためのサービス。
理屈はテレポートの簡略版だから嘘じゃない。
ちなみにテレスコープを編み出したのもその頃。
魔物や魔獣を狩ってポイント貯めないと、スキルが取れないじゃん?
そんで考えたのよ、どうやってポイント稼ごうかって。
仲間には弓の練習ついでに狩りをするって言ってるから、絶対に無理はしない。
なんせおっちんじまったら、誰にも知られずにエリス様んとこ行っちゃうから。
少なくともアクアが肉体を再生してくんなきゃ、そのまんま終わっちまう。
弱っちい俺でも倒せて討伐ポイントが高い魔獣って、基本的に警戒心が強い。
敵感知なんて逆探知されてさっさと逃げるし、狙撃のスキルでも届きゃしない。
空を飛べる魔獣なんて、その最たるとこ。
そこで、遠くの獲物を千里眼のスキルで探すんだけど、これが疲れるの。
視界が狭まるから使い勝手が悪いし、キャンセルして視界を戻すのとを繰り返してると目が回る、せめて望遠鏡があったらと思ったところでピンときた。
望遠鏡? それって光の屈折だよなあって、思い付いたのがきっかけ。
ラファエル先生にご相談申し上げて、解決したのが指の輪っかってわけだ。
テレスコープで獲物を見付けたら、スティールで射程距離内にご招待。
遠くの山なら近くの原っぱへ、空の上なら地面に、水の中なら陸上にって。
討伐証明を切り取るのはグロかったけど、その辺は料理スキルで乗り切った。
この世界のスキルと現代日本の基礎知識を組み合わせりゃ無敵じゃん。
だけど痛切に思ったね。
もっと勉強してりゃよかったなって。