【R18】 このすばらしからぬ展開にも祝福を! 作:レイトカマー
クリスとの魔力循環回路の接続は完璧だった。
ラファエル先生が念のためにと心配して、アンビリカルケーブルを接続してくれたが、エリスと接続したときの様な魔力サージはなかったし、寧ろめぐみんと繋がったときの方が流れる魔力が多かったくらいだったから、受けた分をそのままそっくり返している様な感覚だった。
つまり、クリスの姿のときには何らかの制限が掛かっていると見て間違いないだろう。
レベルもステータスも盗賊職の域を出ないし、特段強力なスキルを持っている様子も見せていないから、神器の回収のために地上に降りるに当たって、それが自律的になのか他律的なのかは別にしても、世界は成るに任せると言うルールに則って、できるだけ影響を与えない様に配慮されているんじゃなかろうか。
それからすると、アクアのリザレクションの乱用なんて、それで何度も蘇生してもらってる俺が言うのもなんだけど、掟破りも甚だしいってことになるんじゃなかろうか。
だけど俺の転生の特典として、嫌がらせにアクアを選択したことが認められたってことは、あのポンコツ具合なら世界への介入とは見做されないと判断したとも思える。
要するにアクアの存在自体は、カツラギさんの魔剣や変態鎧のアイギスと同等ってことか?
少なくともあの知力のステータスの異常な低さは、地上に降りるに当たって課せられた制限じゃなかったのなら、その必要がなかったと見た方が妥当な気がする。
であれば、クリスの魔力が抑えられていることは、エリスが天界のルールに則って自発的に課している制限だと考えて間違いないだろう。
アリの巣の別荘でなら本来の姿を現して構わないと言うのも、自分で決めたローカルルールなんだろうな。
もちろんクリスとの魔力循環も物凄く気持ち良かったし、クリスも体をぐりんぐりん捻る余裕もないくらいにとろっとろに蕩けてしまったから、最後に魔力の循環に合わせてどっくんどっくんと生で撃ち込んだら、長い悲鳴の様な一声でこと切れてそのままお休みなさいになってしまった。
俺は腕の中で眠るクリスを優しく包む様に抱いて、これからの事を整理していた。
と言うのも、ラファエル先生の解説では、エリスとの魔力循環を果たしたことで、大きく状況が変わってしまったらしいのだ。
少しばかり世知辛い話になるが、めぐみんとの爆裂魔法の修行で半減した亜空間魔力銀行の残高が、エリスとの魔力循環回路の接続で齎された魔力で急回復して、元の残高を超えて更新した増加分の殆どは、エリスとの魔力循環でオーバーフローした分だったとの話には些か驚かされた。
ちなみに一突きごとに迸っていたエリスの魔力を、サプリームスキル魔力収集(仮)で集めた分の総量は1MEにも満たなかったと言う話だったが、それでも前回エリスからもらった魔力の半分くらいには相当するのだから、女神様の魔力量恐るべしと言ったところだ。
しかし、魔力循環回路を開いたときのエリスからの魔力サージを真面に受けていたら、おそらく俺の体は塵一つも残らなかっただろうと言うラファエル先生の話には背筋が凍った。
女神様をして『ごっそり』と表現するほどの量だから、めぐみんの爆裂魔法10発分くらいと考えれば、何となく感覚的に掴める気がしないでもないが、途轍もない魔力だってことだけは確かだ。
そのお蔭で亜空間魔力銀行の取り引きサービスのランクが一段上がって、いくつかの特典が使える様になったらしい。
どれもこれも『らしい』と言ってるのは、ラファエル先生からの伝聞だからで、システムや手続きどころか、そもそも亜空間魔力銀行がどんなものなのか漠然とした理解しかないし、何をどうすりゃそうなるのかサッパリわかんねえから、社会の仕組みを知らない芸能人やユーチューバーが、突然ブレイクして大金が入る様になったけど、全部事務所に任せ切りって状態と同じだな。
それで特典の一つが、スマホのキャッシュレス決済みたいなことができる様になったってこと。
要はぷいぷいみたいなスキルを使える様になっちゃったってことだ。
それがサプリームスキルの魔力貯蔵(仮)の機能の一つで、ラファエル先生がバージョンアップしたときに追加されてたんだけど、使い方もわかんねえし俺自身の魔力の器も小さかったからそのままだったんだ。
今までは魔力をダウンロードする器、つまりは財布みたいなもんを用意してから『エクスターナルコネクションズ』と脳内で唱えて、亜空間魔力銀行と接続して手続すれば魔力が落ちて来たんだが、これからは亜空間魔力銀行から俺のスキルに手数料無料で自動的にチャージされるらしい。
(仮)付きだから上限は低くて今のとこは1MEの十分の一、つまりめぐみんの爆裂魔法の一割までは俺も魔法が使える様になるってことだが、行使するためには知識と訓練が当然必要なわけだから、今すぐに上級魔法が使えるって話じゃない。
んで、無料で自動的にチャージされるのも、口座残高が最低限の閾値を超えてればって条件があるから、割り込んじまえばまた手続と手数料が必要になる。
無料って何か怖くね? て話もあるけど、要は銀行の定期預金みたいなもんだろう。
たくさん預金してくれれば、銀行はそれを他んとこに融資して利ザヤを稼ぐだろ?
実際にはもっと複雑な話なんだろうけど、以前にポンコツ店主がやってる魔道具店の怪しい店員の話に出て来た『この世界の理と大いなるシステム、更には各所の利権』てのが、ぼんやりとではあるが垣間見えた様な気がした。
これでめぐみんの爆裂修行に消費する魔力も、安定供給ができる様になるかなと思ったところで愕然としてしまった。
よくよく考えてみると、俺が体の関係を餌にエリスから巻き上げた、若しくは貢がれた魔力を、めぐみんに貢いでいる様なもんだから、傍から見れば碌でもないクズじゃねえか。
早めに気付いて良かった。
これからエリスと魔力循環するときは、オーバーフローした分はちゃんと返還しよう。
しなきゃ良いじゃないかって? やだよ、凄っごく気持ち良いんだぜ、今更止められねえよ。
そうすると、一旦亜空間魔力銀行経由ってことか? そんなことできんのかな?
『《否》、元よりそれは女神エリスの意志であるが故の『女神の寵愛』です』
えっ? 貢ぐつもりだったってこと?
『《是》、但しあの魔力サージは想定外だった様です。おそらく対策は講じられるはずです』
お小遣いをあげたつもりが、大金の小切手が入ってたってこと?
『《是》、マスターの成長を見誤った女神の単純なミスです。漏らしてしまった量も、女神にとっては一食分にしか相当しませんので、マスターが気に病む必要はありません』
一食分て、一体何食べてんの?
『《解》、見た目は地上と変わりませんが、天界の食物はほぼ魔力で構成されています』
なるほど、桃源郷の仙桃てとこか。
エリスとの魔力循環を果たしたことで状況が変わったことがもう一つあって、サプリームスキルの『絶倫』が『性豪』に進化して、同時に表裏の48本の手も統合されたのだ。
『絶倫』はマガジンに残弾がある限り有効で、マガジンも拳銃のそれとは違いサブマシンガン並みらしくって、日に何回も連日の発射にも関わらず賢者化しなかったのはスキルのせいなんだと。
要は大魔法をぶっ放して魔力枯渇を繰り返すと魔力容量が増えるって言う脳筋な修行と同じで、一日に何発も撃ってたのを一回でぶっ放したことで、出番がなくて休眠状態だった供給側のスキルが『絶倫』に組み込まれて、マガジンからベルト給弾方式まで対応範囲が拡張された結果らしい。
ラファエル先生の解説では、『性豪』に進化したことでタマタマ側のタマの生産能力も大幅に向上して、回復時間も相当に短縮されたらしいんだが、他にも関連する能力が強化されたり向上してるって話だったから、少しばかりビビッてその先を聞くのは憚られた。
だって、まるで性欲大魔王みたいなことになっちまってるんだよ。
さすがに怖くなって手で触って確認してみたんだけど、数も増えてないし大きさも変わってないみたいなんで、取り敢えずホッとした。
だけど、生産量が増えるってことは原料の消費量も増えるってことだよな?
ヤリ過ぎで頬がげっそりとこけてしまうのは、決して漫画的な表現手法ではないみたいだ。
翌朝、窓の外の小鳥の囀りで爽やかな目覚めを迎えた俺は、まだ深い眠りに落ちているお肌ツヤツヤのクリスの頬に、そっと口づけしてベッドから降りたのだが、いつにも増して俺の聖剣エクスカリバーのモーニングスタンダップが威容を見せていたもんで、ちょっとトイレで苦労した。
なんだかサイズ感が昨夜と違う様な気がしたんだが、無事にエクスプロージョンしたらいつものちゅんちゅん丸に戻っていたから、まあ気のせいだろうと無理矢理思い込むことにした。
そのまま浴室に向かって寝汗を流して着替えたところで、洗濯上がりの服の中に昨日クリスが着ていた男物のスーツ他一式が畳まれて積んであった。
ちょっとだけ気に掛かったことがあったので捲って覗いてみたら、控え目な白いレースで縁取りされた、小さな可愛いリボンの飾りが付いている白いのが、小さく折り畳まれていた。
もちろん手に取ったり、広げてみたり、振り回してみたり、頭から被るなんてことはしてない。
清らかな気持ちのまま、いつものジャージの上からシンプルなデザインのエプロンを身に着けて厨房に入り朝食の支度を始めていると、ルーズなブラウスとふわっとした踝丈のロングスカートの上に、俺と同じ様なデザインの色違いのエプロンを着た助手が入って来た。
向かい合って右手を差し出すと、可愛く微笑んだ助手は近付いて爪先立ちになりながら、俺の首に両腕を回して紅い瞳で見詰めるから、細い腰を両手で抱き寄せて可愛い唇にご挨拶した。
最初は触れるだけの軽い口づけ、そしてお互いに上唇と下唇を啄み合ったら、今度は重ねた唇を強く吸い合ってから、舌を差し込んで可愛い舌を絡め取る様に舐め舐めしてあげるのが、最近では愛しい恋人との朝の習慣だ。
「おはよう、めぐみん。良く眠れたか?」
「おはようございます、カズマ。一応、あの後はすぐに眠りましたが‥‥‥」
「眠りましたが?」
「そのう、首尾の方は?」
「あの通り一回邪魔が入ったが、滞りなく」
「そうですか、それは良かったです」
「それで、クリスをパーティーに迎えたいと思ってるんだが、どうだろうか?」
「私は歓迎しますよ、ダクネスの隣が一部屋空いていますし」
「ありがとう、それじゃ皆が揃ったら朝食を摂りながらその話をしよう」
出来上がった朝食を鍋ごと食堂に運ぶと、ダクネスがテーブルに食器を並べていた。
俺から軽く触れる様なキスをすると、がっちりと俺を抱き締めて熱烈なキスで返してくれる。
これがここ最近の恋人未満との朝の挨拶だ。
「おはよう、ダクネス」
「おはよう、カズマ。その‥‥‥、どうだったのだ?」
「クリスを二人目の恋人として受け入れた。パーティーにも迎えて、この屋敷で一緒に暮らしたいと思ってる」
「そうか‥‥‥、それは‥‥‥なんだ、とりあえず、おめでとう」
「おはようございます、ダクネス。早く決心しないと、どんどん順番が繰り下がりますよ?」
「おはよう、めぐみん。決心は固いのだがな、まあそのなんだ、具体的な手順がだな‥‥‥」
「クリスみたいに押し掛ければ良いじゃありませんか。どちらにせよ表向きの体裁を整えるのには時間が掛かるのですから」
「まあ、そうは言ってもなあ」
「大丈夫だよ、俺はいつまでだって待てるから」
「そんなこと言ってると、ダクネスがお婆ちゃんになってしまいますよ?」
「じゃあ、俺がお爺ちゃんになっちまう前に頼まあ。ああ、それと、めぐみん」
「何ですか?」
「そろそろクリスを起こしてやってくれないか? あいつ、着替えがないんだ。洗濯上がりの服の中に、昨日クリスが着てた一式が積んであると思うんだが、届けてやってくれないか?」
「まだ眠ってるんですか?」
「眠ってるって言うか、気絶しちまってるって言うか」
「カズマはベッドではケダモノですからね、哀れクリスも貪り尽くされたのですね?」
「そ、そんなに激しいのか?」
「朝っぱらから頬を染めるな。んじゃ、頼んだぜ」
「承りました。カズマのベッドでマッパで気絶してるクリスに服を届けて、起こして来ます。万一腰が抜けてて立てない様だったら、ダクネスも手伝ってくださいね」
「そ、そんなに激しいのか?」
「ダクネスも早く参戦してくださいね。クリスと二人でも、まだ厳しいかもしれません」
だから、大貴族のご令嬢様が頬を染めて、そんな目で俺を見詰めるんじゃねえ。
朝食が冷めない様に魔法で温め続けていたら、エプロン娘がクリ坊を連れて下りて来た。
どうやら腰は大丈夫みたいだが、随分と時間が掛かったな。
だけど、なんでめぐみんの顔が赤いんだ?
「「おはよう、クリス」」
「おはよう、カズマ、ダクネス」
「聞いてくださいよ、私、マッパのクリスに襲われて、ベッドに引きずり込まれたんです」
なるほど、それでか。
楽しそうに話してるところをみると、川の字起床事件と似た様なもんか?
「大丈夫だったのか? 俺のめぐみんは無事なのか?」
「唇を奪われてしまいました。カズマ、清めてください」
こっちにおいでとめぐみんを抱き寄せて、さっきと同じ口づけを交わしていたら、クリスがじっと見ていた。
「マッパでもクリ坊だったのか?」
「ごめんね、まだ寝ぼけてたんだよ。カズマの気配がしたもんでさ、ついね。でも、どうしてカズマの気配だったのかは、今得心が行ったよ。ねえねえカズマ、あたしにも朝のご挨拶」
「そうだな。ほら、こっちに来いよ」
左手でめぐみんの腰を抱いたままで、わ~いと抱き付いて来たクリ坊を右手で抱いて、めぐみんと交わしたのと同じ口づけで挨拶した。
「両手に花、この世の春だね?」
「エプロン姿の男と、男装の娘が朝から抱き合ってキスしてるなんて、里のあるえが見たら創作意欲が搔き立てられると涎を垂らしそうですね。次はカズマにメイド服を着せてみましょうか?」
「勘弁しろよ、それで、めぐみんは舌を入れられたのか?」
「ええ、それはもう。とっても情熱的でした」
「俺と、どっちが良かった?」
「甲乙付け難いですね。一瞬、百合に目覚めそうでした」
「楽しいね。ダクネスはこの光景を、毎朝指を咥えて見てるの?」
「いや、それがだな、見せ付けられるだけでお預けと言うのも、なかなかに‥‥‥」
「止めろ、ダクネス。お前、色々とダメになってないか?」
食卓を囲んだ恋人の二人と恋人未満の一人が、和気藹々ととある方面についての話に花を咲かせているが、朝っぱらからその手の情報交換は如何なものかと思うぞ。
しかし、良いもんだなこんなハーレムも。
美女たちに囲まれてお世話される生活よりも、充実感があるんじゃないかな?
そんなことを思いながら、ふと空席に目をやると、目敏くそれに気付いたクリスが口を開いた。
「アクアさんは、まだ寝てるの?」
うん、それは今朝に限って言えば、結構センシティブな話題だな。
いつもだったら『毎度のこと』で済むんだが、ほら、めぐみんも微妙な顔してる。
生真面目なダクネスは、やっぱり親友の疑問に答えようとするわな。
「まあ、その、何だな、アクアは朝は弱くてな。四人で揃って朝食を摂ることはあまりないんだ。大抵は私かめぐみんが後から起こしに行くんだが、今朝はちょっとな‥‥‥」
「ショックで寝込んでるかもしれませんから、そっとしておいてあげましょう」
「カズマとめぐみんのことは、知らないんだよね?」
「ああ、この二人はいつの間にかデキていたからな」
「可愛い息子を盗られたお母さんに浸っていると思いますよ」
「やっぱり? アクアさんがカズマに向けているのは、母親の目なのかな?」
「少なくとも私の目には男女の仲とは映らなかったな。どちらかと言うと姉と弟みたいな、肉親にも近い様な感じもしたのだが、見目が全く違うから不思議な取り合わせだとは思った。ここで共に暮らす様になってもそれは変わらなかった」
「私は最初は子供扱いでしたからね。そう、あの頃は皆子供だった様な気がします」
「アクアさん、そんなにショックだったのかなあ?」
「俺のこと、いつまでも童貞のヘタレだと思ってたみたいだからな」
「まさか踏み込むとは思いませんでしたね。まるで過保護な母親みたいな反応でしたよ、カズマがカズマがって、わんわん泣いて私の部屋のドアを叩いてましたから」
「だが、アクアはアクシズ教徒だぞ。欲望のままに生きよと言うのが教義ではなかったか?」
「昨夜の騒ぎのお陰で、実は私もと言い出し易くはなりましたね。クリスのパーティーへの加入を認めさせてから明かそうと思っていたんですけど、もしかしたらカズマの性癖が真面過ぎて絶望したとか? 縛り上げて鞭や蝋燭を使ったプレイの方が良かったんじゃないですか?」
「お、お前たちは、そ、そんなこともしてるのか?」
「してねえよ! 朝から頬染めてハアハア息を荒げてるんじゃねえ!」
「ねえ、あたしはどうしたら良い?」
「ダクネス、この後実家に連れてって着替えさせてくれよ。いつまでもクリ坊のままじゃ、姑だって受け入れ難いだろうからさ。起きて来たらちゃんと話をしとくから、荷物も全部持って来なよ。部屋は二階のダクネスの隣を使える様にしとくからさ」
「おう、任せておけ。側室の嫁入だな? ウエディングドレスの方が良いか?」
「さすがにそれはな。先にめぐみんに着せてからだ。何なら三人同時ってのでも良いけどな」
「すると、ダクネスは二着目ですね?」
「そう言や、元既婚者だったな」
「書類上だけだ! それも訂正されているし、実質的には式も終わっていないからノーカンだ!」
「それで、バツネスなんだ」
「ち、違~~~~う!」
いつもとは趣が違う賑やかな朝食の後、ダクネスはクリ坊を連れて実家に向かった。
めぐみんにオカンを起こして来る様に頼んで朝食の片付けをしていたら、部屋にはいないしゼル帝の姿も見当たらないと言って一枚の便箋を手に戻って来た。
それは俺たちに向けた書置き、見事な達筆で書かれた拝啓で始まる意味不明な手紙は、次の言葉で締め括られていた。
『出家します』